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GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』をご紹介しています。
今回は、1章 スマートグリッドの分類:TAXONOMY OF A SMARTER GRIDから、1.1.1 スマートグリッドセグメントおよびアプリケーションのハイライト:Highlights of Smart Grid Market Segments and Applicationsの部分を紹介します。

では、はじめます。

1. スマートグリッドの分類:TAXONOMY OF A SMARTER GRID (続き)

1.1.1 スマートグリッドセグメントおよびアプリケーションのハイライト

■  AMI:スマートグリッドの礎

最先端のメータリング・アプリケーション実行に必要なAMI/FAN通信ネットワークは、いろいろな他の新たなスマートグリッド・アプリケーションで使うデータ転送にも使用されるので、正にスマートグリッドの礎となるアプリケーションである。例えば、グリッド最適化は、AMI上で機能が拡張された、検針とは無関係の市場セグメントの1つである。このアプリケーションによって、従来、顧客からの苦情電話ではじめて分かった停電その他の障害やネットワークの状況を、電力会社は即座に検知できるようになった。
デマンドレスポンス(DR)と分散電源のインテグレーションも、AMI通信ネットワークのおかげで即座に需給調整ができるようになったアプリケーションの例である。AMIアプリケーション自体は、検針員を現地に派遣することなく経済的・効率的に検針業務をおこなうためのものであるが、電力会社大でAMIを展開(現在、世界中で実施されている)することで、更なる恩恵や市場セグメントが続々と発見され、システム大の信頼性改善、設備の活用・保全だけでなく、化石燃料を使う発電設備削減、ひいては、CO2排出削減に繋がっている。

■ デマンドレスポンス:今が旬のマーケット

デマンドレスポンスは、クリティカルピークタイムは需要家に電力使用を控えてもらおうという、比較的シンプルな概念である。事前に、いつ、どのように電力会社(または代行者)がエンドユーザの負荷を削減するか決めておく。そうすることで、電力会社はランニング・コストが高く(環境負荷も高い)ピーク電源を使わずに済み、消費者も負荷削減に応じた収益を得るので、デマンドレスポンスはWin-Winの関係をもたらすソリューションとなっている。これまで北米では、業務用・産業用電力契約を結んだ大口ユーザのみがデマンドレスポンスの対象だった。また、電話のような初歩的な通信手段で使用電力削減を頼んでいた。スマートグリッドの通信ネットワークは、顧客にリーチする手段を改善し、更にデマンドレスポンス・プログラムへの参加対象枠を(スマートメーターを設置した)一般家庭にまで、飛躍的に広げたのである。
デマンドレスポンスは、市場にしっかり浸透したスマートグリッド初のアプリケーションで、デマンドレスポンス市場はゴールドラッシュに沸いている。業界のアナリストは今後5年間で市場規模が4倍になると主張。また、FERCのJohn Wellinghoff長官のように、スマートグリッド初のキラーアプリはAMIではなくデマンドレスポンスであるという人もいる。デマンドレスポンスは、ピーク電源として利用されるLNG火力発電プラントよりも安く、早く、クリーンで、かつ、信頼度の高いソリューションだからである。デマンドレスポンスのソリューション・プロバイダ大手2社、Comverge およびEnerNocが株式公開できたことは、デマンドレスポンスがスマートグリッドの中で最も成熟した市場セグメントの証である。
とは言うものの、デマンドレスポンスはまだ始まったばかり。大型家電機器、電力会社のコントロールセンター間のゲートウェイとなる数百万台のスマートメーターは、需要家へのデマンドレスポンス・サービスに初めて門戸を開放したところである。また、昨今の地球規模の景気低迷を考えると、より多くの企業や需要家がデマンドレスポンス・プログラムにかかわるのは、センター側からの強制的な家電機器操作ではなく需要家の嗜好に応じた、それほど押し付けがましくない方法で、かつ、電力使用量削減に応じて収益が得られるような仕組みが出来上がってからになると思われる。その意味で、この市場は2010年以降も順調な動きを見せると予想する。

