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前回、今年から開始されるVPP構築実証事業も含め、ここ最近のVPPに関する国内の動きを整理しました。

要約(および、一部補足)すると、 

  • 2012 年12 月に設置された日本経済再生本部の下に、2013 年1月、産業競争力会議が設置され、2014年9月、その産業競争力会議の下にできた4つのワーキンググループの1つである、改革2020WGでは、「技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出」を重点政策の1つに取り上げた。 
  • この重点政策について具体的な政策課題を関係省庁が持ち寄り、2020年に実現するためのアクションプログラムが策定されたが、2020年ごろに実現したい絵姿として、これまでの大規模集中型発電システムと、分散型発電システムが調和したエネルギーシステムへと変革するため、エネマネ技術、蓄電技術、水素・燃料電池技術などを活かし、需要家側の分散電源を有効に活用することで強靭なエネルギーシステムを構築する考えが示され、それを推進するためのプロジェクト「需要家側エネルギー資源を統合的に活用する仮想発電所の構築」案がまとまった。 
  • 一方、改革2020WG第6回会合で、2006年に発足し産業界の有志で構成される産業競争⼒懇談会が2015年3月にまとめた報告書「ゼロエミッションの実現を目指すリソースアグリゲータ」が紹介され、リソースアグリゲータのコンセプトとビジネスモデルが紹介された。


※ この報告書では、「仮想発電所」という用語は使われていませんが、「情報通信技術基盤を活用し仮想的に必要な需給調整力を提供するリソースアグリゲータを提案」しており、その「リソースアグリゲータ」を支える技術として、下図のような階層協調制御スキームをベースとする仮想統合制御技術が提案されています。

  • 2015年6月開催された経済財政諮問会議/産業競争力会議で提案された『日本再興戦略』改訂2015(案)で、「分散して存在している再生可能エネルギーや蓄電池等と、高度な需要管理手法であるディマンドリスポンス等を統合的に活用することであたかも一つの発電所(仮想発電所)のように機能させる新たなエネルギーマネジメントシステムを確立する」という政策方針が固まり、2015年8月、資源エネルギー庁が、平成28年度資源・エネルギー関係概算要求の一環で、「バーチャルパワープラント構築実証事業費補助金 39.5億円」を申請、最終的に2016年度の補助金額は29.5億円に落ち着いた。 
  • 2015年11月、以上のような事前検討を受け、安倍総理の「第3回官民対話」で、「アグリゲーターが需要家側のエネルギーリソース(PV、蓄電池、EV、エネファーム、ネガワット等)を最適遠隔制御し、IoTを活用して需要家群を統合することで、あたかも一つの発電所(仮想発電所:Virtual Power Plant)のように機能させ、系統の調整力としても活用する」という考えが示されたものと思われる。
  • 2015年12月、産業競争力会議第30回 実行実現点検会合で、経産省・国交省・環境省連名で作成された、「「プロジェクト2 分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境問題の解決」に関する検討結果の詳細な報告が行われ、今後のアクションとして、バーチャルパワープラントの技術実証を2016年度から5年間の事業として段階的にスケールアップするとともに、通信規格・制度整備の一環で、2016年初頭に産学と連携して会議体を設置し、多岐にわたる制度整備を進めることが確認された。

  • 2016年1月、早稲田大学スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)内に、産学主体の「エネルギー・リソース・アグリゲーション・フォーラム(ERABF)」が設置されるとともに、経産省に「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会」が設置され、同ビジネスの課題と今後の進め方についての検討が開始された。
    また、経産省資源エネルギー庁新産業・社会システム推進室は、「平成28年度予算事業バーチャルパワープラント構築事業費補助金(バーチャルパワープラント構築実証事業)に係る補助事業者(執行団体)の公募を実施し、同3月、一般財団法人エネルギー総合工学研究所が補助事業者に決定。5月には公募が開始される模様。 
  • 2016年2月、中間とりまとめ内容が公開された「エネルギー革新戦略」は、4月に最終版として公開され、2020年のVPP自立化を目指すシナリオが、いよいよ動き出した。

ということで、今後5年間、VPP構築実証事業が行われることになりますが、この、2020年VPP自立化までのシナリオが出来上がった経緯をさかのぼると、「技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出」という改革2020WGの政策課題に行き着くことがわかります。

そこで気になったのが、「5年間の事業を通じて、50MW以上の仮想発電所の制御技術の確立等を目指し」という、このVPP構築実証事業の成果目標です。2020年にVPPの運用事業者が日本国内で他の発電事業者と伍してビジネス展開できる制御技術を確立するという目標はわかりましたが、50MWという中規模発電所クラスの制御技術を目指すというのは、少し目標が低すぎないでしょうか?

