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スマートメーター/スマートグリッドに関してリサーチを始めた数年前は、スマートメーター/スマートグリッドという用語を使った日本語の書籍を探すのは困難でしたが、アスキー出版『スマートグリッド入門』(2009年12月初版)、日本電気協会新聞部『スマートグリッド』(2010年3月初版)など、昨年の終わりごろから読み応えのある有益な書籍が増えてきました。
その中で、エネルギーフォーラム編『「スマート革命」の衝撃 図解スマートグリッド』(2010年4月初版)は、シロウト向けの『図解本』だと思い無視していたのですが、最近になって読ませていただきました。(最寄りの図書館のリストで見つけリクエストしたところ、ウェイティングリストに乗り、やっと順番が回ってきました)

読んでみると、各界の専門家がそれぞれの観点でスマートグリッドに関連する事項を丁寧に解説されていて、十分読み応えのあるものでした。
既に発刊から時間が経過しているので、今更書評でもないのですが、前回のブログでご紹介した2020年型日本版スマートグリッドの方向性は、(原稿を書かれたのはもう少し前でしょうが)同書が発刊された今年4月時点で考えられていた「日本でのスマートグリッドのあり方」に沿ったものになっているのか、ギャップが発生していないかに興味を持ちました。
そこで、この書籍内で「日本型~」、「日本版~」、「日本における~」、「我が国~」などとして言及されている部分にスポットライトを当て、同書に寄稿した各界専門家が当時想像していた日本型スマートグリッドと、スマートメーター制度検討委員会/次世代送配電システム制度検討委員会での議論で形が見えつつある2020年型日本版スマートグリッドのギャップを検証してみたいと思います。
以下、文字色=黒の同書内の記述に対して、文字色=緑の部分が、想像を含めて2020年型日本版スマートグリッドと比較検証した結果、文字色=青の部分は、意見です。

では、始めます。

A.序説:なぜ、今「スマート革命」なのか-「第六節 日本におけるスマートグリッドの考え方と情勢」

  • 太陽光発電の大量導入が最大の課題で、その解決に、日本におけるスマートグリッドの意味がある
    2020年型日本版スマートグリッドの位置付けと合致しています
  • 日本型とかを言い過ぎると、携帯電話でガラパゴス化したことの二の舞になる懸念が捨てきれない。
    「日本型とか」を言う前に、関西電力型と東京電力型とでメーターの外見が全く異なっており、データ授受のプロトコルなども異なるのではないかと思われます。


出典:日経BP社ECO JAPAN

10月15日の合同検討会でも経産省事務局(電力・ガス事業部)より『スマートメーターの標準化について』という資料で方向性が示されていましたので、それも確認しておきましょう。

通信における標準化


出典:10月15日の合同検討会配付資料6-4ページ

データフォーマットの標準化


出典:10月15日の合同検討会配付資料6-6ページ

どうやら2020年型日本版スマートグリッド用のスマートメーターは、先行している関西電力と東京電力とで概観が異なっているように、電力会社ごとに設計され、標準化は行われない可能性が大きそうです。
その意味で、懸念されていたガラパゴス化は必至と見られます。
しかし、本来、メーターとのやり取りを行う「電文」に含まれる内容にはあまり違いはないと思われるので、せめて「電文変換器」を通して、HEMSや第三者に標準化した形でデータを渡したい-というのが経産省側の意向であるように思われます。

  • 既存のエネルギーシステムと抵触する部分もあろうが、全体最適の中でシステムの折り合いをどうつけていくかの議論が必要。
    電力会社としての全体最適を考えると、スマートメーターの通信インフラを改めて構築するよりは、配電自動化で配備済みの保全用電力ネットワークをスマートメーターにも活用することが、二重投資を避けることができる良策ではあります。しかし、保全用電力ネットワークのトラフィックの空き容量が十分確保できないので、スマートメーターでやり取りするデータの粒度/頻度を制限し、リアルタイム価格導入をベースとしたデマンドレスポンスやV2Gなどの海外のスマートグリッドでもてはやされている機能に目をつぶるのだとしたら、本末転倒。山家氏の指摘どおり、日本型スマートグリッドとして、「全体最適の中でシステムの折り合いをどうつけていくか」更なる議論をして欲しいものです。
    ただし、議論を進めるに当たっては、スマートメーターと必要な通信設備の設置・保守費用を誰が負担するのかが問題で、①すべて電力会社負担、そして、②2020年代の早い時期に100%スマートメーターを導入しなければならないとすると、現実的には、ガラパゴス化もやむなし-という気がします。
    経産省、総務省、国交省など関係省庁が連係して、スマートグリッドだけでなく、スマートコミュニティもITSも『相乗り』できる次世代情報基盤としての日本版情報ハイウェイを国家予算で・・・となると、2020年型日本版スマートグリッドを実現した次のフェーズで考えることにならざるを得ないのでしょうか?

