GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』の2章を翻訳しています。今回は2.6節をご紹介しましょう。

なお、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。それと、全文翻訳ではなく、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。

2.6 PHEV、スマートチャージとV2G

PHEV

頻繁に議論され、かつ、待望されているスマートグリッドの「アプリケーション」の1つが、プラグイン・ハイブリッド電気自動車(PHEV)の導入である。プラグのなかった前世代のハイブリッド車(HEV)に比べると、PHEVは、より大きなバッテリーを搭載している。したがって、プラグにより大量に系統接続されたPHEVのバッテリーは、2.5節で解説した分散型エネルギー貯蔵装置になりえるものであり、従来利用されていなかった、需要を上回る再生可能エネルギー出力を蓄え、電力系統のバックアップ電源としてピーク需要時などにはグリッド側に電気を供給する役割を担うことができる。2010年現在、自動車産業、エネルギー産業とも、この革命的な進歩を推進する十分な準備は整っていないが、今後数年のうちに、世界中の主要自動車メーカーがPHEVを販売するだろう。また、そういう状況なので、電力会社は、場合によっては電力系統に壊滅的な被害を与えかねないPHEVの大量導入に向けて、準備に余念がない。

図22:プラグイン・ハイブリッド車のダイアグラム

出典:Argonne National Laboratory

PHEV車は、従来のガソリン車と比べると30~40%温室効果ガス排出量が少ない。

※MITの技術調査によれば、従来のガソリン車1マイル当たりのCO2排出量は452グラム。石炭火力発電所からの電力を使用するPHEV 1マイル当たりのCO2排出量は326グラムで、ほぼ30%排出量が少なくなっている。実際には、原子力発電所を含め石炭火力よりもクリーンな電源も多いので、PHEV充電でのCO2排出量はもっと低いと考えてよい。例えば、原子力発電所の電力や再生可能エネルギーが使用される場合、1マイル当たりのCO2排出量は152グラムまで落ち、ガソリン車と比べると70%のCO2排出量削減となる

電力中央研究所(EPRI)と国家資源防衛審議会(National Resources Defense Council)の合同調査では、PHEVが大量普及すると、毎年4億5000万トンのCO2削減となり、これは、全米の道路から8250万台の乗用車を取り除くことと等価であると報告されている。すなわち、間接的に石油資源に関する米国の海外依存度軽減にも貢献するのである。

PHEVは、バッテリーのみで駆動する電気自動車(Battery Electric Vehicle:BEV)と、トヨタ・プリウスのようなハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle:HEV)の両面を持っている。BEVのように、系統電力から充電し、バッテリーに電気を貯蔵し、毎日の運転時には、そのバッテリーに蓄えられたエネルギーを使用することができる。BEVと異なり、PHEVの利点は、バッテリーがなくなった場合や高速道路の運転で、内燃機関を使用できることである。この多様性により、PHEVは、従来の内燃機関の車両およびHEVに取って代わることができる。現在、PHEVの研究開発が急ピッチで進んでおり、価格もどんどん安くなってきている。そのうち、HEVはバッテリー駆動の輸送の利点を実証する役目を果たした歴史上重要なブリッジ技術として、その役目を終えるだろう。

ある試算によると、米国の自動車の25%が電気自動車に変わった場合、貯蔵することができるエネルギーは750GW近くとなり、それは、米国の現在の電力供給量を上回る。分散型再生可能エネルギー同様、そのレベルまでPHEVが浸透するには数十年間かかるかもしれないが、それまでには、以下の2つのPHEV大規模展開の管理上の課題を解決しなければならない:

  1. 最初の課題は、PHEVという新たな「機器」が大量にグリッドに接続されても、新たに電力需要のピークがたったり、更にはシステム中断になったりしない方法の確立である。そこで、「スマートチャージ」ソリューションの登場となる。スマートチャージは、スマートグリッドの通信インフラとシステムを利用して、何百万台ものPHEVの充電予定を平滑化してくれる。
  2. 第2の課題は、新たな数百万台の分散ストレージ(PHEVのバッテリー)の有効活用方法の開発である。系統運用者が電力系統に接続されたPHEVのバッテリーに充電されている電力を、電源として利用する技術:V2G(Vehicle to Grid)に注目が集まっている。

スマートチャージ

環境にやさしいソリューションとして、また、グリッドに悪影響を与えないソリューションとしての成功のカギは、いつ、どのようにバッテリーに充電するかを制御することにある。最悪なのは、ピーク時間帯に大量に充電することだ。(充電用の)追加需要を満たすために、発電単価が高く、環境汚染度も高い(石炭火力などの)ピーク対応発電所を稼動させなければならないからである。理想は、発電コストの安いベース電源に余裕がある夜間充電。しかし、毎日午後10時キッカリに充電のため車のプラグをコンセントに差し込むことを、人間側に期待するのは無理だ。(逆に、みんなが午後10時に一斉に充電を開始すると、そこに新たなピーク需要が発生する危険性がある) そこで、車のオーナーに代わって、それを自動的に行うようなソフトウェアとシステム、いわゆるスマートチャージ・ソリューションの研究開発が行われている。例えば、午後5時に帰宅して、車のバッテリー充電のためプラグを差し込んでも、グリッドと車の間で通信が発生し、充電にかかる電気代が安く、グリッドにも負担の少ない時間帯に充電開始時間をシフトしてくれるのである。

