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最近、原子力発電の将来に関して、今すぐ全面撤廃しろという意見から、それはおかしいという擁護論まで、いろいろな意見が飛び交っています。しかし、仮に脱原発の方向性に動き出すとしても、明日からすべて再生可能エネルギーに置き換えるという訳にはいきません。その場合でも、現在稼働中の原発の耐用年数が来たら順次止めて、並行して再生可能エネルギーの利用を促進していく-というのが、順当な道筋だと思われます。ただ、出力変動の大きい再生可能エネルギー由来の発電設備が大量に系統接続されたら、系統の安定性が保てなくなる。不安定な再生可能エネルギーの出力を補完するため、将来的には系統側に大規模蓄電池を装備することが考えられますが、今の技術では火力発電所を増設するしかない。原子力発電と違って温暖化ガス排出量が増えるが、それでも良いのか?といった議論もよく耳にします。

そんな中、7月13日の産経新聞に掲載されていた、アイスランドの地熱発電の紹介記事「地熱発電に沸くアイスランド 支えるのは日本の技術」。中でも、最後の方に書かれていた下記の箇所に目がとまりました。
日本の地熱資源量は約2千万キロワットと米国、インドネシアに次ぐ世界3位で、原発20基分に相当する。
太陽光発電や風力発電と違って出力変動の少ない地熱発電は、実は、原子力発電を代替する場合、一番ふさわしい「再生可能エネルギー」ではないか? そう思って、地熱発電をインターネットで検索すると、すでに何人もの方が、その方向の発言をされているのがわかりました。

  ブログ:老兵は黙って去りゆくのみ

2011-05-13 『じじぃの「地熱発電・原子力に代わる新エネルギーは?バンキシャ」』

まず、地熱発電に関するいろいろな参考となる動画へのリンクが張られていますが、最初の「NHKニュースウオッチ9 ピックアップ」の動画(ニュージーランドの地熱発電の紹介)のリンクがなくなっているようですので、下記に、その内容と思われるリンクを張っておきます。

  Dailymotion「“地熱”進めるニュージーランド

その他に、地熱発電に関して、『原発の代替発電手段・本命は「地熱発電」』という東大名誉教授の安井至氏の提言(2011.3.30)や、フジテレビ「知りたがり!」(2.11.5.12)等が紹介されており、最後に「じじぃの感想」として、以下のように述べられています。

日本には手づかずの資源があるのだそうだ。
それは、国立公園にあるのだという。
国立公園の中に地熱発電所があったっていいじゃないか。

  ブロガーズ・ネットワーク翼

2011.7.9 『自然エネルギー復興にはやはり政府のインセンティブが必要ですね』

ここでは、「米国のCHPに見る毀誉褒貶(ブログ「Googleがスマートメーターを切り捨て?」内)に似た、政策に翻弄される日本の地熱発電開発動向(下記グラフ)が目を引きました。

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この図を見ると、地熱発電に対する優遇制度がなくなって、1996年以降、地熱発電の開発が止まってしまったことが、一目瞭然です。
まだ、独り立ちできる技術まで成長していなかったにもかかわらず、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」 (新エネルギー法)制定時に、地熱発電が、政府の優遇策を受ける「新エネルギー」のカテゴリーから外されてしまったのが決定的だったようです。

 NIKKEI BPnet 猪瀬直樹の「眼からウロコ」

2011.7.12 『菅さん、地熱発電の特徴と仕組み教えます』は、猪瀬氏の八丈島の地熱発電所訪問の様子を紹介した後、『世界の地熱用蒸気タービンでは、日本が66%と圧倒的なシェアを誇る。富士電機、三菱重工、東芝の国内3社で、世界シェアの3分の2を占めている。この日本の技術力を国内外で生かさない手はない。日本における地熱発電のポテンシャルは、自然公園特別保護地区を除いて約1500万キロワット(原発15基分)<途中省略>川崎天然ガス発電所(コンバインドサイクル発電所)や太陽光発電と合わせて、地産地消型発電を広げていくことが、「脱原発」への着実な道筋となる。』と発言されています。

また、以下は、地熱発電の課題を確認する上で参考になりました。

産業技術総合研究所Green Report 2008

「再評価されつつある地熱開発ニーズに応えて  村岡洋文氏」では、
日本の地熱開発の課題として以下が挙げられています。
① 国の政策的導入目標が0となっている
② 初期投資リスクに対する国のコスト優遇策が他国に比べて低い
③ 許認可優遇策が低く、長い開発リードタイムを要する
④ 国立公園の開発規制区域がほとんどの火山地熱地域を網羅している
⑤ 地熱研究開発が2002年度に停止され、将来技術の研究機会がない(主要地熱資源国ではわが国のみ)