B.第2章 次世代エネルギーインフラがもたらす「スマートシティ」

  • “街づくり”という視点でのスマートグリッドへのアプローチ、即ち「スマートシティ」としての取組みは、既に高度なエネルギーインフラを保持している我が国こそふさわしいものではないだろうか?
    2020年型日本版スマートグリッドの実現範囲には、スマートシティは含まれないと考えた方が良さそうです。スマートシティはスマートシティで、スマートハウスやスマートビルと連係して、実証実験から普及へと進んでいくと思われますが、2020年型日本版スマートグリッドで採用されるスマートメーターは、HEMS/BEMSのゲートウエイとしての機能までは果たさないのではないか、通信インフラも共有されないのではないかと思われます。

C.第4章 新エネルギー系統連系技術とスマートグリッド-なぜスマートグリッドが必要なのか

  • 我が国の場合、新エネルギーとして太陽光発電の導入が注目され <中略> NEDOのPV2030のロードマップに記述されている2030年100GWという設置規模は、系統規模の2分の1に達する。このような高い新エネルギーの導入率は、系統の電圧管理、安定度維持、需給の確立に大きな問題を与え、新たな系統対策が必要になる。この方向こそがスマートグリッドそのものを指していると考えられる。
    ここに述べられているのは、2020年型日本版スマートグリッドのそのものだと思います。

D.コラムⅢ 欧米と日本の違い-あるべき「日本型スマートグリッド」の姿とは

  • 日本の事情:家庭用太陽光発電の大量導入
    そのとおりですね
  • 「日本型スマートグリッド」構築に向けて克服すべき技術的課題


出典:136ページ 拡大表示

ここに2020年型日本版スマートグリッドで対処しようとしている課題がまとめられています。
2020年型日本版スマートグリッドは、スマートシティなど次世代の我々のライフスタイル実現のためのインフラではなく、これらの課題への対処を目的とした限定的なものと考えた方が良さそうです。

  • 「2020年」という期限は近すぎるとも言えるが、技術的・社会的な課題及びその解決策を明らかにし、「どれくらいスマートなグリッドを、どれくらいのコストを掛けて構築するのか」について国民的な議論を行った先にこそ、そのゴールは見えてくる
    そのとおりだと思います。2020年型日本版スマートグリッドの機能範囲を決定するに当たって、まずは前提条件から考え直してみることも重要ではないでしょうか?
    そもそも、
    ①2020年までに太陽光発電2800万kWの大量導入という政府目標は本当に実現可能なのか?
    ②2020年代のなるべく早い時期に原則スマートメーターを100%設置するというエネルギー基本計画を見直さなくて良いのか? もっというと、日本版スマートグリッド、スマートシティを実現する上で、スマートメーターは必須なのか?

    逆に、
    エネルギー基本計画では、ゼロエミッション電源(原子力及び太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギー由来の電源)を、2030年までに約70%にまで拡大させることが目標となっており、その基幹エネルギーとして、2020年までに9基、2030年までに少なくとも14基以上の原子力発電所を新増設する計画となっています。一般家庭用太陽光発電の出力抑制をPCS内のカレンダーで対応させるという方針は、原発増設によるベース電源増加を見越した上で、考えられているのでしょうか?

今回は、エネルギーフォーラム編『「スマート革命」の衝撃 図解スマートグリッド』を読んで、2020年型日本版スマートグリッドの方向性とのギャップを検証したところ、2020年型日本版スマートグリッドの前提条件見直し論に行き着いてしまいました。
長くなってきましたので、一旦終わりとし、上記①~③の前提条件の検証については、改めて考えてみたいと思います。

終わり