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8月3日付のSmartGridNews記事に引き続き、8月6日のSmartGrid Newsletterで、「SmartGridCity Retrospective and Post-Mortem」という記事が届きましたので、前回に引き続きここで紹介し、スマートグリッドの先行きを考えたいと思います。

SmartGridCity崩壊の事後検証

コロラド州ボルダー市のSmartGridCityプロジェクト崩壊について報じた我々の記事に関する読者の反応は相当なものだった。今回、読者から寄せられたコメントを整理して、この失敗から学んだ3つの教訓と、それに関連する専門家の意見(関連資料部分)を披露しよう。

教訓1:非現実的な期待を抱かないこと

読者からのコメント1-1:Ski Milburn

私はボルダー市に住んでいます。当初、電力計をインターネットにつなぐことで、リアル・タイムに電気の利用状態が監視できるなど、いろいろ便利になる話を聞いたので、非常に期待していました。ところが、スマートメーターが設置されたのに、私は今までどおりノートを持って屋外に出て、どれだけ電気を使ったか数字を書き留めています。今でも私はコンセプトとしての「スマートグリッド」は否定しません。そして、これ(スマートメーター化)は、正しい方向を目指した、わずかですが進歩だと思っています。お粗末な計画、ひどいプロジェクト管理、欠陥だらけの構想などなど、悪い点をあげればキリがありませんが、それでも私は(スマートメーター化に)踏み切ったことには満足しており、その結果の(失敗したことよる)高いツケは支払うつもりです。
※以下の最後のセンテンスは、投稿者の意図を汲み取れなかったため、いつもの「超訳」による誤解を避け、原文を掲載しておきます。
But it’s telling in ways that speaks to the old days of utilities as regulated monopolies, and the deep seated DNA that persists in these organizations, that it just didn’t occur to them that delivering benefits to the customer, not just to themselves, was important.

読者からのコメント1-2:James Shepperd

「世界で初めてのS.G.C(スマートグリッドシティ)」を売り込もうとしたのが失敗の始まりだと思います。世界中で最も多方面にわたる(スマートグリッドの)実証試験サイトと言うような名前だったらコストオーバーランや政治的ポジショニング、責任の擦り付け合いというような問題は起きていますが、S.G.Cから得られた教訓は、もっと評価されたでしょう。

読者からのコメント1-3:Kathleen Burns

エクセル・エナジーは、元々、「私たちは、私たちが選んだパートナーとこれ(スマートグリッド化)を行い、私たちが何を学ぶか確かめるだろう」と言っていました。その点に関して、彼らは失敗していません。ただ、すでに指摘されているように、予算のわりに非現実的な期待を膨らませすぎたのです。

関連資料

資料1-1:Smart Grid Expectations and Our Changing Relationship with Power

 

出典:SmartGridNews Jack Danahy
内容:スマートグリッドへの期待と、電力との関わり方の変化について

 

• 資料1-2:Study: Smart Grid Aware Customers More Satisfied with Utilities (But There Aren’t Many of Them)

出典:SmartGridNews Staff Report
内容:スマートグリッドを理解している需要家ほど、電力会社に満足しているが、その数は限定的

 

• 資料1-3:Selling the Smart Grid to Consumers? Start By Helping Them Answer One Simple Question

 

出典:SmartGridNews Pamela G. Lesh
内容:消費者にスマートグリッドを売るには、まず、スマートグリッドに関する単純な問い(ホントにうまく動くの?)に答えよ

 

• 資料1-4:Smart Grid Point/Counterpoint: Is It Better to Be a First Mover or a Follower?

 

出典:SmartGridNews Andy Bochman and Jack Danahy
内容:スマートグリッド:先物買いは損か得か?

