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The last sunset of 2012

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今回は、低炭素電力供給システムに関する研究会の第6回(平成21年3月27日開催)の内容を掘り下げてみようと思います。

第6回研究会でのプレゼン内容について

第6回目は、最終報告書のとりまとめに当たっての論点整理が行われました。 低炭素電力供給システムに関しては論点が多岐にわたっており、これまで議論が出尽くしていない部分もあるかもしれない-ということで、事務局から次の7つの論点に分けて整理・説明が行われ、論点の過不足や、方向性の修正など報告書作成に当たって、必要な宿題を洗い出す作業が行われました。

・新エネルギーの普及見込み
・新エネルギーの大量導入時の系統安定化とコスト負担の在り方
・原子力発電について
・水力・地熱発電について
・火力発電について
・負荷平準化について
・低炭素電力供給システムにおける技術課題について

この論点整理に関する討議の中で、事務局がスマートグリッド、スマートメーター、DSMを軽視しているとの指摘があり、次回の宿題となっています。
では、以下、議事録および配布資料をもとに、研究会での説明・討議内容を振り返って見ましょう。 今回は、上記の7つの論点の概要と、それに対する自由討議で出たコメントを対応させながら、概要を紹介したいと思います。

論点1)新エネルギーの普及見込み

① 経産省は、現状固定/努力継続/最大導入の3つのケースの長期エネルギー需給見通しを公開。発電時に温室効果ガスを排出しない原子力や太陽光発電等の「ゼロ・エミッション電源」の発電電力量に占める比率を50%以上とすることや、太陽光発電の最大導入ケースとして、2020年に現状の10倍(1432万kW)、2030年に現状の40倍(5321万kW)とする目標を示した

② ゼロ・エミッション電源を50%以上にする目標を達成するには、太陽光などの特定の電源の比率のみでは無理。中核を担う原子力、水力・地熱、太陽光以外の風力、バイオマスといったすべてのゼロ・エミッション電源をそれぞれ推進していくことが必要。また、燃料調達の安定性、経済性、供給安定性といった観点からは火力発電も大切

③ ただし、新エネルギー普及に向けた電力系統対策コスト算定に当たっては、新エネ導入量・電力供給量ともに、長期エネルギー需給見通しの最大導入ケースのデータを採用したわけではなく、需要に関しては①の数値を採用したが、供給に関しては、努力継続ケースという別のデータを採用した

【論点1に対するコメント】

山名委員:いろいろな電源をベストに混ぜながら、それぞれの役割を生かし、最大限に再生可能エネルギーを入れていくにはどうすればよいかという視点が極めて大事

論点2:新エネルギーの大量導入時の系統安定化とコスト負担の在り方

① 小委員会を設けて、今後の新エネルギー、特に太陽光発電などの大量導入の電力系統への影響や、その影響に対する対策オプションを検討、オプションを組合せたシナリオを作り、系統安定化対策コストを試算

② 小委員会でのコスト計算とは別に、余剰電力の買取価格を、当初の2倍程度にするという検討が進んでいるので、報告書作成に当たっては、2倍になる前提で考える

論点3:原子力発電について

① 原子力発電は、発電過程でCO2を排出しない電源で、温暖化対策の切り札であり、今後とも大きな役割を果たす

② 原子力は供給安定性・経済性にも優れており、100万kW級の原子力発電所1基で2,800億円に対して、同じ電力を太陽光発電で実現しようとすると、山手線の内側と同じだけの敷地面積と3.9兆円のコストがかかる

③ 2020年ゼロ・エミッション電源50%を達成するためには、長期エネルギー需給見通しの前提条件である、原子力発電の9基新設、設備利用率約80%の達成が必須

④ 大幅な省エネルギーの進展を前提にした低い電力需要(長期エネルギー需給見通しの最大導入ケースで想定しているもの)に基づいた供給計画では、将来的には安定供給に支障を来す可能性がある

⑤ 原子力発電所は既に相当高経年化が進んできており、リプレースが円滑に進んでいくことが重要

⑥ 原子力発電を進めていくには核燃料サイクルの確立が必要であり、高レベル放射性廃棄物の再処理、高速炉の早期実用化、プルサーマル推進などの個々の事業が着実に進むことが非常に大事

⑦ 原子力政策を推進していく上で、国民の原子力に対する信頼向上や原子力関係者と立地地域を含む国民との相互理解が何よりも重要

【論点3に対するコメント】

山名委員:原子力には安定なベースロードを安価に供給し続けるという、極めて重大な責務がある

辰巳(菊)委員:余りにも原子力発電に書き方が偏っている。論点3-②の2800億円という数値にしても、本当にこの100万kW級の1基分がこんな金額なのか。電源三法交付金などで払っているお金とか、これからの高レベル廃棄物のための調査費用とか、そういうものを全部入れてこの料金なのかどうか。本当はもっとコストがかかるのではないかという気がしている

村上委員:論点を明確にするために、原子力立国計画からそのままコピーしてきたような課題を並べるのは止め、我が国の2030年ごろまでの原子力比率の向上に向けた課題ということで、もうちょっと絞った方がよい

