Corsewall Lighthouse and Hotel

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前回は、ブログの最後で、FERCのDR評価と関係なく、今後日本でのDRがどうなっていくのかに関して持論を展開させていただきました。

繰り返しになりますが、そもそもDRというのは、何某かの経済的な恩恵の見返りとして需要家側が電気の利用を控えるという物ではなく、単に系統運用者の要請に基づいて電力使用を控えるケースも含めて良いと思います。3.11が発生した2011年ばかりか、2012年も電力会社の電力使用削減要請にマスコミも協力し、一般消費者が何の経済的メリットもないのにピーク負荷削減に協力したのは、名づけるとすれば「2012年型日本版DR」であり、これは、ある意味で理想的な究極のDRではないかと考えています。しかし、それは3.11がもたらした日本全体の危機感があって初めて成立したもので、良くも悪くも3.11の記憶が薄れていく中、2012年型日本版DRの効き目も薄れていくのではないかと懸念されます。

日本のDRは今後どうなるのか? 今回は、日本のDRの現状把握を行いたいと思います。

では、はじめます。

1.日本はDR後進国ではない

これも何度も指摘してさせていただいていますが、「デマンドレスポンス」という用語は「スマートグリッド」という用語の出現と時を同じくするため、ともすると『スマートメーターをはじめ先進的なICTを駆使した新たな電力需給バランスの仕組みである』と捉えられがちです。
お恥ずかしい話ですが、4年前このブログを立ち上げたころは、自分自身もそうでした。したがって、スマートメーター制度検討委員会で決められた、DRシグナルの授受が入り込む余地のないスマートメーターの仕様にずいぶんガッカリしたことを覚えています。
FERCのDR評価レポートにあるDRの定義をもっと早く知っていれば、それほど落胆することはなかったのですが。

デマンドレスポンス-その1で、こんなことを書いていました。

日本では、例の新潟県中越沖地震の影響で現地の原発全7基(総発電量800万kW)が停止してしまっても停電が発生することなく真夏のピーク需要を乗り越えられたほど、電力会社の発電能力には十分な余裕があります。
その上、長期需要予測を見ても、日本では今後電力需要はそんなに伸びないと考えられています。
したがって、『電力需要のピーク対応にわざわざ一般家庭を巻き込むほどのことはない。逆に、ベース電源の発電量が多く、ゴールデンウィークの昼間などの特異日には電力が余ってしまうので、日本ではDRは不要』-というのが「業界筋」での見方となっているのではないでしょうか。
あえてDRのような、需要家参加型の仕組みが必要なケースとしては、政府が目指している大量の太陽光発電によって生じる可能性のある系統への大逆潮流を、太陽光発電の出力変動に応じてタイムリーに吸収させるため、(電力需要抑制ではなく)電力需要喚起の手段としてなら、考えられなくもありません。(GridPoint社のスマートチャージ・システムで言うと、Load Shaping)
ところが、『固まってきた?日本版スマートグリッドの中身』でご紹介したとおり、「2020年型日本版スマートグリッド」では、PV出力を抑制すべき日時の情報は、太陽光発電のPCS内のカレンダーに書き込んでおき、逆潮流問題を回避できる方式になりそうです。したがって当面日本ではDRの出番はなさそうです

今から思うと、スマートメーターを経由してCPPのようなDRシグナルを一般家庭に送りピーク負荷削減を図ることが、DRの神髄と考えていました。

しかし、DRイベント発生時、以下に負荷削減を行うかに関して以下の3つのパターンがあります。

1) 全自動型DR:先進のICTを駆使して、系統運用者/電力会社/DRアグリゲーターが遠隔負荷制御するもの
2) 半自動DR:DRイベントの通知は人間系(系統運用者/電力会社/DRアグリゲーターから、需要家にメールや電話などで通知)で行うが、実際の負荷削減は、需要家側のBEMS/HEMSへの指示により自動的に行われもの
3) 手動型DR:系統運用者/電力会社/DRアグリゲーターからのメールや電話などで通知された需要家が直接設備機器のスイッチを切るなどして負荷削減を行うもの

日本の電力会社が大口需要家と締結している需要調整契約も全自動型DRではないかもしれませんが、系統運用者の要請に基づいて電力使用を控えるものなら、立派なDRです。

平成25年4月9日に開催された総合資源エネルギー調査会 総合部会 電力需給検証小委員会第2回配付資料4「2013年度夏季の電力需給見通しについて」9ページに掲載されていた2013年度夏季の需給調整契約を見ると、2013年度夏季・東京電力の計画調整契約電力:202万kW、随時調整契約電力:174万kW、合計376万kWです。それに対して東京電力管内の2013年度夏季の需要見通しは、5450万kWなので、2013年度夏季最大電力需要の7%弱まで、DRでカバーできる計算です。
FERCが公開している米国ISO/RTO管内の最大需要とDRによるピーク負荷削減可能量を比べると、2012年版FERC-DR評価報告書にあったDRによるピーク負荷削減可能量14127MWというのは、PJMでの過去最大負荷144,644MW(2006年8月2日)の10%弱に相当しており、これには及びませんが、テキサス州のERCOTの2012年度DR負荷削減可能量1570MWというのは、ERCOTでの過去最大負荷65.7GW(2010年8月23日)の2.4%にも満たず、東京電力の方がDR資源を活用していることになります。

