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GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』をご紹介しています。
今回は、1章 スマートグリッドの分類:TAXONOMY OF A SMARTER GRIDから、1.1.2 スマートグリッド市場をドライブするもの:Smart Grid Market Driversの部分を紹介します。

では、はじめます。

1. スマートグリッドの分類:TAXONOMY OF A SMARTER GRID (続き)

1.2 スマートグリッド市場をドライブするもの:Smart Grid Market Drivers

1.2.1 増大するエネルギー需要

2006年から2030年までに世界中のエネルギー消費は44%増加すると見込まれている。このような世界的なエネルギー需要の増大と、将来的にエネルギー供給が需要を満たせるかどうかの不確かさがあいまって、エネルギー資源、インフラおよび電気機器の効率改善技術の開発・実装が急がれている。
スマートグリッド技術は、リアルタイムに適切な供給マージン(停電を引き起こさないための余分な電力)を決定し、直接的/間接的にエネルギー効率を改善する。また、配電網の運用効率を改善し、デマンドレスポンスのようなエネルギー効率の高いアプリケーションの大規模展開を可能にしている。

1.2.2 エネルギー自給と安全保障

電気自動車は、国外エネルギーへの依存を減少させる主要なソリューションになると広く考えられているが、電気自動車単独では期待される結果が得られない。 それどころか、スマートグリッドなくしては、電気自動車は大混乱を引き起こしかねないのだ。
大量の電気自動車が一斉に充電しようとしても系統に予想外の電力需要のピークを作らないためにはスマートグリッドの提供する先進ユーティリティ制御システムと通信ネットワークが必要となる。数百万台の電気自動車が同時に充電しようとしても、充電スケジュールを平準化する最も安全な方法をアルゴリズムとして持つことで、系統への悪影響を回避することができる。この「賢いインフラ」がなければ、PHEVも分散電源も、エネルギー・ストレージも、エネルギー自給を実現するために必要な大規模な展開は不可能なのである。

1.2.3 温室効果ガス排出削減

一般家庭や企業が必要な時、必要なところに電力を供給するスマートグリッドの技術およびサービスの提供は、CO2排出量削減に関しても重大なインパクトを持つ。
今や、気候変動が自然環境にもたらす重大なネガティブ・インパクトに疑問をはさむ余地はなく、化石燃料の燃焼が直接地球温暖化問題に関連することも広く理解されている。そして、発電のためには大量の化石燃料が使われており、CO2その他地球温暖化ガス発生の元凶となっているのである。
そこで、エネルギーをよりクリーンな方法で発生させられる産業の育成に拍車がかかっている。 当初は高嶺の花だった再生可能エネルギー技術も、市場に浸透するにつれ、コストが低下してきている。例えば太陽光発電は、米国の一部地域では、これまでの伝統的な発電コスト相当(=グリッド・パリティ)に近づきつつある。更にこの10年間で再生可能エネルギーの成長を促進するための補助金を検討する州政府の数が劇的に増えている。従来米国では気候変動に対して政府が関心を示してこなかったが、再生可能エネルギーの大規模な利用促進が温室効果ガス排出低減の切り札であるという認識が、政府をスマートグリッド・インフラとスマートグリッド技術への投資に駆り立てているのである。

1.2.4 経済成長

電力インフラの再構築は今世紀最大のビジネスチャンスの1つである。スマートグリッドは、電力網のエンドツーエンドのあらゆる重要なノードにビジネスインテリジェンスを載せることを目指しており、既存・新興企業にさまざまな新しいビジネス機会を与えている。
スマートグリッドが、エネルギー効率、再生可能エネルギー開発、その他必要なエネルギー関連アプリケーションと技術を実現するためのエンジンであるという認識ができつつある。
米国の電力研究所EPRIは、スマートグリッド構築費用として今後20年間で1650億ドル(毎年約80億ドル)の投資となると見積もっている。BCCリサーチは2008年のスマートグリッドを可能とする技術市場規模を173億ドルと予測。モルガンスタンレーは、同じく2008年のスマートグリッド市場は200億ドルの価値があったと見積もっている。また、エネルギー系コンサルタント会社KEMAの調査(『The U.S. Smart Grid Revolution』2008年12月)によると、スマートグリッド関連プロジェクトにより今後4年間で約28万人の雇用が創出され、年160億ドル、合計640億ドルが支払われると予測している。
このように様々な数字が発表されているが、いずれにしろ、今後20年、世界中でスマートグリッド構築に向けて膨大な資金がつぎ込まれることは間違いない。それらは、光ケーブルへの投資がインターネットの成長を生み出し加速したように、将来無数のアプリケーション/産業の基盤を提供することになるだろう。
米国の電力業界が自動車業界より30%大きく(およそ3000億ドルの収益)、テレコム業界の2倍であることと、1990年代後半に起きたテレコム業界のM&Aおよびドットコム企業への常軌を逸した投資を思い起こすと、今後5~10年、スマートグリッドへの投資とM&Aで何が起きそうか想像に難くない。

