St Germans’ Cathedral, Peel Castle, Isle of Man

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前回はMISOが系統の需給バランスをとる仕組みと、MISOが運営する卸電力取引市場のサワリについてご紹介しました。今回は、MISOの1日前市場、リアルタイム市場それぞれの中身を詳しく見ていきたいと思います。
※送電権取引に関しては、勉強不足のため省略します。

MISOの市場構造とLMPの算出

前回、「MISOの卸電力取引市場の概要」の最後で指摘したように、MISOでは1日前市場とリアルタイム市場の両方で、電力(Energy)と運用予備力(Operating Reserve)の同時調達が行われます。 また、売買は、電力を実際に受け渡しできる物理的な地点(CPNode)ごとにマッチングされ、それごとに地点限界価格(Local Marginal Price:LMP)が計算されるわけですが、この仕組みを理解するために、まず、CPNodeを含めて、MSIOの市場構造のモデルを見てみましょう。


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 100 – MISO Overview」

上図中トップは市場参加者(Market Participant:MP)で、発電事業者、電力小売事業者(Load Serving Entity:LSE)やマーケッター(DRアグリゲータを含む)が含まれます。
市場参加者が、電力を売買する上で、系統との間で電力をやり取りする物理的な接点が最下段のENodeで、これを複数束ね、売買入札価格設定の単位となるものがEPNodeです。
同一地域内で、複数の市場参加者がEPNodeごとに指定した売買入札をマッチングした結果、その地点(CPNode)ごとに、市場価格(Market Clearing Price:MCPまたはMarket Energy Price:MEC)が決定します。 この市場価格に、送電混雑コスト(Marginal Cost of Congestion:MCC)と送電ロス(Marginal Loss Cost:MLC)を加えたものが地点限界価格(LMP)です。


出典: 2014年9月、NCTA Fall Seminar、「RTO’s, MISO and Changing Business Environment for Coal」

MISOの1日前市場の仕組みとタイムスケジュール

MISOの1日前市場は、翌日1時間ごとの電力と運用予備力の売買を同時に行う現物先渡取引市場になります。ただし、相対取引により市場外で決定済みの電力・予備力の授受情報込みでマッチングが行われますので、1日前市場での約定結果は、翌日の電力需給計画/予備力調達計画になっています。
需要(買い)入札に対して、電力・周波数調整力・瞬動予備力・待機予備力の4つの売り入札を同時にマッチングし、詳細は調べていませんが、SCUCおよびSCEDアルゴリズムを用いて、系統の安定性と、送電線利用可能状況を考慮した経済的な電力需給計画/予備力調達計画作成が出来上がる-とされています。
ここでSCUC、SCEDのアルゴリズムの目的は以下の通りです:

  • SCUC(Security Constrained Unit Commitment):必要な運用予備力を確保しつつ、必要十分の電源を低コストで調達する
  • SCED(Security Constrained Economic Dispatch):送電線混雑を管理し、必要な運用予備力を確保しつつ、LMPを計算する


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 200 – Day in the Life of a Market Participant」

上図中、1日前(OD-1)の11時までに提出された売買入札データは、時間ごと・売り/買いごと・地点ごとに、入札価格の安い順に入札量を積算して需給カーブを作成、必要な予備力量を勘案して、15時までに調達者/調達量を定め、MEPおよびLMPが計算されます。
16時、MISO管内のLBA(地域ごとの需給管理者)からの情報やMISO自身の当日需要予測情報を元にして、必要に応じて系統の信頼性が担保できるかアセスメントを実施し、翌日の需給計画を確定して、20時に公開されます。

MISOのリアルタイム市場の仕組みとタイムスケジュール

MISOのリアルタイム市場は、1日前市場で決定した需給計画と系統の現状の差分について、当日5分ごとの電力と運用予備力の調達を同時に行う現物スポット取引市場で、1日前市場同様、電力を実際に受け渡しできる物理的な地点(CPNode)ごとにマッチングが行われます。
ただし、1日前市場のように需要(買い)入札に対してマッチングするのではなく、当日の需要予測と供給側の1日前市場取引結果との差分に基づいて、電力・周波数調整力・瞬動予備力・待機予備力の4つ調達を経済的に調達するための市場で、こちらも詳細は調べていませんが、SCEDアルゴリズムとRAC処理の下、系統の安定性と送電線利用可能状況を考慮した調達を行う-とされています。
ここで、SCEDアルゴリズムとRAC処理の目的は、以下の通りです:

  • SCED(Security Constrained Economic Dispatch):送電線混雑を管理し、必要な運用予備力を確保しつつ、LMPを計算する
  • RAC(Reliability Assessment Commitment)処理: 定期予備力も入れて、当日の需給に支障を来たさないだけの供給力が確保されているかを確認する処理


出典:MISOトレーニングマニュアル「Level 200 – Day in the Life of a Market Participant」

当日5分ごとのリアルタイム市場への入札は30分前に締め切られ、5分ごとの実情に応じて、系統信頼度を確保しつつ、調達コストが最適となるよう電力と周波数調整力、予備力が同時調達されます。
SECDアルゴリズムにより次の5分間の電源運転出力を計算し、発電指令を出しますが、その発電指令は5分前に電源に送られます。周波数調整に関しては、4秒ごとに指令が出されます。この4秒ごとの指令の通信にはICCP(Inter-Control Center Communications Protocol)の通信方式が使用されています。 以上、今回は、MISOの1日前市場、リアルタイム市場それぞれの中身を少し詳しくご覧いただきました。 次回は、いよいよMISOでのDRプログラムについてお話します。

終わり