Killabrega Farm – Isle of Man

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前回はMISOの概要と、MISOエリアの発電事情についてご紹介しました。今回は、MISOが運営する卸電力取引市場の概要についてご紹介しようと思います。 その前に、MISOが管轄エリア内で系統の需給バランスをとる仕組みを見ておきましょう。

MISO管轄エリアでの電力需給バランスをとる仕組み

まず、前回のおさらいになりますが、MISOは、1998年9月、FERCから米国中西部(Midwest)の独立系統運用機関(Independent System Operator:ISO)の認定を受け、その後2001年12月には、米国で最初の地域送電機関(Regional Transmission Organization:RTO)に認定されました。
こうして、MISOは、その管轄エリアの系統全体の需給バランスをとる責任者となった訳ですが、MISOの管轄エリアは、北米電力信頼度協議会(North American Electric Reliability Corporation:NERC)の管理上、3つの領域 (MRO、RFCおよびSERC)にまたがっています。


出典:NERC「NERC Interconnection」

そして、MISO管轄エリア内には、下図のとおり、複数の垂直統合型電力会社や発電事業者、送電事業者が存在します。


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – Transition from a Balancing Authority to a MISO Local Balancing Authority」

MISO管轄エリア内で需給バランスをとる手順は以下の通りです:

  1. 上図中の電力会社や送電事業者が、それぞれの地域の需給バランス管理者(Local Balancing Authority:LBA)として、基本的に需給バランスを取るが、予見されるインバランスをMISOに通知。
  2. MISOは、管轄エリア内に存在する20以上のLBAを束ねて、MISO管轄地域内の需給制御誤差(Area Control Error:ACE)を計算し、周波数偏差および需給インバランスを解消するべく、自動発電制御(Automatic Generation Control:AGC)シグナルを送出。
  3. MISOからのAGCシグナルを受けた管轄エリア内の発電所等により、リアルタイムに需給調整が行われる。

MISOの役割としては、このように、MISO管轄エリアの系統全体の需給バランスをとるだけでなく、以下の役割を果たします:

• 系統の信頼度維持管理
• 送電線混雑管理とオープンアクセス送電料金表に基づいた平等な送電線運用
• 管轄エリア内の送電線拡張計画(MISO Transmission Expansion Plan:MTEP )策定および、管内の適正な発電設備容量の調査(The Regional Generation Outlet Study :RGOS)の実施

そして、もう1つの大きな役割が卸売電力市場の運営です。 蛇足かもしれませんが、本題に入る前に、「電力取引」について整理しておきたいと思います。

 

電力取引についての整理

まず、「電力取引」ですが、「電力」という商品の取引ですから、商品取引の一種ですね。ただし、商品取引と言うと、例えば金先物取引のように、商品を手に入れたいのではなく、商品の売買値差の差金決済で利益を得ることが主目的の感じを受けますが、ISO/RTOが関与する卸電力市場での取引は、「電力」の現物取引が基本です。電力取引所の「商品メニュー」として「先渡取引」というのもありますが、これも、「商品」受け渡しが先になるものの、現物取引となります。もっとも、電力価格も時に高騰することがあるので、電力調達コストのリスクヘッジのための先物取引も存在します。ISO/RTOが運営する市場取引としては、送電権取引がありますし、ニューヨーク・マーカンタイル取引所では、「電力」も先物商品の1つとなっているようです。

次に、電力取引市場を、落札者の決定から受け渡しまでの時間で分けると、(定型)先渡市場、1日前市場(スポット市場とも呼ばれる)、(電力受渡しの4時間前や1時間前に落札者が決まる)時間前市場と、需給バランスをとりながら実時間で電力取引を行うリアルタイム市場に分けることができます。リアルタイム市場では、電力(エネルギー)そのものの取引の他に、系統の信頼性を保つためのアンシラリーサービスの取引が行われ、具体的には、予備力や周波数調整力の取引が行われます。

なお、米国においても電力自由化前は、垂直統合型の電力会社が自社保有の電源を用いて、管轄地域の電力消費者の需要に応じて発電量を制御していたので、そもそも「電力取引」は存在しませんでした。連邦エネルギー規制委員会(FERC)が、1996年4月に制定したオーダー888により、垂直統合型の電力会社に対して送電部門の機能分離と、新規参入した独立系発電事業者(IPP)に送電サービスを差別なく提供することを義務付け、また、系統運用を行う独立系統運用者(ISO)を設立することを奨励したことで、PJMやMISOのような系統運用者が出現し、電力業界における競争原理の促進と、より経済的・効率的に需給バランスをとる方策として、卸電力取引市場が出現したのです。

ところで、電力自由化に関して米国より先輩である英国では、1990年に発送配電の分離が行われ、それまで国営独占企業だった電力会社が3つの発電事業者、12の配電事業者と、送電運営管理を行う系統運用者に分割されました。この電力自由化当初、発電事業者が発電したすべての電力を卸電力取引市場に集め、それを小売事業者が調達して需要家に提供する(全量プール制)という制度設計を行ったのですが、大手発電事業者の市場支配力が大きくて破綻をきたし、2001 年 3 月には相対取引と1日前市場等を組合せた新たな卸電力取引NETA (New Electricity Trading Arrangements)制度に移行しました。米国のISO/RTOも、この英国の失敗を見習ったのかどうかわかりませんが、相対市場と1日前市場等を組み合わせた形になっています。

電力取引に関して、以上の共通認識を持っていただいた上で、MISOの運営する卸電力取引市場についてご紹介しましょう。  

 

MISOの卸電力取引市場の概要

MISOは、2005年4月、1日前(Day Ahead)市場およびリアルタイム(Real Time)市場と、金融的送電権取引市場(Financial Transmission Rights:FTR)の運用を開始しました。

出典: 2014年9、NCTA Fall Seminar「RTO’s, MISO and Changing Business Environment for Coal

また、2009年1月からアンシラリーサービス市場の運用も開始しています。
MISOではアンシラリーサービス市場のことを運用予備力(Operating Reserve)市場と呼び、周波数調整力(Regulating Reserve)と瞬動予備力(Spinning Reserve)、待機予備力(Supplemental Reserve)が含まれます。

出典: 2014年9月、NCTA Fall Seminar「RTO’s, MISO and Changing Business Environment for Coal

そして、1日前市場とリアルタイム市場の両方で、電力(Energy)と運用予備力(Operating Reserve)の調達が行われます。

なお、MISOは容量市場を開設していませんが、ボランタリーに容量確保のためのオークションも実施しているようです。 以上、今回は、MISO管轄エリアでの電力需給バランスをとる仕組みと、MISOで行われている電力取引市場の概要をご紹介しました。 次回は、MISOの運営する1日前市場、リアルタイム市場それぞれの市場構造について見ていきたいと思います。

終わり