■ グリッド最適化:既存電力網の真のインテリジェント化

グリッド最適化は、電力配送ネットワークをデジタル制御することで、電力会社および系統運用者に多大な進歩をもたらす可能性を秘めている。センサー技術、通信インフラ、ITを駆使し、信頼性・効率性とセキュリティを改善するとともに、電力網をリアルタイムに最適化できるようになる。更に、電力網全体にわたるビジビリティと分析情報が得られるので、系統運用者の電力網に対する状況判断が大幅に改善できる。 AMIの展開により数百万のエンドユーザ機器が制御できることもさることながら、上位レベルのグリッド装置へのリアルタイム指令制御ができるようになるグリッド最適化は、AMIと同等以上の価値を持っている。
北米およびヨーロッパでは大規模電力会社のスマートグリッド・シフトが加速しているので、グリッド最適化のROIの予測がつくようになってきている。グリッド最適化に関する電力会社それぞれの懸念事項や願望は異なっているが、ROIの予見性はグリッド最適化プロジェクトへの継続投資を非常に魅力的にしている。

■ 分散電源:再生可能エネルギーを普通の電源に

再生可能エネルギーでエネルギーと環境に多大な貢献をするという展望は、スマートグリッドなしでは開けない。
現在もてはやされている再生可能エネルギーの多くは、実際には、何十年も前に出現している。例えば、ソーラーパネルは1950年代に、電気自動車はガソリン自動車よりずっと前の19世紀後半に考案されている。最初の風力発電用タービンも、1970年代にそのルーツがある。しかし、いくら変換効率やスケーラビリティの改善、コスト削減など、素晴らしい技術が考案されても、実用化への道が開かれなければ絵に描いた餅に過ぎない。大規模に再生可能エネルギー技術を導入するためのインフラが出てくるまで、これらの技術は単にノベルティ(目新しいもの)に過ぎなかった。スマートグリッドこそが、出力変動の大きな電源を有効活用し電力系統にインテグレーションすることができるのである。この再生可能エネルギー技術が典型的な例であるが、スマートグリッドは、新たな技術やアプリケーションを、目新しいものから日常のありふれた規範に変貌させていくだろう。
太陽光パネルとスマートグリッドの関係は特に興味深いものだ。太陽光パネルの発電コストは年々下がり、グリッド・パリティ(太陽光パネルでの発電コストが化石燃料、特にLNGを燃料とする火力発電コストに等しいか安くなること)に近づいているので、日照時間が長く電気代の高い地域では、今後10年間で大量に太陽光発電が普及することが予想できる。
スマートグリッドは、電力系統に大量の太陽光発電設備が接続された場合の問題解決に活躍することだろう。その際、キーとなるのは分散電源の統合技術である。
分散電源技術は、現状では価格競争力を持っていないが、分散電源の統合に関するスマートグリッド技術が開発され完成すれば十分な競争力を持つだろう。そのような技術開発でリーダーシップを握ることができた企業の製品・サービスには、膨大な需要が見込めるだろう。

■ エネルギー・ストレージ:スマートグリッド最後のピース

エネルギー・ストレージが将来のインテリジェントな電力網にとって必要なものであり、かつ、実現可能であるという認識がだんだん広まっている。その際、スマートグリッドがどう運用されるかについての現在主要な考え方は、大容量ストレージではなく、分散ストレージである。従来「電気はためることができない」という前提の下、電力会社、電力系統運用者は、電力需給バランス確保に苦労してきたので、系統側の大容量ストレージ、需要家側に近い分散ストレージのいずれであってもありがたいに違いない。ただし、分散ストレージは、電気が必要とされているところで電気を提供するので、新たな発電所や送電網を作る必要がないからである。また、エネルギー・ストレージの最大の利点は、出力変動の大きな再生可能エネルギー電源の問題を解決できることで、グリーン・エネルギー大量導入を促進し、広く市場に浸透していくと考える。使いきれなくて捨てざるを得なかった大量の再生可能エネルギーを利用できるようにするという点で、エネルギー・ストレージは、再生可能エネルギー普及の救世主である。スマートグリッドが成長するにつれ、このエネルギー・ストレージの市場は、広く注目の的となるだろう。今後5年間、この分野への投資が増加するものと考える。
ただし、その他のスマートグリッド関連市場セグメントが段階的に成長していくのに対して、この市場セグメントでは、ストレージに関するブレークスルーが必要である。またストレージのハードウェアの研究開発もさる事ながら、タイムリーかつ効率的に充放電するためのソフトウェア開発も忘れてはならない。そこで、近い将来、もっとIT/ソフトウェア企業がこの市場に参入するものと予測している。

