Durdle Door from the east

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前々回(顛末-その4)、米国の電力供給事業者協会(Electric Power Supply Association:EPSA)は、発電事業者の立場から、FERCオーダー745(以降O745)成立以前から、DR資源を電源と同等に扱うことに反対し、O745が成立してからも、FERCに対して再考を促す努力をしていたことをご紹介しました。

それにも関わらずFERCはオーダー745Aとして、FERCはO745の再審請求棄却を公表し、PJMおよびMISOから提出されていたO745対応のDR対価支払ルール変更を条件付きで認可します。これに業を煮やした?ESPAは、戦術を変更して、「そもそもO745の法令を作ったこと自体がFERCの越権行為である」としてワシントンDCの連邦高等裁判所にO745自体の再審請求を行った ―――という経緯を今回ご紹介するはずでしたが、そのあたりのEPSAの資料を読み込む時間がなかなか取れずにいる中、EDF(フランスの電力会社ではありません。米国の環境保護基金:Environmental Defense Fundという団体です)のブログに、O745に関するその後の動きが紹介されていましたので、今回は、予定を変更して、それをご紹介したいと思います。

例によって、全訳ではないことと、個人の思い込みが含まれているかもしれないことをご承知おきください。では始めます。

FERC、系統運用者ほか、最高裁での「DR事件」審理を前に上訴趣意書を提出

環境保護基金(Environmental Defense Fund:EDF)のブログより 2015年7月14日 Michael Panfil

連邦エネルギー規制委員会(FERC)、系統運用者、州規制機関その他は、連邦最高裁での「DR事件」の公判を前にして、上訴趣意書を提出した。

この裁判は、発電資源提供者の連合と、DR資源利用促進を進めてきたFERC、系統運用者、並びにDRアグリゲータ等のDR資源提供者の連合の間で争われているもので、デマンドレスポンス(Demand Response:DR)の存続に関わる、非常に重要な裁判である。

DRは、2013年だけでも、中部大西洋地域の顧客の光熱費を120億ドル近く節電しているし、米国北東部を凍える寒さが襲った2014年の大寒波では、大停電を防ぐことに貢献した。にも関わらず、このクリーンなエネルギー調達の促進を目指したFERCオーダー745の内容が、「DR事件」として今問題となっているのである。 EDFでは去年から、この「DR事件」に関して取り上げてきた。 我々は、廉価なDR資源の利用促進のために戦っており、最高裁判所に戦いの場が移っても、戦い続ける積りである。

■「DR事件」の歴史

FERCオーダー745は、廉価、クリーン、かつ、信頼できる省エネルギー資源であるDR資源が卸売電力市場において発電資源と平等に扱われるようFERCが系統運用者に指示したもので、EDFばかりでなく、消費者保護運動家、環境運動グループ、企業、業界団体等から幅広く支持されているものである。

■ DRとは-どのように作動するか、なぜもてはやされているのか?

DRが幅広く支援されている理由は、それが、従来のように火力発電所で高価な燃料を燃やしてCO2を増加させることなく電力需要逼迫時に対応できる点にある。DRは、増え続けている我が国(米国)の電力需要を満たすため、発電所のような「箱モノ」ではなく、人々および技術に依存したソリューションとなっている。発電コストの中でも、とりわけ高価なピーク負荷電源を代替することで、DRは電力需給バランスを保つためのコスト低減に貢献しているのだ。しかも、よりクリーン(CO2を排出しない)で、1年に数回しか起動しないピーク発電機よりも信頼性が高いとなれば、DRを利用しないという手はない。

■「DR事件」では何が問題とされているのか?

FERCは、我々消費者の支払う電気料金が「正当かつ合理的」となるよう系統運用者や電力会社を管理監督する責任を負う連邦機関である。FERCは、その使命を達成するためにオーダー745を作成した。 オーダー745では、DR資源提供者に対して発電事業者と同等の対価を支払うことで卸売電力市場へのDR参入促進を図った。それは、経済原理に照らし合わせても、地球環境問題からも至極「正当かつ合理的」なものではあったが、その結果、石炭のような燃料を使用する伝統的発電事業者の一部を市場から締め出す結果となってしまった。 これに危機感を抱いた発電事業者等は、そもそもFERCには、オーダー745のような命令を出す資格がないと言い出した。そして、ワシントンDCの高等裁判所の3人の裁判官で審理が行われた結果、驚いたことに、2対1でオーダー745に対して無効判決が下されたのだ。

この高裁判決に対して、FERC、系統運用者、その他DR推進派はこぞって最高裁判所への控訴を行った。 これが、今後最高裁判所で審理される「DR事件」勃発の経緯である。

■ 最高裁での審理を前にしての動き

FERCの言い分を代表して、法務省司法次官は、提出したばかりの上訴趣意書で以下のように述べている: ピーク負荷時の電力調達価格低減を含め、DRプログラムが卸売電力市場にもたらした利点は明白で、連邦エネルギー法( Federal Power Act:FPA)に照らし合わせても、これを市場から締め出す正当な理由が見当たらない。 (上訴趣意書34ページ)

逆に、FERCが卸売電力市場のDRプログラムに関する規制を実施することで、系統の信頼性を維持しつつ、「正当かつ合理的」な市場価格が形成され、ひいては、消費者ならびに米国経済に恩恵をもたらすものである。 (上訴趣意書45ページ)

本件につき、同じくDR推進派のDRアグリゲータであるEnerNOCは、その上訴趣意書で以下のように述べている: DRの参加なしでは、卸売電力市場は効率よく機能しないだろう。すなわち、競争が制限される結果、市場価格が高くなると思われる。 (EnerNOCの上訴趣意書39ページ)

■ 次に起こること

本件に関して、次は、我々EDFのように、直接利害関係のない第三者からの法廷助言書(amicus brief)に注目が集まるだろう。EDFは7月16日、最高裁に法廷助言書を提出した。 最高裁判所は、この秋、本件での口頭弁論を聴聞するものと思われるが、この「DR事件」に関して、以下の法廷助言書が提出されている。

Amicus Briefs in support of FERC

Opening Briefs
 

EDFでは、今後も本件で動きがあれば、随時報告するつもりである。

2015年7月10日 Michael Panfil

いかがでしょうか?『我々EDFのように、直接利害関係のない第三者~』と言いつつ、かなりDRに肩入れしている団体のようですが、これまでのO745に関する顛末をコンパクトにまとめてくれていたので、ご紹介した次第です。

終わり