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今回は、低炭素電力供給システムに関する研究会の第5回(平成21年2月24日開催)の内容を掘り下げてみようと思います。

第5回研究会でのプレゼン内容について

第5回目は、低炭素電力供給システムにおける負荷平準化の意義および構築に向けた技術課題が討議されています。また、CO2排出係数公表制度についても説明があり、自由討議が行われました。以下、議事録および配布資料をもとに、研究会での説明・討議内容を振り返って見ましょう。

1) 事務局:第5回低炭素電力供給システムにする研究会における検討の視点ついての説明

これまでの研究会の検討経緯を振り返り、第5回での検討項目に関してガイダンス説明が実施されています。

2) 事務局:低炭素電力供給システムにおける電力負荷平準化の役割についての説明

従来から電力負荷平準化の努力はされていますが、ゼロ・エミッション電源50%を目指す低炭素電力供給システムにおいて電力負荷平準化がどのような役割を担うのかが説明されました。 

  • 電力負荷平準化の意義 

・安定供給:ピーク需要を抑制することで需要増による供給力不足のリスクを軽減
・設備投資の低減:ピーク需要を抑制することで電力供給予備率を低くできる
・原子力発電所増設の推進:夜間電力需要創出により、ベース電源である原子力発電所の導入余地拡大と原子力の設備利用率向上 

  • 電力負荷平準化対策 

・ピークシフト(電力負荷を需要の多い時期から需要の少ない時期に移行):揚水発電所、ヒートポンプ・蓄熱システム、蓄電池、エコベンダー
・ピークカット(需要の多い時期の電力需要を削減):太陽光発電、高効率空調機
・ボトムアップ(需要が少ない時期の電力需要を創出):電気自動車、ヒートポンプ給湯器

※ 季節別時間帯別電気料金、深夜電力料金、蓄熱契約などの料金メニューでの平準化推進 

  • 低炭素電力供給システムとの関係 

・低炭素電力供給システムの実現のためには、原子力発電の推進や太陽光発電等の新エネルギーの導入拡大が不可欠
・電力負荷平準化により夜間電力需要が創出される等により、ベース電源である原子力発電の導入余地の拡大や設備利用率の向上が図られる

※太陽光パネルは、昼間に発電することから、晴天時には負荷平準化(ピークカット)と同等の効果を持つが、天候の変化等に備えてバックアップ電源が必要となり、負荷平準化の意義であるところの「電力の安定供給の確保」、「コストの低減」には寄与しない点に留意が必要

3) 事務局:事業者別排出係数に係る算出・公表制度の現状と課題についての説明

温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度の紹介です。内容の概要紹介は割愛させていただきますが、関心をお持ちの方は上記のリンク先をご覧ください。

4) 事務局:低炭素化に向けた電力分野の技術の説明

低炭素化に向けた電力分野の技術全体を俯瞰したもので、資料の中で始めてスマートメーター、スマートグリッドのキーワードが出ています。 

  • 系統の安定化/系統電源と再生可能の協調を支える技術(の1つ):協調制御に向けた技術開発(対策コストの低減) 

・系統電源と風力・PVなどの再生可能電源と蓄電池が協調した電力供給を指向した日本型先進スマートグリッド技術の開発
・これらを実現するためのIT技術、高速通信技術など基礎技術の高度化 

  • 需要家サイドの省エネ/エネルギー管理を支える技術として 

・運輸部門の電化拡大:電気自動車の高性能化(走行距離の延長)、充電インフラの高性能化
・エネルギー管理システムの高度化:需要家サイドのエネルギーマネジメント、スマートメーター技術に確立

5) 電気事業連合会:低炭素化に向けた電力分野での技術開発の説明

続けて、電事連技術開発部の高見部長より、4)と同じく低炭素化に向けた電力分野での技術動向が紹介されましたが、やはりその中で、スマートグリッドは、従来からの集中型電源と送電系統との一体運用に加え,情報通信ネットワークにより分散型電源やエンドユーザーの情報を統合・活用して,高効率,高品質,高信頼度の電力供給システムの実現を目指すもので、欧米を中心に広まってきているが定義は明確になっていないと照会されています。 