■ PHEV:スマートチャージとV2G

スマートグリッドのアプリケーションとして、最も議論され、期待されてきたものの一つが、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)の導入である。需要をオーバーし捨てざるを得ない再生可能エネルギーなど出力変動の大きな電源の発電電力をPHEVの大容量バッテリーに貯めたり、逆に電力需要に供給が追いつかない場合、そのバッテリーから電気を供給(V2G)し、電力網のバックアップとしての役割が期待されている。市場はこれからで、2010年時点では、自動車業界、電力業界ともそこまでの動きはない。PHEVは市場に投入されたばかりで、今後2~5年、世界中の主要な自動車メーカーがPHEVを売り出すだろう。それに向けて、電力会社は準備を急いでいる。課題は以下の2つ。
(1) スマートチャージ:数百万台のPHEVが一斉に充電することで新たなピーク電力需要を生み出さないよう、充電を制御する方法
(2) V2G実現のため、バッテリーの寿命を縮めたり、ドライバーが運転しようと思ったとき、運転不可能なくらいローバッテリー状態になったりしないような、PHEVのバッテリーからの電力供給制御方法
V2Gのコンセプトはエネルギー・ストレージ市場にマッチしているので、この市場を成長させるためにも新しいシステムや分析が必要とされている。

■ 先進ユーティリティ制御システム:エネルギー監視・制御の未来像

先進ユーティリティ制御システムとは、電力会社が電力網の監視、制御、最適化のために、様々なミッションクリティカルなシステム、アプリケーション、およびバックエンドの技術インフラをアップグレードし統合することを指す。
AMIの配備(エンドツーエンドのネットワークの完成)による最大の可能性を引き出すには、電力会社は、データをアプリケーション間、システム間で共有する企業大のシステムを作り上げる必要がある。歴史的に電力会社では、個々のシステムがサイロ化され、データ共有やシステム統合は考えられてこなかったが、スマートグリッドの実現には、電力会社の企業大のシステム統合(と、ビジネスプロセスの統合)が不可欠である。これなくして、リアルタイムのビジビリティの実現/意思決定支援はありえない。
ピーク需要を回避するのに、分散電源設備からの電気をあてるか、デマンドレスポンスを使った方が経済的(環境的)に良いかどうかや、電気自動車の充電に系統電力を使うべきか隣家の太陽光発電から回すべきかなど、電力会社は今後ますます大量の意思決定に迫られるようになる。人間のオペレータや、従来のサイロ化されたシステム群で、そのような大量で複雑な意思決定をおこなうのは不可能である。

■ スマートホームとネットワーク

ビルや家屋内の家電機器にインテリジェンスを持たせネットワーク化するのは、電力会社および需要家双方にとって利点がある。需要家はほんの少しの手間で電気の使用状況をモニタし光熱費を削減できるだけでなく、電力会社の省エネに協力することで経済的な利益を得ることができる。一方、電力会社はスマートグリッドの先が家屋内まで延びたことにより、ピーク需要の管理がやりやすくなり、シンプルなデマンドレスポンス以上のことまで可能となった。スマートメータリングが提供するインテリジェンスをビル/家屋内に延長し、メーターを「ロード・センター」に接続することで、急速にデマンドレスポンスを進化させることができたのだ。電力会社では、ピーク負荷需要発生時に、直接各家庭の家電機器を制御するのではなく、各家屋/ビル内の「ロード・センター」に使用制限の指令を送る。それに対して、需要家はHANと省エネ管理システムを通じて、家屋/ビル内のどの家電機器や電気設備をそのまま使い続けるか、節電モードにするかを設定しておけば、センター側から勝手に家電機器をオン/オフするような押し付けがましくない形で、電力会社のピークシフトにも協力でき、収益も得られる消費者参加の仕組みが出来上がったのだ。

図.3 スマートグリッド・アプリケーションと市場セクターのタイムライン

次回は1.2節、スマートグリッド市場をドライブするものについてご紹介します。