The Lizard: the post office

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前回、今年度から始まるVPP構築実証事業までの国内の動きを見直し、そこからVPP構築実証事業に何を期待したいかをまとめた段階で終わってしまいました。

今回は、当初の予定通り、国内におけるこれまでのVPPに関する調査・研究・実証に関して調べた内容をご紹介しようと思います。
と言っても、本格的な調査を実施した訳ではありません。基本的にインタネット検索で「仮想発電所」、「バーチャルパワープラント」、「VPP」のような検索キーワードでヒットしたものを時系列に並べてみて、これまでこの分野では、どのような調査・研究・実証が行われてきたか、その概要を把握する目的で実施しただけですので、抜け漏れがたくさんあると思いますが、その点はご容赦ください。
でははじめます。

VPP関連調査

  • エネルギー総合工学研究所は、2006年3月公開したNEDOの「新電力ネットワークシステム実証研究 新電力ネットワーク技術に係る総合調査経過報告 【第三部】電力供給の現状調査経過報告」の中で、米国オレゴン州のボネビル電力局がVPP システムや再生可能エネルギーを活用した新しいオープン指向型の電力供給システムを模索する Energy Web プロジェクトを展開していること等を報告している。 
  • NEDO海外レポート No.1001 2007.6.6は、「欧州におけるエネルギー研究の現状と展望-電力網」と題した特集で、分散型電源を仮想発電所に集約する技術研究を行なうECのFENIX(Flexible Electricity Networks to Integrate the Expected Energy Evolution)プロジェクトを紹介している。 
  • 2011年3月、アーサー・D・リトルは資源エネルギー庁からの受託調査「平成22年度国際エネルギー使用合理化対策事業(スマートシティ海外実証事業調査)」に関する調査報告書を提出。その中で、VPP機能を含む実証事例として、独E-Energy国家プロジェクトの中の2つ、eTelligenceとRegModHarzと、VPPの制御プラットフォーム開発に取り組むin.power GmbHを紹介している。 
  • 2013年3月、パイクリサーチは、「Virtual Power Plants: Demand response, Supply-Side, Mixed Asset, and Wholesale Auction Smart Grid Aggregation and Optimization Networks」と題するVPPの調査報告書を出版。弊ブログ「その1」で言及した4種類のVPPの定義が示されている。 
  • 2014年6月、Navigant Researchから、上記報告書を引き継いだ「Virtual Power Plants: – Demand response, Supply-Side, Mixed Asset VPPs: Global Market Analysis and Forecast」と題するVPPに関する調査報告書が出版されている。 
  • みずほ銀行産業調査部の報告書「みずほ産業調査 2015 No.2」で、欧州におけるVPPとDRに関する調査を実施し、すでに「その4」で言及したように、1GWの容量での実運用を実施しているVPPとして独Next Kraftwerke 社、1.5GWの容量での実運用を実施しているDRアグリゲータとして仏EnergyPool社を紹介している。 
  • 同じく、みずほ銀行産業調査部の報告書「みずほ産業調査 2016 No.1」では、欧州の大手ユーティリティでもVPPへの関心が高くなり、E.ONが、IoT やビッグデータ解析等、IT・ソフトウェア事業者と連携して独自の VPP プログラムを開発するため、2014年以降欧米のスタートアップ企業との提携・資本参加を開始しただけでなく、2014 年 9 月、サンフランシスコに事務所を開設し、引き続きシリコンバレーのIT企業との戦略的提携によりイノベーションを起こし、より高度なエネルギーマネジメントサービスの開発とエネルギーの最適管理を実現するプラットフォームの構築を目指していること、同じく大手電力会社のRWEは、Siemens社のVPPソリューションであるDEMS(Decentralized Energy Management System)システムを採用したことを伝えている。

 VPP関連研究

  • 2010年、現慶應義塾大学理工学部山中教授が、ディズニー携帯のような仮想移動体通信事業者(MVNO)に着想を得てEVNO(Energy Virtual Network Operator)を提唱。 
  • 2015年8月、マウンテンフィールズ株式会社と慶應義塾大学は、慶大理工学部山中教授の総務省委託プロジェクトの研究成果である分散エネルギー制御ゲートウェイ技術を適用した小規模太陽光発電所向けクラウド型常時監視システムを開発。

 VPP関連実証

  • 第21回CEEシンポジウムで関西大学システム理工学部の安田准教授がスペインでのVPP実証事例として、2013年Twentiesプロジェクトが実施した15のウィンドファームを束ねたVPPによる数百MWクラスの有効/無効電力制御事例を紹介している。 
  • 日立製作所:NEDOが実施する「島嶼域スマートグリッド実証事業の中で、ハワイ州、ハワイ大学、ハワイ電力、米国国立研究所などと共同で2016年度末まで実証事業を実施。その中で、EVからの放電機能を利用したV2Gおよび、それを統合したVPP技術の確立を目指した。

 VPPの実ビジネス事例報告

  • 日本総研は、2003年6月、DESS(Desentralized Energy System&Software)コンソーシアムを創設。これは、分散した複数の家庭用燃料電池をネットワーク化し、相互にバックアップする電力供給の可能性を探るもので、例えば大規模マンションの中で、各部屋に分散した燃料電池をつなぎ仮想発電所を構築することが考えられていた。
    実際に実証段階までこぎつけたのかどうかまでは未調査です。もし、ご存知の方がいらっしゃればお知らせください。
  • IBMは、2015年夏発行のProVISION No.86の中で、同社がオランダのアーメラント島で2013年から開始したスマートグリッド実証プロジェクトの中で太陽電池からの電力供給と、島民個々の電力消費量予測をもとに燃料電池の運転を制御するタイプのVPPを紹介 。
  • 日経BPクリーンテック研究所は、ニュースとして、2015年10月、英国のエネルギー貯蔵システム会社のMoixa Technology社がVPP技術を使って住宅向けの蓄電池シェアリングサービス「MASLOW GridShare」を開始したことを伝えている。

海外でのVPPの実運用事例は、もっとあると思いますが、十分調査の時間が取れていないので、今回はここまでです。

また、日本国内においても、大学の研究機関等に関しては、偶然ヒットした慶応義塾大学山中教授のEVNO以外にはリーチできていません。NEDOの成果報告書データベースだけは、一応確認しましたので、個々の報告書内容には目を通せていませんが、VPP関連のキーワードでヒットしたNEDOの委託研究の一覧を作成しました。

終わり