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前回は、配電管理システム(DMS)および外部システムとのインタフェースに関連した標準規格策定を担当するTC57 WG14によるIEC61968国際標準規格と、その中でカバーされているCIMパッケージについてご紹介しましたが、今回は、電力自由化がもたらした電力取引市場の情報交換に関する国際標準規格策定を担当しているTC57 WG16によるCIM関連の国際標準規格についてご紹介したいと思います。

 IEC TC57 WG16について

WG16は、下図に示すとおり、IEC62325国際標準規格を用いて、電力業界のオブジェクトモデルであるCIMの、電力取引の分野への拡張を目指しています。

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※ ETSO:欧州系統運用者協会(European Transmission System Operators) 
※ ESS:ETSO Scheduling System
※ ECAN:ETSO Capacity Allocation and Nomination
※ ERRP:ETSO Reserve Resource Planning
※ EMVR:ETSO Metered Values Report
※ EbIX:Energy business Information eXchange 
※ EFET:European Federation of Energy Traders

2003年、まず北米のエネルギー取引市場に関連するオブジェクトをCIMに反映した版が策定され、その後で、ETSOが策定した欧州での電力ガス市場取引の標準モデルがマージされたようです。米国と欧州では、電力ガス取引に関連するオブジェクト構成が異なるため、北米用IECプロファイル(一日前市場、リアルタイム市場と、市場取引関連オブジェクトが対象)と欧州用IECプロファイル(一日前市場、バランシング市場と、市場取引関連オブジェクトが対象)が規定されています。
また、上図では、IEC61970-303が規定している3つのCIMパッケージ名(Financials、ReservationsおよびEnergy Scheduling)が含まれていますが、WG16が規定しているのは、MarketOperationsに属する下図の紫の部分のパッケージです。

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詳細を説明した情報は入手できていませんが、RTO:地域送電機関、Bid:入札、FTR:金融的送電権、Clearing:決済など、エネルギー取引市場に関連する特有のオブジェクトがCIMに追加されていることがわかります。

 IEC62325の概要

WG16がかかわっているIEC62325も61850、61968、61970同様、いくつかのパートに分かれています。
• Part 101: General guidelines
• Part 102: Energy market model example
• Part 201: Glossary
• Part 3XX: (Titles are still to be determined)
• Part 401: Abstract service model
• Part 501: General guidelines for use of ebXML
• Part 502: Profile of ebXML
• Part 503: Abstract service mapping to ebXML
• Part 601: General guidelines for use of web services
• Part 602: Profile of Web Services
• Part 603: Abstract service mapping to web services

IEC62325-3xxは、まだタイトルも決まっていないようですが、CIMのエネルギー取引市場への拡張部分の定義で、IEC62325-401が、それらの拡張オブジェクトのプロセス定義です。
※ このうち、現在承認されているのは、Part 101、102、 501、502だけのようですが、IEC62325の国際標準規格の特徴は、CIMのebXMLおよびWebサービスへのマッピングが規定されていることではないでしょうか?

 UN/CEFACT CCTSに基づくCIMモデルの情報交換の実装への落とし込み

UN/CEFACT(United Nations Centre for Trade Facilitation and Electronic Business)は、国際連合(UN)の下位機関である標準化組織の名称で、2001年5月、XMLによるデータ交換技術の標準化団体であるOASISとともに、XMLを用いた企業間電子商取引のための共通規格である「ebXML」を策定したことで知られています。
CCTS(Core Components Technical Specification:コア構成要素技術仕様)は、コア構成要素のメタモデルとして、ISO/TS 15000-5で承認されているものです。
では、UN/CEFACT CCTSに基づき、CIMという情報モデルから具体的な情報交換用のXMLスキーマに落とし込む方法論をご紹介したいと思います。

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上図が、この方法論に基づく、情報モデルから情報交換用実装モデルへの落とし込み手順の概要です。具体例を交えて、順に見ていきましょう。

● UML情報モデル:CIMのような、対象ドメインのコアコンポーネントを網羅するUMLモデル

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この中で、情報交換したいデータを持つServiceLocationとErpAddressという2つのクラスに注目したとします。
CIMでは、それぞれに多数のプロパティが定義されていますが、次のステップとして、情報交換したいものに的を絞りましょう。

●UMLコンテクスチャルモデル:特定のビジネスプロセスモデルにするため、汎用のUML情報モデルのプロパティに制約を加えたモデル

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更に、概念モデル上Stringタイプとして定義したserviceTypeを、実装上はEnumタイプにしたり、文字列や数値の桁数に関して実装上の制約を加えて、コンテクスチャルモデルが以下のように出来上がります。

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●UMLメッセージコンテンツモデル:情報交換用のメッセージを組みたてるために必要な、メッセージ構造やコンテンツを定義するモデル

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コンテクスチャルモデルから、情報交換するメッセージ構造を決定し、上記のようなコンテンツのメッセージモデルが出来上がりました。

●XSD 実装メッセージモデル:UMLメッセージコンテンツモデルをXMLスキーマで定義したモデル


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その、メッセージコンテンツモデルのUML表現をXMLスキーマに変換して、XSD 実装メッセージモデルの出来上がりです。

以上の流れをまとめたものが、下図になります。

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TC57 WG16のIEC62325の各パートでの規定と、上記の方法論の関係は、以下のとおりです。


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※ 上図中、3XX:IEC62325-3xx、4XX:IEC62325-4xx、5XX:IEC62325-5XX

以上、今回は、IEC62325国際標準規格と関連するCIM、および、実際のエネルギー取引市場関連オブジェクト間のメッセージ交換のための変換についてご紹介しました。

スマートグリッドに関連するIEC国際標準規格は、他にも以下のものがありますが、とりあえず、これで一旦終わりにしたいと思います。

• IEC60834:電力系統の遠隔保護装置の標準規格
• IEC61400-25:風力発電関連の標準規格
• IEC62210:電力系統制御と関連する通信のセキュリティの標準規格
• IEC62351:TASE.2(遠隔制御APサービスエレメント2)のセキュリティの標準規格

なお、IEC61968-9:Meter Reading and Controlに関しては、スマートメータリングに関連しますので、別の機会を見つけて、掘り下げてみようと思います。

最後に、今回使用した資料は以下のとおりです。

• 「Using UN/CEFACT Core Component methodology for EIC/TC57 works and CIM
• 「
Using Interoperability Standards Ease Design and Automated Deployment of Business Processes like Customer-Switching
• 「
IEC TC57 WG16 CIM and ETSO Convergence