© Copyright Adrian Bailey and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

少し前に、ブログ「スマートメーター制度検討会報告書について思うこと」で、スマートメーターの展開に関して以下の持論を展開しました。

  • エネルギー基本計画の見直しにあたって、「2020年代の可能な限り早い時期に、原則全ての需要家にスマートメーターの導入を目指す」方針を撤回し、
  •  スマートメーターの導入完了時期を優先してスマートメーターの機能範囲を決定するのではなく、
  • 日本型スマートグリッドがいかにあるべきかを優先し、そのためにはスマートメーターの仕様はどうすればよいかと考えるべきではないか?

ところが、政府としては、逆にスマートメーター導入スケジュールの前倒しを決めたようです。

まず、以下は、7月27日付け日経新聞記事です:


次世代電力計を集中整備 5年で需要の8割網羅

政府が検討している向こう3年間のエネルギー需給安定策の内容が26日、明らかになった。原子力発電所が定期検査に入って再稼働できず、国内で1基も稼働しないと仮定した場合に、来夏にはピーク時の電力が約1割不足すると指摘。電力不足とコストの上昇を回避するため、規制改革を実施する。スマートグリッド(次世代送電網)の構築に向け、一般家庭へのスマートメーター(次世代電力計)の導入を急ぎ、5年以内に電力の総需要の8割を同メーターで把握できるようにする
安定策は、菅直人首相が議長を務める政府の新成長戦略実現会議の分科会である「エネルギー・環境会議」(議長・玄葉光一郎国家戦略相)で議論している。国家戦略室と経済産業省を中心に検討しており、詳細を詰めて8月上旬にも公表する。

 

この記事の出所を調べたところ、7月29日に開催された第2回エネルギー・環境会議の資料1-1「当面のエネルギー需給安定策(案)」に関連する記述があり、この情報を日経新聞が事前入手して報じたものと思われます。
以下に、スマートメーターに関連する部分を抜粋して紹介します。



資料表紙:当面のエネルギー需給安定策 ~エネルギー構造改革の先行実施~(案)

平成23年7月29日 エネルギー・環境会議決定

1.当面の電力需給動向とピーク時の電力不足、電力コスト上昇の見通し

(1) 来夏に約1割弱のピーク時の電力不足のリスク
(2) 電力コストの約2割上昇のリスク

出典:資料1-3 当面のエネルギー需給安定策(案)ポイントより

2.基本的な対処方針 5原則

(1)原子力発電所の停止が広範に生じた場合でもピーク時の電力不足とコスト上昇を最小化する
(2)計画停電、電力使用制限、コストの安易な転嫁を極力回避する
(3)政策支援や規制・制度改革で持続的かつ合理的な国民行動を全面的に支援し、エネルギー構造改革を先行的に実施する。ピークカットとコストカットが持続的に進む経済や社会の仕組みを早急に築く

3.目標達成へ向けた具体的な対策

(1)ピーク時の電力不足とコスト抑制に向け、まずは需要構造の改革に重点を置く

【主な対策】
⑤スマートメーターの導入促進及びそれを活用した需要家に対するピークカットを促す料金メニューの普及

~大口の需給調整契約の普及促進

主として大口需要家を対象とする需給調整契約(電力需給が逼迫する場合に使用電力量を抑制することを条件に電気料金の割引を行う契約)は、ピークカット対策として有効であり、今後、自家発の普及や契約の改善などにより有効性を高めながら、普及を加速する。

~スマートメーターの5年間集中整備プランと小口におけるピークカット契約などの展開

家庭などの小口需要家については、 スマートメーターの普及により時間帯別の電力消費が把握できる体制を整備し、ピークカット料金などの導入を加速する。また、2020 年代に原則全戸導入としていた目標を思い切って前倒し、今後5年以内に総需要の8割をスマートメーター化する。
これによりスマートグリッドの早期実現を目指す。また、電力小売事業の解禁も含めた対応も検討する。


