The Man O’Hare pub

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前回は、電力のP2P取引に関する7月23日付けの電子版日経新聞の記事、「だれでも電気売買できる時代来る みんな電力取締役」を読んでの感想を述べさせていただきました。 その際は、どのようなブロックチェーンを使っているのか調べ切れていませんでしたが、その後、『藤本健のソーラーレポート:ブロックチェーンで“再エネ電力100%宣言”にチャレンジする「みんな電力」』というインタビュー記事の中で、以下の記述を見つけました。 <BR>

――ちなみに、そのブロックチェーンは、具体的にはどのシステムを使っているのですか?

三宅:NEMを使っています。できるだけパブリックなものを使いたいと検討した結果、NEMがとにかく処理スピードが速く、価格的にも安くできるからです。1トランザクションあたり4円でトークンを発行できます。それなりの規模の発電所であれば、30分に1回のトークン発行が4円なら悪くないと思います。ただし、家庭用にそのまま適用すると割高になってしまいます。家庭用の場合は、30分に1回を1日に1回にするなど、運用方法は考えていく必要はありそうです。

※今もブロックチェーンとしてはNEMを使っているのでしょうね。
あの「NEM盗難騒動」の発生が、2018年1月26日。このインタビュー記事の投稿は2018年6月25日。にもかかわらず、インタビューの中であの騒動に触れていないのは、NEM流出の原因が、NEMというブロックチェーンのメカニズムにあったのではなく、NEMを取り扱っていた仮想通貨取引所:コインチェックに問題があったということだと思われます。 それにしても、自社の不手際で秘密鍵が流出してしまったことが原因とは言え、盗まれたNEM分の日本円数百億円を自己資金で返金するとは。。。

NEMもすごいですが、コインチェックという会社も別の意味ですごい会社ですね。

ブロックチェーンは、トランザクティブ・エネルギー実装を支える技術になりそうなので、もう少し勉強してからまた取り上げたいと思います。

さて、今回は、前々回のテーマである「DRはどこへ向かうのか?第3弾:カリフォルニア州の場合」の続きで、VGI(Vehicle-Grid Integration)を取り上げてみたいと思います。 まず、カリフォルニア州の3大私営電力会社の1つであるSDG&E(San Diego Gas & Electric)のこれまでのDR戦略を振返ってみましょう。 OpenADRプロトコルの開発参加では、同じく3大私営電力会社の1つであるPG&E(Pacific Gas and Electric Company)の後塵を拝しましたが、2007年のオートDRのパイロットテストでは、商業ビル顧客62を対象としたCBP(Capacity Bidding Program)で平均50%弱のピーク負荷削減を達成しているようです。(下図参照)

出典:CEC 「Public Interest Energy Research Relevant to Load Management Standards」

※余談ですが、上図中、SDG&Eのロゴの下に「A Sempra Energy Utility」とあるように、SDG&Eは、SoCalGas(カリフォルニア州南部のガス会社)、Sempra South American Utilities(南アメリカのチリ、ペルーの電力会社)、Oncor Electric Delivery Company(テキサス州の送配電会社)等とともに、「Sempra Energy utility and infrastructure companies」の1部門を構成しています。

その後も、SDG&Eは独自のDR実証を続けており、2013年発行のレポート「Vehicle-Grid Integration (VGI)」では、今後増加が予想されるEV充電の系統への影響軽減を目的とするEV充電用のスペシャルTOUメニューの実証実験が報告されています。正午から午後8時を「On Peak」、午前0時から朝5時までを「Super Off Peak」として、両者の時間帯の従量料金の価格差を2倍、4倍、6倍にした場合の効果を2011年から3年間測定した結果が次のグラフです。

6倍くらいの価格差があると、3年たってもEV充電時間帯を夜間の「Super Off Peak」にシフトさせるインセンティブ効果が薄れないようですね。

これが、ネット検索をして見つけた「VGI」という略語を使った最初のレポートですが、ここではEV充電を夜間にシフトする試みをVehicle-Grid Integration(VGI)としています。

さて、時計を1年戻して、2012年、これまでも米国で最も厳しい排出ガス基準を適用していたカリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事は、2025年までにカリフォルニアの道路を走るゼロエミッション車を150万台とするエグゼクティブ・オーダー(B-16-2012)に署名。これを受けて、CARB(カリフォルニア州大気資源局)は、同州で一定規模以上の自動車生産・輸入を行うメーカーに対して、2025年までに、EVや燃料電池車といったZEV(ゼロエミッション車)とPHV(プラグインハイブリッド車)の販売比率を15.4%まで引き上げるよう、環境対応車の販売増を求める新規制を発表しました。ご存知、ZEV規制です。知事室の主導で、州内の関係各局の協力の下、この目標達成に向けた戦略と計画「2013 ZEV Action Plan」が立てられ、その一環で、2012年10月、2013年2月、2013年10月の3回にわたって、「Vehicle-Grid Integration Roadmap Stakeholder Workshop」が開催されています。このワークショップの成果は「California Vehicle-Grid Integration (VGI) Roadmap:Enabling vehicle-based grid services」としてCAISO(カリフォルニア州独立系統運用機関)から2014年2月に公開されていますが、その冒頭(と言ってもExecutive Summaryの次の章、「What is Vehicle-Grid Integration」)で「VGI」の定義が行われています。