オークリッジ国立研究所(Oak Ridge National Laboratory)の試算によると、もし何の対策も採らないと、電気自動車の充電対応のため、米国では2020年までに160の新たな発電所建設が必要となるが、もしスマートグリッド技術でオフピーク電力量を数百万台の車の充電にまわすことができれば、新たな発電所建設は8つ以内に激減する。
国立再生可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Laboratory: NREL)でも、4つのPHEV充電シナリオを検討した結果、同様の結論に達した。

最適なスマートチャージを目指して現在まだ開発が続けられている一方で、充電スケジュールを電力会社が制御する事に関して、デマンドレスポンス同様、電力会社への懸念がよせられている。今すぐ充電したい需要家にとってみれば、「余計なお世話」だからである。恐らく、どんな種類の充電プログラムを採用するかを需要家に選択させることで、この問題は乗り越えることができるだろう。(夜間、自分が寝ている間ならいつ充電しても良い、昼間充電する場合は、邪魔されずに充電したいなど)需要家の充電ニーズと、更に大事なのは需要家の「燃費」の好みにあわせて充電するのである。

この仕組みをうまく働かせるためには、電気料金として時間帯別料金制の導入が必要となる。その際、スマートメーターは、エネルギーの時価を直接伝える情報ゲートウェイとして役立つだろう。例えば、午後5時までにフル充電すると、夜間充電するより高くつくことを(スマートメーター経由で情報提供され)予め承知していれば、スマートチャージ・システムが充電スケジュールを夜間にシフトしても納得が得られやすい。

エンドツーエンドのグリッド情報共有に加えて、分散電源技術の導入は、更に充電の選択幅を拡大する可能がある。電力会社は、電気自動車への「燃料補給」に再生可能エネルギーを有効活用できないかと、興味を持っている。
IBMは現在デンマークで電力会社のDong Energyとあるプロジェクトを進めているが、その中で、PHEVの充電スケジュールを風力発電により発生する電力と同期させるためのシミュレーションを行っている。また、スマートグリッド・ソフトウェア会社であるGridPointは、電力会社のXcel Energy およびDuke Energyとスマートチャージに関するパイロット・テストを実施中で、その中で再生可能エネルギー出力にPHEV充電量を追随させるソリューションを提供しようとしている。このパイロット・テストのもう1つの目論見は、「スマート・ビリング」、すなわち、いろいろな場所で充電しても、充電場所の所有者ではなく、車の所有者に充電料金を請求する仕組みで、「移動型の大形電気機器」普及に当たって重要な考慮点である。

ストレージ

米国では、石炭火力発電所は、主要なベース電源である。ベース電源は1日24時間休みなく稼動し続けるので、石炭はとにかく燃え続けることになる。一方、クリーンエネルギー側にも問題があり、現在は、人々が寝静まっている夜間にいくら「良い風」が吹いても、風力発電で作りすぎた電気には行き所がない。電気自動車の充電の仕方を工夫すれば、このような未使用の電気を効率的に使うようにできるので、より安く、よりクリーンな車である以上に、グリッドの効率化に貢献することができる。
車両が道路上にいる時間は、平均するとおよそ4~5%といわれており、駐車中のクルマをプラグ接続することで、従来未使用となっていたエネルギーを有効に利用できる可能性があるのだ。

V2G

今後5~10年の間に、V2Gは、スマートグリッドをもっとも変貌させるアプリケーションの1つとして出現するだろう。市場のファンダメンタルズは、以下の2点でV2Gがまだ立ち上がる状況に至っていないことを示している:

  1. まずは、車両価格がアーリーアダプター(Early Adopter:新しい価値観や様式に敏感で、早々と採用する人)ばかりでなく、一般大衆を魅了する価格まで低下する必要がある
  2. 頻繁に充放電を繰り返すことができるバッテリーができてからまだ日が浅く、慎重に検証を重ねる必要がある

デラウェア大学のV2G研究集団のリーダーで、10年以上前から同技術の開発を手がけているV2Gのパイオニア、Willett Kempton氏は、次のように指摘している。「ガソリン車は、走る以外能はないが、車のバッテリー内の電気を迅速に出したり入れたりできるようになると、走らせる以外の価値(エネルギー貯蔵装置としての価値)を生み出すことができる。」

