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8月に「米国のスマートグリッド標準規格の動向 - その後」で、連邦エネルギー規制委員会(FERC)が、国立標準技術研究所(NIST)が推奨するスマートグリッド相互運用性標準規格のセットを米国のスマートグリッド規格として採用し法制化するのを拒否したというニュースをご紹介しましたが、それはそれとして(?)、NISTは、当初作成したスマートグリッド相互運用性標準規格策定のために作成した3段階のスケジュールに沿って、そのフェーズ2,3の進捗を反映した『Release 2.0 of the NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards』を完成し、10月17日に公開、パブリックコメントを募集しています。

そこで、今回は、そのエグゼクティブ・サマリ部分をご紹介しようと思います。
いつも通り、全文翻訳ではないことと、例によって、超訳になっている部分があることを予めご了承ください。

では、はじめましょう。

NISTのスマートグリッド相互運用性標準規格のフレームワークとロードマップ リリース2.0

エグゼクティブ・サマリ

 背景

21世紀のクリーンエネルギー・エコノミーには21世紀の電力系統が必要である。
ところが、米国の電力インフラは、19世紀の終わりにトーマス・エジソンとジョージ・ウェスティングハウスによって設計・構築されてからこれまでほとんど変わっていず、老朽化が顕著となっている。
そこで、米国議会および政府は、スマートグリッドのビジョンを描き、その構築に必要な政策の基礎を築いた。

1)米国の送配電網を近代化し、スマートな電力網とするため、2007 年エネルギー独立性及び安全保障法(Energy Independence and Security Act of 2007:EISA)を制定
2)更に、EISAセクション13(Title XIII – Smart Grid)に基づき、2009年アメリカ再生・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act of 2009:ARRA)で、45億ドルを投資して、スマートグリッド技術の開発を加速
3)2011年1月、オバマ大統領も一般教書演説で、クリーンエネルギー・エコノミーのビジョンを繰り返し、エネルギー安全保障の推進を強調
4)2011年6月、ホワイトハウスは、内閣府に所属する国家科学技術委員会(National Science and Technology Council:NTSC) が作成した「将来のエネルギー安全保障を可能とする21世紀のグリッドのための政策フレームワーク」というタイトルの報告書を公開
EISAでスマートグリッドの標準規格制定の重要性が強調されているが、このNSTCの報告書でも、スマートグリッドへの投資が今後も価値を失わないようにするためには標準規格の開発・適用が不可欠であると、同様の指摘が行われている。

 国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)の役割と対応状況

EISAは、NISTを、スマートグリッドのデバイスやシステムの相互運用性を実現するため、米国エネルギー省(DOE)およびFERCと協働して相互運用のプロトコルやモデル標準等、相互運用性フレームワークを開発するための調整責任者に指名した。

NISTは、スマートグリッド関連の標準規格やプロトコル間の相互運用性を早急に確立するため、3段階で構成されるスマートグリッド標準化スケジュールを作成している:

フェーズ1:スマートグリッド標準化のロードマップを作成し、既存のスマートグリッドに関連する標準をセットにした「スマートグリッド標準第1版」を公開する

フェーズ2:SGIP(Smart Grid Interoperability Panel)を立ち上げ、長期的な視点でのスマートグリッド標準整備に向けて官民一体となり、現状では不整合や抜け穴のある標準の調整・整備と、標準化ロードマップ自体の進化を図る

フェーズ3:2010年以降の新たな標準化実装に際して、特に相互運用性とセキュリティに関する適合性の試験・認定フレームワークを完成させる

2008年に始まり、2009年を通してNISTは、この3段階のスマートグリッド標準化スケジュールに則り、各界の専門家や広範な利害関係者を招集してワークショップや会合を開いた。そして、2009年の年末までに、フェーズ1のロードマップの作成と、スマートグリッド関連の標準セット(第1版)の選定(NISTの計画のフェーズ1)を完了。2010年1月に、『NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards Release 1.0』(以降、リリース1.0)として公開した。

