GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』の2章を翻訳しています。今回は2.3節をご紹介しましょう。

なお、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。それと、全文翻訳ではなく、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。

2.3 グリッド最適化/配電自動化

グリッドの最適化は、送配電網のデジタル制御を通して電力会社や系統運用者に多くの潜在的な進歩をもたらすだろう。センサー技術、通信インフラおよびITの融合により、信頼性、効率およびセキュリティを改善し、リアルタイムでの系統の性能最適化が図れるからである。また、電力系統全体に渡るビジビリティが得られるとともに、広域での分析が可能となるので、系統運用者の送電系統広域監視制御能力が飛躍的に改善される。
電力会社は、AMIの展開により数百万台ものスマートメーターを制御できるようになるが、更に上位の電力網上の装置にリアルタイムに指令を出し制御できるグリッド最適化機能には、AMIと同等以上の価値がある。
広範囲にセンサー技術を適用することは、電力系統に中枢神経系を加えた様なものである。
そして、人体においても、脳がすべてのインテリジェンスを提供しているわけではなく、神経系統が人体に、より広く、分散したインテリジェンスを与えていることに注目すべきである。
スマートグリッドの最終形では、主要なノードすべてがインテリジェンスを持つだろう。そして、ちょうど人間の脳が全身の中で被害を受けた神経を感知し、それに反応するように、スマートグリッドは電力網内で外乱が発生すると直ちに反応するようになる。
グリッド内で発生する出来事を感知し、制御信号を出す上で、通信インフラは、必要不可欠である。一方、ITは、数百万ものエンドポイント(コンデンサーバンク、変圧器等に埋め込まれたセンサー)が生成したデータを収集し、それを利用可能なインテリジェンスに変換する。究極のスマートグリッドは、バックグラウンドで作動する多くの運用システムを束ね、誤りを自動訂正し、自己最適化を行い、人間の介在が必要なときだけオペレータに教える、飛行機のオートパイロット・システムに似たものになるだろう。

コロラド州ボルダーでスマートグリッドシティ・プロジェクトに参加している電力会社のXcel Energyは、グリッド最適化を一番重視しており、最適な力率制御と需給バランシングを行うことで配電損失を30%削減できると期待している。欧米では、電力会社によるグリッド設備の大幅なアップグレードが加速されており、グリッド最適化に関与するベンダー等は、(デマンドレスポンスのように)消費者の反応に左右されないグリッド最適化機能は、より投資対効果が予測可能なソリューションであると指摘している。既存の電力料金をどうするかとか、現在のグリッド設備を如何に有効利用するかとか、電力会社によって心配事・願望は大幅に異なっているが、ROIの予測可能なグリッド最適化プロジェクトへの継続的な投資は魅力的に違いない。
グリッド最適化は、3つの領域での改善を包含する:

1. システム信頼性
2. 運用効率性
3. 資産活用および資産保護

電力系統およびスマートグリッドに精通している方には、配電網の制御と最適化に特化した「配電自動化」という用語の方が馴染みがあるかもしれない。しかし、本レポートでは、(配電網のみではなく)エンドツーエンドの自動化と最適化を対象に考えている。グリッド最適化の主要便益に、停電回数の削減、燃料資源とグリッド設備の有効利用、送配電網の広域監視とセキュリティの改善、(太陽光発電量、風力発電量など)予測精度の改善がある。グリッド最適化がもたらす主な利点を次図に示す。

グリッド最適化ソリューションの一例として、変圧器の電圧を監視し補正するアプリケーションがある。変圧器の電圧レベルを監視するセンサーは、一定時間間隔で電力会社のバックホール・ネットワーク(WAN)を通じて、電圧レベルのデータを送る。このアプリケーションでは、送られた値が正常な電圧レベルの範囲外となっていると、自動的に電圧を正常値に戻すための補正指令を送信する。数百万台の変圧器をリアルタイム監視し、微調整できるので、このソリューションは電力の浪費削減と運用効率改善に非常に有効である。

この種の電圧補正はできて当然と思うかもしれないが、従来、電力会社は変電所より下位レベルの制御をしていなかったので、実は、電力業界では画期的なことなのである。
(※日本では、配電自動化で、変電所より下位のレベルまで制御可能となり、ほとんどの一般家庭の最寄の電柱までは、光ケーブルなど、制御を行うための線が延びている)
負荷が増えるにしたがって給電線の電圧が下がるが、米国では、電力会社は120Vの±5%(114~126V)で消費者に電力供給しなければならない。そこで、ピーク需要時にも最終端の需要家に規定の最低電圧である114Vで電力供給するため、電力会社は十分高い電圧レベルで電気を送り出す必要がある。需要家にすると、頼んでもいないのに高い目の電圧の電気を使うことになる。ひいては(使用電力量を計測するベースは電圧×電流なので)高い電気代を支払う羽目となるだけでなく、余分に発電するために、温室効果ガス排出その他の、不必要に燃やす化石燃料に関連する問題を生んでいる。

NARUCのFred Butler議長が以下のような警告をしたことは興味深い:
「電力会社はスマートグリッドの展開スケジュールにおいて、後先を間違っているのではないか。スマートメーターは必ずしも最良のスタートポイントではない。電力会社は、非常に高価なAMI展開に手をつける前に、もっと安価に、かつ、すぐ利益を生み出せる配電システム用通信インフラ整備を行うべきだ。」
様々な地域でAMIプロジェクトが強力に推し進められているが、通信ネットワークとして、単にメータリング関連のアプリケーションで必要とされる範囲で考えるのではなく、(近い将来必要となる分散電源、蓄積池、電気自動車の充放電アプリケーションの統合までは考慮しないとしても)グリッド最適化アプリケーションと通信インフラを共有し、(リアルタイム料金ベースの)デマンドレスポンス・アプリケーションに必要な通信速度/通信ボリュームを保証できる通信インフラでなければならない。

