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スマートグリッド業界のプレーヤーを概観するため、GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』の5章を簡単にまとめています。今回は第5.6節HAN/HEMSです。

なお、従来どおり、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。それと、また、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。

5.6 HAN/HEMS

5.6.1 コントロール4:Control4

ユタ州ソルトレイクに2003年設立されコントロール4は、住宅内の複数の部屋の音響、照明、温度および安全・危機管理を自動的に集中して行うプラットフォームを開発し、ハードウェアだけでなく、ホームオートメーション用のソフトウェアも提供している。
単に省エネだけでなく、照明や温度管理を通した「スマートホーム」の未来像実現に関心を持つ会社である。

住宅内の照明、AV機器、温度調整機器などはメッシュネットワークでセントラル・システムと統合される無線、有線のIPベースのホームオートメーションの製品ラインを持っており、「The Composer:指揮者」のソフトウェアが、すべての制御対象機器の場所、装置タイプ、接続形態とプログラミング(プログラムについては、このシリーズのブログ-その14:「エネルギーの使い方をプログラムする」について参照)を管理している。
以下に同社の製品を示す:

  • 照明:無線調光器、無線オンオフ・スイッチ、無線調光コンセントおよび無線オンオフ・コンセント
  • AV機器:Wi-Fiスピーカー・ポイント、イーサネット・スピーカー・ポイント、マルチ・チューナー、多重チャネルアンプ、オーディオ切り替えスイッチおよびDVDディスク・チェンジャー
  • 温度調節機器:ワイヤレスサーモスタット
  • タッチスクリーン:無線タッチスクリーン、壁かけ型タッチスクリーン、無線ミニタッチスクリーンおよびイーサネット・ミニタッチスクリーン
  • キーパッド:無線キーパッドおよびLCDキーパッド
  • 住宅制御機器:ホームコントローラー、メディア・コントローラーおよびホームシアター・コントローラー
  • アクセサリー:中継装置、システム・リモート・コントロール

さらに、同社の製品を用いたシステムを開発するための開発者向けツール:SDKも提供している。

【アナリスト ノート】

同社は、ホームエンターテイメントシステム・メーカーからのHEMS分野へ進出してきた異色の会社である。一般的に、家庭内のエネルギー管理は今後WEBベースのアプリケーションになると考えられているが、標準的な方法が確立するまでには、同社のようなユニークな方法が今後も出現するだろう。

5.6.2 エンバー:Ember

エンバーは、半導体チップおよびZigBeeワイヤレスホームネットワーク用ソフトウェアを開発・提供する会社で、同社の製品は、住宅やビルの省エネを支援するために使用されている。

エンバーはボストンに本部を置き、英国ケンブリッジに開発センターを持っている。同社はZigBeeアライアンスのボードメンバーで、ZigBeeを積極的に推進しており、そのプラットフォームは、802.15.4とZigBeeの相互運用性試験に用いられている。
2009年6月、最新のチップ、EM300シリーズを発表した。これは、世界で初めて、ARM 社製 32 ビット・コアCPU 「ARM Cortex-M3」を採用したZigBee SoC(System on Chip)で、小電力無線の世界で、最高のワイヤレスネットワーク・パフォーマンスを実現し、広範なアプリケーションへの適用が期待されている。

競合会社は、テキサス・インスツルメンツ、Freescale Semiconductor、アトメルのような、半導体メーカーである。

【アナリスト ノート】

エンバーは、MITで2001年に設立されて以来、急成長している会社で、同社の技術は100%ZigBeeワイヤレス・ネットワーク標準に基づいており、ZigBeeアライアンスの強力な推進者の1つである。
2009年6月時点で、ZigBeeは、住宅およびビル用の主要なネットワーク標準となっており、現在、エンバーは、そのZigBee半導体のマーケットリーダーである。
マイナス面としては、同業他社の参入で、このチップも急速にコモディティ製品化し、先行者利益が長続きしない可能性がある。