リリース1.0は、
スマートグリッドのハイ・レベルの概念参照モデルを記述、
75のスマートグリッドに関連する既存の標準規格を選定、
それらのスマートグリッド関連の標準規格間の不整合部分に関して、最優先で解決し、調和させるべき15の問題を指定し、標準策定機関(Standards Setting Organization:SSO)がそれらの不整合を解決すべき期限付きの優先行動計画(Priority Action Plan:PAP)を文書化している。

 フレームワーク2.0の内容

本ドキュメント『Release 2.0 of the NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards』は、2009年11月にSGIPを組織して以来、NISTが当初作成した3段階のスケジュールのフェーズ2,3の進捗を反映したもので、スマートグリッド・アーキテクチャー、サイバーセキュリティおよび試験と認証が主要な成果物である。
また、リリース1.0で識別された標準規格間の不整合を解決するべく、PAPに基づいて作業された結果、新たに出来上がったスマートグリッド標準がスマートグリッド標準規格のリストに加えられている。

参照モデル、標準規格、規格間の不整合、および本ドキュメントに示す行動計画は、安全で相互運用可能なスマートグリッドを構築するための基盤となるものである。
しかしながら、新たな要件や、新技術の出現とともに、スマートグリッドは今後も進化し続けなければならない。
スマートグリッドに関係する標準規格は今や20以上の標準規格策定組織の規格にまたがっているが、SGIPは、広範なスマートグリッドに関与する利害関係者とともに、今後も相互運用性を確保するよう標準化の取り組みをガイドする仕組みを提供していく。

本フレームワーク・ドキュメントに反映された、現在も進行中のスマートグリッド標準規格制定作業の成果は、電力業界、電力会社、ベンダ、研究機関、規制当局その他スマートグリッド利害関係者へのインプットとなるものである。

スマートグリッドを理解し実装する必要のある電力会社やサプライヤは、3、4および6章、
試験&認証機関は7章、
研究機関は5.5節および8章、
規制当局は1、4および6章
を特に参照していただきたい。

 今後の作業

スマートグリッド用標準規格としてリストアップしたものの間で見つかった不整合が解決されるまで、現在進行中のPAPの実施を継続しなければならない。また、前述のARRAの予算で開始されているスマートグリッド関連プロジェクトは成果をあげつつあるが、そこで生み出された新しいスマートグリッド技術を裏打ちする標準規格で新たな不整合、新たな要件が出てきたら、SGIPは、それらを解決するためにPAPの作業項目を追加する。
NISTおよびSGIPは、SSOおよび他のステークホルダーと協働して、今後もスマートグリッド関連標準規格間の不整合撲滅に取り組んでいく。
また、サイバーセキュリティを考慮した堅牢なスマートグリッド・アーキテクチャーを目指して、スマートグリッド関連標準規格の“カタログ”の充実を図っていく。
別途作成しているサイバーセキュリティ・ガイドラインも、新しい脅威に対処するべく最新状態を保つべく努力する。
試験と認証のフレームワークについては、民間関連組織との連携を継続する。

標準規格は規制とも密接に関係するので、NISTは、規制当局への必要な支援を継続して行っている。
EISAは、NISTにスマートグリッド関連標準規格の相互運用性を確保するための調整役を命じるとともに、連邦エネルギー規制委員会(FERC)には、NISTがとりまとめたスマートグリッド関連標準規格セットが、当該業界関連者間で合意を得たものになっているかどうか判定し、了解が得られているなら、その標準規格やプロトコルの法制化を行う役割を与えている。

FERCは、2010年11月および2011年1月に、スマートグリッド相互運用性標準規格のテクニカルカンファレンスを開催。2011年2月には、更にパブリックコメントを収集するべく、「SUPPLEMENTAL NOTICE REQUESTING COMMENTS」を発行している。

