Ellis Windmill, Mill Road, Lincoln

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本ブログシリーズ「DRはどこへ向かうのか」では、2011年10月、米国エネルギー省(DOE)エネルギー効率化・再生可能エネルギー局(EERE:Office of Energy Efficiency & Renewable Energy)および配電・エネルギー信頼性局(OE:Office of Electricity Delivery and Energy Reliability)が共同開催したワークショップのレポート「Load Participation in Ancillary Services WORKSHOP REPORT」(以下、単に「レポート」と略称)内容を編集してご紹介しています。

前回は、レポートの2.3節「Demand Response Types」をもとに、DRのついてのこれまでの定義の変遷をたどりながら、最新のDRの定義?をご紹介しました。
デマンドレスポンスと省エネ(Energy Efficiency:EE)が同列に扱われるのには、違和感があるかもしれませんが、そういえば、「DRの計測と検証(DR M&V))の実務規格を策定した北米エネルギー標準委員会(NAESB)の小委員会名はDSM-EEでしたし、DistribuTechのようなカンファレンスでも最近は「Demand Response and Energy Efficiency」で1つのセッショントラックとなっています。また、例えばカリフォルニア州の電力会社PG&Eのホームページで「Energy Savings Programs」の画面を見ると、PG&EのDRプログラムであるSmartAC(PG&E版DLCプログラム)、SmartRate(PG&E版CPPプログラム)と同列で、「Energy Upgrade California」というカリフォルニア州の省エネ促進プログラム(省エネホーム補助金として$2,500または$4,500が支払われるそうです)がされています。
インセンティブ型/価格反応型に関わらず需要家が積極的に自分のDR資源提供に係われるものを「Active Demand Response」、そうでないものを「Passive Demand Response」(あるいは、「Passive Demand Resource」)と呼び、省エネ(Energy Efficiency:EE)、輪番停電(、および日本では現在の電気事業法上認められないようですが、系統ひっ迫時、大停電を阻止するため意図的に供給電圧を下げるConservation Voltage Reduction:CVR)を後者に分類する考え方があるようです。参考:IBM白書「Real-Time Demand response」Demand Response Techniques)

さて、今回は、同レポートの3.1節「Existing Experience」から、米国におけるDR資源のアンシラリーサービス(AS)への適用動向の部分をご紹介します。
例によって、全訳ではなく、超訳です。独自の解釈および補足/蛇足/推測が混じっているかもしれないことをご承知おきください。文字色=緑の部分は、筆者のコメントです。
では、はじめます。

これまでに、ERCOT、MISO、PJMおよびNYISOの系統運用者が運営するAS市場ではDR資源にも門戸が開放されている。その他にも、ISO-NE、CAISOの系統運用者やBPA(ボネビル電力公社)でDR資源をASに適用する意欲的な実験が行われているが、まだまだ利用例は少ない。なぜDR資源のAS適用が進んでいないのか、まず阻害要因をまとめてみよう。

 AS市場への参入障壁

現在、DR資源がAS市場に参入できない/しにくい理由を以下にいくつか列挙する。

• 制度上DR資源のAS市場参入が認められていない地域がある

西武系統(Western Electricity Coordinating Council:WECC)では、これまで瞬動予備力市場へのDR資源の適用を規約で認めていなかったが、現在規約の変更を検討している。

• AS市場の地域差

現在、地域によってAS市場の内容に違いがあり、DR資源のASへの適用可能性も異なっている。例えば、リアルタイム電力取引市場が5分間隔で取引を行っている地域では、1時間ごとの取引しか行っていない地域に比べて周波数調整力市場の果たす役割は小さくなる。

• 入札条件による制約

予備力市場では、予備力供給の最低継続時間、最低入札量(MW)ともに、発電所の調整電源を念頭に置いた条件設定となっており、いくら大口需要家でも自社単独のDR資源での予備力市場参加は難しかった。予備力提供不履行時にペナルティが課せられることも、AS市場参加障壁の1つかもしれない。
この入札条件は緩和される傾向にあるものの、例えばNYISOの「需要サイドのASプログラム(Demand-Side Ancillary Services Program)」は、最低1MWの「電力」を1時間継続して供給するという比較的緩い条件にも拘わらず、参加者が集まらず、開店休業状態にある。

ISO-NEは、2006年から2010年までDR資源による予備力調達実験を行ってきたが、結果は功罪相半ばするものだった。現在は「代替技術による周波数調整力調達(Alternative Technology Regulation Pilot)プログラム」に調整しているが、2006年からの実験ともども、参加は芳しくない。
個々の需要家が提供できるDR資源の量および時間が短くても、DRアグリゲータあるいは負荷削減プロバイダ(Curtailment Service Provider:CSP)が多数の需要家のDR資源を集約することによって、この入札制限をクリアすることは可能である。
ただし、地域によってはDRアグリゲータ/CSPのAS市場参入が認められていない場合がある。