5.6.3 ゲインスパン:GainSpan

ゲインスパンは、ホームオートメーション/ビル・オートメーション用に用いられるWi-Fi半導体を製造する会社である。本レポートでは、この分野で業界標準となりつつあるZigBeeに対抗する無線技術としてWi-Fiにハイライトを当てるため、同社を取り上げた。
同社は、ワンチップでバッテリー駆動あるいはエネルギー・ハーベスティング(環境発電:概要はここを参照ベースのセンサー・アプリケーション向けのWi-Fiソリューションを提供している。
これは、完全なWi-Fi SoC(System on Chip)で、(1本の単3電池で)10年間機能することができる。
Wi-Fiアクセス・ポイントをふやすことで、ゲインスパンと提携企業はエネルギー消費とCO2排出を低減するとともに、住宅、商用および産業用のセンサー・ネットワーク・アプリケーションの設置・運用コストも削減することを目標としている。

Wi-Fi SoCの競合会社には、G2 MicrosystemsおよびZeroG Wirelessがある。また、エンバーのような先行するZigBee SoCメーカーとも競合している。

【アナリスト ノート】

現在、ゲインスパンの立場は苦しい。なぜなら、スマートメータリングの会社も、公益企業も、(家庭内電気機器制御用の)リモート・コントロール・メーカーもZigBeeを好んでおり、ZigBeeが業界標準になりつつあるからである。
しかし、ZigBeeの好まれる理由が、低消費電力、ネットワークのスケーラビリティおよび信頼性ならば、ゲインスパンにも、以下の理由で巻き返すチャンスはある:
1. Wi-Fiの必要電源は、数年前から比べて顕著に下がっている
2. Wi-Fiのセキュリティがよくなってきた(Wi-FiのWPA2プロトコルが長年にわたって発展してきた)
3. Wi-Fiは、ZigBeeと違い、IPアドレスでデバイスアクセスが可能

5.6.4 グーグル:Google PowerMeter

Google PowerMeterは、WEBベースのHEMSで、公益企業のスマートメーターやエネルギー管理デバイスから情報を得て、顧客それぞれのiGoogleホームページ上から、自宅の電力消費状況をアクセスできるようにしたものである。現在、SDG&E(サンジェゴ)、 グラスゴウ EPB(ケンタッキー)、リライアンス・エナジー(インド)、TXUエナジー(テキサス)を含む世界中8つのタイプの異なる公益企業でテストされている。
これらの公益企業で共通しているのは(1)住宅用スマートメーターを設置済みあるいは設置中で、(2)顧客が省エネ・倹約するため、必要な詳細情報にアクセスできるようにしたいと願望していることである。

この件で、グーグルは、2大スマートメーター・メーカーであるGEとアイトロン、およびエネルギー管理のベンチャー企業テンドリルとも提携したことを発表している。

【グーグルのエネルギー・ポリシー】

我々は、個人のエネルギー使用に関する詳細データは、その個人に帰属しており、標準的な形式で利用可能であるべきだと考えている。誰にそのデータを開示するか/しないかも個人の自由であり、(電力会社任せにするのではなく、グーグルを含めて)自分にとってより良い広範なサービスを提供するところに委ねればよい。
消費者の情報に関するこのポリシーが認められるよう、グーグルは連邦政府および州政府に働きかけている。
Google PowerMeterは、グーグルが保有するスケーラブルでセキュアなITアーキテクチャと、iGoogleプラットフォームを利用して、個々人のエネルギー利用状況の詳細を見える化することができる。
Google PowerMeterの目的は以下の3点である:
分析:どのようにエネルギーを使用しているか、より効率的にエネルギーを使うために何ができるかに関してより良い情報を得る。
節約:エネルギー使用法に関してスマートな決断を行うことで、電気代を下げ、CO2排出量を削減する。
共有:自宅のエネルギー消費を、友達や隣人宅のエネルギー消費量と比較する。
小型家電製品一つひとつの電力消費量はたいしたことがないので、大型家電のエネルギー・データ監視・提供に注力していく。
サード・パーティーの開発者や装置メーカーが独自の創意工夫を加えられるよう、グーグルは、Google PowerMeterの仕様をオープンにし、無償提供する。

