Fuel being delivered by narrowboat to The Blue Lias public house
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本当に久しぶりの投稿になってしまいました。

PJMのRegD信号のルール変更についてご紹介させていただいた延長で、このあたりの事情をさらに詳しく理解していただくため、PJMが採用しているパフォーマンススコアや便益係数(ベネフィットファクタ)の考え方をご紹介しようと思っていたのですが…

サイトの統計情報を見ると、PJMの細かな話題以外へのアクセスがほとんどで、かつ、PJMに興味を持たれているような方にはPJMのパフォーマンススコアや便益係数等は「先刻承知」との反応が返ってきそうで、筆が進まぬまま半年以上たってしまいました。

とはいえ、このブログでは、これまでも自分の興味の向くまま、いろいろな方面に首を突っ込んで、「これは面白かった」というものを取り上げてきましたので、これからも独自の判断基準で、何か面白いもの/ことが見つかればお伝えしていこうと思います。

 

ということで、パフォーマンススコアや便益係数に関するお話はやめて、別のPJMの話題を取り上げたいと思います。

日本でも、この7月からいよいよ電力の容量市場が立ち上がりましたが、日本の容量市場の制度設計に当たってPJMおよび英国NationalGridの容量市場の仕組みが参考とされたことは皆さんご承知のことと思います。

ところが、そのお手本としたPJMや英国の容量市場で問題が発生しているようです。

少し長いですが、電力中央研究所の電力経済研究No.66(2019.3)の論文「容量市場の価格決定要因に関する考察-我が国の制度設計と海外の経験からの示唆―」の「はじめに」の部分を引用させていただきます:

わが国で創設される容量市場は,すでに米国や英国において導入されており,その制度設計は,わが国でも参考とされてきた。ただし,そうした海外の容量市場で実際に決まっている約定価格は,新規電源が固定費を回収できる水準であるNetCONE(Net Cost of New Entry)の半分程度という状態が続いている。

容量市場の約定価格が低くても,必要とされた以上の容量が,その価格で確保されているということであり,供給力の確保にただちに問題が生じるわけではない。需要家の視点で考えれば,それが競争の結果で安くなっているのであれば歓迎すべき事でもある。しかし海外では,低い約定価格が続くことで,容量市場の制度設計が問題視され,詳細設計の見直しが繰り返されることも珍しくない。見直しによって,より適正な価格となる可能性もあるが,実際には今も試行錯誤が続いている。わが国でも,創設後ある程度の試行錯誤はやむを得ないが,制度設計の見直しを適切に進めるためには,容量市場における価格がどのように決まるのかということについて,政策当局や市場参加者が理解を深めておくことが重要と考えられる。

また、京都大学大学院経済研究科再生可能エネルギー経済学講座「No.183 米国PJMのプライシング改革」(2020年4月23日 資源エコノミスト 飯沼芳樹氏)では主にPJMの卸売電力市場(kWh市場)の現状と課題がコンパクトにまとめられていて、こちらもご一読をおすすめしますが、「おわりに」で「再生可能エネルギーのような補助を受けた電源が容量市場に参加する際の最低入札価格(MOPR)引き上げ等についても議論となっている」との指摘がされています。

 

ということで、PJMが新規電源の容量市場参入を可能にするため約定価格を一定以上に保つ仕組みとして導入したMOPR(Minimum Offer Price Rule)について少し詳しく調べましたので、以下でご紹介したいと思います。

 

PJMの容量市場の仕組みは、2007年6月1日に、それまで運用していた容量クレジット市場(Capacity Credit Market:CCM)から、信頼度価格モデル(Reliability Pricing Model:RPM)に基づく新たな容量市場に切り替わっています。

このCCMとRPMの概要/相違点については、経産省総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力システム改革小委員会制度設計WGの第2回会合資料にまとまったものがありました。再掲させていただきますので、ご確認ください。

このPJMの初期の容量クレジット市場の概要図で「問題点」と書かれているような現象が発生したため、RPMに移行したのだとは思いますが、今回は、その辺りの経緯を調べてみました。

米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)のOnline eLibraryの関連資料を手繰っていくと、2005年6月16日、FERCはこれまでのPJMの容量クレジット市場では何が問題なのか議論するための技術カンファレンスを開催しています。

そこで得られた様々なコメントに関して、PJMの容量市場に関与するPJMステークホルダ・プロセスで彼らの容量市場が抱える市場設計上の問題を議論し、2005年8月31日、FERCに新たな容量市場の仕組みとして「Reliability Pricing Model Filing 1/2, 2/2」を提出しています。

そこで挙げられたRPMの特徴は、以下の6点:

  • appropriate consideration of locational needs

PJM管内一律ではなく、地域別に必要な容量を確保する

  • four-year forward certainty for loads and suppliers

4年先に必要となる容量を確保する

  • reduced risk and volatility, greater reliability, and lower consumer costs through use of a downward-sloped VRR curve

ダウンワード・スロープ型VRRカーブの使用により、リスクとボラティリティの低減、信頼性の向上、消費者コストの低減を図る

  • comprehensive market-based pricing of planned and existing generation supply, transmission alternatives, and demand-side resources

既存および計画中の発電設備だけでなく、送電による代替手段や需要側資源の利用を考慮した包括的な市場ベースの価格決定

  • appropriate consideration of operational requirements

運用要件の適切な配慮

  • explicit market power mitigation rules

明示的な市場支配力を緩和するルールの制定

 

この中で、注目点が2つあります。

1つは、3年先ではなく、4年先の容量確保を目指して最初のオークションを開催しようとしていたことです。(下図参照)

 出典:Reliability Pricing Model Filing 1/2のp.52 および2/2のOriginal Sheet No. 548

それと、市場支配力緩和ルールとして、地域ごとに市場支配力が認められれば入札価格の上限(Offer cap)を適用するという記述はありますが、最低入札価格に関する記述が見当たりません。

FERCは、2006年2月3日、PJMのRPMの提案に関して検討するべく技術カンファレンスを開催。そこで得られたコメントと、その後も「Post-Technical Conference Comments」として3月2日まで寄せられた複数のコメントを反映して、2006年4月20日、「Initial order on reliability pricing model re PJM Interconnection」を発行。その中で、PJMのRPM提案に関して寄せられたコメントに対するFERCの見解と決定事項を示すとともに、CCMからRPMへの容量市場のルール変更が認められました。

そこで、PJMは新たな容量市場の仕組みの詳細設計を行い、2007年6月1日付けでPJM Manual 18「PJM Capacity Market Revision: 00」を発行しますが、マニュアルの「Revision History」を見る限り、途中でBRA(第1回目の容量調達オークション)を4年先から3年先に変更したという記述も、途中でMOPRを市場支配力緩和ルールとして追加したという記述も見当たりませんので、RPM容量市場の運用の詳細を詰め、Revision00のマニュアルを作成する過程で規則が出来上がってきたものと思われます。

次回は、Revision 00のマニュアル作成過程でいつ4年先から3年先の容量確保を目指すように変更されたのか、そして、MOPRがどのような考え方の下で追加されたのか調べた結果をご紹介したいと思います。

 

おわり