Unmapped road, Glenbeich

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今年初めての投稿です。少々遅いご挨拶になってしまいますが、本年も当ブログをどうぞよろしくお願いします。

最近ブログの更新が滞りがちですが、昨年(2017年)を振り返ると、第四次産業革命とエネルギービジネスの関連で7回、ブロックチェーン関連で3回、その他、電力自由化、スマートメータリング、デジタルグリッド、トランザクティブ・エネルギー、分散電源と、気になっている話題をパラパラ取り上げました。

その前2年間(2015年、2016年)を見返してみると、今日本でも注目されているVPPとリソースアグリゲーションの他に、MISOのDIR(Dispatchable Intermittent Resources)とFERC745の顛末を中心にご紹介していたことがわかります。
FERC745事件(DR資源を通常の電源と同様に扱うことを要請したFERCオーダー745に対して高裁が無効判決を下した)は、DRビジネスの今後の方向性に大いに影響を与えるものだったので無視できなかったのと、日本では再生可能エネルギー大量導入に伴い系統に影響を与えないよう出力制御という方向に流れていますが、同じ出力制御でも、リアルタイム市場の仕組みと風力発電量予測を連動させて最大限風力発電を有効利用するための仕組み/制度であるDIRは、日本でももっと前向きに検討していただいてよいのではないかと考えてご紹介しました。

更にもう1年前(2014年)の前半、PJMがDR3.0と位置付けているプライスレスポンシブデマンド(PRD)をご紹介したのですが、PJM自体がFERC745事件に巻き込まれてしまってPRDどころではなくなってしまったのか、その後の進展が見られず、本ブログでもご紹介する機会がありませんでした。

ところが、昨年後半からPRDに脚光が当たりだしたようですので、本日は、Utility Dive2017年12月11日付けの記事「The new demand response and the future of the power sector」から、その話題をお届けします。 例によって、全訳ではないのと、個人的な思い入れの入った超訳になってしまっているかもしれないことをご承知おきください。でははじめます。

新型デマンドレスポンスと電力業界の未来

2017年12月11日 Herman K. Trabish

デマンドレスポンス(DR)は、近年、ピーク負荷削減のための仕組み以上のものとなっている。

DRは、かつて、電力会社や送配電事業者にとって、通知した大口需要家や一般家庭が負荷を軽減することでピーク負荷削減に寄与する、不確実で補助的な手段に過ぎなかった。しかし、今や、電力会社が確保しているDR資源は13.6GW以上あり、送配電事業者も同程度のDR資源を確保している。また、電力会社は、2016年、登録されていたDR容量の78%(ほぼ10.7GW)を確実に利用できたという。

以下では、DRの現状と、その行く末についてレポートする。

デマンドレスポンスの現状

DRは、その役割が拡大してきており、そのアイデンティティーも変化してきた。

DRは、かつてのピーク負荷削減から、負荷を減少/増加/シフトさせるための道具に変化した。
そのように負荷を制御することにより、電力会社や送配電事業者は、電力調達コスト、送配電や発電能力の不足、異常電圧/周波数変動に対応できるようになった。

DR資源の利用も拡大しており、かつては未来志向の電力会社のみがDR資源として利用してきた空調機器や給湯器による負荷削減プログラムを、今では電力会社の40%以上(空調機器)/16%以上(給湯器)が実施している。
DR実施の仕組みも改善されてきており、双方向通信の利用、スマートサーモスタット・プログラムの推進、SNSを利用したBehavioral DR program(行動型DRプログラム)などが実施されている。

また、近年、従来のオンサイト発電の他に、定置型蓄電池のようなエネルギー貯蔵装置が増えてきた。電気自動車(EV)への充放電も含めたものを分散型エネルギー資源(DER)と捉え、それらのDER資源を集約したものを仮想発電所(VPP)として運用するアグリゲータが出現したことで、「DER-as-DR:分散電源を集約したもの(=VPP)のDR資源として利用」が新たに道具立てに加わったことにより、送配電事業者による利用がますます増えようとしている。
これまでも送配電事業者はDR資源を容量市場、緊急時対応やアンシラリーサービスに利用してきたが、系統運用者であるMISO、PJM、およびNYISOは、先行評価していたCAISOとERCOTとともに、「DER-as-DR」の評価を開始している。 他の電力会社でも、系統の操作性/信頼性/弾力性を維持管理するための新たな道具立てとして「DER-as-DR」に注目している。

 Credit: From the SEPA-Navigant survey of demand response

新型デマンドレスポンス:PRD

プライスレスポンシブデマンド(Price responsive demand :PRD)は次世代DRと目されている。

DR発祥のころから、価格反応型DRの一種としてRTP(Real Time Pricing)というのが存在したが、当時のRTPは本当の意味での「時価」ではなく、前日のある時点で、翌日24時間分の各時間帯のDR価格が通知され、その価格情報に基づいて消費者が各時間帯の負荷削減を実施するか/しないかを決める形をとっていた。

これに対して、PRDは、時間帯ごとに、当日直前にDR価格が価格シグナルとして通知され、その情報に応じて消費者が当該時間に負荷を削減するか否かを決める、文字通りのRTP型DRである。

今年のPJMの容量市場オークションでは、500MW強のPRD資源が落札されたが、実は今年初めて、実質的に有効な量のPRD資源調達が行われた。 その理由として、価格シグナルに対して自動応答できるスマートホーム・スマートビルが増えたことがあげられる。
PRD/DR資源調達者にとって、PRD資源は、従来のDR資源調達より信頼のおけるものである。 2016年、空調設備の負荷削減を行なう伝統的な一方向通信のDRプログラムに登録された「DR設備容量」は3000MWであったのに対して、実際に調達できたのは1823MWであった。 一方、PRDで利用されるスマートサーモスタット・プログラムでは、2016年、2,384 MWの登録容量に対して、2,289 MWの容量削減が報告されている。

これは、双方向通信のスマートサーモスタットの高信頼性、顧客参加を促す料金変化、そして、スマートサーモスタット設置時に、価格シグナルに対してどのように応答するかを一度設定してしまえば、後は価格シグナルを注視していなくても自動的にスマートサーモスタットが応答してくれるオプション(’set it and forget it’ options)が功を奏していると考えられる。 更に、そのバックにある、スマートメーター/スマートサーモスタットと双方向通信で繋がる先進計測インフラ(Advanced Metering Infrastructure:AMI)の存在を無視することはできない。

DRと電力業界の未来

今後、増加が見込まれる電気自動車(EV)は、系統上で最大のフレキシブルな負荷の1つとなり、2040年にはEV充電のための電力消費量が400 TWh/年に達すると予測されており、一部の電力会社は、EVを購入し、EVへの充放電を上げ/下げDRとして系統運用に協力するEVオーナーにインセンティブを与える課金プログラム(managed charging programs)を提供し始めている。

その中で、DR管理システム(Demand Response Management System:DRMS)を提供するベンダーが、更なるDR成長のカギとなるだろう。 また、卸売市場でのDR資源調達をより活性化させるためには、「堅実な市場機会」と「合理的な市場参加ルール」、「清算手続きの明確化」が重要である。

これまで、DRに対しては、24時間365日資源提供できない/長時間または頻繁に資源提供できないヤワな電源であるという見方がされてきた。しかし、今後分散型電源もDR資源に加わることで、そのような考え方は払拭されるだろう。

以上、今回は、Utility Diveの記事から、久しぶりにPRDの話題を取り上げました。

ブログタイトルは「新型デマンドレスポンス ~」としましたが、実は当ブログでは数年前から注目してきた「古くて新しい」PRDのお話でした。

 

終わり