第四次産業革命の影響の検討対象と運用・生産面での影響

Samuel Greg’s House, (Quarry Bank House)

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前回は第四次産業革命が日本のエネルギービジネス(とりわけ電力ビジネス)にどのような影響をもたらすのか検討する上にあたっての前提条件を整理しました。 今回は、いよいよ第四次産業革命がエネルギービジネスにどのような影響をもたらすかを検討するわけですが、エネルギービジネスといっても色々あります。そこで、検討対象ドメインを定めるところから始めたいと思います。 では、はじめます。

5.第四次産業革命の影響を検討する対象

エネルギービジネスのどこに焦点を当てて第四次産業革命の影響を検討するのか?

その3」で、第四次産業革命に関連した日本の取り組みを調査し、主な動きの1つとして、Society5.0について概要を述べたが、その内容を再掲すると:
総合科学技術・イノベーション会議が策定した第5期科学技術基本計画画(平成28年度〜32年度)では、サイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が⾼度に融合した「超スマート社会」の実現に向けた⼀連の取組を「Society 5.0」とし、同計画に先んじて策定された「科学技術イノベーション総合戦略2015」で規定された 11のシステムの内、「エネルギーバリューチェーンの最適化」、「高度道路交通システム」、「新たなものづくりシステム」の 3 システムを「超スマート社会」の実現に向けた中心的なシステムと位置付けている。

「エネルギーバリューチェーンの最適化」に向けたSystem Of Systemsの検討について』というエネルギー戦略協議会の平成29年3月33日付けの資料では、
・ICTや蓄エネルギー技術を活用して生産・流通・消費をネットワーク化
・エネルギー需給の予測・把握、総合的な管理・制御
・分散型電源の導入による地域活性化、
・リアルタイム取引
・デマンドレスポンスによる効果的な需要制御
のようなキーワードが見受けられたので、エネルギーバリューチェーンを構成する運用、生産、流通、消費のドメインごとに、上記のキーワードをに関連して、どのような第四次産業革命の影響が考えられるかを検討することとした。

出典:内閣府 エネルギー戦略協議会

また、「その2」で指摘したように、シュワブ氏の著書にある第四次産業革命の特徴として、それが単に技術の進歩がもたらす産業構造の変化にとどまらず、社会構造、経済構造、文化構造、ひいては我々の暮らしにもインパクトをもたらすものであることが論じられていた。そこで、従来のエネルギービジネスに対して、社会構造、経済構造、文化構造の面からどのような影響をもたらすかも検討することとした。

6.第四次産業革命のエネルギービジネスへの影響

 エネルギーバリューチェーンの運用面への第四次産業革命の影響-その1

予測技術の進歩

予測技術は、第四次産業革命の恩恵を受けている技術分野の1つで、古くは過去データの統計をベースにしたものから、AIベースになり、ニューラルネットを経て、現在はDNN(ディープニューラルネットワーク)に注目が集まっている。

出典:http://xml.kishou.go.jp/seminar/pdf20140319/09.pdf

 

出典:https://www.chuden.co.jp/resource/corporate/news_123_N12325.pdf

その間にコンピューティングパワーが飛躍的に増大し、ビッグデータのデータ処理も、これまでのオフラインで収集したデータを対象とするバッチ処理からインタラクティブクエリ処理を経て、無数のIoTデバイスから時々刻々送られてくるストリームデータや、インターネット上のSNSデータにディープラーニングを適用する予測技術が今後の主流となると思われる。

出典:http://markezine.jp/static/images/article/24185/24185_02.png

需要予測業務への影響

電力会社は、従来の予測モデルで十分精度の高い需要予測ができていたと思うが、今後、消費者宅への太陽光発電や蓄電池の普及、DR/VPPアグリゲータの参入で、需要予測は複雑になり、従来の予測モデルの変更が余儀なくされると思われる。 一方で第四次産業革命を構成するAI/ビッグデータ/IoT技術により、より多くのセンサーから大量のデータを収集して、蓄積したビッグデータを利用してAIツールが自己学習を行いながらリアルタイムに需要予測を行うことで、需要予測業務は、需給運用業務と一体化することが考えられる。

 エネルギーバリューチェーンの運用面への第四次産業革命の影響-その2

発電プラントの保全業務への影響

発電プラントの運用を問題なく遂行する上で、運用状態の診断・監視、すなわち、予防保全は重要である。異音判断など経験と勘に頼っていたプラントの点検作業が、プラントの状態を監視する各種センサーの運転でデータついて、それぞれ閾値を(運用者が経験と勘で?)設定し、自動的に異常を検知するようにはなってきているが、安価でかつ性能が良くなったIoTデバイスをセンサーとして発電プラント内に数百のオーダーで設置し、それらのIoTデバイスからのリアルタイムデータをとって、正常運転時のパターンと、異常発生に至る運転パターンに分けて、AIを利用した運転監視システムに機械学習させた後、24時間体制で監視しAIで不具合を早期検出する「予兆診断」が可能となってきた。