図の拡大
出典:資料1-3 当面のエネルギー需給安定策(案)ポイントより

 

7月21日付け産経新聞記事「関電原発2基、定検で停止へ 再稼働…見えぬ道筋」にあるように、来夏、更に原子力発電所が定期検査に入り、地元の了解が得られず原子力発電所の再稼働が行われない状況が発生すると、国内で一基も原子力発電所が稼働しなくなる事態が起こりえます。そうすると、約1割ピーク電力が不足し、予備の火力発電所で対応できたとしても、今度は電力コストが約2割上昇する。
そこで、大口顧客の需給調整契約の普及促進とともに、家庭などの小口需要家についてもピーク電力使用抑制効果を高めるため、スマートメーター導入を計画より前倒しで行おうということになった模様です。

第2回エネルギー・環境会議の資料3「今後のスケジュール」によると、この会議で策定される「当面のエネルギー需給安定策」と、「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理(案)」は、第12回新成長戦略実現会議で報告され、「日本再生のための戦略に向けて(案)」に反映され、「日本再生のための戦略に向けて」として閣議決定される予定となっています。

調べると、この第12回新成長戦略実現会議は8月3日に開催されており、資料4「日本再生のための戦略に向けて(案)」に別紙1、別紙2としてマージされていました。

そして、本日(8月7日)の日経新聞に、以下の記事が掲載されていました。

再生戦略指針を閣議決定 原発依存度低減を明記
政府は5日、昨年策定した新成長戦略の見直し指針となる「日本再生のための戦略に向けて」を閣議決定した。エネルギー戦略では「原発依存度の低減」を明記。実質経済成長率は東日本大震災の影響で2011年度は当初予測より低くなるが、12年度は「復興需要が着実に増加し、成長率は高まる」と予測した。政府は指針に基づき、年内に新たな成長戦略を策定する方針だ。

これまで、日本型スマートグリッドは、どちらかというと、電力会社の意向に沿った形で進められてきた感じでしたので、先の震災後、電力会社の予算が震災対応に向けられ、日本版スマートグリッド実現は予定より遅れるのではないかと懸念していました。逆に早まることになるのは、スマートグリッド推進派としては、うれしい誤算です。 ただ、スマートコミュニティとの共通プラットフォーム化は遠のいてしまいましたが。。。。

終わり

P.S.

第2回エネルギー・環境会議資料1-1 「当面のエネルギー需給安定策(案)」中にある『総需要の8割をスマートメーター化』の意味するところが、少しあいまいです。
後の2割として、スマートメーター導入対象外のものは何なのか? 追加で調べてみました。

経産省資源エネルギー庁の「集計結果または推計結果」のページで平成23年度の「3-(1) 用途別電灯電力需要実績(一般電気事業者、卸電気事業者、特定電気事業者及び特定規模電気事業者合計) を見ると、平成23年5月の総需要電力量は74.7TWhです。したがって総需要の8割は59.8TWh。特定規模需要家(特別高圧、高圧の大口顧客)の電力需要が41.5TWhで、一般家庭を含む電灯需要21.3TWhを足し合わせると、8割を超えてしまいます。
どうやら、電灯需要のうち、定額電灯、臨時電灯、農事用電灯、公衆街路灯が、スマートメーター導入対象外ということになるのではないかと思われます。

7月27日の日経新聞の記事を一読した際は、5年以内に全戸スマートメーターと入れ替えるのは現実的ではないので、導入目標として8割という数字をあげたのかと思いました。

しかし、総需要の8割というのは実際にどういうことなのか確かめてみると、全ての一般家庭に5年以内にスマートメーターが導入されるという結論になりました。

それなら、『2020 年代に原則全戸導入としていた目標を思い切って前倒し、今後5年以内に原則全戸導入する』としていただいた方が、わかりやすかったのですが。。。