論点4:水力・地熱発電について

① 水力発電は、純国産の再生可能エネルギーでCO2を排出しない極めてクリーンなエネルギーだが、初期投資の負担が大きい

② 調整池式、貯水池式、揚水式といった水力発電は、需要の変化に素早く対応でき、出力調整、LFC調整、ガバナフリー運転が可能で電力品質の安定化にも貢献している。太陽光発電を大量導入する場合のバックアップ電源としても役割が期待される

③ 地熱発電も、水力と同様、発電時にCO2を排出しない、純国産の再生可能エネルギーで、再生可能エネルギーの中では設備利用率が高く(地熱発電の設備利用率:70%程度、風力:20%、太陽光:12%)今後の開発可能性を残しているが、開発リスク・コストも高い(掘ってみなければわからない)のと、開発に通常15~20年かかる

【論点4に対するコメント】

山名委員:揚水発電は、太陽光の余剰電力の系統側での蓄電の1つの大きなポテンシャルなので、一種の大きな蓄電技術と考えるべき

松橋委員:地熱発電に関しては、自然公園法とか、地元の業者との調整とか、そういった問題が書かれているが、水力発電に関してもボトルネックは地元との調整とか、首長さんの意向とか、国と地域の政策の整合性が今一つうまくいかないというところではないかと思う。もっと言うと、実は原子力にもそういう側面があるのかなと思っている

論点5:火力発電について

① 火力発電は、火力発電そのものの低炭素化のみならず、太陽光発電等の新エネルギーの大量導入時において、太陽光発電等の不安定な出力を補完する役割が期待される

② しかし、化石燃料は枯渇資源なので基本的には火力発電への依存度を低減していく必要がある

③ 火力発電の燃料である石油、石炭、LNGなどの化石燃料は、異なる特徴を有しているので、燃料ごとの特徴を十分に踏まえる必要がある

④ 化石燃料の環境適合性のみに注目するのではなく、エネルギーの安定供給に軸足を置き、安定供給、環境適合性、経済性の3つの観点からバランス良く、電源や燃料選択に関する現実的な議論がなされることが必要

⑤ 石炭火力の高効率化は、低炭素化という観点、電力の安定供給の観点から極めて重要

⑥ 石炭火力の低炭素化としては、バイオマス混焼(多様なバイオマス資源を、石炭火力で混焼し、有効に活用していくこと)も重要

⑦ LNG火力は、環境適合性に優れているが、燃料の安定的・経済的調達の面で問題あり

⑧ ピーク電源である石油火力は、太陽光発電等の新エネルギーの大量導入時には、気候によって発電出力が大きく変動するため、追加的供給力という面で重要性が高まることも考えられる

【論点5に対するコメント】

山名委員:風力発電についてまったく記載がないがよいのか?

論点6:負荷平準化について

① 負荷平準化は、ピークの電力需要を抑制することで、電力需要増による供給力不足のリスクを軽減し、ピーク需要に対応した設備投資の軽減を図り、夜間の電力需要創出によってベース電源である原子力の導入余地の拡大や設備利用率の向上などの意義がある

② 太陽光パネルは、特に真昼に多く発電をするので、晴天時には負荷平準化と同様の効果を持つが、点灯ピークの場合や曇り・雨天時の太陽光パネルが発電しない時には、負荷平準化の効果は期待できない

③ 太陽光発電の普及は有意義であるが、一方で、太陽光発電が大量導入されることによって、引き続き火力発電などによるバックアップ電源が必要とされる

④ 負荷平準化により夜間電力需要が創出されると、ベース電源である原子力発電の導入余地の拡大や設備利用率の向上が図れる。また、負荷平準化効果の高いヒートポンプシステムは、機器そのものの効率が高いことにより、CO2排出量削減に寄与する

【論点6に対するコメント】

山名委員:ピークシフト、ピークカットというのは需要側でとるべきものが本質的にある。そこに太陽光が入ることで、ある限定的なピークカット効果、疑似カット効果のようなものが入ってくると理解している

戒能委員:負荷平準化とCO2削減が結びつくのは、ベース電源が原子力発電の話。沖縄電力のように、昼は石油火力、夜は石炭火力で運用している場合、負荷平準化することによって、CO2原単位はあがってしまう。

論点7:低炭素電力供給システムにおける技術課題について

① 発電側の課題1:火力発電の効率向上のため、IGCC、IGFC、次世代の超々臨界圧発電技術(A-USC)等の開発を引き続き進め、タービンの燃焼率・発電効率を上げる必要がある

② 発電側の課題2:エネルギー源の多様化/ゼロ・エミッション電源の導入拡大

③ 発電側の課題3:火力発電所等の大規模排出源から排ガス中のCO2を分離・回収し、長期間安定的に地下へ貯留、又は海洋へ隔離することにより大気中へのCO2放出を抑制するCCS技術が温暖化対策の切り札

