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今回は、低炭素電力供給システムに関する研究会の第2回(平成20年8月8日開催)の内容を掘り下げてみようと思います。

第2回研究会でのプレゼン内容について

第2回は、新エネルギーに的を絞っての現状把握、今後の課題検討が行われました。以下、議事録および配布資料をもとに、研究会での説明・討議内容を振り返って見ましょう。

1) 事務局:長期エネルギー需給見通しにおける新エネルギー導入見通しとコストの説明

同じ資源エネルギー庁管轄ですが、総合政策課が庶務担当部局となっている総合資源エネルギー調査会需給部会が平成20年5月21日にまとめた報告書「長期エネルギー需給見通し」から、2020年、2030年に向けた再生可能エネルギーの導入目標などが説明されています。

  • 長期需要見通しでの再生可能エネルギー導入目標(最大導入ケース)は、原油換算で全一次エネルギー国内供給の8.2%(2020年)、および11.1%(2030年)
  • このうち、風力発電は2020年200万kl(491万kW)および2030年269万kl(661万kW)
  • また、再生可能エネルギーの中でも今後の導入の伸びが期待できる太陽光発電は2020年350万kl(1432万kW)および2030年1300万kl(5321万kW)が目標となっている
  • 新エネルギーおよび蓄電池導入コストは、2020までに12兆円、その後2030までに更に20兆円が必要との試算が出ているが、今後の課題として以下が必要

①系統余力拡大による再精査、
②太陽光発電、風力発電に必要な蓄電池容量の精査および、
③系統側の対策オプションも含めた種類別、設置分野別に適した蓄電池普及のあり方の検討

2) 事務局:系統安定化対策のオプションについての説明

需給部会でまとめた再生可能エネルギー最大導入目標と課題に対して、電気事業連合会は今年5月電力系統の安定性を損なうことなく連系可能な風力発電は、全国合わせて500万kW程度まで、太陽光発電も局所的な集中設置の場合を除いて1,000万kW程度までと発表しており、ここでの説明も、太陽光発電大量導入時の課題と系統安定化策が中心となっています。

  • 現状でも、風力発電については概ね系統安定化対策を講ずることなく導入可能と見込まれるが、太陽光発電については電力系統の安定化対策が必要
  • 水力及び地熱発電は、安定的な出力を得られることから、系統に連系しても問題なし
  • 太陽光発電の大量導入に関しては3つの課題がある

【課題1】:電事法第26条に基により、適正値(101±6V)を逸脱しそうな場合、太陽光発電施設の設置者が逆潮流量を自動的に出力抑制することになっている。太陽光発電が増え、余剰電力の配電系統への逆潮流が増大すると、これに抵触する
【課題2】:太陽光発電の出力は、天候などの影響で変動するため、導入量が拡大すると、その変動に対応する周波数調整力が不足するおそれがある
【課題3】:その他にも、太陽光発電が増加すると、軽負荷期に、ベース供給力等と太陽光による発電量が需要を上回って電力の余剰が発生し、系統側の電源設備・流通設備とも稼働率が低下して電源・流通双方でコストアップとなるおそれがある

  • これに対して、配電や系統対策は何も講じないケースを基本として、その他6つの系統安定化対策オプション(下記)と、それぞれの課題を検討

①配電系統の強化(太線化、柱上変圧器の設置等)
②蓄電池の設置(需要家側)
③蓄電池の設置(系統側)
④揚水発電の活用
⑤火力等によるバックアップと調整
⑥地域間連系線の活用

  • 新エネルギー大量導入に伴う系統安定化対策・コスト負担検討小委員会を設置し以下の検討とまとめを行う

- 系統安定化対策としてどのオプションを組み合わせるのが適切かを太陽光発電の導入段階等に応じてコスト面等からの検討を行い、
- 系統安定化対策に要するコストを推定するとともに、導入に係るその他のコストも一定の仮定の下で推定することで総コストを整理し、
- それらのコストについて、各々どのような負担とすることが適当か、各種料金による回収の在り方等も含めて具体的に検討

3) 事務局:水力・地熱発電についての説明 

- 長期エネルギー需給見通しにおける2030年度の導入予測781億kWhの実現には、約83億kWhの増加が必要 - 水力発電に関する研究会における試算では、2030年度までの発電電力量の増加ポテンシャルは、約70億kWh程度
- 長期エネルギー需給見通しにおける2030年度の導入予測33億kWhの実現には、約2億kWhの増加が必要

