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 前回は、PJMが2017年6月末公開したペーパー「Demand Response Strategy」のDR Service Modelsの部分を取り上げ、PJMの考える、卸売市場と系統運用者の立場から見たDRサービスモデルをご紹介しました。 今回は、同ペーパーから、正にPJMのMarkets and Operationsをご紹介します。

例によって、全訳ではないことと、著者の思い入れが入った超訳であることをお含みおきください。

でははじめます。

PJMの市場と系統運用

PJMとして今後DRをどのように変更していくかを検討するために、ここでは、まず、DRが現在PJMの卸売市場にどのように関与しているかをレビューし、PJMが提案しようとしているDRの将来の絵姿を、容量市場、エネルギー市場、アンシラリー・サービス市場に分けて説明する。

容量市場

消費者に電力を供給するPJMの各メンバは、今日・明日だけでなく、将来にわたって消費者の電力需要を満たす十分な電力供給資源を確保しなければならない。PJMの容量市場は、そのような将来にわたる電力資源確保を目的とするものである。PJMの容量市場は、RPM(信頼性プライシングモデル)と呼ぶ、オークションベースの先物市場の考え方に基づき、今後3年間に予測される電力需要を満たすのに必要な電力供給源を調達することによって、長期的な系統信頼性を担保しようとするものである。

【容量市場の現状】

この10年間、時間の経過とともにPJMの容量市場へのDRの参加は大幅に増加してきたが、その間、PJMはDRを、より運用しやすく、信頼できるツールにすることに重点を置いてルールを定めてきた。
そして、その1つが、2014年1月の大寒波の経験を踏まえて制定したCP(Capacity Performance)要件である。それまでは、負荷削減のやりやすい夏場限りのDR資源提供を認めてきたが、CP要件は、容量市場に提供されるべき「資源」の可用性/パフォーマンスの向上を目指し、公平性の観点から、容量市場に提供される「資源」は、DRを含めて、1年中を通して何度でも調達可能なことを義務付けたものである。この新たなルールによって、PJMの容量市場に参加できるDR資源は激減する可能性がある。 下図は、実運用年(Delivery Year)ごとの、RPMオークションと相対契約(FRR)を合わせたPJM管内の調達容量(MW)と、その中でDR資源が占める割合を示したもので、2009/2010実運用年以降、DRは調達された総容量の4〜6%を占めている。DRは、CSPベースのDR参加モデルであるRPMの実装とPJMの系統運用エリア拡大に伴い急速に成長してきたが、それ以降、容量市場運用ルールに多くの変更が加えられ、成長が鈍っている。その原因には、DR資源の測定と検証の要件強化、系統信頼性向上のため中断可能な負荷(Interuptible Load)のDRプログラムの廃止、運用回数と運用時間を限定した特別枠のDR(Limited DR)の落札上限の設定、系統運用における柔軟性を増加させるため価格対応需要(PRD)の導入、および、上記のCP要件が含まれる。
図.PJMにおける、実運用年ごとのDR資源量と総調達容量に占めるDR資源の割合  拡大表示

CSPは、DR資源で提供できる容量についてコミットするため、オークションに先立ってPJMに、既存資源(Existing Resource)と計画資源(Planned Resource)から構成される「DRプラン」を提出する。既存資源は、CSP経由でDR資源を提供する個々のエンドユーザが提供予定のDR資源としてPJMに登録済みの物である。計画資源は、PJMには未登録のDR資源で、計画資源をDRプランに含める場合、CSPは、オークションに参加するにあたってPJMにクレジットを掲示する必要がある。
PJMはDRプランをレビューし、複数のCSPが同じエンドユーザを対象としているゾーンを特定して、同じDR資源をダブルカウントするなど、問題がないか確認する。異なるCSPが同じエンドユーザをターゲットにしているかどうかPJMが識別できるよう、CSPはエンドユーザのサイト固有の情報を提供しておかなければならない。
価格対応需要(PRD)に関しても、DR資源同様のプロセスがあり、PRDプロバイダ(=CSP)は、PRD導入で改定されたRPMオークションに参加するためには、「PRDプラン」を提出する必要がある。
※PRDおよびPRDプランの概要に関しては、「プライスレスポンシブデマンド(PRD)-その1」参照
※PJMがPRD導入に至った経緯については、「プライスレスポンシブデマンド(PRD)-その2」参照

CSP(あるいはPRDプロバイダ)が提出した「DRプラン」および「PRDプラン」がPJMによって承認された場合のみ、CSP(あるいはPRDプロバイダ)はRPMオークションに「DRプラン」/「PRDプラン」に基づいて価格付きでの入札を行なうことができる。
入札されたDR/PRD資源は、オークションのクリアリング・メカニズムを通じて、他のすべての容量資源と等しく取り扱われるが、そのプロセスにおいて、DRは電源同様の供給サイドの資源、PRDは需要曲線の変化とみなされる。
オークションにおいて採用されたDR/PRDは、他の電源資源と同様、実運用年に、指定した容量をいつでも提供しなければならない。

PRDとは、一言で言うと、電力価格が特定の閾値に達した時、その価格に応じて需要が下がる仕組みである。「需要予測」を元に、供給サイドで必要なすべての容量を確保しておかなくとも、系統運用当日、リアルタイム市場での電力価格が高騰すれば、(PRDプロバイダ経由で自動的にエンドユーザに自動DR指令が出て)負荷が遮断/軽減され、「需要予測」での想定値を下回るという考えに基づいている。

