Bridgend Cottages

© Copyright Thomas Nugent and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

 

前回は、仮想発電所(Virtual Power Plant:VPP)の定義について調べました。 

  • VPPというのは、地理的に分散し、個別の電力計で発電量が計測され、場合によっては異なる給電線に接続されている「分散型の電源」の出力を束ねて一つの発電所のように運用する技術概念である。 
  • VPPをシステムとして実装する際、そのソフトウェア基盤となるものが分散型電源管理システム(Distributed Energy Resource Management Systems :DERMS)である。

ここで、VPPに利用される「電源」を、通常使われる「分散型電源(Distributed Generation:DG)」ではなく、「分散型の電源」としているのは以下の理由によります。 

  • 元来、「分散型電源」というのは、需要地に隣接して分散配置される小規模な発電設備全般の総称で、主に化石燃料を利用した設備を指していましたが、 
  • 再生可能エネルギーの台頭で、太陽光発電、太陽熱発電、風力発電のような自然エネルギーを利用した発電設備も「分散型電源」として捉えられるようになり、 
  • Home-to-Grid (H2G)/Building-to-Grid (B2G)/Industrial-to-Grid (I2G)およびVehicle-to-Grid (V2G)等のスマートグリッドのコンセプトが発展していく中、ビル・家庭用蓄電池や燃料電池のような機器も「分散型電源」の仲間入りをしました。 
  • ただし、デマンドレスポンスで生み出されるDR資源は、今でも「分散型電源」の範疇に入っていないのではないかと思います。 
  • しかし、各家庭やビルの負荷を削減することで系統から見て発電したことと同じになるDRも、「分散型の電源」として、VPPで利用できる。 

前回の最後にご覧いただいた「European Utility Week 2015」でのSchneider Electric社のプレゼン資料の図によると、VPPには、従来の「分散型電源」を利用したDG-VPP、DR資源を利用したDR-VPPと、様々な形での電力を貯蔵する装置(Energy Storage)を有効利用して、再生可能エネルギーの出力変動をカバーするMixed Asset-VPPがありますが、Mixed Asset-VPPこそが、VPPの最終形ではないかと思います。

 

さて、前回の復習が終わったところで、本日は、ブログのタイトルにあるエネルギーリソースアグリゲーションについて考えます。

「Distributed Generation」や「Distributed Power Generation」、「Distributed Energy Generation」の訳として「分散型電源」が使われているようですが、上図にある「Distributed Energy Resources」は、どのような定義になっているのでしょうか?

 DERに関する米国エネルギー省の定義

以下は、米国エネルギー省(DOE)が、「DER Distributed Power Program」で用いている国立再生可能エネルギー研究所(The National Renewable Energy Laboratory :NREL)のDER試験設備の紹介資料の冒頭にあるDERの定義です。

Distributed Energy Resources (DER) are modular electric generation or storage located near the point of use. <途中省略> Distributed power systems can either be grid connected or operate independently of the grid. Those connected to the grid are typically interfaced at the distribution system. In contrast to large, central-station power plants, distributed power systems typically range from less than a kilowatt (kW) to tens of megawatts (MW) in size.

DERとは、需要地近くに設置された発電・蓄電モジュールで、DER自体は系統接続されることも、系統とは独立して設置場所独自で使われることもある。系統接続される場合は通常配電系統に接続され、中央集中型大規模の発電設備容量とは違い、1kW以下から数10MWクラスのことが多い。

■ DERに関するWBDGの定義

WBDG(Whole Building Design Guide)というのは、建築にまつわるガイダンス、基準、技術の最新情報を提供する、米国建築科学会(National Institute of Building Sciences)が提供するポータルサイトのようですが、以下のようにDERを定義しています。

Distributed Energy Resources (DER), small-scale power generation sources located close to where electricity is used (e.g., a home or business), provide an alternative to or an enhancement of the traditional electric power grid.

DERとは、需要地(住宅や仕事場)近くに設置された小型発電資源で、系統からの電力の代替または増強の用に供するものである。

 DERに関するEPRIの定義

Distributed energy resources (DER) are smaller power sources that can be aggregated to provide power necessary to meet regular demand.

