Old houses on Mermaid Street

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前回は、VPPに関するビジネス化が進んでいると思われるドイツの4大電力会社でVPPがどのように取り扱われているかをご紹介しました。いわゆるVPPとして電源代わりに調達する形に加えて、ドイツならではのものとして、改正再エネ法で導入された「ダイレクト・マーケティング制度」がうまく実施できるよう、再エネ事業者の出力をアグリゲートし卸電力取引所に売りに出すEnBWや、需要家のヒートポンプやマイクロCHPをVHP(Virtual Heat & Power)として利用するVattelfallが特徴的でした。

今回は、ドイツでVPPがどのように理解され利用されているかについて、順番が逆になりましたが、ドイツ経済技術省(BMWi)の2015年7月のニュースレターIssue 07/2015の中のVPP特集をご紹介したいと思います。 例によって、全訳ではないことと、超訳が含まれていることにご留意ください。 でははじめます。

仮想発電所とは、需要家サイトの小型電源や、負荷、エネルギー貯蔵装置から構成されるエネルギーを集約・遠隔制御し、あたかも大型発電所からのように系統に電力を提供するもので、エネルギー転換を推進しているドイツにとって非常に重要なものである。

風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギー源は、すでにドイツの電力消費量の3分の1近くを賄っている。その意味でドイツのエネルギー改革は順調に進んでいるが、石炭やガスなど従来のエネルギー源から再エネに移行するにあたっては課題があった。再エネの中には風力や太陽光のように、急激な変動を伴うものがあったからである。再エネ導入比率が高まれば、その急激な変動を吸収する調整電源として従来型の火力発電所が不足してくる。しかし、調整電源を増設するのでは、CO2排出削減のための再エネ導入の本来の目的と矛盾するので、再エネ自体が信頼のおける安定的な電力供給源となる必要がある。VPPは、正にそのための技術である。天候予測などをベースに個々の再エネからの発電量を可能な限り正確に予測し、それらを集約することによって得られる「均し効果」も勘案したうえで、手持ちの調整電源の調整可能幅を勘案して、個々の再エネの発電の出力を遠隔制御し、従来の1か0か(発電させるか停止させるか)の出力抑制ではなく、可能な限り再エネ発電出力を利用し、かつ電力取引単位となる一定時間、安定出力が可能なように調整電源側を制御する。可能ならデマンドレスポンスのような負荷側での調整も行うし、蓄電池のようなエネルギー貯蔵装置を遠隔制御し、再エネが所期の予想以上に発電した場合は充電してその出力を吸収し、所期の予想を下回る場合は放電し再エネ発電出力予想値の不足分を補填する。そのためには、VPPとしての各資源の発電量をリアルタイムで監視する必要がある。

(ドイツにおいて)VPPのもう1つの大きな役割は、VPPが集約した電力を代行販売することである。2014年、再生可能エネルギー法(EEG法)が改訂され、出力500kW以上の再エネ発電事業者は発電した電力を市場で直接販売することを義務づける「ダイレクト・マーケティング制度」ができ、更に、2016年からは出力100kW以上の発電事業者に制度が拡大されたが、個々の再エネ発電事業者が、自前で一定時間一定した発電出力を系統に供給するのは困難である。VPPは、そのような再エネ事業者の発電出力を集約し、調整電源を用いて一定時間一定出力に成型して、卸電力取引所の売買に適合した「商品」として、代行販売するのである。 ドイツでVPPに期待されているもう1つの役割は、系統運用者へのアンシラリーサービス提供で、「Kombikraftwerk 2」プロジェクトでは、将来、100%再エネを利用したVPPによる周波数調整力提供の有効性が検証されている。 最後に、すでに稼働中のVPPとして、Next Kraftwerk GmbH社の「Next Pool」と、Statkraft社がドイツ国内で展開するVPPを上げることができる。この2社のVPPの容量を合わせると10GWとなり、原発10基に相当するものである。その他にもエネルギー貯蔵装置(storage)を集約したVPPや柔軟な負荷(Flexible Loads=DR)を利用したVPPがすでに稼働中であり、ドイツにおける電力受給とエネルギー転換促進に貢献している。