なお、PJMとしてはPRDの仕組みを実運用年:2015/2016年開始に向けて2012年に導入したが、2017年に実施された2020/21年向け初期容量オークション(Base Residual Auction:BRA)で初めて実際にPRDの入札があった。これは、以下のような理由によるものと思われる:
(1)PRDの仕組みを実現する上で、エンドユーザ側にスマートメーターやスマートサーモスタットによる自動応答の仕組みができるのを待たねばならなかった
(2)PRDの実施で使用電力量が減ることによって発生するLSEの売上げ減の補償問題
(3)PRDリストでコミットしたほど需要が減らない場合の対応
(4)節点ベースでのPRD資源量の特定と、いつプライスシグナルを生成するか
(5)ノードごとのLMP価格と、PRDをトリガーするプライスシグナルの連動
(6)エネルギー市場からの支払いの欠如
(7)エンドユーザが規制緩和された小売電力市場でLSEを切り替える可能性があるため、LSEとエンドユーザ間の契約関係を管理する複雑さ

【容量市場でコミットしたDR資源へのDR発動】

実運用年に入ると、PJMは系統運用上必要が生じた際、経済的DRとして容量市場で採用されたDR資源を、(CSPからの指令でどの程度確実に負荷削減できるかの)可用性レベルを勘案して、電源資源と同様、SCED(Security Constrained Economic Dispatch)アルゴリズムに従って選択し、選択した経済的DR資源に対してDR指令を送る。
現状、負荷管理(Load Management=緊急時DR)として登録されたDR資源のおよそ20%が経済的DRとして登録されているが、その大部分(負荷管理として登録された約11,500MWDR資源のうち約10,500MW)は、$1,000/MWh以上のオファー価格になっている。

図.2015/2016実運用年向け負荷管理資源のMWh当たりのオファー価格

PJMは、系統運用において予備力不足が予想される場合、負荷管理として登録された資源の調達を試みる。一般的に、これは、経済的で利用可能な発電機に対してはすでに発動がかかり、それでも、そのままでは、系統の負荷に対する余裕がなくなってきていることを意味する。
ところで、PJMは、系統管理上、負荷管理の資源調達に関してかなりの柔軟性を備えている。後述するサブゾーンごとの資源調達の柔軟性を除いても、PJM管内全体の容量不足に対して、78種類のオプション(2種のリソースタイプ×13ゾーン×3種のリードタイム)がある。
負荷管理のDR資源調達に使用される主なパラメータは次のとおりである:

1. リソースタイプ

  • 緊急事態前リソース:緊急リソース以外のすべてのDR資源
  • 緊急リソース:北米電力信頼性協議会(North American Electric Reliability Corporation:NERC)が規定したエネルギー緊急警報の宣言を必要とするような事態がPJM管内で生じた場合にのみ動作することが許可されるリソースで、発電機を使用するリソースに限定されている

2. 地理的な位置

  • 送電ゾーン:通常、DRはゾーン別に発動される
  • サブゾーン:PJMでは、独自に定義したZIPコードのセットに対応する地域ごとにDRを発動することができる。なお、サブゾーンは固定ではなくPJMが入れ替えることがある。

3. リードタイム

  • 30分(2015/16実運用年のDR資源の63%、7,293MW):30分以内に応答できない物理的な制限がない限り、すべての負荷管理リソースは、このカテゴリに分類される。
  • 60分(2015/16実運用年のDR資源の5%、583MW):負荷管理リソースのうち、物理的に30分~60分の応答時間が必要な場合、このカテゴリに分類される。
  • 120分(2015/16実運用年のDR資源の32%、3,759MW):負荷管理リソースのうち、物理的に60分以内の応答が不能と認定されている場合、このカテゴリに分類される。

4. ディスパッチの頻度

【DR発動量の決定】

PJMは、どの程度の負荷管理リソースに対してDR発動をかければよいか決定するにあたって、個々のCSPがどの程度負荷削減が可能か確認する。なぜなら、個々のエンドユーザについて、ある工場は休日で操業していないだとか、停電で登録していたエンドユーザの負荷削減が期待できないなどの情報をCSPは把握しており、どの程度負荷削減できるかわかるからである。(逆に言うと、CSPは頻繁にエンドユーザの状況を把握しておく必要があり、その結果をPJMにレポートする必要がある)
この情報を元に、また、(リソースによっては、緊急時対応DRと経済的DRの両方に使える資源として登録されているものがあるので)すでに発動した経済的DRの状況も勘案して、PJMは負荷管理リソースに対するDR発動量を決定する。
下表は、CSPからリアルタイムで報告されるゾーン/リードタイム別の利用可能なDR資源の例である。

表.PJMリアルタイムDR発動状況レポート 表示拡大

このDR発動状況は、ZIPコードを利用し動的にサブゾーンごとの状況に変換し、地理的にサブゾーンごとのDR発動状況として確認することもできる。

【DRの測定と検証要件の強化】

負荷管理リソースの成績は、エンドユーザがどの程度着実にDR資源を提供できるかで決定される。
CP要件によって、夏季以外でもDR資源提供が必要となったが、例えば空調設備の制御でDR削減量を決定していたエンドユーザなどに対して、夏季以外の負荷削減可能量を正しく設定することが求められ、その削減可能量が1MWに満たないとCP要件を満たすDR資源として認められなくなった。
その結果、これまで各州で実施されている一般住宅向のエアコンの直接負荷制御DRプログラムはCP要件を満たすDR資源ではなくなってしまった。

本日は以上です。

次回は、「Demand Response Strategy」の容量市場における将来のDRの形「Future State of DR in the Capacity Market 」以降をご紹介しようと思います。

終わり