© Copyright HENRY CLARK and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

前回、スマートメーター制度検討委員会/次世代送配電システム制度検討委員会での議論で形が見えてきた2020年型日本版スマートグリッドの方向性と、エネルギーフォーラム編『「スマート革命」の衝撃 図解スマートグリッド』でスマートグリッド関連の専門家が想定していた日本型スマートグリッドのギャップを検証し、2020年型日本版スマートグリッドが良い方向に向かっているのかどうか判断するに当たって、以下の3つの事項を見直した方が良いのではないかという考えに達しました。すなわち、
1)「2020年太陽光発電2800万kW導入」という政府目標は、達成可能なのか?
2)「2020年代の早い時期に、双方向通信のできるスマートメーターを原則100%設置する」というエネルギー基本計画の目標を見直さなくて良いのか? もっというと、日本版スマートグリッドを実現する上で、スマートメーターは必須なのか?
3)同じくエネルギー基本計画にある「2020年までに9基、2030年までに少なくとも14基以上の原子力発電所を新増設する」という目標が、基本計画どおり達成された場合、ベース電源容量が増えすぎ、PV出力抑制しなければならない日が、正月・ゴールデンウィークのような特異日だけではなく、ほとんどすべての週末・祝日(場合によっては平日)にまで及び、2020年型日本版スマートグリッドの導入目的である太陽光発電導入促進と矛盾を来さないか?

今回は、この3つについて考えてみたいと思います。

では、始めます。

1.2020年までに太陽光発電2800万kWの大量導入という政府目標は本当に実現可能なのか?

2020年型日本版スマートグリッドは、2020年までに太陽光発電2800万kW大量導入するという政府目標への対応が最大の課題となっていることは、『「スマート革命」の衝撃 図解スマートグリッド』でも確認できました。しかし、そもそも政府目標が「絵に描いた餅」で終わりそうなら、系統への太陽光発電の大逆潮流を心配するには及びません。そこで、まず、太陽光発電大量導入の政府目標が達成可能な数字なのかどうか、確認してみようと思います。

出典:経産省:太陽光発電の導入シナリオ(試算) 1ページ  拡大表示

この政府目標は、2009 年麻生首相(当時)の発言をうけ、「長期需給見通し」の再計算が行われた際に、新エネルギーの導入目標量が示されたもので、経済産業省ホームページ ⇒ 審議会・研究会・報告書 ⇒ 「長期エネルギー需給見通し(再計算)について」(http://www.meti.go.jp/report/data/g90902aj.html)で確認することができます。

【「長期エネルギー需給見通し(再計算)について」 6ページ】

エネルギー起源CO2排出量見通しとして最大導入ケース(実用段階にある最先端の技術で、高コストではあるが、省エネ性能の格段の向上が見込まれる機器・設備について、国民や企業に対して更新を法的に強制する一歩手前のギリギリの政策を講じ最大限普及させることにより劇的な改善を実現するケース)に対し、「住宅」への太陽光パネルの普及を、2020年頃までに、2005年の20倍程度(非住宅用含む、うち住宅用として約530万戸に設置)となっている

【「長期エネルギー需給見通し(再計算)最大導入ケースにおける主要対策の具体的な内容について」 1ページ】

長期エネルギー需給見通し(再計算)の対策に関する検討の「類型A:今後急速な普及が必要となるもの」として、太陽光発電2020年2800万kWとなっている。

したがって、この政府目標が達成可能かどうかは、2020年までに太陽光発電が530万台導入されるかどうかを検証すればよいことになります。
2020年までの新築住宅販売予測データがあればベストなのですが、インターネットで調べたところ、国交省の建築着工統計と、第一生命経済研究所のEconomic Trends「2009~2011年度の住宅着工戸数予測」しか見つかりませんでした。
それによると、新設住宅着工戸数は2006年129万戸(実績値)、2007年106万戸(実績値)、2008年109万戸(実績値)、2009年79万戸(実績値)と推移しており、2010年78万戸(予測値)、2011年91万戸(予測値)。今後100 万戸を大きく上回る水準まで増加することは難しい-と予測されています。
そこで、2012年~2020年の新設住宅着工戸数を100万戸と仮定すると、2010~2020年の新設住宅着工戸数合計は、1100万戸弱。530万戸は、その50%弱となるので、新設住宅の2軒に1軒太陽光発電が導入されると、目標達成となります。
国及び自治体による太陽光発電導入への補助金制度に加えて、2009年11月から太陽光発電の余剰電力買取り制度が始まったので、10年で初期費用を回収でき、かつ地球温暖化阻止に貢献できるなら、新設住宅購入者の立場で考えると、太陽光発電導入にそれほど抵抗感はないのではないでしょうか?(下図参照)