電力系統の分野では、他のどんな分野よりも、伝統的に少数の大型プレーヤーが市場を支配してきた。グリッド最適化アプリケーションでも、ABB、SEL、S&Cエレクトリック、Areva、GE、シーメンスのような大規模の電力系統装置メーカーが競い合うことになるだろう。
ただし、スマートグリッドへの移行は、電力業務の中のITと通信の比重を大きくし、この分野に新たな大型新人プレーヤーを登場させるだろう。シスコやオラクルといったIT大手がすでにグリッド最適化“競技”への参加を表明している。さらに、 ItronやSilver Spring Networksといった最先端を行くAMIプロバイダーも、そのソリューションをグリッド最適化分野に拡張してくることだろう。また、リアルタイムインテリジェンス技術をグリッドの世界に適用しようと目論むCurrent Group、電圧調整製品のMicroPlanetなど、大型プレーヤーの守備範囲から漏れたグリッド関連の補完的な技術やソフトウェアを有する新興企業も参戦してくるだろう。「グリッド最適化」自体をもっと大きな“絵”に仕上げるため、最先端のデバイスなどを提供する会社が参入する余地が十分残されている。

スマートグリッドの最終形では数百万もの新しい分散電源やストレージ設備が配電網に加わるだろう。したがって、送電網ではなく配電網には、更なる自動化、インテリジェント化および最適化が必要とされるのである。実際、一般にスマートグリッドに関する議論は、主として変電所から消費者までの、グリッドの配電側に集中している。(送電レベルでは、インテリジェント化よりも、最も必要な場所に大量の電力を如何に安全にロスなく送るかといった技術が必要とされている。)

今回は、グリッド最適化機能の紹介でした。

日本では、スマートメーター導入より前に配電自動化が行われましたが、2.3節に出てきたNARUCのFred Butler議長のコメントによると、日本は、正しい順序(配電自動化⇒スマートメーター導入)でスマートグリッド化を実施していることになります。
ただし、本レポートでは、スマートグリッドを構成する通信インフラを検討するに当たって、AMIによる自動検針に必要な通信速度/通信ボリュームだけを考えるのではなく、少なくとも最初からグリッド最適化の通信インフラとAMI通信インフラを共通化することを前提とすべきであると主張しています。
では、一足先に配電自動化をやり終えてしまった日本はどうしたらよいのか?

2つ考えられます。

1つは、すでに出来上がっている配電自動化の通信インフラに、スマートメーターを繋げてしまえば良い。最寄の柱上トランスまで配電自動化の通信線が来ているなら、そして、そこからスマートメーターまで電気を送っているのだから、(電力線搬送にする電波法の規制撤廃が前提ですが)PLC通信を使えば、それほどラストワンマイルへの投資なしにAMIの通信インフラが実現してしまいます。

もう1つのアイデアは、スマートメーターの通信インフラは自前で持たないという選択で、ディズニー携帯のビジネスモデルが参考になると思います。
スマートメーター(ディズニー携帯相当)は、電力会社が検定を受けたものを家庭に設置。電力会社で必要なだけの帯域が常時確保できるかどうかの問題がありますが、月に1度、遠隔検針する/必要に応じて遠隔での給電開始・停止をするくらいなら、通信費用も含めて大丈夫ではないでしょうか。そして、自前で通信インフラをアップグレードしなくても、そのうち通信業者(ディズニー携帯の場合はソフトバンク)が携帯インフラを3Gから4Gにアップグレードし通信速度も格段と速くなるので、スマートグリッド用のアプリケーションで更に高速通信が必要となるころに、スマートメーター内の通信部分のみ入れ替えればよい。(電力会社として、通信高速化のための追加設備投資は不要)
プライバシー保護に関しては、スマートメーター内に、計測したデータを暗号化する回路を組み込んでおけば良いし、通信障害時の復旧も、通信業者任せにできる。

いかがでしょうか?配電自動化とは別にスマートメーター用通信インフラを低速の“ありもの”の技術を用いて自前で構築したものの、結局リアルタイム料金に基づくデマンドレスポンスやEVスマートチャージで使えないので、再度通信インフラを再構築するというような最悪のシナリオにはならないように願いたいものです。

出典:頂きものGALLERY2

なお、この2.3節でも、GTMリサーチの考えるスマートグリッドの最終予想図(文中青字)が紹介されています。飛行機と系統制御という対比は意外な感じもしますが、飛行機のコックピットにもメーターがたくさんありすぎるので、逐一操縦士が判断しなくても良いようオートパイロットのシステムが考えられた。膨大な数のスマートメーターや、送配電設備に付けられたセンサー情報を人間が逐一判断できないので、同じようなものが必要。それがスマートグリッドの真の姿だといわれると、なるほどと、納得してしまいました。
また、もっと異次元での話ですが、逐一人間が判断していられないという点で同じなのが、株価の推移などのデータ。システムトレードというのも、考えてみると株取引のオートパイロットですが、ブラックマンデーのような事態を再び引き起こさないために、どのような対策が採られたのか、スマートグリッドを考える上でも参考になるかもしれません。

次回は、2.4節 再生可能エネルギーと分散電源の統合をご紹介したいと思います。

終わり