1.2.5 政策と規制

欧米では、規制機関の圧力がスマートグリッド(と再生可能エネルギー技術)の推進力の1つとなっている。米国新政権はエネルギー政策を優先課題の1つとしており、景気対策法(ARRA:米国復興・再投資法2009)でスマートグリッド・プロジェクトに39億ドルの予算をつぎ込む刺激策を決定した。これは、米国における、排出権などの気候変動立法や、すでに多くの州がコミットしている再生可能エネルギー使用基準 (RPS) 政策に呼応するものである。米国エネルギー省(DOE)は以下の6項目をスマートグリッド・プロジェクトにあげている。
① AMI
② 配電システム(グリッド最適化)
③ 送電システム
④ 先進ユーティリティ制御システム(横断的な制御システム統合)
⑤ 機器製造(グリッドハードウェア)
⑥ 需要家システム(ホームエネルギー管理システム)

1.2.6 技術の進歩

スマートグリッドは、ITとテレコムをエネルギーと合体させ、エネルギー業界を大きく前進させるだろう。なぜなら、実際の電気そのものと同じくらい発電、電力貯蔵、送配電、電力消費に関する実情報が重要となってきたからである。これまで電力業界は通信ネットワークがもたらした巨大な富を有効活用するという点では、他産業の後塵を拝してきたが、スマートグリッドは、先行するコンピュータ、インターネット、および無線が起こした革命をすべてうまく活用しようとしている。
ただし、それは、スマートグリッドに革新の余地がないとか、新技術やアプリケーションが不要ということではない。特に以下が重要である:

  • 最も効率的なデータ伝送方法の確立
  • データを行動可能なインテリジェンスに変換する強力な分析方法の開発

リアルタイム・ビジネスインテリジェンスを提供できる技術やシステムがスマートグリッドに更なる革新を促し新たなアプリケーションやソリューションを生み出すことだろう。
天候予測データから電力取引市場の注文データまで、電力会社・エンドユーザのエネルギー管理システム等に取り込むべきデータはまだまだ限りがない。
今後も、スマートグリッドに関連した技術の進歩が続くだろうが、それは、どちらかというと革新的というよりは、世代ごとに少しずつ進化していく形をとるだろう。
唯一の例外はエネルギー・ストレージである。真のスマートグリッドを実現するには、エネルギー・ストレージ分野での革命的なブレークスルーが必要で、今後継続した研究開発が望まれる。
スマートグリッドを、従来の大規模集中発電と送配電モデルから分散する多様な電源モデルに移行させる仕組みと捉えた場合、エネルギー・ストレージなしには実現不可能である。

1.2.7 グリッド最適化による効率改善

電力網を構成するほとんどすべての構成要素に無数のセンサーとモニタを埋め込み、リアルタイム通信できるようにすることで、電力網の性能・効率改善を図ることができる。系統運用者は、電力網内で発生する主要な出来事に関するデータを瞬時に得ることができるが、収集されるデータが大量すぎるので、必要な対応・調整のほとんどは、インターネットのコスト最小ルーティング・アルゴリズムのように、システム全体のパフォーマンスを最適化するよう自動的に実施されるだろう。

1.2.8 再生可能エネルギー、分散電源およびエネルギー・ストレージの増加

スマートグリッドがなければ、再生可能エネルギー資源を大量に使うことは不可能である。米国の多くの州が「20 by 20 RPS」(2020年ごろまでに再生可能エネルギー資源による電力供給率を20~30%にする政策)で先を争っているが、そのために電力供給品質が低下すれば元も子もない。
例えば2008年テキサス州では、3時間のうちに風力発電出力が1700MWから300MWに落ち込んだ。この差分の1.4GWは大型発電プラントの出力に相当するもので、系統運用者は停電を避けるための緊急対応を余儀なくされ、需要抑制を実施した。
注:ウィンドファームは送電網に接続される大規模集中発電の1つであるが、ほとんどの再生可能エネルギーは風力発電同様、出力変動の問題がある。
スマートグリッドには、このような大問題のほかにも、一方向に流れるように設計されたシステム上で、いかにして電力を双方向に流すかといった実務的な課題が残っている。
グリーンエネルギー技術の決定版はまだ出ていないので、スマートグリッドは、現在及び将来のグリーン技術が最大限普及するように取り組んでいかなければならない。太陽光、風力、波力、地熱、潮力、燃料電池だけでなく、必要になるまでエネルギーを貯蔵しておくエネルギー・ストレージもそのような対象である。
また、プラグイン電気自動車(PHEV)はクリーンエネルギーとエネルギー・ストレージ両方に関連するもので、スマートグリッドとうまく連係すれば、風力発電機が大量に生成する夜間電力を有効活用する決め手となる。現在、電力会社のXcel Energyとソフトウェア・プロバイダーのGridpointは電気自動車への充電を電力需要のオフピーク時や風力発電出力に連動して有効利用するスマートチャージ・ソリューションのパイロットテストを実施中である。
エネルギー・ストレージは再生可能エネルギー普及に残された最後の課題であるが、電気自動車のバッテリーが分散エネルギー・ストレージとして利用可能となれば、分散電源の出現同様、グリッドの運用方法が大幅に変化することになるだろう。