スマートグリッドに対する考え

  • 米国では,分散型電源を中心としたスマートグリッドを構築することにより,現状より高効率・高品質・高信頼度の電力供給システムを目指している
  • 一方,日本では,情報通信ネットワークを活用し、集中型電源を中心とした高効率・高品質・高信頼度の電力供給システムが既に構築されており,米国のスマートグリッド導入後の電力供給システム以上のものが出来ている
  • 日本としては,今後大量導入される太陽光発電及びそれに伴い系統に設置されるであろう蓄電池を踏まえて,更なる高効率・高品質・高信頼度の電力供給システムについて,国内メーカ,大学等との連携のもと,世界に先駆け構築していくことが重要。

6) 自由討議(気になった意見のみ)

① 松村委員:デマンドサイド・マネジメントの話が電事連さんの資料で出てきて、大変安心しました。何年か前の研究会では、家庭用のデマンドサイド・マネジメントなどということを口にすると、鼻で笑われて、「そんなものは検討する価値すらない」と断言しておられたのに比べれば、数年間ですごい進歩だと理解しています。<途中略>今後ともぜひ検討をお願いします。その時に、直接機器を制御するなどというようなことだとすると、需要家の理解ということはすごく重要になってくるわけですが、選択肢としてはもっとマイルドなやり方が当然あり得ます。価格体系を変え、自主的に需要家に行動を変えてもらって、それが結果的にデマンドサイドでのうまい対応につながるということがあり得ると思います。そちらの方がよほどマイルドで、よほど自然だと思うのですが、そのようなことをするためには、やはり基盤としてスマートメーターが非常に重要です。スマートメーターについての検討というのも、ぜひとも今後ともよろしくお願いいたします。
② 辰巳(国)委員:ホームエナジーマネジメントシステム(HEMS)をやっていこうとするとスマートメーターが必要になってくる。ただ、欧米の事例などを聞いてみますと、電気料金の制度のいろいろなメニューとリンクさせることによって、スマートメーター自体は高いけれども、ユーザーにもそのメリットを享受できるようなやり方があるように聞いております。最初から完璧なスマートメーターを作るのではなく、順次技術的に入れられるものから、コストメリットのある内容を入れて普及を図っていくような方策はないのか、検討して頂けると非常にありがたい。
③ 横山委員:(電力系統制御を)いわゆる上流側の発電所の制御から、自然エネルギー源発電の制御、系統側の蓄電池、そして需要家側の電気自動車であるとか、ヒートポンプ給湯器であるとか、蓄電池を統合的に協調させた日本型の先進スマートグリッド技術の開発を進めることが非常に大事だと思います。
④ 横山委員:昨年IECのサンパウロ会議に出てきたのですけれども、そこで各国が標準化を睨んでこれからスマートグリッド技術を開発していこうという動きが非常に強いと感じました。日本もぜひ乗り遅れることなく、この技術開発をぜひ産官学一体となって進めて頂ければというふうに私は期待をしております。
⑤ 廣江委員:太陽光発電が大量に入ってきた場合配電線の電圧問題、負荷の変動に対応するバックアップ電源を持たなければならないという問題、さらに、負荷が非常に低い時に大量の太陽光発電から発生する余剰電力の問題があることを申し上げました。2030年の断面では、2800万kWまでは余剰対策は基本的に必要ございません。それ以上増加する場合については、蓄電池の設置が必要になり、4.6兆円程度という(系統対策)費用も申し上げてきたところでございます。