【アナリスト ノート】

2009年のスマートグリッドに関する発表で世間を驚かせたことに、①グーグルが、HEMSビジネスに乗り出したこと、②グーグルが、その製品(Google PowerMeter)を無償で公益企業や顧客に提供したことがあげられる。この、グーグルのHAN分野への参入は、スマートメーター関連ハード/ソフト企業の構図を根本的に塗り替える可能性がある。
競合他社は、この分野に対する関心がふえるという点で、表向きグーグルの参入を歓迎しているものの、内心は穏やかではない。
現時点では、Google PowerMeterが一般家庭用エネルギー監視のデファクトスタンダードになるかどうか定かではない。
しかし、グーグルの参入により、この領域での競争激化は必至で、最終的には、素晴らしく使いやすくて、安価(あるいは無償)のソリューションを提供できないと生き残れないだろう。

※同社は、2009年9月Silverspring Networksに買収されています。

5.6.5 グリーンボックス:Greenbox Technology

マルチメディア技術プラットフォーム-Flashの創造者によって設立された、グリーンボックスは、公益企業および住宅向けの対話型エネルギー管理ソリューション(WEBベースのホーム・エネルギー使用ダッシュボード)を提供する会社である。
同社の製品を使うことで、自分のエネルギー使用状況を追跡・把握・管理し、節約しながら環境負荷を軽減することができる。家庭内の資源の無駄遣いがないか、洞察力のある分析結果が知らされるので、自分の価値観と優先度と照らし合わせて消費者は「賢い選択」をすることが可能となる。また、検討するに当たって、エネルギー使用状況の履歴や、地域内の他の利用者との比較などが、分かりやすく、グラフや図で表示される。

グリーンボックスは、スマートメーターの「下流」に位置し、主に電気代に関連するデータをリアルタイム表示することで、AMIの展開にてこ入れするものである。
さらに、グリーンボックスが提供するポータルは、スマート・サーモスタットや冷蔵庫など、理論的には住宅内のどのようなインテリジェントな家電機器とも通信可能である。

同社は、シルバースプリングと業務提携しており、OG&E(オクラホマ・ガス&エレクトリック)その他北米6社と現在実証試験を実施している。
kWh当たりの電気代が一番高い一般家庭と小売店舗を対象としてビジネス展開しているが、最終的には、「公益企業規模」に彼らのソフトウェアを展開させたい意向である。

【アナリスト ノート】

使いやすさと機能性の点で、グリーンボックスの製品に精通している人々は、一貫して高い評価を下しているが、どの会社がホームエネルギー・ポータルサービスの分野で成功するか/生き残れるか、現時点で予想するのは困難である。
問題は、グーグルの参入(Google PowerMeterのリリース)と、シスコが2009年5月にホーム・エネルギー管理の分野に参入すると表明したことだ。
競合会社には、テンドリルやグリッドポイントがあげられる。

5.6.6 オンゾ:Onzo

英国を本拠とするオンゾは、需要家が自分のエネルギー消費量を測定・監視する手段を提供する会社である。
2009年半ばに発売予定のオンゾ初の製品には、需要家のエネルギー消費削減・電気代縮小とCO2排出量削減に利用するインテリジェントなWEBポータルと、各家庭で見ることができるエネルギー・ディスプレーが含まれている。
オンゾのエネルギー管理システムは、スマートグリッドの通信ネットワークから得たデータを変換し、需要家にフレンドリで有益な情報を提供するよう設計されている。

【アナリスト ノート】

オンゾは、装置とサービスを合わせて、英国のサザン・エナジーから7百万ポンドの注文を獲得している。
ホーム・エネルギー管理の分野では競合がひしめいているので、勝者を予想するのは困難だが、新製品の発売前に注文を得ているのは良い兆しである。

5.6.7 テンドリル:Tendril Networks

テンドリルは、デマンドレスポンス、エネルギー監視、エネルギー管理、負荷制御用のハードウェア/ソフトウェア・ソリューションを提供する会社である。

コロラド州ボルダーに本拠を置く、スマートグリッド関連で有名なベンチャーの1つで、消費者向けに以下のような製品とサービスを提示している:
①ZigBee-HAN標準に基づいたエネルギー管理システム(EMS)、②スマート・サーモスタット、スマート・プラグや(エネルギー使用状況などの)インホーム・ディスプレーのようなスマート・デバイス、③WEBベースでiPhoneからも操作できるエネルギー管理サービス。
また、公益企業向けには、①公益企業向けEMS、②ネットワーク管理、③(大口顧客の機器などの)ダイレクト負荷制御、④小口顧客の負荷制御のようなアプリケーションを開発している。