教訓2:着実な計画とプロジェクト管理を実施せよ

読者からのコメント2-1:Steven Harbauer

電力会社はどこもスマートメーターのコストと(サブメーター計測会社などへの?)委託料の必要性を計算に入れていませんでした。
また、サブメーター計測会社がこれまで培ってきた経験を利用しませんでした。物事は、一歩足を踏み入れると、難題がいろいろ湧き出してくるものです。その際に、ちょうどメキシコ湾原油流出事故のように、結果をすべて考慮せずに、うまくいかないかもしれない対策を実施し、かえって被害を拡大させてしまったのだと思います。

読者からのコメント2-2:Tom Davlin

エクセル・エナジーがこのプロジェクトでやったことは、まるで詐欺だ。経済的なフィージビリティ調査を行わなかった? 岩の多いこの土地に地下ケーブルを敷設するに当たって、不測の事態に備えることを考えていなかった? ごく単純に、「作れば儲かる」と思ったのだろうか?
このプロジェクトを正当化できる利用はほとんどなく、プロジェクト管理技術がお粗末過ぎる。

関連資料
• 資料2-1:Why Requirements Development is Critical to Making the Smart Grid Smart

出典:SmartGridNews.com Joe Hughes
内容:なぜ要件定義がスマートグリッドを賢くするために重要か

 

• 資料2-2:Smart Grid Cost and Benefit Analysis Framework

出典:NETL  Steve Bossart氏プレゼン資料
内容:スマートグリッドの費用・便益分析の枠組み

 

• 資料2-3:GridWise Alliance Handbook for Assessing Smart Grid Projects

出典:KEMAが作成し、GridWise Allianceから発刊
内容:スマートグリッド・プロジェクト評価のためのハンドブック(39ページ)

 

 

• 資料2-4:Project Management for Implementing the Smart Grid

出典:Power System Engineering, Inc
内容:スマートグリッドを実装するためのプロジェクト管理について(13ページ)

 

資料2-5:Cross-Industry Project Management Lessons Learned

出典:POWER-GEN Worldwide
内容:産業間共通のプロジェクト管理の教訓

教訓3:早い段階から規制機関との協働が不可欠

読者からのコメント3-1:Steve Hilitibidal

 

公共規制を課せられている電力会社が先進技術の恩恵を受けるために従来と異なるプロセスが必要になったなら、まず規制機関にその考え方を理解させ、実験でいろいろ問題にぶつかっても、協働して優雅に対処できるよう下地作りをしておくべきだった。

関連資料:
• 資料3-1:Regulatory Assistance Project Tackles Smart Grid

出典:intelligentutility.com Phil Carson
内容:規制機関支援プロジェクトのスマートグリッドへの取り組み

 

• 資料3-2:Federal-State Cooperation Can Remove Delays, Obstacles to Achieving Smart Grid Benefits, Regulators Are Told

出典:Smart Grid Interoperability Panel (SGIP)
内容:遅れや障害を取り除き、スマートグリッドの恩恵にあずかるには連邦政府と州政府の協働が不可欠

 

• 資料3-3:Should Utilities Shift Rate Structures – and Customer Communications – to Meet Industry Changes Like Distributed Generation?

出典:SmartGridNews.com Richard Huntley
内容:公益企業は、分散電源のような事業変化に適応するために料金体系(と需要家との通信体系)を変えるべきか

ここまでの話の流れを振り返ってみると、スマートグリッドとして、現在の技術レベルでギリギリでできることを、それを実現するために必要なコストを正確に見積もることもせず全面展開しようとしたところにSmartGridCityの不幸の始まりがあった-ということでしょうか?

教訓1は、将来のビジョンとは別に、当面の(例えば2020年を目処とした)展開として、コストに見合ったスマートグリッドの機能範囲をどこまでにするかをシッカリ見定める必要アリということですね。

教訓2は、言うまでもないことですが、エクセル・エナジーの場合は、「着実な計画」を立てるに当たって、従来の検針業務を行っていたサブメーター計測会社が、コメント1-3にある「私たちが選んだパートナー」に含まれていなかったのが問題の1つだったのでしょうか?
それに関連して言うと、日本でのスマートグリッド推進に当たって、1つ気になるのは、これまでのスマートグリッド関連の研究会でPPSやIPP、JEPX、ESCJといった、日本の電力自由化で出現した新しい電力関連のステークホルダが話の中にあまり出てこないことです。

教訓3は、民間主導でスマートグリッド化を行う場合の注意点ということですね。国や規制機関が先頭を切ってスマートグリッド化を推進している場合、教訓3の条件は最初から満たされているといってよいでしょう。日本の場合は、すでにスマートメーター制度検討会が始まっていますし、ここは問題ないと思われます。

また、スマートグリッドシティに関する続報が入ればブログで紹介したいと思います。

 

終わり