出典:中部電力プレスリリース

電力各社もすでに第四陣産業革命を推進する技術構成要素であるAI/ビッグデータ/IoTを利用した「予兆診断」に注目しており、中部電力は、2016年6月のプレスリリース記事「火力発電における運転支援サービス事業」で、センサーデータとAIを組み合わせ、いつもと違う挙動を「サイレント障害」として検知する2017年完成予定のシステムを紹介している。

 エネルギーバリューチェーンの生産面への第四次産業革命の影響―その1

石炭火力発電所のCO2排出削減問題

CO2削減に向けて石炭火力で少量の木質バイオマス混焼は行われていたが、電力業界が定めた2030年度0.37kg CO2/kWhのCO2 排出係数目標を達成するためには、様々な再生可能エネルギー導入促進とともに、混焼率を高める必要がある。しかし、石炭火力の運用経験は豊富にあったとしても、混焼率を高めてCO2排出削減と発電コスト最小を同時に満足させるような最適運転は容易ではない。

石炭火力発電所の混焼運転への影響

そこで、発電所のシステムをサイバー上で「デジタル・ツイン」として構築し、従来の石炭・バイオマス混焼時に採取した運用データと、混焼率をあげて実験的に採取した運転データを用いて、混焼率やバイオマスの種類など運転条件を変更した際の影響をサイバー上で検証できれば、短期間に最適運転に持ち込める可能性がある。

出典: http://biz-it-base.com/blog/wp-content/uploads/2017/01/827aa4f50ab623ab504dc6a6012be398.png

電力各社もすでにデジタル・ツインの有用性を認識している。下図は、関西電力が2017年9月プレスリリースした「AIを活用した次世代火力運用サービスの協働開発について」の記事の別紙に示されたもので、正にデジタル・ツインを構築して、ボイラー燃焼調整等の最適運用に利用する計画を立てている。
出典:関西電力プレスリリース

 エネルギーバリューチェーンの生産面への第四次産業革命の影響―その2

将来の大規模火力発電所への影響

太陽光発電や風力発電の再生可能エネルギーは、出力変動の大きな取り扱いにくい電源とされてきたが、第四次産業革命の技術革新がもたらす予測技術の進歩で、再生可能エネルギーに関しても数分後の発電量予測が正確にできるようになると、スポット市場ばかりか、リアルタイム市場にも単価の安い再生可能エネルギーの入札が増加し、結果的に調整電源/ピーク負荷対応電源として火力発電所の役割が変化してくる可能性がある。

※ 例えば、米国MISO管内では、2013年3月1日以降、基本的にすべての風力発電設備は、DIR(Dispatchable Intermittent Resource)として登録することになっている。
DIRとは、通常の電源同様、MISOの1日前市場およびリアルタイム市場の入札に参加できる電源で、入札にあたっては、風力発電設備の設備容量に基づく値ではなく、風力発電予測値を指定する。(一日前市場では翌日1時間毎の風力発電予測値が最大出力として取り扱われ、リアルタイム市場では、5分毎の短期発電予測値が5分毎の最大出力として取り扱われる)
※ MISOのDIRに関する詳細は、ブログシリーズ「MISOのDRRとDIR-その7」、「その8」参照

四六時中一定容量の確保が難しい再生可能エネルギーは、容量確保の観点からは当面火力発電に置き換わることはできないが、デマンドレスポンスのような需要側の技術革新を進展してくるので、調整電源やピーク負荷対応電源としても将来的に価値が低下することが想定されるので、火力発電事業者は、電源ポートフォリオを組み替えていく必要がある。

※ すでに、ドイツの発電事業者の中には火力発電部門を子会社化し、再生可能エネルギーにシフトしているところもある
※ ただし、再エネが今後どれほど普及するかは、経済面だけでなく、国としてどれほど再エネを重要視するかによるので、日本でどうなっていくのか、今後も注視する必要がある

 

出典:http://www.smbc.co.jp/hojin/report/investigationlecture/resources/pdf/3_00_CRSDReport007.pdf

長くなってきたので、今回はひとまずエネルギーバリューチェーンの生産面への第四次産業革命の影響の検討までとし、次回は、エネルギーバリューチェーンの流通面への第四次産業革命の影響の検討から開始します。

終わり