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ここ数回、スマートグリッドに関連する国際標準規格として、IECの規格を見てきました。ヨーロッパでは、発電から、送・変・配電、HEMSにいたるまでほぼ一環してIECの規格のもとにスマートグリッド環境が構築されようとしています。


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上図は、2009年ベルギーで開催されたCIMユーザグループの会議で仏電力会社EDFが発表した『CIM FOR SMARTGRIDS』にある、スマートメータリング&配電管理システムのアーキテクチャ図です。図中右下のスマートメーターとデータ集約器(Concentrator)間の規約DLMS/COSEMもIEC62056として規定されているので、見事にIECの標準規格に基づいていることがわかります。

ところで、米国のスマートグリッドの標準はどうなっているでしょうか?

いわゆる“アメリカンスタンダード”を基本とするお国柄。スマートグリッドに関しても、米国各州のスマートグリッド構築に適した「標準」を一から作成したいところでしょうが、従来の送配電網設備だけでなく、分散電源や需要家のスマート機器までを有効利用しようというスマートグリッドでは、そう易々とはいきません。
また、オバマ政権の掲げる環境政策「グリーン・ニューディール」の柱の1つとなり、一気に「スマートグリッド」という言葉自体、市民権を得た感がありますが、政府の予算がつくことで、一気に民間企業がこの分野に参入し、野放しにしておくと、例えば州ごとにまったく互換性のないスマートグリッドができあがらないとも限りません。
そこで、米国エネルギー省と国立標準技術研究所(NIST)は、3段階で構成されるスマートグリッド標準化スケジュールを作成しています。
出典:「Overview of NIST Smart Grid Activities」

• フェーズ1:スマートグリッド標準化のロードマップを作成し、既存のスマートグリッドに関連する標準をセットにした「スマートグリッド標準第1版」を公開する
• フェーズ2:「Smart Grid Interoperability Standards Panel」を立ち上げ、長期的な視点でのスマートグリッド標準整備に向けて官民一体となり、現状では不整合や抜け穴のある標準の調整・整備と、標準化ロードマップ自体の進化を図る
• フェーズ3:2010年以降の新たな標準化実装に際して、特に相互運用性とセキュリティに関する適合性の試験・認定フレームワークを完成させる

上記フェーズ1はすでに完了しており、2009年9月に『NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards Release 1.0 (Draft)』が公開されました。

1章:Purpose and Scopeを見ると、このリリーズ1.0には、以下が含まれているようです:
• ネットワークを含む、スマートグリッド全体の構造設計を示す概念的な参照モデル
• スマートグリッドに関連する標準の第1版として、選定した77個の標準の発表
• 追加すべき標準と、スマートグリッド構成要素間の相互運用性・信頼性・セキュリティ確保や重大なギャップを解消するために必要な既存の標準への変更作業の優先度
• ハイレベルリスク評価手法を用いた、スマートグリッドのサイバーセキュリティ戦略と要求定義書作成への第一段階のまとめ
• 標準開発機関が、現状の標準のギャップを埋める非常にアグレッシブなアクションプラン(=スマートグリッド標準化ロードマップ)

2章以降の目次構成は、以下のとおりです:
• 2章 スマートグリッドビジョン
• 3章 概念参照モデル
• 4章 スマートグリッドに関連する既存標準規格
• 5章 14個の緊急に解決が必要な、現状の標準のギャップと課題に関するアクションプラン
• 6章 サイバーセキュリティ リスク管理フレームワークと戦略
• 7章 今後の標準化の進め方

すべてを順に紹介していきたいのですが、今回は標準化に焦点を当てて、4章を見てみたいと思います。
以下の表では、スマートグリッドに関連する既存標準規格としてNISTが絞り込んだ77個の標準を、国際規格(薄緑)、アメリカンスタンダード(薄黄色)で色分けしています。背景色が白いままのものは、業界標準、デファクトスタンダードです。細かな内容は、拡大してみていただくとして、まずは、アメリカンスタンダードの多さに注目していただきたいと思います。

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選び出された77個の標準規格のうち、ISO/IEC/ITUといった国際標準規格制定機関で作成されたものは、16個(21%)しかなく、インターネットのようなデファクトスタンダードや、米国以外の複数の国も構成メンバとなっている業界標準が24個(31%)で、残りの37個(48%)が、いわゆるアメリカンスタンダードです。
もっとも、ANSIやIEEEの標準は、米国以外の国内標準化機関が、自国内の標準として取り入れている例も多いですし、GPSのように米軍の標準ではあっても、全世界で使われているものはデファクトスタンダードに分類すべきかもしれません。
また、NISTが考えたのですから、米国内の現状からスマートグリッドへのスムーズな移行を行うために、既存のアメリカンスタンダードを候補に採用するのは当然ですが、日本型のスマートグリッド標準として、アメリカンスタンダードの部分をそのまま受け入れても良いのかどうか、吟味が必要だと思います。

なお、今回77個の既存標準規格を表にまとめるに当たって、スマートグリッドのどの領域に関する標準かを、発電、送変電、配電、需要家に分類していったのですが、その他に、通信ネットワーク、セキュリティの標準が多く、分散電源や電気自動車の標準も入っています。

V2Gはまだ先かもしれませんが、G2Vとデマンドレスポンスを連動させるようなEV充電インフラシステムのグリッドインタフェースは、気がつけばアメリカンスタンダードになっていて、今日本でも火がついてきているEV充電インフラシステムの通信プロトコルは書き換えなければ動かない - というようなことがないように、NISTの動きを見守る(あるいは、積極的に日本のEV充電インフラシステム仕様をNISTにインプットする)必要があると思います。