それらから得られた情報を検討した結果、2011年7月、FERCは、NISTが選定した最初の5組の標準規格のセットは、米国のスマートグリッド標準規格として採用するには十分コンセンサスが得られていないとの判断を下し、関連した法制度化手続きを実施しない旨のアナウンスを行った。
同時に、スマートグリッド相互運用性標準規格の法制度化を進めるために、電力会社、スマートグリッド関連製品の製造業者、州規制局その他のスマートグリッド関連者は積極的にNISTの相互運用性フレームワーク策定プロセスに参画するよう勧告している。

NISTのフレームワークやロードマップ作成は連邦法上の取り組みだが、実際、州や地方レベルでスマートグリッドに関与している利害関係者にとって、開発される標準規格は、州法や地方ルールと整合性を保持していなければならない。
現在、多くの州、州の公益委員会がスマートグリッド関連のプロジェクトに携わっているが、最終的に、それらのプロジェクトは、スマートグリッドという「システムのシステム」の完全に機能する要素として合流することになる。
それゆえ、NISTのフレームワークおよびロードマップの下で開発された相互運用性およびサイバーセキュリティ標準は、米国の電力系統を近代化する上で州法との整合性を保つ必要がある。
また、地域の電力会社が提案するスマートグリッド関連の投資額の妥当性を検討する上で、NISTのフレームワークが規制当局に価値のある情報を提供することが期待されている。
NISTの作業の重要な目的は、今後数十年間継続するであろうグリッドの近代化において、連続的に革新が起きることを可能とし、自立した、進化し続ける標準化プロセスを構築することである。

 リリース2.0での変更点

本ドキュメント(リリース2.0)はリリース1.0をベースにして作成しており、ドキュメント全体にわたって、ファクトと図を更新した。新しい章を2つ増やし、その他多くの新しい節を加えている。また、多くの章に、現在および将来の活動の概説を含めた。

【1章】

図1-1「NISTとスマートグリッドの歴史(The history of NIST and the Smart Grid)」部分を更新し、2010年および2011年の活動内容を反映した。
1.2節「このフレームワークの使用法(Use of this Framework)」の節を追加
1.3.1「定義(Definitions)」の節に新しい重要な概念を追加

【2章】

2.2節「米国エネルギー政策の目標の重要性(Importance to National Energy Policy Goals)」には、2011年1月の一般教書演説および2011年6月のNSTC報告書内容を含めた。
スマートグリッドのビジョンを国外まで拡張するため、本章に以下の2節を加えた:
2.3節「スマートグリッドの国際標準規格(”International Smart Grid Standards)」
2.4節「スマートグリッド・アーキテクチャーを調和させる国際的な取組み(International Efforts to Harmonize Architectures)」

【3章】

リリース2.0の本章に述べられている概念的なアーキテクチャー・フレームワークは、リリース1.0の3章で取り扱った概念参照モデルを大幅に拡張したものである。
概念的なアーキテクチャー・フレームワークは現在開発中で、以下を含む:
3.2節 「スマートグリッドのアーキテクチャー上の目標(Architectural Goals for the Smart Grid)」
3.3節 「概念参照モデル(Conceptual Reference Model)」
3.4節 「スマートグリッド情報ネットワークモデル(Models for Smart Grid Information Networks)」
3.6節 「顧客ドメインのスマートグリッド・インターフェース(Smart Grid Interface to the Customer Domain)」
3.7.4 「概念的なビジネスサービス(Conceptual Business Services)」