テンドリルのDSM(Demand Side Management)プラットフォームはTREE(Tendril Residential Energy Ecosystem)と呼ばれ、エンドツーエンドの住宅向けエネルギー管理システムである。サード・パーティーのソフトウェア開発者は、その上で稼動するアプリケーションを開発することができる。
TREEを使うことで、需要家は自分のエネルギー消費パターンをより良く理解することができる。
エネルギー供給側にとっては、TREEは、顧客と深い関係性を築き、個々のニーズを満たしながら省エネを実現するスマートな省エネプログラムを展開するためのツールとなっている。

【Greentech Mediaの Jeff St Johnのノート】

テンドリルは、ZigBee通信規格を使用してネットワークにつながる、エネルギー利用状況を表示するディスプレー、壁のコンセントやサーモスタットを提供する会社である。
30を超える公益企業と取引があり、もう10社とも、実証試験を実施中で、その他、2009年は、月に約5,000~10,000軒の割合での住宅側のサービス展開を計画している。
ただ、最近レイオフを実施しており、開発したソフトウェアに関してサード・パーティーの装置製造会社にライセンス供与するとの発表もあった。

【アナリスト ノート】

とは言うものの、この不況の中、GoogleがHEMS分野への参入をアナウンスしたにもかかわらず、同社は2009年6月に、新たな資金調達に成功した。この事実は、エネルギー業界筋が如何にホーム・エネルギー市場へ期待をかけているかを物語っている。

以上、5.6節「HAN/HEMS」の分野のプレーヤー7社(グリーンボックスは、シルバースプリングに買収されたので実質6社)をご紹介しました。
文字だけの説明では分かりにくいので、各社の代表的な製品/サービスに関連する図を以下にあげておきます。

コントロール4:ZigBee方式の住宅内照明・温度調整機器の制御


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出典: http://www.4homecontrol.com/images/lightingclimate.jpg

エンバー:ARM 社製 CPUを採用したEM300シリーズZigBee SoC

出典: http://fplreflib.findlay.co.uk/articles/18632/ember1.jpg

ゲインスパン:GainSpan社製の低消費電力無線LAN LSIを搭載した、佐鳥電機株式会社の超小型無線LANモジュール WLN-G2-0S-11-1

出典:http://www.satori.co.jp/product/branch/3045/images/WLN-G2-0S-11-1.jpg

Google PowerMeter:電力使用状況を確認できるiGoogle画面

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出典:http://earth2tech.files.wordpress.com/2009/10/yello-strom-google-powermeter-08102009.jpg

グリーンボックス:ホーム・エネルギー管理ダッシュボード

出典:http://www.smartgridnews.com/artman/uploads/1/demo_sm.jpg

オンゾ:エネルギー使用状況ディスプレー

出典:http://www.onzo.co.uk/static/media/image_uploads/displaysensor2.png

テンドリル:WEBとiPhoneのエネルギー使用状況表示画面

出典:http://www.zdnetasia.com/i/2007/pg/62059784/sc003.jpg および http://greenmarketconsulting.files.wordpress.com/2009/09/tendrilvantagemobile.jpg

次に、例によって、GTMリサーチのスマートグリッドマップ上で、今回ご紹介したプレーヤーの位置づけを確認しておきましょう。

図の拡大

今回のプレーヤーは、大きく分けるとHANの通信用半導体チップ・メーカー(エンバー、ゲインスパン)、HEMS用のスマート・デバイス・メーカー(コントロール4、テンドリル、オンゾ)と、WEB上でのエネルギー管理用ポータルが主体のメーカー(グーグル、グリーンボックス、オンゾ)の3種類になると思いますが、GTMリサーチのスマートグリッドマップ上は、平面的に並んでしまいました。プレーヤーの位置関係をもっと明確に示すには、このマップを三次元にする必要がありそうですね。

では、次回は、5.7節「他の主要なプレーヤー」をご紹介します。

終わり