• 通常のDR資源だけでは対応できない周波数調整力市場

AS市場の中でも、特に周波数調整力市場への参加は、DR資源にとって難しい。周波数調整には、周波数を上げるための調整(Regulation UP)と下げるための調整(Regulation Down)があり、周波数を上げる方は負荷を下げればよいだけなので簡単だが、周波数を下げるには指示に応じて負荷を増やす必要があるからである。
CAISOとERCOTには、周波数増加(Regulation Up)と、周波数低減(Regulation Down)の2種類の周波数調整力市場があるが、MISOとNYISOは、周波数の上下双方向調整を可能とする1つの周波数調整力市場しかないので、DR資源のみでの市場参入は難しい。

• 新たな設備投資

遮断可能負荷(Interruptible Load:IL)タイプのDR資源をAS市場で調達している系統運用者にERCOT、MISO、PJMおよびNYISOがある。例えば、ERCOTの周波数調整力市場に参加する需要家は、系統周波数が59.7Hz以下になると自動的に負荷を遮断する「周波数低下防止安全装置:UFR(Under Frequency Relay)」を設置するか、それに代わる、系統運用者からの指示で即座に負荷遮断できる仕組みを用意しなければならない。

 DR資源のASへの適用事例

DR資源のAS市場参入はまだ限られているというものの、PJMは、250MWの瞬動予備力をDR資源から調達しておりERCOTは、全瞬動予備力の半分をDR資源で賄っている。また、MISOでは、DR資源を周波数調整に直接利用している。それ以外にも、DR資源を周波数調整力市場に投入することに成功したDRアグリゲータがいる。2011年11月時点で、Enbala Power Networks社とViridity Energy社が、DR資源をPJMのAS市場に提供している。
以下では、もう少し詳細にDR資源をAS市場に提供している事例を紹介する。

•Alcoreの事例

インディアナ州エバンスビルのアルコア社ワリック事業所では、スマートメーターインフラ、運転データの見える化ツールと、プラント全体の統合制御システムを導入し、プラントオペレータが、本来の事業運営に必要なエネルギー管理とAS市場に投入する自社のDR資源管理を並行して最適化できるようにした。
その結果、同事業所は、アルミの溶融、圧延プロセスで利用する負荷の調整により70MWを「直接負荷制御:Direct Load Control:DLC」として、更に75MWを遮断可能負荷(Interruptible Load:IL)としてMISOに提供している。ILは瞬動予備力に、DLCの方もアンシラリーサービスを含め、様々なケースで利用されている。

•Enbalaの事例

2003年に設立されトロントに本拠を置くEnbala社(Enbala Power Networks)は、商工業施設の負荷を束ねたDR資源でPJMの周波数調整力市場に参加している。
とりわけ、同社が注目しているのは、生産工程で稼働する設備、産業用空調設備、冷凍設備、および水処理・廃水処理設備の4つである。
これらの設備には、本来の稼働目的である生産量、空調温度、冷凍倉庫内温度や水の処理自体に影響することなく、ある程度稼働条件を変更する(稼働時間帯をずらしたり、空調のコンプレッサーの作動をON/OFFしたり、部分的に設備の稼働をオン・オフしたりする)ことが可能な場合がある。
同社は、これらの負荷の運転制約をモデル化し、本来の稼働目的を妨げることなく、これらの負荷を系統側で必要とする周波数調整力として提供できる最適解をリアルタイムで導き出す最適化プラットフォームを開発した。
そして、Enbala社と契約した大口需要家の設備を仮想の分散電源として、上記の最適解に基づいて、DR資源提供料の割り当てを行い、系統の周波数制御信号に同期してDR資源を提供するネットワークを運営管理している。

 低圧顧客のDR資源

現在のところ、一般家庭(Residential)や小規模商業施設(Small Commercial)のDR資源をASに適用している事例は見当たらない。実証実験としては、CAISOの「Proxy Demand Response」のように、ASへの適用も視野に入れたものもあったが、実運用には至っていない。
この分野の需要家のDR資源をASに適用するに当たっての最大の課題は、個々の需要家から得られるDR資源量がASサービスに適用するには小さすぎることである。
また、対象がエアコン等のため、下図の通り、大口需要家(Large C&I)と比べて提供できるDR資源量が季節によって大きく変化することも、年間を通してのAS適用の妨げとなっている。

ただ、瞬動予備力(Spinning Reserve)は24時間365日必要とされているものの、下図の通り、その調達価格(赤い線)に注目すると、エアコンの負荷(緑の一点鎖線)と非常に相関が高い。

そういう意味では、季節変動がある低圧顧客のDR資源は、ASへの適用に向いていないという訳ではなく、必要とされる季節/時間帯にDR資源を提供できるフレキシブルな?DR資源と捉えることもできる。

以上、今回は、米国におけるDR資源のアンシラリーサービス(AS)への適用動向(参入障壁、現在の適用事例、低圧顧客のDR資源のAS適用に関する考察)についてご紹介しました。

終わり