以上、BMWiのニュースレター2015年7月号からVPP特集部分をご紹介しました。
今回のブログシリーズを始めたころは、結構忙しくてあまり系統立てて調査を行なえなかったため、とりあえず目についた情報で有効そうなものから手当たり次第にご紹介してきました。 前回も、ドイツの4大電力会社に目星をつけてVPP情報を調査したのですが、本来、こちらを先にご紹介すべきだったと反省しています。

なお、ドイツの電力事情に関しては、少し古いですが2011年6月のブログ記事「IEAによる各国の地域冷暖房の取り組みの評価-その4」(CHP/DHCに関する国別評価:ドイツ編)で再生可能エネルギー法(EEG:Erneuerbar Energien Gesetz)が施行されるまでの経緯をご紹介していますので、ご興味をお持ちの方は、ご確認ください。

Next Kraftwerk社の「Next Pool」に関しては、すでにいろいろなところで紹介されています。例えば、創立者で現CEOのヨヘン・シュヴィル氏が第9回 日独産業フォーラム 2013で、来日し、講演をされているようです。経済テクノロジー(2014年):欧州で成長する「仮想発電所」 電力自由化時代の調整役に や、2015年のみずほ銀行産業調査部のレポート:第Ⅱ部 欧州グローバルトップ企業の競争戦略 、ERAB検討会第1回資料4:エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスについての中で紹介されていますので、詳しくはそちらをご覧ください。

ビジネスの観点から最新の情報を付け加えさせていただくとすると、同社のホームページ(About)に、「Next Kraftwerkeは大規模VPPのオペレータであるとともに、卸売電力取引所の認定パワートレーダーである」と紹介しています。Facts&Figuresを見ると、2014年実績の数値だと思われますが、3672基の分散型の電源(DR資源提供者も含まれると思います)を遠隔制御する設備容量は2112MW、取引された電力は9TWh。ドイツを中心にオーストリア、ベルギー、フランス、オランダ、ポーランドにも事業展開しており、系統運用者向けに予備力提供(Prequalified Secondary Capacity Reserve: 648 MW、Prequalified Tertiary Capacity Reserve: 785 MW)も行っているようです。

BMWiのニュースレターでは、Next Kraftwerke社とStatkraft社あわせて10GWのVPP容量があると報じられていますので、そうすると、ドイツ国内で最大のVPPは、Next Kraftwerke(2.1GW)ではなく、Statkraft社(7.9GW?)ということになります。
そこで、同社のVPPビジネスについて調べたところ、「Germany’s largest “power plant”」というニュース記事を見つけました。
Statkraft社は、2014年2月時点で、1000台以上の分散型の電源を同社のVPPから遠隔制御し、5GW以上の容量を確保していたようですので、Next Kraftwerke社のVPP容量より大きいのは確かなようです。また、このVPPには940のウィンドファームの4800台の風車と、100弱のPVプラント、12のバイオマス発電所が接続されていたようです。 なお、少し古い情報になりますが、日本産業機械工学会の海外情報-平成23年12月号:欧州再生可能エネルギー(ノルウェー)によると、Statkraft社は、ノルウェーの首都オスロに本社を構える国営電力企業で、売上の90%が再生可能エネルギー関連製品およびサービスで占められているようです。同社は欧州内で再エネ取扱量第1位、264箇所の発電所と地域熱供給施設を持ち、ノルウェーにおける発電の35%を取り扱い、20か国以上で事業展開をしており、従業員数は3200名。ドイツにおいては、天然ガス発電所4施設1,962MWをはじめ、水力発電所10施設262MW、バイオマス熱併給発電所2設備16MW等、総出力2,240MWの設備容量を2011年には保持していたようですので、これらが調整電源としてVPPに接続された5GWの再エネ資源と合わせると、7.2GW。BMWiのニュースレターが発行された2015年時点で7.9GWという数字は見つかりませんでしたが、妥当な感じがします。

以上、今回は、ドイツにおけるVPPの状況をドイツ経済技術省のニュースレターを中心にご紹介しました。

終わり