4) 佐賀委員:太陽光発電産業の現状と取組みについての説明

有限責任中間法人太陽光発電協会特別部会部会長の佐賀委員より、国内外の太陽光発電産業の現状と取り組みについて淡々と紹介されています。

5) 辰巳(国)委員:系統安定化に向けた蓄電池技術の動向と課題の説明

独立行政法人産業技術総合研究所ユビキタスエネルギー研究部門蓄電デバイス研究グループグループ長の辰巳委員より、①再生可能エネルギー発電への蓄電技術の必要性、②系統安定化に期待される蓄電池の概要と課題、③系統安定化蓄電システムに向けた蓄電池の動向の3点から、蓄電池技術の現状と課題が説明されました。

6) 自由討議(気になった意見のみ)

① 2030年以降を考えると、各戸に光ファイバー等が入って、双方向通信ができ、各家庭電気機器等のいわゆる監視制御システムも将来活用できるのではないか?
② 需要家の電気機器、蓄熱装置とか、プラグイン自動車の蓄電池の利用というのはオプション0(配電や系統対策は何も講じないケース)で考えられているようだが、あとのオプション1、2、3、4にも大きく影響してくる
③ 現在の電気事業法で定められている、(太陽光発電による大量の逆潮流の発生のような)系統運用上の問題がでた場合発電抑制しなければならないというのは、太陽光発電を制御するということなので、このシステムをうまく使えば太陽光発電もたくさん系統連系できるのではないか?
④ 燃料電池は本研究会のミッション外だと思うが、2030年ということを考えると、余剰電力を水素の形で蓄えるというようなことが選択肢に入らないのはなぜかというのは当然の疑問だ

第2回研究会で感じたこと

第1回研究会の感想にも書きましたが、事務局1)の新エネルギー担当の方は、長期エネルギー需給見通しで新エネルギー最大導入ケース実現を前提とした対策検討を期待しているのに対して、事務局2)の電力基盤整備担当の方は、コストや電力業界への影響も勘案しながら現実的な落としどころの検討を期待しているのが窺えます。 
辰巳委員からの蓄電池に関する説明5)に対しては、自由討論の場で「系統安定化のオプションのなかに蓄電池のオプションがでていますが、蓄電池は小規模、中規模くらいまでしか対応できない」との指摘があり、小委員会の報告を待つまでもなく、ある程度結論は見えている感じがしたのですが。。。、専門家が課題を整理したどり着いた結論は大どんでん返し!結果は、第4回研究会で報告されています。
自由討議6)で気になった点ですが、①で、正にスマートメータリングの目指す需要サイドの制御の必要性が指摘されています。②も含めて、これまでの「需要家=エネルギーを使う人」ではなく、「需要家=供給者ともなる」という発想の転換が、低炭素電力供給システム構築においても重要だと思われます。③に関しては、大量の余剰電力を提供する各家庭の太陽光パネルを無数の分散電源と見立てたVPP(Virtual Power Plant)のような機能を低炭素電源供給システムに期待しているようですが、議事録をみると、この横山委員の意見は、軽く受け流され誰からもフォローされていず残念です。④に関しては、まず本研究会メンバー中一番ユーザに近い立場である社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会辰巳理事から、燃料電池も検討対象に入れてはどうかという意見がありました。事務局より燃料電池は本研究会の枠外との回答があり、それに対しての東京大学社会研究所松村教授の発言です。調べて見ると、この「低炭素電力供給システムに関する研究会」と並行して「低炭素社会におけるガス事業のあり方に関する研究会」というのが開催されていて、第1回議事要旨を見ただけでも、以下のような活発な意見が交わされています。

  • 企業や工場がその枠内でエネルギーを考える時代から、場合によっては作った電気を売ることや、地域へエネルギーを供給するなど、エリアでものを考える時代に変わってきているのではないか
  • 天然ガスを利用した分散型コージェネや燃料電池を用いた方法とでベストミックスを見出していくことは重要
  • エネルギー供給ネットワークを需要側、ローカルの視点から見直すことが重要。分散型の再生可能エネルギーをできる限り使って、残りの部分と上手く組み合わせて、ネットワーク内におけるベストミックスを考えていくべき

同じ資源エネルギー庁管轄の部会なのに、もう少し横のつながりができればと願うのは私だけでしょうか?
研究会の名称を「低炭素エネルギー供給システムに関する研究会」として、2つの部会を合体させればよさそうな気がしますが。。。
なお、今回も、議事録や配布資料を見る限り、スマートメータリングやスマートグリッドのキーワードは見当たりませんでしたが、自由討議の中で、スマートメータリングやスマートグリッドにつながる考え方が見出せたのが収穫でした。