【4章】

4.2節:SGIPを設立したことにより、スマートグリッドの標準規格選定作業は飛躍的に発展した。本節にリストアップされた標準規格に、その発展したプロセスを見ることができる。
4.5節「将来のスマートグリッド標準選定プロセス(Process of Future Smart Grid Standards Identification)」は、新たに設けられたもので、今後使用されるプロセスを詳述している。
リリース1.0、リリース2.0とも、4章の中心は、以下の2つのリストである:
表4-1「選定された標準規格(Identified Standards)」の内容は、4.3節「NISTによって選定された現在の標準規格リスト(Current List of Standards Identified by NIST)」参照。リリース2.0では、表4-1中のエントリーの数は、リリース1.0の25から34まで増加している。
表4-2「追加された標準規格、仕様書、プロファイル、要件、ガイドライン、および今後の調査予定の報告書(Additional Standards, Specifications, Profiles, Requirements, Guidelines, and Reports for Further Review)」の内容は、4.4節「現在調査予定の追加標準規格候補(Current List of Additional Standards Subject to Further Review)」参照。リリース2.0では、表4-2中のエントリーの数は、リリース1.0の50から62まで増加している。
リリース2.0でのリストに加えられた新たな標準規格に加えて、これらのリストは、リリース1.0に示された多くの標準規格の最新版を含んでいる。
また、両表とも、エントリーされた標準規格に関する情報は拡張し、適切なSGIP関連のwebページへのリンクが加えられている。

【5章】

これは新たに追加した章である。本章で述べられている主トピックを以下に列記する:
5.1節:「スマートグリッド相互運用性パネル(SGIP)概説」
5.2節では、主要なSGIPワーキンググループの活動内容を紹介している:

-スマートグリッド・アーキテクチャー委員会(Smart Grid Architecture Committee:SGAC)
-スマートグリッド試験・認定委員会(Smart Grid Testing and Certification Committee:SGTCC)
-サイバーセキュリティ・ワーキンググループ(Cybersecurity Working Group:CSWG)

5.3節:SGIP標準規格カタログ(SGIP Catalog of Standards)
5.4節: 9つのドメインエクスパートワーキンググループ(Domain Expert Working Group:DEWG)」
5.5節:優先活動計画(Priority Action Plan:PAP)
5.6節:相互運用性知識ベース(Interoperability Knowledge Base)およびNISTのスマートグリッド共同サイト(Smart Grid Collaboration Site)

【6章】

本章は、リリース1.0の6章で議論されたスマートグリッド・サイバーセキュリティについての、その後の多くの展開を文書化したものである。
本章で述べられている主なトピックを以下に列記する:
サイバーセキュリティ調整タスク・グループ(Cyber Security Coordination Task Group:CSCTG)がSGIPのサイバーセキュリティ・ワーキンググループ(CSWG)となるまでの経緯
表6-1:8つのCSWGサブグループ
6.3.1:「スマートグリッド・サイバー・セキュリティ用ガイドライン(Release of National Institute of Standards and Technology Interagency Report 7628:NISTIR 7628)」
6.3.3:CSWGの3年計画

【7章】

本章も新たに追加した章である。
本章で述べられている主トピックを以下に列記する:
7.1.1:既存のスマートグリッド標準規格テストプログラムのアセスメント;
7.1.2:フレームワーク開発ガイド(概説)
7.2.1:相互運用性プロセス参照マニュアル「Interoperability Process Reference Manual(IPRM)」概要
7.2.2:相互運用性成熟度アセスメントモデル

【8章】

本章は、リリース1.0での7章「今後の作業(Next Steps)」と比較すると、スマートグリッド相互運用性標準規格に関するNISTの発展・進展を反映したものになっている。
8.1.1:リリース1.0で軽く触れていた「電磁気による侵害および妨害(”Electromagnetic Disturbances and Interference)」の問題を、リリース2.0では、より詳細に議論。
8.2.2:新しい問題「フレームワーク標準の信頼性、実装可能性および安全性」(Reliability, Implementability, and Safety of Framework Standards)を議論。

 

以上、今回は、10月17日に公開され、パブリックコメント募集中の『Release 2.0 of the NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards』のエグゼクティブ・サマリをご紹介しました。

終わり