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前回は、greentechgrid:のJeff St. John氏の2013年3月11日の記事「Biggest Power Users Provide Gigawatts of Smart Grid Flexibility」をご紹介しました。

FastDR市場というようなものが海外では立ち上がりつつあるということをご紹介した訳ですが、日本ではどうか?が気になる点です。
Enbala社のCEOであるDizy氏は、

例えば、水道事業者は、水の供給にあたっていつどれだけポンプを稼働させればよいか、ある程度の柔軟性を持っていますし、冷凍倉庫に関しても、庫内の製品を痛ませない範囲で冷房温度を調整する余地があるのです。<途中省略> お客様によってどれくらいの時間、どれほどの負荷を削減できるか異なりますが、私どもが運用管理させていただいているお客様の負荷は、系統大での需給調整用DR資源として、いつでも使える状況にあります。発電事業者の予備電源に代えて、私どもが用意した貯水場のポンプ負荷、冷凍倉庫の負荷や下水道の通気プラントの負荷-これらはすべて電力貯蔵装置と同じ働きを持たせることができるのです。

と述べていますが、これが日本の大口需要家にも当てはまるのか?

この懸念に関して、国際環境経済研究所 竹内純子氏が『乾いた雑巾はまだ絞れるのか?』で、ロンドン大学に在学する日本人研究者(渋谷俊彦氏)と鹿児島大学曽我准教授とのコラボレーションによる研究結果として、以下のように紹介しています。

日本は「乾いた雑巾」に例えられるように、これまで十分に省エネに取り組んできており、エネルギー消費削減余地は乏しいとよく言われる。しかしながら、現在でも1981年以前に建設された事務所ビルが相当数存在し、それらの多くが十分な省エネ対策を施していない可能性を考慮すれば、大きなエネルギー消費の削減余地があることを示してくれている。もちろんコスト負担に関する分析も行われている。必要とされる施策・技術購入に要するコストは、それらを導入しなかった場合に要するエネルギーコスト(電力料金)を下回るだけでなく、最も経済的な発電方式とされる原子力発電による電力量単価よりも下回ることが示されている。すなわち、現時点で一般的とされる省エネ施策・技術は、それだけで事務所ビルにおけるエネルギー消費量削減目標を達成するほどのインパクトがあるだけでなく、経済的にも十分な競争力を有するとの結果が示されたのである。

これは、省エネという観点からの研究結果ですが、日本でも削減余地のある事務所ビルがまだまだあるということがわかります。

また、公開資料は見つからないのですが、日本でも2012年夏、関西電力で行われたネガワット取引では、事務所ビルではなく冷凍倉庫の倉庫内温度を制御することで予想以上のネガワットの実績が上がったと聞いています。

なお、弊ブログでも「第11回スマートメーター制度検討会について思うこと」で事務所ビルが今後のDR資源提供者としてのねらい目ではないかと指摘させていただきました。
当時はFastDRを想定していた訳ではありませんが、同じDR資源を提供するにしても、PJMでの例(PJMのDRプログラム-その3)を見てもお分かりいただけますように、FastDRの方が、従来のDRプログラムに比べて支払われる単価が高いと思われますので、今後日本でもFastDRが普及する余地が十分あると考えています。

さて、今回は、Enbala社に関してもう少しリサーチしてみましたので、その結果をご紹介します。
まずは、同社の2013年6月25日付けプレスリリース『ENBALA Power Networks:Providing Wind Integration through Intelligent Load Management』をご紹介しましょう。