みずほ銀行産業調査部が公開している「みずほ産業調査 2015 No.2」によると、欧州におけるVPPとDR事例として、 

  • ドイツのNext Kraftwerke 社は2009 年に設立されたVPP事業者で、「Next Box」と呼ばれる通信機能付コントローラーを計2,400 カ所の分散電源に設置し、各分散電源をオンラインで接続することで、1,000MW の容量を確保している。<途中省略>同社は2013 年に電力スポット市場を通じて再生可能エネルギー由来の電力を24 億kWh 販売した。 
  • 仏 Energy Pool 社は、2008 年にデマンドレスポンス・アグリゲーターとして設立されたベンチャーで<途中省略>同社の特徴は産業用設備のデマンドレスポンス(以下、DR)に特化している点である。約80 の大口需要家を同社のネットワーク・オペレーションセンター(Network Operation Center、以下NOC)と接続することで、1,500MW のDR 容量を確保している。同社の運用は全て自動化されている。先ず、NOC が系統運用者からDR 指令を受信すると、NOC が需要家毎の応答量を解析し、各需要家に分割してDR指令を発信、各需要家は信号を受信後、数分単位で、電力消費量を自動制御する。同社の強みは、産業需要家が創出できるネガワットの量や時間帯の幅をきめ細かく分析し、不測の事態にも柔軟に対応できる多種多様なポートフォリオを組む技術にある。

とあり、すでにGWクラスのVPPビジネスが海外で成立しているにもかかわらず「5年後、50MW以上の仮想発電所制御技術の確立」ができても、とてもその技術をベースとしたVPPシステムを、「技術等を活用した社会的課題の解決・システムソリューション輸出」という改革2020WGの政策課題の後半部分「システムソリューションの輸出」は叶わないのではないかと危惧します。

それと、もう1つ、成果目標には、「仮想発電所の制御技術等の確立を目指し、更なる再生可能エネルギー導入拡大を目指します」とありますので、確立すべきVPP制御技術のポイントは、住宅・ビルの定置型蓄電池や電気自動車の充放電をいかに遠隔制御してVPPとして機能させるかとか、昨年度までのインセンティブ型DR実証での問題点をクリアしていかに高度制御型DR技術を確立するかとかいう同一「分散型電源」からなるVPPの制御技術ではなく、弊ブログの「その1」でPike ResearchのVPPの定義でご紹介した異種「分散型電源」の混合設備を用いたVPP(再生可能エネルギーを含む分散電源とDRを併用することにより、そのシナジー効果によって、資本コストを低減すると同時に、より多くの価値を引き出そうとするもの)の制御技術の確立を期待したいと思います。

先ほどの「みずほ産業調査2015No.2」の中で紹介されているドイツのNext Kraftwerke 社は、すでに商業的に成立するには十分なVPPシステムを保有していますが、同調査報告書によると、

同社が目指す理想の事業モデルは、再生可能エネルギーの出力変動を、再生可能エネルギーで調整することによる、再生可能エネルギーを主体とするVPPである。予測が難しい風力や太陽光等の自然変動電力に対して、バイオ 燃料やコジェネ等を用いて負荷追従を行う。またマーケットの状況に応じて、VPP内で調整した後の余剰電力を卸電力市場で売電し、収益の最大化を図る。

と、正に異種「分散型電源」の混合設備を用いたVPPを標榜しています。ぜひ、今回日本で行われるVPP構築実証でも、蓄電池やDR資源を主体とするのではなく、これらの利用を最適制御することによっていかにVPPとして再生可能エネルギー利用の拡大が図れるかを主目標にし、それを補佐する上で、IoTによるリアルタイムマスセンシング機能をどのように使えばよいかの実証を期待しています。

今回は、時間をさかのぼって、国内におけるこれまでのVPPに関する調査・研究・実証に関して調べた内容をご紹介しようと思っていましたが、前回の要約・補足をしているうちに、これから始まるVPP構築実証事業に対して、いろいろな思いが出てきたので、上記の意見表明をしたところで、いったん終わりにします。

終わり