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今回は、SMARTGRIDNEWS.COMの創設者&チーフアナリストのJesse Berst氏の10月18日付の記事『6 truths about EVs that turn out to be false (utilities take note)』 をご紹介しようと思います。

タイトルの「6 truths that turn to be false」を「6つの嘘?」と訳すところからして、既に「超訳」ですが、お付き合いください。また、勝手に補足した部分は文字色=緑にしています。

では、はじめましょう。

2011年10月18日 Jesse Berst

電気自動車(以下、EVと略)は、多くの電力会社にとって大きな心配の種である。しかし、ここ数か月、私が、デンマーク、ドイツおよびポルトガル等で行われている EV関連パイロット試験責任者から聞いた話を総合すると、彼らの調査およびテスト結果から見て、電力会社が抱いている以下の6つの虞は、杞憂に終わる可能性が高い。
もちろん、他にもいろいろ心配の種は残っているが、これからお話しすることを聞けば、電力会社の方たちは、胸をなでおろすに違いない。

1.(EVを普及させるためには)ショッピングセンターや駐車場にEV充電インフラを多数設置する必要がある。

 ⇒現実的には、EVへの充電は、ほとんど夜間家庭で行われる。 (社有車の場合も、夜間、社有地内で充電される場合がほとんどである)

2.ガレージでのEV充電ではすべてをカバーしきれない

 ⇒(1.に示した通り、EVドライバーの大半は、自宅で夜間充電を行う。ただし、)都会の居住者は夜間路上駐車しているケースが多いので、そのEV充電をどうすればよいかに関しては、まだ検討する必要がある。

3.急速充電が求められている

 ⇒ 一般居住者は、急速充電を必要としていない。初期のパイロット試験で明らかになったことは、EVドライバーはバッテリーがほとんど空になるまで走行することはないということである。その結果、バッテリーに電気を“注ぎ足す”ための充電時間は、2~3数時間で済んでいる。

4.バッテリー交換ステーションも整備すべきである

 ⇒特殊なケースを除き、バッテリー交換ステーションは不要である。
自動車業界はバッテリー・サイズの規格化に対して消極的なので、(ベタープレイス社が提唱するような、あらかじめフル充電した規格化されたバッテリーに)バッテリー交換ステーションでホットスワップするアイデアは、あまり現実的ではない。(ただし、軍用車向けには、このアイデアが再浮上する可能性は残っている)
更に、現時点でEVを使おうという「新し物好き」の人たちは、(EV利用の勘所を押さえていて)街中の走行にはEVを使っているが、長距離ドライブにはガソリン車を使っている。

5.EVドライバーは、絶えず走行可能距離を気にしなければならない。

 ⇒走行可能距離に関する心配は不要になる。
EVドライバーは、2,3週間も運転すれば、EVの走行可能距離や、充電に要する時間を学習するので、無用な心配をしなくなる。

6.V2Gは今後、スマートグリッドのキラーアプリとなる

⇒V2Gは不要である。
スマートチャージ機能で系統の状況に合わせてEV充電時間を制御できるなら、それだけでV2Gのもたらすメリットのほとんどが得られたことになり、わざわざV2Gへの投資を行うことはない。
更に、スマートチャージは、(充電スピードを緩和する方に働くだけなので、V2Gのように充放電を繰り返して)バッテリーの寿命を縮める虞がない。

警告:スマートチャージは、系統状況に合わせて充電を制御するものの、充電中のEVドライバーに急用ができた等状況が変われば、「即充電」する超簡単な機能を備えるべきである。

以上、EV関連パイロット試験で得られた事実および事前調査結果に基づいて、これまでEVに関して「真実」と思われてきた6つへの反証が簡潔にまとめられたJesse Berst氏の記事を見つけましたので、早速紹介させていただいた次第です。

まず、「6つ」とも杞憂に終わる可能性があると指摘されていますが、2番目に関していうと、同氏も、まだ「要検討」としています。

また、1~4に関しては、「EVは近距離ドライブに使うもの」との前提に立った上での結論になっています。EV関連パイロット試験に参加するような「新し物好き」の被験者と、これまでガソリン車/ディーゼルエンジン車を愛用していて、長距離ドライブが当たり前の人が、EVに買い替えた場合、同一の反応となるかどうか、疑問に感じました。