1.2.9 最新の消費者サービス

消費者のエネルギー利用形態およびエネルギーへの理解が大きく変化しようとしている。スマートグリッドの真のビジョンに従えば、消費者はネットワークを介して積極的にエネルギーに関与することになるだろう。すなわち:
① エネルギー供給者の選択肢が広がり、
② エネルギー使用を積極的に管理できるようになり、
③ 自宅の太陽光発電等で使いきれない余剰電力を売ったり、エネルギー・ストレージに貯蔵したりできるようになるからである。
スマートメーターとHANの融合で消費者は電力使用情況をモニタし調整することができるようになるが、これは嘗てなかったことである。2006年に行われた実証実験では、消費者当たり平均10%の省エネ効果が見られ、電力会社のピーク電力需要は15%削減できた。
HANネットワークはまだ先といわれているが、カリフォルニア州やテキサス州では電力会社によるスマートメーター導入が進んでおり、時間帯別料金制を適用することで、いつどのように電気を使うか消費者行動が変わってくることだろう。
近い将来、今日の電力需要家は、単に消費者/エンドユーザではなくなる。発電し、自己消費できない電気はオープン市場で売る時代が来るだろう。まだ導入コストは高いが、価格が下がれば太陽光発電その他のグリーンテクノロジー普及が促進され、その結果、インテリジェントなインフラ、ネットワークオートメーション、高度な分析手法などスマートグリッド技術は不可欠なものとなる。

1.2.10 インフラの信頼性とセキュリティ

米国エネルギー省 (DOE)、国立エネルギー技術研究所 (NETL)、電力諮問委員会(EAC)等の機関は、スマートグリッドがもたらすセキュリティ上の利益として、以下をあげている:

  • テロやサイバー・アタックに対するシステム脆弱性を軽減する
  • 時間的・経済的な影響を含め、混乱を最小限に食い止める
  • セキュリティに関する電力網の信頼性を高め、通信、コンピューティング、自動調整および意思決定支援の最適化能力を高める

大量のセンサーやスマートメーターの投入は、それ自体が攻撃対象となるという意味でサイバー・アタックを受けやすくするが、それがスマートグリッド技術の進展・導入の妨げになってはならない。セキュリティは優先課題ではあるものの、そのためにスマートグリッドの本質であるデジタル処理や自動処理を放棄すべきではない。政府、電力会社、スマートグリッドのハードウェア/ソフトウェア提供ベンダーが、きっちりこの問題に対応することが望まれる。
外的脅威とは別に、米国の電力網に使われている平均的な設備は約40年が経過しているのでスマートグリッドは系統運用管理者により良い状況認識とビジビリティを与えるだろう。また、ブラジル、ロシア、インドなどでは、盗電も見逃してはならない。盗電を検知するのもスマートグリッドの興味深い機能の1つである。
また、スマートメーターから送られてくるデータを即座に分析して適切な行動を自動的にとり、停電を回避/停電の程度を低減して電力網の「健康」を保つセルフヒーリング機能もスマートグリッドの大きな特徴である。

1.2.11 21世紀の電力品質

人々の生活が電気に依存するようになるにしたがって、安定的に電力を使えるだけでなく、デジタルライフを十分支援しうる品質であることが望まれるようになってきた。
現状では、停電を起こさないようにするのが精一杯だが、ミッションクリティカルな機器が電力網に接続されるにつれ、適正な電力品質を保つことが求められるようになってきたのだ。
電力品質が満たされないと、電気機器は誤動作を起こしたり、動かなくなったりしてしまう。データセンターや携帯電話ネットワーク、病院の装置が機能しなくなっては大変なので、電力品質の確保が、ほとんど電力自体と同じくらい非常に重要であることが認識され始めている。
出力変動の激しい再生可能エネルギーが増える中、スマートグリッドが提供する電力品質の高さに対する要請が高まっている。

以上、スマートグリッド市場の主要なドライバーのまとめを図.6に示す。


図.6 スマートグリッドの市場ドライバー

これまでの調子でほぼ全訳しているとなかなか最後までたどり着かないので、今回から、本報告書の雰囲気を残しつつ、ある程度要約版でご紹介させていただいています。
次回は1.3スマートグリッドの課題:Challenges Associated With Smart Gridをお届けします。