© Copyright Jonathan Wilkins and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

スマートグリッド業界のプレーヤーを概観するため、GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』の5章を簡単にまとめています。今回は第5.3節デマンドレスポンスです。
また、最近の海外のデマンドレスポンスの動向を調べましたので、あわせてご紹介します。
なお、デマンドレスポンス自体については、このブログシリーズ-その8をご覧ください。

なお、従来どおり、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。それと、また、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。

5.3 デマンドレスポンス

5.3.1 コンバージ:Comverge

コンバージ社は、デマンドレスポンス・ソリューションの主要プロバイダー2社の1つである。他に、電力需要削減を支援する技術を活かし、エネルギー効率化サービスを提供している。
同社の「スマートメガワット:smart megawatts」技術は、全米(500以上の公益企業、500万台の装置)で利用されていて、管理下にある2,600MWの電気容量をうまく運用することにより、同社が提供する「ペイフォーパフォーマンス」プログラムは、温暖化ガス排出を削減し、送電ロスをなくし、信頼性を向上させ、実際の発送電を遅らせることができる。
なお、2007年に株式公募を果たしている。

最近の活動】

  • 2009年1月21日、コンバージは、Pepcoホールディングズ社(PHI)が今後計画している新AMIネットワークと互換性のあるデマンドレスポンス用ハードウェアおよびソフトウェア・システムの提供と導入・設置を実施することで、5年の協定を結んだ。
  • 2009年4月、新製品:アポロ統合デマンドレスポンス管理システムをリリース。このアポロは、業界初の統合デマンドレスポンス管理システムの1つで、需要家の住居にあるデマンドレスポンス・デバイスと、電力会社の運用システムおよびバックオフィス・アプリケーションを結びつけるものである。アポロは、エンタープライズ向け、ウェブベースのアプリケーションで、高度な需要管理アプリケーション用のプラットフォームとなるばかりでなく、将来のエネルギー関連ソフトウェア・アプリケーションでも利用できるよう設計されている。
  • 2009年6月、アイトロン社との技術提携について発表。アイトロンのスマートメーターを通しても同社のサービスを受けられるようにした。

【アナリスト ノート】

従来、大口の業務用・産業用電力契約を持つ顧客の負荷を対象としてデマンドレスポンス(負荷調整)が行われてきたが、コンバージが管理する全負荷の25%は一般家庭のものと報告されている。
コンバージのCEO:Robert Chiste氏によれば、「電力会社は、250kW未満の、デマンドレスポンス・プログラムに協力してくれる顧客獲得に苦労しています。中小企業が、丁度そのような顧客に当たるのですが、なかなか協力が得られないのです」とのこと。
アイトロンと提携することにより(一般家庭の負荷をうまく束ねることで)、コンバージ社は、事実上未開拓だった、そのようなサイズの市場でのリード拡大を期待している。

5.3.2 エナーノック:EnerNoc

エナーノック社は、業務用・産業用電力顧客を対象とするデマンドレスポンス・ソリューション・プロバイダーである。
2003年6月5日に、クリーンでインテリジェントなエネルギー・ソリューションのデベロッパー兼プロバイダーとして設立された。
エナーノックは、そのネットワーク運用センター(NOC)を使用して、業務用・産業用電力顧客が、(従来のような一方的な需要削減ではなく)必要な情報を提供することで、能動的あるいはインテリジェントに負荷調整に応じるような仕組みを提供している。
電力会社と、業務用・産業用電力契約を結んだ顧客は、送電事業者、電力会社とともに、エナーノックの顧客である。
2008年12月31日時点で、同社は、およそ1,650の業務用・産業用電力顧客(およそ4,000サイト)からおよそ2,050MWのデマンドレスポンス容量を管理している。
2008年5月5日、エナーノックはエネルギー調達とリスク管理サービスのプロバイダーであるSouth River Consulting LLC (SRC)を買収している。

【最近のニュース】

2009年3月、メリーランド州の以下の4つの公益企業(①Allegheny Power、② Baltimore Gas and Electric、③Delmarva Power and Light Company、④Potomac Electric Power Company)と250MWのデマンドレスポンス契約を結んだと発表した。

【アナリスト ノート】

上記のメリーランド州での契約を含め、同社は2009年第1四半期に7つの公益企業とデマンドレスポンス契約を締結。デマンドレスポンス容量は2.5GWに達し、同業界リーダーとして、コンバージ社と比肩するポジションを確保した。

5.3節は以上です。
例によって、これらの企業のGTMリサーチ-スマートグリッドマップにおける位置づけを見ておきましょう。


図の拡大

本文中では、コンバージとエナーノックの2社しか紹介されていませんが、図中のCPower、Sequentricも、5.8節「その他の業界プレーヤー」の中では、デマンドレスポンスの市場セグメントのプレーヤーとして位置づけられていました。
また、Gridpointは、5.5節「ソフトウェア、ソリューションおよびアプリケーション」の中で紹介されています。同社が提供する次世代EV充電スタンド用の機能:Smart Charging(その12参照)は、負荷調整の対象が家電機器ではなく、電気自動車のバッテリーになりますが、サービス/機能の位置づけとしては、正にデマンドレスポンスといってよいと思います。

次に、米国での最近のデマンドレスポンスに関する動きを、SmartGridNews.comの記事で見ておきましょう。

デマンドレスポンス:潜んでいる危険(と、単純な業界全体の解決策)
Demand Response: The Lurking Danger (and the Simple, Industry-Wide Solution)

