今回は、経済産業省の次世代自動車戦略研究会がまとめた『次世代自動車戦略2010』報告書』から、2020年の時点で、どれくらいの電気自動車(乗用車タイプのEV/PHEV)が路上を走っている計算になるのか、その電気自動車のために、日本では、前回ご紹介したような公共EV充電ステーション建設需要が起きるのか、また、何らかの対策が必要なほどEV充電が電力系統に影響を及ぼす可能性があるのか、検証したいと思います。

最初に、もう一度、『次世代自動車戦略2010』報告書の内容を見ておきましょう。外部から充電するタイプの電気自動車(EV/PHEV)に関連する部分のみ抜き出しました。



出典:次世代自動車戦略2010

この次世代自動車戦略2010の要点を抽出すると、以下のようになると思います。

  • 2020年時点での次世代自動車の政府普及目標は最大50% (20~50%)
  • ただし、ここでいう「50%」は、2020年度における乗用車の新車販売台数の中での割合であり、2020年時点で路上を走っている全乗用車の50%という訳ではない
  • また、ここでいう「次世代自動車」には、純粋な電気自動車(EV)だけでなく、PHEV、HEV、燃料電池自動車、クリーンディーゼル自動車が含まれる
  • そのうち、EVとPHEVに関する政府普及目標値は、2020年時点の乗用車新車販売台数の最大20% (15~20%)

では、オバマ大統領風に言うと、日本では2020年に道路上を走る車の何台を電気自動車にすることが「次世代自動車戦略2010」の目標値なのでしょうか?それが分からなければ、日本でいつごろどれくらいEV充電スタンドが必要かの議論に入れません。そこで、ちょっと概算値を出してみました。

① 2020年時点の乗用車保有台数の予測値は何台か?
② 2010~2020年の乗用車新車販売予測台数は何台か?
③ 2020年の乗用車新車販売台数の20%がEV/PHEVの台数だとして、2010~2019年の乗用車新車販売台数の何%がEV/PHEV販売台数とするか?
④ EV/PHEVの平均保有年数は何年か?

の順で、インターネット検索し、必要なデータを収集しました。

1.2020年の乗用車保有台数

経済産業省北海道経済産業局 「サミット開催に向けた北海道(寒冷地)における環境配慮型次世代自動車の導入促進調査」報告書の3.2節「2015年及び2020年における導入予測」に、国土交通省の交通需要輸送推計の数字が掲載されていました。それによると、2020年の乗用車保有台数予測値は、6537.8万台です。

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2. 2010~2020年の乗用車年間新車販売台数

社団法人日本自動車販売協会連合会の新車販売台数予測をしているようです。資料自体は入手できていませんが、複数のソースで以下のように述べられています。
『自販連、2020年度の国内新車販売台数(軽自動車を含む)はピーク時の4割減に 人口減や若者の車離れ、ガソリン高などを背景に、2020年度の新車販売はピークの1990年度と比べると39%減の475.9万台とする予測を発表。内訳は登録車が2007年比15%減の291.2万台、軽自動車は2.4%減の184.7万台。 』
出典:http://blog.livedoor.jp/joy_carlife/archives/65116899.html
ただし、この2020年度の新車販売予測台数:475.9万台には、すべての車種が含まれています。
一方、同連合会の「新車・月別・車種別」統計データのページより、2001~2009年の年間新車販売台数を計算すると、新車販売台数総合計、乗用車新車販売台数と、その比は、下図のようになります。

社団法人日本自動車販売協会連合会の「新車・月別・車種別」統計データよりインターテックリサーチで作成

新車販売総合計に占める乗用車新車販売の割合については、50~60%の間でそれほど大きな変化は見られません(あえて言うと、暫増傾向にあります)。そこで、2020年の乗用車新車販売台数比は60%とすると、2020年時点の乗用車新車販売予測は、475.9万台 × 60% = 287.8万台となりました。
これは、2007~2008年度の乗用車新車販売台数相当で、グラフから読み取れる今後の乗用車新車販売台数の暫減傾向とあわないのですが、新車販売台数は景気に左右されますし、いずれにしろ予測値ですので、計算を簡単にするため、2010~2020年の乗用車新車販売台数を一律280万台とします。