2.日本での自動DRの行方

では、次に日本での自動DRの行方を考えてみましょう。

昨年9月開催された第2回スマートハウス・ビル標準・事業促進検討会は、スマートハウス・ビル市場普及拡大に向けた課題の1つとして、DR技術・標準の調査研究を掲げ、DR手法の詳細仕様の策定を加速化するため、検討会内にデマンドレスポンスタスクフォース(DR-TF)を設置しました。DR-TFでは、我が国におけるDRのシナリオを整理し、評価ユースケースにまとめるとともに、米国OpenADRアライアンスが規定したOpenADR2.0仕様が、その評価ユースケースを実現する上で支障がないことを確認。今年5月25日に開催されたJSCAスマートハウスビル標準促進検討会 第3回会合にて、日本版自動DRのインタフェースが『デマンドレスポンス・インタフェース仕様書[第1.0版](案)』として公開されています。
詳しくは、仕様書をご覧いただきたいのですが、この日本版自動DRの仕様とOpenADR2.0プロファイルの関係は、下表のとおりです。

昨年度いくつかの電力会社がDRによるピーク負荷削減を試行しました。本来、経産省の意向としては、この夏から電力会社が、自動DRを実施する場合、この新しい仕様に基づいてやって欲しかったのですが、OpenADR2.0bのリリースが遅れたため、この夏は、日本版ADR実証期間とし、一部電力会社で本仕様に基づくDRシグナル授受の実証を行い、必要に応じて仕様の修正を行う。また、OpenADR2.0bプロファイル仕様書が今月7月9日に公開されましたが、DR-TFとしては、引き続き米国OpenADRアライアンスの動向を調査していく-ということが、7月16日に開催された第6回デマンドレスポンスタスクフォースで確認されています。

時間が前後してしまいますが、今年6月19-20日、東京にてOpenADR2.0bのテストイベントが開催されました。これは、OpenADR2.0b準拠の製品開発を行っている日本企業向けにわざわざ日本で行われたもので、正確な情報は発表されていないのですが、10社以上がテストに参加したそうです。
テスト会場となったのは都内にあるIntertek社のオフィス(弊インターテックリサーチ株式会社とは無関係)ですが、テストシステムは米国内のIntertek社にあり、Intertek東京オフィスに持ち込んだ試作品をインターネットでつなぎ、QualityLogic社が開発したOpenADR2.0テストツールを使用してのテスト行われた模様です。
ただ、何しろ日本でのOpenADRのテストは初めてですので、製品開発した企業にとっても、Intertek社の東京オフィスにとっても、大変だったように(風のうわさで)聞いています。米国のIntertek社に試作品を持ち込んでテストすればもっとすんなりテストできたのでしょうが、それでは試作品を製作する日本企業にとってコストも時間もかかりますし、今後日本国内でしっかりテストできる環境が整備されること必要だと思います。
これは1月末DistribuTech2013に参加するためにカリフォルニア州サンディエゴに行った際、OpenADRアライアンスのディレクタであるBarry Haarser氏、Rolf Beinert氏、およびDistribuTech2013にWireless Glue Networks ブースを出されていたJohn Lin氏とお話しできる機会があり、うかがったことなのですが

• OpenADRアライアンスは、Intertek社を米国内でのOpenADRの認証機関に定めた。

• しかし、海外のDRサーバ/DRクライアント製造者もすべて米国に来てIntertek社で認証を受けるべきだと考えている訳ではない。

• Intertek社が、米国内だけでなく世界各国で認証ビジネスを展開しているのは、Intertek社を米国での認証機関にした理由の1つであるが、日本での認証をどこでやってもらうかは、未定である。

• 日本のOpenADRアライアンスメンバでOpenADRの認証ビジネスに興味のある企業がいれば、アライアンスとしては、OpenADRの熟知度や、DRのテストに必要な通信系のノウハウ / 認証ビジネスのノウハウを持っているか、そして何よりも、しっかりしたテスト環境を提供できるかで判断したい。

ということでした。

DR-TFとしても、日本でのOpenADR認証機関をどこにするか、今後アライアンスと相談していくようです。

これに関して、1つ懸念していることがあります。

それは、OpenADRアライアンスの認証は、OpenADRというプロトコルレベルで相互接続が保証されるかどうかを認証するものであって、DRサーバあるいはDRクライアントとしての製品全体での認証ではないことです。

現時点では、電力会社のシステムと、BEMSアグリゲーターのシステムに導入したVTN(DRサーバ)とVEN(DRクライアント)機能をプロトコルレベルで確認できればそれでよいのですが、OpenADRのDRシグナルを受け、SEP2.0やPLC、Wi-Fiなどで接続されたデバイスを制御するインテリジェントなVEN製品を作った場合、そのメーカーは、OpenADRプロトコルの認証だけでなく、それぞれの通信規格の認証をとり、更に電気用品安全法の適合性検査にもパスする必要があると思われます。
なるべくなら、それらの適合性検査がまとめて受けられるような機関が望ましいですね。

日本のDRの現状把握から、最後にはまた持論展開になってしまいましたが、本日は以上です。

本ブログをお読みいただいている諸兄のご意見をうかがわせていただければ幸いです。

終わり