④ 系統側の課題1:系統の安定化/系統電源と再生可能エネルギーの協調

⑤ 系統側の課題2:送配電の高効率化

⑥ 需要家側の課題1:需要家側の省エネルギー

⑦ 需要家側の課題2:需要家側のエネルギー管理

【論点7に対するコメント】

松村委員:説明の中ではスマートグリッドという言葉がチラリと出てきたが、報告書の中からは見事に消えてしまって、1行も出てこない。それから、スマートメーターという言葉も消えてしまった。あれだけ複数の人が期待を表明していたのに。デマンドサイド・マネジメントという言葉はかろうじて残ったが、「費用対効果の検証が必要である」「通信技術の開発も必要である」「需要家のコンセンサスが必要である」という否定的な注記ばかりが目立つ

佐賀委員:この研究会では、将来太陽光が大量導入されると出力抑制が必ず必要になるという前提で検討が進められてきたが、本当にそうなのかという見方もある。電気自動車とか、DCエコハウスとか、太陽光をそのまま使っていくという流れも当然出てくるはず。また需要家側に電池を置くとか(電気自動車もその一種)も反映すると、出力抑制ありきというのは少し言い過ぎという気がする

松橋委員:この委員会の性格として、系統の安定性を守らなければいけないという使命感みたいなものが背景にあって、その一方で、太陽光の買い取りの制度の話だとか、あるいは閣議決定の話だとか、そういうのが前提としてあるということで、その中でどうやって系統の安定性を守っていくかという立場で報告書を作られている面が若干あるのかなという印象を持っている。そのために、全体が非常に重苦しくなって、いろいろな境界条件をポジティブに、プラスのビジネスチャンスとして捉えるトーンはほとんどなくて、問題点がいろいろあるのだけれども、何とか解決していかなければいけないというトーンになっている

第6回研究会で感じたこと

  • 論点1-②ですが、総合資源エネルギー調査会需給部会でまとめられた「長期エネルギー需給に通し」では、『再生可能エネルギーの中で、今後、最も導入拡大が期待されるのは太陽光発電』となっていましたが、ここでは『~目標を達成するには、太陽光などの特定の電源の比率のみでは無理。中核を担う原子力~』とあり、「太陽光発電嗜好」が薄まり、「原子力発電嗜好」が明確に出ています。これは、需給部会での検討より更に突っ込んだ現実ベースのコスト試算をした結果なのか、それとも論点7に対する松橋委員のコメントにあるように、「系統の安定性を守らなければいけない」というこの研究会の性格から来ているものなのでしょうか?
  • 論点1-③は、ここ何回か気になっている、コスト試算における需要側と供給側の基礎データの不整合です。なぜ供給側のデータとして最大導入ケースではなく努力継続ケースを採用したのかの根拠が論点3-④として記載されていました。このように書かれると納得せざるを得ないのですが、そうだとすると、逆に需給部会に対して、長期エネルギー需給見通しの訂正を依頼(少なくとも、次回見通し作成時に考慮してもらうよう提言)するべきだと思います。
  • 論点3-②に対する辰巳(菊)委員の疑念には、原発開発前後の費用は入っていないとの回答が事務局よりありましたが、原発1基の建設コスト2,800億円と、同等の電力を発生するための太陽光パネルのコスト3.9兆円を比較するのはあまり意味がないように感じました。比較するとしたら、太陽光パネル設置促進の補助金と余剰電力買取コストではないでしょうか?太陽光パネルの購入・設置費用は需要家が負担するのですから。余剰電力買取コストも最終的に需要家の電気代に上乗せされると考えると、それも比較対象外ですね。
  • 地熱発電は、新エネルギーの中では結構地味な存在ですが、論点4-③にあるように、風力や太陽光発電と比較して設備利用率が格段に高いので、自然公園法の規制緩和や、地元の温泉関係者とWIN-WINのビジネスモデルが構築できれば、火山の多い日本では今後も結構有望ではないでしょうか?
  • 論点5-①と⑧ですが、2030年に太陽光発電5321万kWが導入された場合、快晴で5321万kWすべてがピークカットとして使われる日と、大雨でほとんど使えない日が出てくるので、単純に考えて、蓄電池がなければ5321万kW分のバックアップ火力発電を用意しておかなければならないということですね。太陽光発電のクリーンで先進的な面に注目しがちですが、電力系統運用から見ると、確かに、「お荷物」と感じるのも無理のないところです。
  • 電源のベストミックスといっても、季節・時間帯・電力会社によって電源構成が違うので、負荷平準化が必ずしもCO2削減に結びつくとは限らないという、論点6負荷平準化に対する戒能委員の意見、なるほどと感心しました。
  • 論点7での松村委員のコメント、まったく同感です。また、「はじめに出力制御ありき」ではないだろうという佐賀委員のコメントにも同感。私も「低炭素電力供給システムに関する研究会とスマートグリッド- 5」の感想の部分で、「出力抑制ありき」でのコスト試算に疑問を呈したとおりです。

さて、今回の宿題を受けて、第7回では、スマートグリッドの現状把握のための資料が用意されるようですので、次回はその中身を見てみたいと思います。