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Bighton House Driveway

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第4章:革新的アイデア

ここまで、スマートガレージについての話をした。第1章で長期および、より短期(V1G)の展望を詳述。第2章で、生態系とその主要ステークホルダーを概説した。第3章では、スマートガレージ実現の妨げとなるトップ5の障害にハイライトを当てた。 短期的なビジョンは実現可能なレベルにあり、また、生態系は今も発展しているので、トップ5の障害も、一筋縄ではいかないかもしれないが、克服可能なものである。 本章では、スマートガレージに関する、革新的なアイデアについて語ろうと思う。 以下は、シャレットへの参加者がパラダイムシフトに関するアイデア出しを行っていたときに得たいくつかのアイデアである。これらのアイデアは、新たな考え方を促し、多くのシャレット参加者の知識を再整理するのに役立った。参加者全員が、ここで得られたアイデアを良しとしたわけではないが、スマートガレージを発展させ続けるためには大変良い刺激となった。 【消費者のxEV採用:初期適用から大衆市場への移行】 1. 全体の価値連鎖は消費者に集中しているので、常にエンドユーザにフォーカスすべきである2. 技術そのものではなく、その技術をどのように展開するかが問題。小さいものでも良いから消費者に一番目に付くところから手をつけるべきである 3. 「低速での加速が抜群!」といったxEVドライブの感動体験を植えつけよ。経済面以外にxEVの価値があるはず。車の購入というのは、元来エモーショナルな経験だ 4. xEVの技術ができることと、消費者のミッションをつき合わせよ。消費者が車を使うシナリオを分割し、消費者を層別せよ つまり、消費者にとっては、EVや、再生可能エネルギー、どんな通信手段を採用するかはどうでもよいことで、消費者にとってどのような価値を生み出せるかがポイントだ   【バッテリー】 5. xEV向けのバッテリー保証期間を10年から3年にし、中古バッテリーの使い道を考案して、コストダウンを図れ6. kWh当たりのバッテリー製造コストを下げなくてもバッテリーを安くする他の方法がある(バッテリーの軽量化の代わりにxEVの運転効率を上げる、あるいは車体を軽量化する。あるいは、“ショッピングカー”のようにxEVを使うシナリオに基づいて、その範囲で使える車とするなど) 7. xEVの中古車は、最大の中古バッテリー市場を生み出すだろう(例えば、3年でxEVのバッテリーを交換する場合、6年目、9年目の車で、あと3年同じ車を使うかどうかわからない場合に、新しいバッテリーに交換する代わりに、中古バッテリー市場で、4年目の中古EV車や、7年目の中古EV車の中古バッテリーを中古バッテリー市場で調達)   【充電】 8. 電気は安いので、より大きな利益を享受するためには、xEVへの充電に要した電気代をとらなくても良い(EV充電ステーションを駐車場に設置することで顧客が増え、売り上げ増となるなら、充電に要した電気代など請求しなくてもペイするだろう。また、わざわざ急速充電器スタンドの代わりに、普通充電スタンドを多数設置したほうが、顧客を長く売り場に引き止められる?) 【グリッドのスマート化】 9. V1Gの実装には、“ご近所ネットワーク”を利用しろ V1Gの一方方向の通信といえども、各家庭と直接EV充電のために接点を持つのは、接点の数が膨大となり、得策ではない。そこで、アグリゲーターを介在させ、“ご近所ネットワーク”を作って各家庭の電力需要を集約するとともに、電力会社に対してデマンドレスポンスにも対応させればよいのではないか 10. V2G = V2B + B2G V2Gを一塊のシステムとしてより、V2BとB2Gの2つに分けた方が、実装・管理とも簡単になる。BEMSに見られるように、ビルのオーナーはすでに省エネビルに関して非常に積極的に取り組んでいるので、付帯するビル駐車場のxEV充電管理にも意欲を示すだろう。一方電力会社はスマートグリッドの一環でビルの電力需要に関するデマンドレスポンスに取り組んでいる。個々のxEVと接点を持つより、xEVへの充電はV2B側に任せて、グリッド側からは、xEVへの充電もビルの電力需要の一部とみなした方が簡単である   11. スマートフォンをxEVに繋ごう 車-グリッド間の通信のために新しい装置を開発するのは無駄。スマートフォンをxEVにつないで通信手段とした方が、もっと賢い会話ができる 12. 片方向充電でも、アンシラリーサービスを始められる V2Gの双方向通信が可能になれば、充電器に接続されたxEVを超分散電源と見立てた電力需給制御のためのアンシラリーサービスが消費者側から提供できるようになる。しかし、V1Gでも、片方向通信なので系統電力からの充電をする/控えるというレベルではあるが、同じく電力系統の需給逼迫度に応じたアンシラリーサービスを提供できる    以上、Smart Garage Charrette Report 第4章の「革新的(disruptive)アイデア」について、ご紹介しました。 disruptiveという言葉単体には、『破壊的な、分裂的な、崩壊的な、混乱を起こさせる、破裂して生じた、秩序[チームワーク]を乱す』といった訳語しかなく、タイトルからは、スマートガレージに対して否定的なアイデアの話が展開されるのかと思ったのですが、内容は、非常に建設的なものでした。日本語訳は、ハーバード大学ビジネス・スクールのクリステンセン教授の理論枠組み:「革新的イノベーション」(disruptive innovation)に従い、「革新的アイデア」としました。 次回は、いよいよ最終章である第5章の内容をご紹介します。