3.2010~2019年の電気自動車新車販売台数

2009~2011年の国産自動車メーカー各社のEV/PHEV販売実績/目標をインターネットで調べると、下表のようになります。

国産メーカー各社のEV/PHEV販売実績/販売目標台数

そこで、2010年のEV/PHEV普及率(新車販売台数の乗用車新車販売台数比)を1%、2011年を2%、2012年以降の普及率は2%ずつ増加して、2020年には政府目標の20%になるものとします。
そうすると、2.で2010~2020年の乗用車新車販売台数を一律280万台としましたので、2010~2020年のEV/PHEV新車販売予測台数は下表のとおりとなります。

2010~2020年のEV/PHEV新車販売予測台数

4.電気自動車保有年数と、2020年時点のEV/PHEV台数

3.で各年度のEV/PHEV新車販売予想台数が分かったので、平均何年EV/PHEVを保有するかで、2020年度末時点のEV/PHEV台数は、下表のとおりとなりました。

平均保有年数別、2020年度末EV/PHEV予測台数

最近の傾向として、車両保有年数は長くなってきているとのことですが(社団法人 日本自動車工業会の2009年度乗用車市場動向調査:28ページ)、EV/PHEVに関しては、EVバッテリー寿命が来れば、車体は問題なくても買換え/廃車にするのではないでしょうか?
三菱自動車のi-MiEVのリース契約を調べると、契約期間は5年としており、5年程度がEVバッテリー寿命の目安と考えられているのではないかと想像できます。
そこで、上記の表で保有年数4,5年の欄を参考に、2020年時点でのEV/PHEV予測台数=200万台を、ここまでで得られたデータからの結論とします。

2009年富士経済が発表した2020年のHEV・EV・PHEV世界市場予測では、「EVの生産台数は,インフラ整備やバッテリ技術開発の遅れによって成長が鈍化し,10年比45倍の13.5万台。PHEVの生産台数もEVと同じ理由から,10万台程度」としており、EV/PHEVあわせて23.5万台なので、200万台というと、その8.5倍にもなります。
その差は大きいですが、次世代自動車戦略の民間努力ケースの下限値(EV/PHEVの乗用車新車販売台数に占める割合が5%)で、かつ、保有年数も短めにすれば、そのような値になるのかもしれません。
また、株式会社シードプラニングでも国内EV・PHV市場規模予測をしているようですが、残念ながら、内容までは分かりませんでした。

この200万台という数字の捉え方ですが、2020年時点の乗用車の台数が1で調べた6537.8万台だとすると、乗用車33台に1台がEV/PHEVということになります。
オバマ大統領が掲げた2015年までに100万台というのは、少々無理がありますが、2020年で200万台という数字自体は、それまでに、メーカー側の生産体制も整えば、あながち無理な数字ではない、あるいは、むしろ控えめな数字ではないかと感じています。
※出所は定かではありませんが、2020年時点で乗用車の10台に1台は電気自動車になるという想定を何度か聞いた覚えがあります。
※次世代自動車戦略2010の電池戦略:電気自動車普及による量産効果創出というのは、『ニワトリと卵』の関係になりますが、こちらが功を奏せばEVバッテリー価格が低下し、一般家庭でのEV購買意欲の高まりが期待できます。

5.2020年時点で必要なEVバッテリー充電器数の予測

再び、次世代自動車戦略2010のインフラ整備戦略に戻ると、政府目標としては、普通充電器200万基となっており、(PHEVでは、通常のプラグから充電できるので充電器は不要ですが)ここでの2020年時点のEV/PHEV予測台数と偶然一致しています。
200万台の予測値の中のEVとPHEVの比率は分かりませんが、大雑把に半分をEVと仮定した場合、「自宅と職場に充電器を」というクーロンテクノロジーズ社CEO、Richard Lowenthal氏の発言と符合します。急速充電器5000基というのは、非常に少ない気がしますが、「EVもPHEVも基本は自宅と職場で充電し、緊急手段として急速充電器を使用する」というシナリオならば、先のBloomberg.comの記事でEPRIのMark Duvall氏の指摘にしたがって、当初計画は、この程度でとどめておくのがよさそうだと感じました。詳しくは、EV急速充電の電力系統に及ぼす影響度の検証の中で確かめたいと思います。

2020年時点で必要なEV充電が電力系統に及ぼす影響度予測がまだ残っていますが、長くなりましたので、次回に回します。

ここまでの結論としては、2020年時点で道路上を走っているEV/PHEVはおおよそ200万台。これらは家庭(と職場)で充電されることを基本とし、急速充電が可能な公共EV充電スタンドの設置は、平均すると年間500基ペースで増え、2020年時点で5000基設置される - というのが2020年に向けての日本のシナリオではないかと思います。

様々な想定の元での数字ですが、何かの参考としていただければ幸いです。

終わり