第5回研究会で感じたこと

これまで、日本では経済産業省もエネルギー業界も故意にスマートメーター/スマートグリッドを無視している(少なくとも、この用語をわざと避けている)のではないかと勘繰っていたのですが、今回の資料を見ると事務局、電気事業連合会その他委員の方がこの用語を口にされていた(熱く語られている方もいた)ようで、安心しました。
自由討議の発言①を見ると、電力業界自体も変化してきたのだということがわかります。私も、一般需要家が単に電気を使うだけでなく、電力供給や需給調整に参加するための仕組みがスマートグリッドであり、それを実現するための基盤がスマートメーターだと思いますので、松村委員同様、「ぜひとも今後ともよろしくお願い」したいと思います。
また、②の辰巳委員のご意見同様、スマートメーターの存在意義は、自動検針ではなく、メーターを通しての遠隔制御や情報提供などにあると思っています。最初から「完璧なスマートメーター」を目指す必要はないですが、自動検針プラス開閉制御にとどめず、最初からもう少し広い視野でスマートメーターを「検討して頂けると非常にありがたい」です。
③の横山委員の発言、私も大賛成です。前回、太陽光発電の出力抑制が、正月やゴールデンウィークだけでなく、毎週末になった場合、太陽光パネルを設置した一般家庭には、余剰電力の売電機会損失を補償する必要があるのではないかという意見を述べましたが、蓄電池を電力会社が各家庭に設置し、必要に応じて太陽光発電の出力抑制をする代わりに、スマートメーター経由で余剰電力を蓄電池に振り向けるように遠隔制御する。またこれらの蓄電池を超分散VPP(Virtual Power Plant)として利用するということも可能ではないでしょうか?
④の横山委員のご意見も非常に重要だと思います。4)低炭素化に向けた電力分野の技術の説明時に、事務局の方からの日本型スマートグリッドの特徴として、国土の形が南北に長く、電力ネットワークが櫛形に形成されていることと、高圧電力ネットワークがループ形に形成されていることに指摘がありました。日本の特徴に合ったスマートグリッドにするのは当然のことですが、それを日本国内でしか使えないプロトコル、機器、システムで構成する時代ではないと思います。私も、「日本もぜひ乗り遅れることなく、この技術開発をぜひ産官学一体となって進めて頂ければというふうに期待をして」おります。

⑤の廣江委員のご意見は、スマートメーター/スマートグリッドから離れて、前回気になって指摘させていただいた小委員会の太陽光発電などの大量導入に関するコスト試算報告書に絡む部分です。コスト試算では、電力需要:最大導入ケースに対して電力供給:努力継続ケースを適用した場合、2030年太陽光発電5321万kWに見合う系統側の蓄電池設置等の総コストが4.6兆円と見積もられています。実は、前回、この4.6兆円の部分の詳細まで見ていなかったのですが、2800万kWまでは、正月およびGWに配電系統の電圧が規定値を超えそうになると出力抑制を働かせることで対応(追加コストゼロ)、それ以上5100万KWまでは、土日の余剰電力を平日に消費できる程度の蓄電池を系統側に導入することで対応できそうで、そのコスト試算が2.8兆円、最大導入ケースの5321万kWまで太陽光発電が導入されると、土日の余剰電力が平日で消化しきれなくなり、系統側に合計2.3億kWhの蓄電池の導入が必要となり、総計4.6兆円というコスト見積もりになっていたようです。これに対して、平成21年1月9日開催された第4回小委員会の配布資料3(3)を見ると、電力供給側も最大導入ケースを適用した場合の試算が載っていて、最大導入ケースの5321万kWまで太陽光発電が導入され場合、6.4億kWhの蓄電池が必要となり、系統対策費用が16.8兆円に跳ね上がっています。さまざまな前提・仮定の下での試算なので、これらの数値を精査するのは、私の能力をはるかに超えていますが、1つ不安なのは、2.3億kWh/6.4億kWhという電力量ではなく、瞬時瞬時のkW値として、太陽光発電の大量余剰電力発生を吸収できる実用的な蓄電池が2030年までにできているのかどうかです。