例によって、全訳ではなく、超訳です。独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。

ENBALA社、インテリジェント負荷管理技術でニューブランズウィック州の風力発電の導入促進
2013年6月28日

PowerShift Atlanticは、電力会社の顧客を需給バランシングに積極的に参加させることにより、より効率的かつユニークな方法で風力エネルギーを組み込む仕組みの実証研究を行う、カナダ東部ニューブランズウィック州のプロジェクトである。
先日、厳正なRFP選考の末、PowerShift Atlanticプロジェクトの一環として、同州での再生可能な風力エネルギー利用促進に関してENBALA Power Networks(以降、ENBALA社)の提案が採択された。
ENBALA社は、負荷調整によって風力発電の出力変動を吸収する技術を有するカナダの企業で、今後、より多くの風力発電設備を系統統合するため、同州の商業顧客と負荷調整契約を締結し、リアルタイムでの負荷制御を実施することになる。
ニューブランズウィック州では、すでに全発電量の6%(294MW)が風力発電で賄われておりは、同州の電力供給にとって今や風力は不可欠な電源となっている。ENBALA社の系統バランシング技術を導入することで、系統の電力品質・信頼性を保ちつつ更に多くの風力発電を取り込むことが可能となり、電力供給コスト削減並びに温室効果ガス排出削減が期待されている。
Michel Losier PowerShif Atlanticプログラムディレクターは、以下のように述べている。

ニューブランズウィック州政府は、2020年までに再生可能エネルギーの電力供給に占める割合を40%にすることを目標としています。ENBALA社のプラットフォームは、その目標達成に大きく貢献してくれるでしょう。
グリーンで再生可能なエネルギー資源の導入を促進し、地域住人の将来世代のためよりよい遺産を残す上で、ウィンド・インテグレーション(より多くの風力発電設備を系統統合すること)は非常に重要な役割を担っています。

また、本プロジェクトの状況に関して、ENBALA社のCEOであるRon Dizy氏は以下のようにコメントしている。

既にいくつかの顧客サイトの負荷がENBALA社のプラットフォームから遠隔制御可能となっていますが、この6月時点で更に20以上の顧客サイトがENBALA社のプラットフォームと接続される予定です。
現在約10社の顧客サイトの負荷制御を通じて、リアルタイムでの風力発電出力との受給バランシング制御を始めました。その顧客サイトには、上下水道事業者、学校、競技場や、NBP(New Brunswick Power)電力会社のオフィスビル等が含まれています。そして、この秋までにすべての顧客サイトとつなぐ予定です。

他にもいくつか非常に面白いプレゼン資料を見つけたのですが、「事前に書面での掲載許可申請なしでは利用不可」と明記されている資料ばかりでしたので、以下に資料のタイトルとURLのみ列記します。ご興味を持たれた方は、ハイパーリンク先の資料をご覧ください。
 Smart Grid Solutions That Pay You
 CEBC Conference Smart Grid Session
 ENBALA Power Networks – California Energy Commission
 Department of Energy Workshop: Load Participation in Ancillary Services

最後の資料はEnbala社の資料ではなく、したがってここに再掲しても良いのですが、これには米国エネルギー省が2011年10月開催したワークショップの参加者と、ワークショップのプログラムが載っていただけでした。

このワークショップの内容については2011年11月付けで「Load Participation in Ancillary Services WORKSHOP REPORT」として公開されています。

Enbala社CEOのDizy氏をはじめ、プレゼンテーター:Terry Boston (PJM)、Aaron Breidenbaugh (EnerNOC)、Paul Feldman (MISO / WECC)、Don Kujawski (PJM)、Jonathan Lowell (ISO-NE)、Wendell Miyaji (Comverge)、Mark Patterson (ERCOT)、Mark Petri (ANL)、Rob Pratt (PNNL)、Scott Simms (BPA)、 DeWayne Todd (Alcoa)、Henry Yoshimura (ISO-NE)氏等のプレゼンテーション内容を、Brendan Kirby (Independent)、Mark O’Malley (UCD)、Ookie Ma (EERE)、Peter Cappers (LBNL)、Dave Corbus (NREL)、Sila Kiliccote (LBNL)、Omer Onar (ORNL)、Michael Starke (ORNL)、Dan Steinberg (NREL)氏がまとめたもののようです。

米国では、2年前、既にアンシラリーサービスへのDRの適用を本格的に検討開始していたということですね。
このレポートの内容も、おってご紹介しようと思いますが、今回はここまでとさせていただきます。

最後に、今回は全く絵がなかったので、YouTubeにアップされているEnbala社のビデオ画像をご覧ください。同社のDRに対する考え方がよくわかります。

終わり