出典:経済産業省:太陽光発電の導入シナリオ(試算)2ページ目  拡大表示

新設住宅への太陽光発電導入予測ばかりでなく、既設住宅への太陽光発電導入予測もしなければなりませんが、既設住宅へ太陽光発電を導入した場合のコスト回収には15年ほどかかるようで(下図参照)、太陽光発電導入の主流は新設住宅になると思われます。

出典:経済産業省:太陽光発電の導入シナリオ(試算)3ページ目 拡大表示

なお、余剰電力だけではなく、太陽光発電を含む再生可能エネルギーの全量買取り制度に関しても検討されていましたが、2010年8月、経済産業省より「再生可能エネルギーの全量買取り制度の大枠について」(http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004629/framework.html)で報告されています。それによると、住宅用太陽光発電は、余剰電力買取りのみで、全量買取りの対象外。太陽光発電に限って言うと、全量買取り制度は、政府目標2800万kWの約3割を占める(太陽光発電の導入シナリオ(試算)の図参照)メガソーラーなど非住宅向けの太陽光発電導入促進対策であることが分かります。

2.2020年代のなるべく早い時期に原則スマートメーターを100%設置するというエネルギー基本計画を見直さなくて良いのか? もっというと、日本版スマートグリッドを実現する上で、スマートメーターは必須なのか?

1.で、補助金その他の制度により、「2020年の太陽光発電導入量2800万kW」という政府目標は、それほど非現実的な数値ではないことが確認できました。

そのような、2020年太陽光発電導入量2800万kWが実現した場合の課題対応が2020年型日本版スマートグリッドですが、10月15日の合同検討会配付資料5(前々回ブログ「双方向通信に関する考え方」参照)では、「当面(今後10年程度)、スマートメーターの機能範囲を、遠隔検針、遠隔開閉および計測データの収集・発信までとし、太陽光発電の出力抑制(カレンダーの書換え)については、機器の開発や実証試験等を踏まえ、導入時期や通信方式について検討を行っている」とされており、スマートメーター経由でのPCS内のカレンダーの遠隔書換えすら、当面(=2020年くらいまで?)は行わないことが示唆されています。

そうだとすると、日本で、性急にスマートメーターを導入する必要があるのでしょうか?

  1. もし、『2020年代の可能な限り早い時期に、<中略>原則すべての電源や需要家と双方向通信が可能な世界最先端の次世代型送配電ネットワークを構築するのが望ましい』とするエネルギー基本計画に記載された実現時期に合わせてスマートメーター化を急いでいるのだとしたら、
  2. そして、エネルギー基本計画に指定された実現時期にあわせるために、電力会社としては、既存の電力通信ネットワークをスマートメーターのデータ授受に流用しようとしているのだとしたら、
  3. 更に、その電力通信ネットワークのトラフィックの空き容量が少ないので、スマートメーターのデータの授受の粒度/頻度を制限しようとしているのだとしたら

ここは、エネルギー基本計画に記載されたスマートメーター100%導入の時期を優先するのではなく、2020年2800万kWの太陽光発電導入への対処は、PCSのカレンダー機能に任せてはどうでしょうか?

そして、スマートコミュニティ/スマートハウス/スマートビルとのインタフェースの標準化ならびに、通信インフラの共通化を念頭に置いてスマートメーターの機能範囲を再検討し、次世代社会システムとして全体最適を図ったほうが良いのではないでしょうか?

下図は10/15の合同制度検討会でのNTT篠原氏のプレゼン資料ですが、左下部分で、スマートメーターとSGW(サービスゲートウェイ:HEMS用ゲートウェイ)で機能分担する方向性が示されています。

出典:10月15日の合同検討会配付資料3-2ページ  拡大表示

図の上段に、NTTの考える「HEMSサービスの実現と方法」として2点指摘されていますが、スマートメーターとSGWがこの様に機能分担する理由として、エネルギー基本計画に記載された100%導入完了時期が影響しているのではないでしょうか?2020年型スマートグリッドではスマートメーターは必須とせず、できればスマートメーターとSGWをあわせて1つにする。少なくとも、スマートメーターの情報通信ネットワークと、SGWの情報通信ネットワークが独立に構築され、接続・連係できないなどということがないように願いたいものです。

3.エネルギー基本計画どおりに原発が増設・稼動すると、2020年時点のベース電源容量が増えすぎ、PV出力抑制しなければならない日が、悪くすると平日にまで及び、太陽光発電導入促進という目的と矛盾を来さないか?