 資源エネルギー庁

平成20年12月~平成21年6月にかけて、「地熱発電に関する研究会」が4回開催され、その報告書(中間報告)が平成21年6月付けで出されています。
この報告書の中では、地熱発電の課題として、以下が挙げられています。

① 開発リスク

新たに地下深部の調査を行い、発電計画の策定に必要な地熱流体のデータ等を取得する必要がある。しかし、現行の最新の探査技術等を用いても、地熱系モデルを構築することは容易でなく、また、これを用いた地熱貯留層評価の予測値と実測値を完全に一致させることはできない。このため、坑井掘削位置の効率的な選定や運転後における地熱貯留層の管理等に関して不確かな部分が残り、開発の結果、計画どおりの蒸気量が確保できないなどの開発リスクがある。

② 開発コスト

1) 開発のリードタイムが通常 10 年以上と長く、この間の人件費、金利等が負担となる。
2) 調査・開発段階で多数の坑井を掘削する必要があり、これに多額の費用を要する。
3) 基幹送電線から離れた場所で行われることの多い地熱発電所の建設に当たって、新規の送電線の建設が必要な場合があり、これに多額の費用を要する。
4) 運転中にシリカスケールの付着等から、蒸気生産井や還元井の減衰等を招き、追加的に補充井の掘削等が必要となる。

③ 自然公園法等の関係法令の諸規制

1) 国立、国定公園内においては、自然公園法に基づき、風景や自然環境の保護のため、工作物の設置、木竹の伐採、土石の採取等の開発行為が規制されている。
2) 地熱資源を調査したり、地熱発電を開発するために坑井を掘削する際には、温泉法に基づき都道府県知事の許可が必要となる。その際、周辺の既存源泉の所有者から同意書を得るよう指導している都道府県もある。
3) 都道府県によって、温泉保護のため掘削等を制限する特別な区域を定めたり、既存源泉から一定距離内での掘削を認めない距離規制を行ったりしている。
4) 地熱発電は環境影響評価法の対象である出力 1万kW以上が必ず環境影響評価を行わなければならない第1種事業に、出力 0.75 万kW以上 1万kW未満が環境影響評価を行うかどうかのスクリーニングを行う第2種事業に位置付けられている。また、条例によって、更に小規模なものも環境影響評価の対象としている都道府県もある。
5) 地熱発電で利用する蒸気、熱水は、一般の火力発電設備で利用する蒸気に比べて低温、低圧であるが、電気事業法における保安規制においては、地熱発電は火力発電設備に含まれており、同様の規制がかかっている。そのため、温泉発電等小規模な地熱発電においても、ボイラー・タービン主任技術者の選任等が必要となり、発電コストを押し上げる要因にもなっている。

④ 地元温泉事業者等との調整

1) 地熱資源のほとんどが温泉地に近接しており、地熱発電の開発に際して、温泉の枯渇等に対する懸念を抱く温泉事業者等からの反対があると、温泉法の許可手続が円滑に進まない場合もある。
2) 温泉法の許可が得られたとしても、反対がある中での坑井の掘削は困難であり、地熱発電の開発が不可能となる。
3) それが可能な場合でも、温泉事業者等との調整に時間を要し開発期間が長期化する

①開発リスクの軽減策として、NEDO が我が国における新規の地熱有望地域について、先導的に地表調査や掘削を行って地熱資源量の概略を把握。2001 年度に「地熱開発促進調査(戦略的全国調査)」としてその結果を取りまとめていますが、「更に調査地点を絞った上で、国が事業化を促進するための調査を行うべきである。」としており、本年度も資源エネルギー庁から「平成23年度新エネルギー等導入基盤整備調査(地熱開発導入基盤整備調査)」の入札公告が7月5日に行われています。
また、これ自体も②開発コスト低減策の1つですが、その他の開発コスト低減策として、RPS制度を基本とした支援策が提言されています。
※現在、「地熱資源である熱水を著しく減少させない発電の方法であること」が地熱発電のRPSの認定基準となっており、事実上、地熱発電をRPS制度の枠外に押しやられていたようです。
同時に、地熱発電開発の補助金の補助率を太陽光、風力等の新エネルギーと同等程度まで引き上げる、初期開発コスト高の要因の一つになっている送電線経費についても補助対象とすること等が提言されています。
③諸規制対応については、あまり歯切れがよくなく、「規制当局の理解を得るべく調整を図る、要望事項をまとめる」というスタンスにとどまっています。④の立地地域との共生に関しても、「データを積極的に公開することにより、調査段階から、地域の信頼と協力を得る」、「電源立地地域対策交付金等の制度を積極的に活用する」等の提言にとどまっています。