ただ、今のところ不明なのは、消費者が(車のバッテリーに蓄えた電気を売ることによって)1年間にどれほど稼げると期待するかと、そのインセンティブが、PEV(Plug-in Electric Vehicle= PHEV・BEV などの系統充電型自動車)の発展に更なる拍車をかけるかどうかである。
V2Gが成功するには、動力源がバッテリーであれ、燃料電池であれ、ガソリンとのハイブリッドであれ、電気駆動車(Electric-drive vehicle:EV)が、エネルギー源として、家庭やオフィスと同じ60Hzの交流電気を供給できることである。
典型的なEVのバッテリーは10kW以上放電することができ、だいたい10軒の家庭の電気をまかなうことができる。V2Gの経済価値実現の鍵は、EVの運転に必要な電気容量を残しつつ、配電システムから送られる指令に迅速に応答して、如何にタイミングよくグリッドに必要な電力を放出できるかである。

図25: V2Gの概念

出典:V2G Research Group, University of Delaware

今回は、電気自動車(特に今後の普及が期待されているPHEV)と、スマートチャージ、V2Gの動向をご紹介しました。

V2Gは、スマートグリッドの最終形を実現する上で不可欠な仕組みだと思います。しかし、V2Gの2番目の課題にあるように、充放電を頻繁に繰り返すとバッテリー寿命が縮むようでは、V2Gに参加するPEVオーナーが集まらないと思われますので、充放電制御側、あるいはバッテリー側の更なる技術革新が待たれるところです。

また、本レポート内では、「PHEV大量導入が場合によっては電力系統に壊滅的な被害を与えかねない」理由が詳しく説明されていませんが、興味のある方は「EV充電ビジネスは前途多難?」をご覧ください。

スマートチャージに関しては、Gridpoint社の資料に詳しい説明がありますので、ご紹介しておきたいと思います。本レポートでは、負荷シフト機能と、再生可能エネルギー出力と連動した充電制御の実証実験が紹介されていますが、Gridpoint社は、その他に系統安定化のためのSpinning Reservesなどの機能も提供しようとしており、スマート・チャージ機能を、EV充電インフラの機能としてではなく、系統制御、系統安定化の一部として、完全にスマートグリッドの一部の機能として捉えていることが分かります。

後、細かいですが、V2Gの記述に『典型的なEVのバッテリーは ~ だいたい10軒の家庭の電気をまかなうことができる。』とありますが、10軒の電気をまかなうのは少し無理がある気がしますし、バッテリー容量(kWh)で考えた場合、フル充電したバッテリーで一般家庭の何日分(実施は何時間分?)の電気をまかなうことができるかが問題だと思います。

最後に、本レポートに「V2Gがうまく行くには、 ~ 電気駆動車が、エネルギー源として、家庭やオフィスと同じ60Hzの交流電気を供給できることである。」という記述がありますが、果たしてそうなのかと、少々疑問を感じました。
図.22をみればわかるように、PHEVでは、バッテリー・チャージャーを内蔵しているので、一般家庭のAC電源のコンセントにプラグインすれば良いわけですが、一般家庭でPHEVを2台も3台も持つ時代となったことを考えると、PHEVごとにチャージャーを内蔵するのはムダに思えます。これをAC-PHEVと呼ぶとすると、将来は、家屋内にAC電源のコンセントだけではなく、DC電源コンセントがあって、そこにプラグインする、DC-PHEVの時代となるのではないでしょうか?そのためには、車載バッテリーと、チャージャー/DC電源コンセントのインタフェースの標準化が必要ですが、PHEV1台ごとにチャージャーを搭載する無駄が省けて、多少ですが重量が軽くなるとともに、価格も安くなることが期待できるのではないでしょうか?

また、DC電源コンセントにDC-PHEVのプラグを差し込むと、家庭内EMS(エネルギー管理システム)が、プラグアンドプレイ機能で、DC-PHEVのバッテリーを認識し、家庭内の太陽光発電/小型風力発電の発電予測と、系統電力価格の推移を勘案して最適な充電スケジュールを決定する。また、家庭内の電力が不足していて、DC-PHEV内のバッテリーに十分余裕があれば、DC-PHEVから電力を供給するようにEMSが制御する-H2V/V2Hの世界がG2V/V2Gより先に実現するかもしれません。

以前、ロッキーマウンテン研究所(RMI)のコンセプトである『スマートガレージ』をご紹介しましたが、そこでは、一般家屋と商業ビルをあわせて「B」で表現し、以下の方程式?でV2Gが実現されるのではないかとしています。

V2B + B2G = V2G

その場合、V2Gのスマートグリッド・ソリューションが、AMI/スマートメーターを通して直接「会話」する相手は、V2BとB2Gを制御する家庭/ビル内のEMS、つまり、HEMS/BEMSということになります。また、「モバイル型のバッテリー」か「据え置き型のバッテリー」かは、HEMS/BEMS(のV2H/V2B機能)が認識すればよいと考えると、V2Gという特別のソリューションを用意しなくても、分散電源管理ソリューションとHEMS/BEMS間のM2M機能で実現されるのではないでしょうか? ここまでの考えをまとめて表現すると:

DC-PHEV ⇔ HEMS/BEMS ⇔ 分散電源管理ソリューション

※V2Gソリューションは不要!

となります。 ここで、 ⇔ は電気と情報両方の流れです。

では、次回は、2.7節 今後の電力会社の制御システムをご紹介したいと思います。

終わり