ザッと訳してみると(例によって超訳です)、以下の通りです。

「VGI」は、EVが電力系統に提供するサービスを網羅するものである。
そのためには、EVの充放電制御、EV・電力系統間の双方向通信をサポートする機能を備えていなければならない。
ここで、「充放電制御」は、電力系統が高負荷時のEV充電を遅らせたり、系統に流入する再エネ出力が需要を超える場合により多くEV充電させたり、あるいは、もっと単純にEV充電をオン/オフしてEV充放電量を調整したりする技術的能力を指す。
「双方向通信」は、電力系統とEVバッテリー、または、建物とEVバッテリーとの間で電気をやり取りするための制御を指す。
VGIは、系統運用者の運用リスク軽減・コスト削減を図ると同時に、EVオーナーに信頼性の高いサービスを提供しつつ、潜在的に追加の収益機会を提供するものである。 VGI実現にあたっては、インバータ、制御機器、充放電器などの技術要素の他に、充放電時間帯や充放電速度などと連動する新たな電気料金プログラムや、現行制度の見直しが必要である。

また、CPUC(カリフォルニア州公益事業委員会)のエネルギー部局は、3回目のワークショップが開催された2013年10月に「Vehicle – Grid Integration ~A Vision for Zero-Emission Transportation Interconnected throughout California’s Electricity System~」という、そのものズバリの名称のレポートを公開していますが、その中で「VGIフレームワーク」という考え方からVGIについて考察を加えています。

 

すなわち、VGIには、3つの属性(Resource Quantity、Actor’s Objectives、Power Flow Direction)の組み合わせた8つのユースケースが考えられますが、CPUCは、その中で優先度をつけ、VGI実現のロードマップとして、4つのユースケースに絞り込むことを提案しています。それを、3つの属性を軸とする立方体で表したものが下図になります。

 

ユースケース(1):個別のEVと系統の間で、統一された方法により単一方向に電気が流れるケース(SDG&Eが2011年~2013年の実施したEV用TOU料金設定に従ったEV充電時間帯のシフトが、このユースケースに相当します)

ユースケース(2):アグリゲーターが集約したEVリソースが、統一された方法により、EVと系統の間で単一方向に電気が流れるケース

ユースケース(3):個別またはアグリゲーターが集約したEVリソースが、いろいろな方法により、EVと系統の間で単一方向に電気が流れるケース

ユースケース(4):個別またはアグリゲーターが集約したEVリソースが、いろいろな方法により双方向に電気が流れるケース

※図中、V1G、V2Gという言葉が使われていますが、V1Gは系統側からEVへの単一方向の電気の流れ、V2GはEV・系統間の双方向の電気の流れを示すもので、弊ブログをお読みいただいている方にはRMI(ロッキーマウンテン研究所)の提唱した「スマートガレージ」で2008年ごろ、EVバッテリーのリソースを如何に系統運用に利用するかで、すでに考えられていたコンセプトであったことをご存知のことと思います。

今年度、経産省のVPP構築実証補助金事業の中でB-2事業としてV2Gアグリゲーター事業が始まりました。
それと比べると、2012年~2013年に、米国ではすでに「Vehicle-Grid Integration Roadmap Stakeholder Workshop」が開催されていたということだけでも、「日本は遅れている」と感じられるかもしれないですが、更にそれを4,5年さかのぼって、2008年10月8日~10日、RMIが米国オレゴン州ポートランド市で開催した『Smart Garage Summit』と題したワークショップには、EPRI、NREL、マッキンゼー、MIT、カリフォルニア大学バークレー校のような研究調査機関、GM、フォード、北米日産のような自動車メーカー、Austinエナジー、Dukeエナジー、PG&Eのような電力会社、A123Systemsのようなバッテリーの会社、GridPointのようなスマートグリッドソリューションの会社、Itronのようなスマートメーターの会社、ComvergeのようなDRアグリゲーターの会社、IBM、Cisco、GoogleのようなICT業界のビッグネームや、Coulomb TechnologiesやEcotalityのようなEV充電インフラのベンチャー会社、果てはWalMartまで49社の多彩な顔ぶれが集まっていますので、このような業界をまたがっての大きなVGIへの取り組みという点で、日本は10年遅れているといってよいかもしれません。

長くなってきましたので、今回はここまでとさせていただきますが、EPRIもVGIに関して標準化の観点からカリフォルニア州とは別の動きを見せていますので、次回、「カリフォルニア州の場合」というブログのタイトルからはずれてしまいますが、VGIに関するEPRIの動きをご紹介したいと思います。

おわり