 富士時報 Vol.84 No.2 2011 地熱発電プラントの信頼性を向上させる技術

ここでは、地熱発電の技術的な課題として「地熱蒸気には,二酸化炭素や塩化物,硫酸塩,硫化水素など種々の腐食性化学物質が多量に含まれている。不純物の大部分は,蒸気タービン上流に設置された気水分離器などで除去される。しかし不純物は完全には除去できず,ガス成分に至っては全く除去されない<途中省略>一般火力に比べて 100 〜 1,000 倍も多く,機器の腐食や堆積物による稼動率または性能低下をもたらす要因となる。」と指摘されており、その対策が示されています。

 地熱発電の環境への影響  小波盛佳

ここでは、地熱発電が環境に及ぼす影響として、以下が指摘されています。
1)温泉の枯渇:汲み上げによって温泉資源が減少または枯渇する
2)崖崩れ:汲み上げまたは不用水の還元(地中への戻し)によって変化する
3)地震:汲み上げまたは不用水の還元に伴って地震が誘発される
4)地下水の汚染:不用水の還元によって毒性の物質が他の地下水を汚染する
5)大気汚染:毒性のある気化性物質によって大気が汚染される
6)表層土の汚染:毒性のある気化性物質,固形物質によって大地が汚染される
7)景観の悪化:人工構築物および白煙によって景観が損ねられる

これまでも、地熱発電の存在は知っていましたが、比較的地味な存在なので、あまり深く考えたことはありませんでした。

寄藤昂氏のHPにある「現代日本の社会 2011-新エネルギーに関する資料」の資料15-6.『「地球環境適応型地熱開発戦略」東北大学 新妻研究室』によると、地熱発電は、発電電力量当たりのCO2排出量が太陽光発電や風力発電よりも少なく、

1998年時点での自然エネルギーによる発電実績では、設備容量で全体の41.7%にもかかわらず、発電量では、全体の69.6%を占める優秀な発電方法です。

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また、開発コストに関してですが、米国エネルギー情報局(U.S. Energy Information Administration)の資料「Levelized Cost of New Generation Resources in the Annual Energy Outlook 2011」のデータによると、100万Wh発電毎に必要な「初期建設費用」、「固定運営維持管理費」、「燃料費も含めた運営維持管理費」、「送電機材の投資費用」を合わせた「総経費」を電源種別コスト比較すると以下のようになっています。

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出典:Garbagenews.com 「従来型・新エネルギーの純粋コストをグラフ化してみる」 2011.4.24

米国での例になりますが、開発コストを含めた地熱発電の総コストは、太陽光発電、洋上風力発電のほぼ半分で、通常の風力発電とほぼ互角になっています。

世界第3位の地熱資源量を持つ日本は、脱原発路線をとるにしろ、とらないにしろ、原発20基分(あるいは自然公園特別保護地区を除いて原発15基分)に相当する、また、太陽光発電や風力発電よりずっと出力が安定した地熱発電を有効利用しない手はないのではないでしょうか。

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IEAによる米国のCHP/DHC評価に見られるように、新技術を推進するためには、政府の経済的な優遇策が必要なことと、1つ1つを見ると正しい理由のある監督官庁ごとの規制措置が、ある技術(ここでは地熱発電)普及の阻害要因になってしまっていることがわかりました。自然公園法、温泉法、環境影響評価法、電気事業法それぞれで考えるのではなく、このような問題こそ、省庁の壁を越えた政治主導での解決を図っていただきたいものです。

その他、地熱発電促進のために、以下のような提案をしたいと思います。

• (脱原発であってもなくても)まずは、地熱発電に対する国の政策的導入目標を定める
• 初期投資リスクを軽減するため、国の補助金をアップする(出力変動の大きな太陽光発電や風力発電より補助金を優遇しても良いくらいだと思います)
• また、低炭素社会実現およびエネルギーセキュリティにも貢献する地熱開発に関しては、新規の地熱有望地域の地表調査や掘削、立地地域との調整までを国が行い、それ以降を民間会社に委ねるようにする
• 地熱発電候補地が国立公園の開発規制区域内でも、ほとんどの施設が地下で景観を乱さないものは、積極的に新規建設を認可する
• 日本の地熱発電技術を更に発展させるため、2002年度以降停止された地熱研究開発への予算を復活させ、日本企業が地熱発電のビジネスで更に技術的優位を確保できるように努める

以上、地熱発電についてリサーチし、思ったことをまとめてみました。

CHP/DHCを取り上げて以来、これまでのスマートメーター/スマートグリッドの範疇から一見するとフォーカスがずれてきていると思われるかもしれません。が、自分の中では、エネルギー利用効率向上(=一次エネルギーの有効利用)、再生可能エネルギーの有効利用はスマートグリッド導入目的(の1つ)という観点でつながっています。

次回ですが、6月にIEAが地熱発電の技術ロードマップ「Technology Roadmap Geothermal Heat and Power」を公開していますので、その内容をご紹介しようと思っています。

終わり