2010年8月24日 ブライアン・シール(EPRIシニアプロジェクトマネージャ)

スマートグリッドの野心的な目的の一つは、配電系統に繫がる一般家庭の負荷まで、系統運用と統合する、いわゆるデマンドレスポンス(以下DRと略)の実現である。数においても、場所においても、配電系統下に広範に分散している家電機器を掌握するのは難しいが、総需要のピーク負荷と一般家庭の負荷には相関関係がある。これまで、一般家庭の負荷管理を行うとすると、利用している家電機器のスイッチを切る直接的な負荷制御が主だった。スマートグリッドのビジョンはこの考えを大幅に変更し、ネットワークに家電機器を繋ぐことにより、消費者/利用者になるべく不便をかけず負荷削減効果を最大限にするよう、系統の状況に応じて作動するようになる。

ところで、住宅内に設置された家電機器と通信するためには、いくつかのレベルでの標準の策定が必要である。アメリカ国立標準技術研究所(NIST)は、最優先行動計画(Priority Action Plans:PAP)を作成し、目下必要な情報交換用の標準の整備を行っている。OpenSG(電力会社の国際ユーザーグループ:UCAIug内のOpen Smart Grid技術委員会)での作業(DRに求められる要件定義)とZigbeeアライアンスのスマートエネルギープロファイル(SEP)は、DRのための情報交換の要件の骨格を形作った。北米エネルギー規格委員会(NAESB)、米国家電製品協会(AHAM)、ClimateTalk Alliance などもDRの標準策定に多大な寄与を行っている。

問題は、低い通信レイヤが非常に複雑なことだ。エネルギー管理コンソール、ゲートウェイとなるメーター、家電機器自体とのダイレクト通信等、様々なアーキテクチャが混在し、それらに対応して、AMI、FM無線通信、インターネット、防災通信、電力線通信、Wimax、携帯無線などの技術が使われている。各アーキテクチャ/技術は、それぞれ一定の長所を持ち、個々の場所/場面に最も適するものをDRプログラムでも採用する必要がある。

しかし、考えようによっては、この多様性は非常にありがたい。というのは、一般家庭の負荷に対するDRを行う方法については現在まだ試行中であり、どのようなアプローチが、信頼性、安全性で優れているか、とりわけ、どのようなアプローチが消費者に一番受け容れられるか、まだ分かっていないからである。自分たちが想像しているほど世の中は進んでおらず、全家庭にブロードバンドが普及し「ユビキタスAMI」が実現するのはまだ何年も先。したがって、一番の問題は、どんなところに住んでいる需要家に対しても一様なDRサービスが提供できるような既製の製品はあるのか、それも今後2、30年時代遅れとならず、稼動し続けられる製品はあるか?-である。

この問題に答える一つの方法は、特定の通信技術を使うのではなく、モジュール化したインタフェースのオープンスタンダードを定義することである。米国電力中央研究所(EPRI)は、電気製品メーカー、通信プロバイダーおよび公益企業とこの考えに基づいて、デバイスのプロトタイプを作り、相互運用性試験を行ってきた。北米の業界団体:USNAP Allianceもこの考えに基づき、家庭内のエネルギーモニター機器の統一通信規格を制定している。

家電機器(あるいは、それらを制御するエネルギー管理コンソール)は標準のコネクター/ソケットを持ち、住宅所有者は、そこに自分が選んだ通信モジュールを差し込む。そこから、地域の公益企業のシステムあるいは、その他のエネルギー管理会社と通信できるようにする-というのが大筋の考え方である。この手法では、ソケット・インタフェースが、消費者の設備(エネルギー管理コンソールか末端の家電機器)と公益企業の設備(通信システム)の分界点となり、通信システムや負荷管理プログラムの不確かさやリスクから消費者を解放し、同時に公益企業が必要に応じて通信アーキテクチャを進化させることを可能にする。ラップトップ・コンピューター上のPCMCIAスロットと同じく、家電機器の「標準デマンドレスポンス・ソケット」は、(現時点ではまだ発明されないものを含めて)任意の通信技術で稼動することを可能にし、自由市場での競争を増進するだろう。

EPRIでの研究から、そのようなインタフェースのドラフト仕様ができあがった。現在、この仕様に基づいた、いろいろなプロトタイプのデバイスや通信モジュールが作成され、試行されている。NISTのコーディネーションの下、将来の標準策定に向けて、実際にこれらプロトタイプを使用した相互運用性評価が行われ、その結果のフィードバックにより、仕様の洗練化が行われているのである。

以上、SmartGridNews.comの最新ニュースをご紹介しました。

Web2.0以来、本来は規格やバージョンとは無関係なものの名称に「2.0」を付与するのがはやっているようですが、デマンドレスポンスに関しても、昔の中央集権的に「需要抑制:Load shedding」を行うものをDR1.0。
それに対して、需要家の協力の下で電気を使う時間帯を変更するLoad shiftingや、逆に風が強くて需要以上に風力発電所が発電してしまいそうな時に、予想される発電量に見合う電力需要を喚起するLoad shapingなどの機能を併せ持つ新しいデマンドレスポンスをDR2.0と呼ぶそうです。
このニュース記事で紹介した標準に従うデマンドレスポンスのソリューション/製品はDR3.0となるのでしょうか?
そういえば、スマートグリッドの将来形もどこかでWeb3.0と呼ばれていた気がします。

なお、次回は、元に戻って、5.4節「グリッド最適化と配電自動化」のプレーヤーからご紹介したいと思います。

終わり