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Green Fields Near Crookboat

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ほぼ1年前になりますが、資源エネルギー庁が、「低炭素電力供給システムに関する研究会」を立ち上げ、ゼロ・エミッション電源の比率を50%以上とする低炭素社会の構築に向けた電力供給面での対策検討を実施しています。 そこで、これから何回かに分けて、「日本向けスマートグリッド」ということで、この研究会の目指すものと、巷で言われているスマートグリッドと どこが違うのか、どこが同じなのか考えてみたいと思います。 ※なお、この研究会の議事録および配布資料は、資源エネルギー庁の下記URLからご覧になれます。 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/k_9.html 今回は、本研究会発足およびその後の経緯を紹介します。

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本研究会は、福田ビジョン「『低炭素社会・日本』をめざして」に掲げられた目標:2020年までに発電時にCO2を排出しない「ゼロ・エミッション電源」の割合を50%以上に向上させること等に対応するもので、「低炭素電力供給システム」を確立し、低炭素社会の実現をリードするための具体的な方策等について検討を行うことを目的としています。

また、検討内容は次のとおりです。

・低炭素化に向けた電源ごとの課題の整理と対応策
 -太陽光発電等の再生可能エネルギーの導入拡大に向けた対策
 -原子力の推進
 -火力の高効率化と石炭火力の位置づけ(IGCC+CCS等)
・今後の電源のベストミックスの考え方
・新エネルギー等の大量導入に対応した最適な系統安定化対策と需要面の対応(電気自動車、ヒートポンプ等)
・太陽光等の新エネルギーが大幅に導入された場合の対応やコスト負担の考え方
・その他(CO2フリー電気の取引、超電導送電によるネットワークの低炭素化等)

平成20年7月8日の第1回目開催を皮切りに、1,2ヶ月ごとに研究会が開催され、平成21年7月1日の第8回研究会で、「低炭素電力供給システムの構築に向けて」という研究会報告書の総論、各論案が報告されています。

その間、第2回目に「新エネルギー大量導入にともなう系統安定化対策・コスト負担検討小委員会」の設置が決められ、平成20年9月8日の第1回~平成21年1月9日の第4回まで議論・検討が重ねられ、 「今後の新エネルギーの大量導入に伴って必要となる系統安定化対策及びコスト負担の在り方について」という報告書が第4回目の研究会に提出されています。

第1回目から第8回目それぞれに膨大な配布資料があり、さまざまな議論がされていますが、今回は、それぞれの回で実施・検討された内容を概観するに留めます。

【第1回:平成20年7月8日開催】
冒頭で説明した、本研究会の位置づけ・目標に関するコンセンサス作り。
総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会の緊急提言(太陽光社会の実現・エネルギーの地産地消の推進など再生可能エネルギーの抜本的導入拡大、水素社会の確立、次世代自動車の導入拡大など)、電気事業連合会からCO2排出量削減に向けた電気事業者の具体的取り組みの説明の後、事務局から90ページにおよぶ「低炭素電力供給システムの構築に向けて」の議論のたたき台資料説明が行われ、自由討論。

【第2回:平成20年8月8日開催】
新エネルギーに的を絞って現状把握、今後の課題を検討。
まず2020年、2030年に向けた再生可能エネルギー導入見通しとコストに関して検討。次に、新エネルギーの大量導入に対応した系統安定化対策として、7つのオプションに対して課題を洗い出し、新エネルギー大量導入に伴う系統安定化対策・コスト負担検討小委員会を設置して、具体策の検討が行われることとなった。水力・地熱・太陽光発電や、蓄電池技術に関する課題認識も実施。
事務局が、2005年との比較で太陽光の発電電力量が2020年に10倍、2030年に40倍となった場合に耐えうる「低炭素電力供給システム」構築が前提であると表明。

【第3回:平成20年10月9日開催】
原子力発電に的を絞って現状把握、今後の課題を検討。
事務局から、原子力発電に関する国内外の動向説明(原子力発電比率、設備利用率向上、出力向上、発電所開発計画)があり、電気事業連合会からは、原子力発電にまつわるこれまでの人災・天災に起因した設備利用率の低迷と対応状況、高経年化対策や新・増設計画など説明された後、自由討論。
事務局が、いわゆる「ゼロ・エミッション電源」の割合を50%以上とする福田ビジョンの目標達成のためには、2030年以降も発電電力量の30~40%程度以上を原子力発電でまかなうという方向性を示唆。

【第4回:平成21年1月26日開催】
新エネルギー大量導入に伴う系統安定化対策・コスト負担検討小委員会からの報告に対して質疑応答の後、電力事業の燃料調達をめぐる動向説明、低炭素電力供給システムにおける火力・水力発電等の役割(火力発電・水力発電による太陽光パネルの出力変動対策など)と課題説明があり、自由討議。

【第5回:平成21年2月24日開催】
発電時にCO2を排出しない電源として原子力発電の比率を高めると、電源構成に占めるベース電源の比率が高まることから、年末年始や春・秋、夜間等の軽負荷期における需要創出やピークシフトなどの負荷平準化対策が重要となる。
そこで、第5回では、低炭素電力供給システムにおける負荷平準化の意義および構築に向けた技術課題が討議された。 また、CO2排出係数公表制度についても説明された。

【第6回:平成21年2月24日開催】
最終報告書のとりまとめに当たっての論点整理。
新エネルギーの普及見込み、新エネルギーの大量導入時の系統安定化とコスト負担の在り方、原子力発電、水力・地熱発電、火力発電、負荷平準化、低炭素電力供給システムにおける技術課題というカテゴリーでの論点整理方針の確認と、作成された関連用語集が説明され、最終報告書取りまとめに当たって自由討議。
論点整理に関する討議の中で、事務局がスマートグリッド、スマートメータ、DSMを軽視していることが指摘され、宿題となった。

【第7回:平成21年5月22日開催】
スマートグリッドに的を絞って現状把握した後、最終報告書「低炭素電力供給システムに関する研究会」報告書の総論案について討議。
事務局、東京電力、日本IBM、日立製作所からスマートグリッドに関する欧州などでの取り組み状況が説明され、最終報告書の総論にも一部取り込まれることとなった。

【第8回:平成21年7月1日開催】
「低炭素電力供給システムの構築に向けて」研究会報告書の総論、各論の説明の後、自由討議。
第7回でスマートグリッドにスポットライトが当たりましたが、スマートグリッドは低炭素電力供給システムを実現するための手段とはなっても目的ではないとの判断から、最終報告書の表題かは姿を消すことになったようです。

次回は、第1回研究会資料、議事録を詳細に眺めてみたいと思います。