DERは、小型の電源であるが、それを束ねることで通常の電力需要に応えることができる。

これらの定義だと、DERと「分散型電源」は同義ということになってしまいますが、2014年11月国立京都国際会館で開催された第6回IRED(Integration of Renewable Energy and Distributed Energy Resources)国際会議では、分散型電源に加えて、ヒートポンプや燃料電池、電気自動車(EV)、さらにはデマンドレスポンスも含めて、DERをどう統合するかという観点や災害時にレジリエンス性を高めるマイクログリッドに関するプロジェクトの紹介が行われたようです。

(参考:メガソーラービジネス ニュース

ということで、蓄電池やDR資源を含めたDER(すなわち、「分散型の電源」)の「エネルギーリソース」を束ねて一つの発電所のように運用する(すなわち「アグリゲーション」する)のだとすると、エネルギーリソースアグリゲーションとはVPPの概念そのものではありませんか!

いや、ちょっと待ってください。DER(Distributed Energy Resources)の「Distributed」が抜けています。
では、リソースエネルギーアグリゲーションとは、「Distributed」でない(すなわち、従来の中央集中型大規模電源を組み合わせて需要カーブに供給を合わせる、従来型の需給バランシングのことを指すのでしょうか?

「リソースエネルギーアグリゲーション」のキーワードでグーグル検索すると8010件がヒットしましたが、「”リソースエネルギーアグリゲーション”」と連続して1つのキーワードとしてグーグル検索すると、一挙に48件に絞り込まれました。
そして、それらは

  1. 2016年1月26日、早稲田大学スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)内に、エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスを推進していく合意形成の場として設置された「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス・フォーラム(ERABF)」か、 
  2. 2016年1月29日、経産省産省内に設置された「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会」か、

どちらかの話題に絞られています。

ともに、「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」でひとまとまりになっているので、試しに「”Energy Resource Aggregation Business”」でグーグル検索してみるとヒットしたのは9件で、それらも、上記の1.、2.のいずれかに関連していました。
「”energy resource aggregation” -distributed」というキーワードでグーグル検索した場合も、やはり9件しかヒットしませんでした。

すなわち、「distributed」の欠落した「エネルギー・リソース・アグリゲーション」や「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」は、日本でのみ通用する和製英語ということですね。 では、「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」というのは何を指すのでしょうか?

1.につけたハイパーリンクは、「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス・フォーラム(ERABF)」発足についての早稲田大学のニュースページで、「※1」として、「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」が次のように定義されていました:

地理的に分散して存在する再生可能エネルギー、蓄電池、需要家などのエネルギー・リソースを通信技術により集約し(アグリゲーション)、一つのエネルギー・リソースとして機能させ、電力系統への貢献など新たな価値を創出することで展開するビジネス

これを見る限り、「VPPを実現し、新たな価値を創出することで展開する新たなビジネス」と読み替えてもよさそうです。すなわち、Distributedという言葉は見当たりませんが、意図するところは、「DERを利用したVPPビジネス」ということのようです。

2016年1月29日に開催されたエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会第1回配布資料4「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスについて」を見ると、3ページ目に「エネルギー・リソース・アグリゲーションの範囲」として、次のように記載されています。

以上、「エネルギーリソースグリゲーション」とは、DERを利用したVPPで、DR資源を含めた需要家側のエネルギーリソースを調達することであることが確認できました。

ということで、意味内容からすると、「Distributed Energy Resource Aggregation」であるべきではないかと思います。

ちなみに、「“Distributed Energy Resource Aggregation”」を1つのキーワードとしてグーグル検索すると25件ヒットし、

  1. カリフォルニア州の系統運用管理者であるCAISOの市場に参加できるようになったDERプロバイダーに関するもの
  2. SolarCityがSCE(Southern California Edison)社のサービス地域で、各家庭の太陽光発電設備、蓄電池、エアコン制御によるDR資源を組み合わせ、最適制御することでSCEに対して①Voltage Support、②Distribution Capacity、③Demand Management、④Reactive Power SupportのGrid Servicesを提供している「Smart Energy Homesプログラム」の事例報告
  3. 米国のGWAC(GridWise Architecture Council)も「Distributed energy resource aggregation and integration」に興味を持っていること

など、すでに米国でもVPPビジネスが回り始めているのがわかりました。

 

本日は、これで終わります。

次回は、今回名前の出てきた「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス」や、今年から開始されるVPP構築実証事業も含め、ここ最近のVPPに関する国内の動きを整理してみたいと思います。

終わり