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前回は、特にカリフォルニア州に限ったDRの方向性の話ではありませんでしたが、CCAという「生協」のような米国の電力小売事業者が、今後DRやVPPビジネスに大きく関わってくるかもしれないというお話でした。

今回は、今はやりの?電力のP2P取引に関する7月23日付けの電子版日経新聞の記事、「だれでも電気売買できる時代来る みんな電力取締役」を読んでの感想です。
日本語の記事ですし、日経IDさえあれば(あるいは日経新聞で)皆さんご覧になれるので、このブログで内容をご紹介するまでもないのですが、一点疑問に感じたことがあり、記事の内容を参照しながら、その疑問点について触れたいと思います。
以下、記事の内容(およびみんな電力のホームページ上の関連説明)を参照している部分は文字色=青、疑問に思った内容/意見を文字色=緑、補足説明と単なる感想部分は文字色=黒にしています。

疑問点:本当にブロックチェーンを活用した新しい電力取引プラットフォーム?

  • これまで需要家は電力小売事業者を通じて従量課金でしか電気を買えなかった。言い換えれば小売事業者のメニューのなかで需要家は電気を選択するしかなかった。開発中のプラットフォームでは30分ごとの電力を個々の発電事業者が個々の需要家に直接売ることができる。需要家からみれば、だれがどこでつくった電力なのかがわかる『顔の見える電力』になる
  • 「個々の発電所で30分ごとの電力に対応する『トークン』を発行する。1キロワット時あたり『1電気トークン』で何円と示す。需要家は必要な電力分に対応するトークンを入手する。トークンとはブロックチェーンで定義された仮想通貨のようなものだ。私たちが提供するプラットフォーム上で取引が成立すると、取引量に対応するトークンが供給者から需要家のウォレット(仮想通貨を扱う口座)に移転され、受け取ったトークン分の代金が課金される。ブロックチェーンを使うので透明性が高く、検証可能な取引ができる。取引あたりの手数料は低く抑えられるとみている


出典:電子版日経新聞「だれでも電気売買できる時代来る みんな電力取締役」

これまでにも、「ブロックチェーン技術によるP2P電力取引」のニュースはたくさん見聞きしていたので、第一印象は、「また、新電力で同じような試みが始まるのか」くらいでした。
が、最近、慶応大学SFCの「ブロックチェーン(寄付講座)全14回」のオンライン講座を聴き終え、講師の斉藤賢爾先生のブロックチェーンの本質は何かというお考えが、曲がりなりにも理解できた(かな?)結果、これって本当にブロックチェーンを活用したものといえるのか?ブロックチェーンの技術を流用しているだけで、活用というよりはブロックチェーンの間違った使い方ではないのか?と、この記事に非常に違和感を覚えました。

※余談になりますが、ビットコイン等、「仮想通貨」という名前の新たな投資/投機への興味ではなく、ブロックチェーン技術自体に興味をお持ちの方には、是非上記のオンライン講座を聴講されるようお勧めします(しかも無料です!)

そこで、記事から離れて、みんな電力のホームページのプレスリリース「ブロックチェーンを活用した P2P 電力取引プラットフォームの開発について」を見てみました。 それによると:

このたび、発電量の30分値をトークン化して需要家に配分する基本概念設計を終え、個人間で電力取引(P2P取引)を模擬したシミュレーション試験を開始いたします

ということで、新聞記事では開発中のプラットフォームでは30分ごとの電力を個々の発電事業者が個々の需要家に直接売ることができるとなっていましたが、少なくとも、現段階では実際にP2P取引を行なう訳ではなく、P2P取引の模擬だということでした。
上図の中の説明に電源の発電量をトークン化して30分ごとの需要家の使用量に振り分けるという、内部処理の説明がありますが、誰がこの処理をやるのかというと、発電機側と需要家側のメーター計測値を収集するみんな電力のサーバ上のアプリケーションプログラムだと思われます。
つまり、サーバ上のプログラムが、みんな電力が日夜行っている、同社が発電バランシンググループ(以下、発電BG)として調達した電源側の発電量と需要家側の電力使用量の需給バランシング結果を、kWhの値ではなく、「発電事業者ごとのトークンが需要家に移動した」取引の記録として、ブロックチェーンの仕組みを利用して記録するようにした-ということだと理解しました。

ブロックチェーン技術を電力取引に適用する利点は、同時多発的に発生する、太陽光発電や蓄電池を保有する需要家間での電力融通(の取引、すなわちトランザクション)を、売買マッチングをする取引所のような第三者システムを介さずピアツーピア、すなわち個人間で実現できるところにあると思っています。 その点で、正に「トランザクティブ・エネルギー」を実現するにはうってつけの技術ではないかと日頃考えています。

それに対して、現段階でみんな電力の「P2P電力取引プラットフォーム」が行っているのは、電源の発電量をトークン化して30分ごとの需要家の使用量に振り分ける処理をサーバ側で集中的に行うようであり、P2P取引でも、取引所システムでもなく、要は需給バランシングの結果のデータを、集中型データベースに保持する代わりに、ブロックチェーン技術の「分散台帳」にしてみた-と考えて良いと思います。
その意味で、これはブロックチェーンの活用というよりは悪用(とまで言わなくとも、せいぜいブロックチェーンの流用)というべきではないかと感じた次第です。

ただし、元来、どの発電事業者の電気がどの需要家に流れたかは区別できないですが、この仕組みを使えば、30分毎の個々の再生可能エネルギーの発電量が、誰か1つの需要家に割り振られるので、トークンを付加することでだれの電気がだれに買われたのかが示せる。同じ再エネの電気を二重使用していない証明もできる。という利点があるという点は認めます。

また、各種再エネの電力単価や、(もしあれば)みんな電力が調達した石炭火力/原子力/ガス火力の発電単価などを決めておいて、需要家側に電力メニューとして選んでおいてもらえば、その需要家の意図した電源とマッチングすることで、本来のP2P取引ではないですが、需要家の嗜好にマッチした電源が選択されたことになるということですね。そこでスマートコントラクトが使われたのでしょうか?

プレスリリースに、「本プラットフォームの開発に当たりAerial Lab Industriesを開発パートナーとし。。。」とありましたので、そちらの会社のホームページも見てみたのですが、同社がP2P電力取引プラットフォーム用に開発したENECTION2.0に関して、詳しい情報はわかりませんでした。


とは言え、電源トラッキングの結果をわざわざブロックチェーンの形で書き込む必然性が認められず、みんな電力のサーバで需給マッチング結果を素直にデータベースに書き込めば事足りることであって、現段階でブロックチェーン技術を使う必然性が全く感じられません。

第2段階として個別の取引を手掛ける。これから固定価格買い取り制度(FIT)の買い取り期限を過ぎた太陽光発電がたくさん出てくる。屋根に太陽電池を載せてこれまで電力会社に電気を買ってもらっていた人は期限が過ぎたらどうするのか。私たちのプラットフォームができれば、そこで個人が電気を売ることができる。供給者であり需要家である『プロシューマー』になる。大きな電力会社が電気をつくってたくさんの需要家に売るという、これまでの電気の販売の形が変わるということなので、FIT切れのPV買取を視野に入れた第2段階でのお手並みを拝見したいと思います。

 

以上、今回は、短いですが、みんな電力の「P2P電力取引プラットフォーム」についての感想でした。