2.では、2020年型日本版スマートグリッドが対応するべき課題(すなわち、系統へ悪影響を及ぼすことなく2020年太陽光発電2800万kW導入目標を達成する)に立ち返った場合、需要家へのスマートメーター導入は必須ではないのではないか。スマートメーターの導入・展開に当たって、実現時期がエネルギー基本計画より遅くなっても、スマートグリッドとスマートコミュニティ(や、更に将来の、モノのインターネット)の共通情報通信インフラを模索し、社会コストの全体最適を図るべきではないか-という意見を述べさせていただきました。

ただし、心配な点が1つ残っています。それは、同じくエネルギー基本計画に記載されている原子力発電所の増設計画です。

3月に経産省資源エネルギー庁が発表している「平成22年度電力供給計画の概要」 16ページの「(3)原子力発電の開発計画」によると、「平成31年度(2019年度)までに9基(約1,294万kW)が運転開始し、現在運転中のものも含めると同年度末合計で62基(約6,170万kW)になると計画」と記載されています。
また、同資料8ページの2020年度末設備容量を見ると、最大導入ケースの新エネルギー容量は、太陽光発電導入目標2800万kWを含めて3300万kW。したがって、ベース電源は原子力発電以外にもありますが、新エネルギーと原子力発電をあわせただけでも、9470万kW。ベース電源には、発電量の調整が利かない流れ込み式の水力発電所も含まれるので、2020年のベース電源+新エネルギーの最低発電容量は9500万kWくらいと考えましょう。(ベース電源には、火力発電も含まれますが、発電量は調整可能なので、最低発電量には含めないことにします)

それに対して、2020年の特異日や休日の電力需要を予測しなければなりません。
同じく「平成22年度電力供給計画の概要について」2ページの「2.今後10年間の電力需給の見通し」によると、平成31年度(2019年度)の最大需要電力が18257万kW、また、平成20~31年度の最大需要電力の年平均伸び率を0.4%としていますので、2020年の最大需要電力は、2019年度の値の0.4%増しの、18330万kWとします。
ただ、同資料にも、2020年の特異日や休日の電力需要予測の数字はありません。
少し古い資料になりますが、九州電力系統運用部能見氏の講演資料と思われる「エネルギーと地球環境問題について」の中に、九州電力管内の季節別および正月の電力需要の日負荷曲線を見つけました。

出典:九州大学応用力学研究所高温プラズマ力学研究センター (正月及び春の日照時間帯の色づけは、インターテックリサーチ)  拡大表示

この2001年九州での夏/春/正月の最大需要、最低電力の比と、先ほど計算した2020年夏の最大電力予測値18330万kWから、2020年正月および春の最大電力、最低電力を予想すると:

【2020年正月の電力需要予測】

• 最大電力:9384万kW (18330×8570/16740)
• 最低電力:6647万kW (9384×6070/8570)
ただし、上図で太陽光発電が行われる時間帯(ピンクの部分)の平均的な電力需要は、最大需要と最低需要の中間の8000万kWくらい

【2020年春の電力需要予測】

• 最大電力:10282万kW (18330×9390/16740)
• 最低電力:7413万kW (10282×6770/9390)
ただし、春(2001年4月18日)のデータは水曜日のデータです。 PV出力抑制対象となる2001年春(および秋)の休日の電力需要は、冬(2001年1月16日火曜日)と正月の日負荷曲線ほど差が大きくなくとも、ウィークデーより電力需要が低いはずです。そこで1割ほど差し引いて、8500万kWくらいと考えて見ましょう。

非常に大雑把ですが、これで、2020年時点の特異日および端境期休日の電力需要予想値と、同じく2020年時点の新エネルギー+ベース電源最低発電量の予想値が求まりました。
2020年時点で太陽光発電を含む新エネルギー+ベース電源最低発電量がどれほど電力需要量を上回るか/下回るか計算すると

【特異日】

• 最大電力需要時: 116万kW (9500 - 9384)
• 平均電力需要時: 1500万kW (9500 - 8000)
• 最低電力需要時: 2853万kW (9500 - 6647)

【春(および秋)の休日】

• 最大電力需要時: -782万kW (9500 -10282)
• 平均電力需要時: 1000万kW (9500 - 8500)
• 最低電力需要時: 2087万kW (9500 - 7413)

以上、2020年時点で太陽光発電2800万kWの値が、特異日の最低電力需要時に発電量がオーバーする量2853万kWとほぼ同じ値となるので、需給のマッチングを図るためには、太陽光発電の出力抑制が有効であることが確認できました。

今回、非常に大雑把な数字を用いての計算ですが、

  • 制度検討委員会での議論のベースとなっている、2020年時点での太陽光発電導入の政府目標の実現可能性を検証し、
  • 同じく2020年時点で長期需給計画通り原子力発電所が増設された場合も、PCSカレンダー機能で出力抑制できれば、懸念されている太陽光発電大量導入による系統への逆潮流問題は回避できることが確認できました。

それ故に、スマートメーターの機能範囲を限定してでもスマートメーターの配備を急いでいるように見受けられる制度検討会の流れに関して、本当にそれでよいのか疑問を感じています。

スマートグリッドでは、とかく電気の流れの最適制御にのみ目を奪われがちですが、ガス・水道や熱供給の最適制御も、ITSのような車の流れの最適制御も、モノの流れの最適制御という観点では同じなので、垣根を取り払い、次世代エネルギー・社会システムとして共通の情報通信インフラを利用した全体最適を考えていただきたいと思います。

終わり