5番目に関しては、確かに「案ずるより~」で、乗り始めれば、「今日はクーラーを使っているから、そろそろ充電スポットを探そう」だとか、「今日は寒いからバッテリーをフル充電したけれども、遠くへの運転は控えよう」といった勘が働くようになるのかもしれないと思います。

6番目のV2Gですが、ピーク需要削減が最大目標の米国にとっては、その通りかもしれません。しかし、日本やヨーロッパのように、出力変動の激しい再生可能エネルギーを大量に系統接続しようと目論んでいる国にとっては、その出力変動を吸収するため系統側蓄電池への大規模な投資を抑える意味で有効だと思われます。何しろ、系統安定化に必要な「蓄電池」への投資をEVドライバーが個人的に負担してくれるのですから。
ただし、6の中で同氏が指摘しているように、V2Gを行うことによって、EVバッテリーの寿命が縮まるようであれば、EVドライバーにとってあまりうれしい話ではありません。
東日本大震災での活躍もあって、最近は、PHEVを含め、EVを交流100Vの家庭用電源として使えることの利便性が強調されています(参考:EVを家庭用電源に変える取り組み、各社が製品化にメド)が、それによるEVバッテリー寿命への影響はどうなのか-といった話が置き去りにされているのが気がかりでした。先日のCEATEC JAPAN 2011でも、日産LEAFを家庭用電源とする(V2H)未来型スマートハウスが展示されていたのですが(参考:高床式の未来型スマートハウスが登場、電力は「リーフ」が供給)、そこでの説明によると『走行時や急速充電時にリチウムイオン電池にかかる負荷と比べれば、家庭に電力供給する際の負荷は非常に小さい。このため家庭への電力供給に起因する寿命の劣化は非常に少ない』とのことで少々安心しました。

となると、V2G/V2Hで残っている懸念事項は、「ブログ:V2Gについて思うこと 4.電力駆動車のオーナーから見たV2Gの実現可能性」で指摘させていただいた経済性の問題です。

ここで、もう一度経済性の問題を考えたいのですが、計算を簡単にするため、20kWhのバッテリー容量のEVと、同一車体のガソリン車があり、ガソリン車の燃費が20km/ℓだとします。
EVの方は、フル充電で100km走行できるものとすると、10万km走行に要する電力は、2万kWh(20kWh × 100000km/100km = 20,000 kWh)。
一方、同一車体のガソリン車で10万km走行する場合必要となるガソリンの量は 5千ℓ(100000km ÷ 20km/ℓ = 5000ℓ)。ガソリン価格を130円/ℓとすると、10万km走行時の燃料費は65万円 (130円/ℓ × 5000ℓ = 65万円)です。
したがって、このガソリン車の燃料費を基にして、10万km走行するEV車のバッテリーのkWhあたりの価値を計算すると、32.5円/kWhとなります。
それに対して、このEVバッテリーを家庭用電源として使う場合、kWhあたりの価値は、一般家庭の電気代相当(24円/kWhくらい)となるので、EV用電源として使用するより経済価値が落ちていることがわかります。
※以上はずいぶん手抜きの計算ですが、方向性はあっていると思います。三菱自動車のEVであるi-MiEVでEVバッテリーのkWhあたりの価値を計算したところ70円/kWhとなったという報告もあります。 (次世代電力ネットワーク研究会第8回講演会 テーマ(2) 電力貯蔵の経済性を考える)

V2Hに関しては、電力提供するのも使うのも本人(またはその家族)ですから、EVのオーナーさえその点(家庭用電源として使うのは、系統電力を使うより割高である)を了解済みなら普及に際して問題はないと思いますが、V2Gとなると、EVバッテリーからの電力買取価格が太陽光発電なみ(48円/kWh)でも、経済的には見合わず、その辺りがV2G普及のネックとなる気がしています。
米国ではV2Gは不要かもしれませんが、前述の通り、系統の安定性を保つ上で、日本型スマートグリッドにおいて、将来、V2Gは有望なソリューションの1つとなると思っています。
ただ、実際にV2Gを実用化するためには、技術面だけでなく、制度面で、EVオーナーが喜んで参加できる仕組みつくりの検討が必要だと思います。

終わり