Tigh Mor Trossachs, Loch Achray

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2022年10月1日からはじまったPJM予備力市場制度変更に関する調査の続きです。

 

前回、その6では、PJMマニュアルNo.11「Energy & Ancillary Services Market Operations Revision:122」から、PJMの予備力市場への「入札」に関して、詳細に見直し、ご紹介ました。

振り返ってみると、10年前、PJMの電力市場にDR資源で参加する観点から容量市場やアンシラリーサービス市場に関して一通り調べました(PJM市場におけるDRプログラム)が、それ以降は、PRD(Price Responsive Demand)、DRはどこへ向かうのか?(PJMのDR戦略)、PJMの周波数調整市場の制御信号RegDのルール変更、PJM容量市場の最低入札価格制度問題(PJMのMOPR)、そして今回のPJMの予備力市場の制度変更2022と、スポット的に、主にDRに関連して、目にとまったPJMの市場ルール変更を取り上げて、このブログでご紹介してきました。

今回PJMマニュアルNo.11をじっくり眺め直して気づいたのは、PJMが、ほかにもいろいろ制度変更を繰り返しているということです。いつの間にか発電オファーの上限が$1000/MWhだと思っていたのが、$2000/MWhになっていたのですが(自分が知らなかっただけですが)、M11マニュアルの変更履歴をさかのぼって調べてみると、Revision 79 (12/17/2015)で、この入札上限価格変更が行われ、2015年12月14日以降、入札上限が$2000/MWhでの運用となっていました。今回のブログのタイトル「PJMの予備力市場の制度変更2022」から外れてしまいますが、「M11を眺め直したついで」で、本日は、その経緯なども含めて調べた結果をお知らせします。

PJMでは、エネルギー市場への発電オファー上限価格として、価格ベース/コストベースともに$1000/MWhとしていましたが、2014年1月の大寒波では、燃料価格が高騰し、LNG火力発電の限界費用が$1000/MWhを超えたため、発電事業者にとって逆ザヤ現象が発生。これを受けて、PJMでは発電事業者がPJMの制度によって不利益を被ることがないよう、発電オファー価格の上限を$2000/MWhとする改定案を2015年10月14日Docket No. ER16-76-000で提出。FERCは同年12月11日、「ORDER ACCEPTING PROPOSED TARIFF AND OPERATING AGREEMENT REVISIONS」この制度改定を承認し、12月14日から適用されています。

このFERCオーダーに伴う制度変更の内容をザっと見ると以下の通りです:

  • 発電オファーの上限価格の増加(Increased Offer Cap)

従来の発電オファー上限価格を$1000/MWhから、$2000/MWhにするとともに、それでも発電事業者にとって逆ザヤが発生しないよう、予備力不足時の価格ルールを設定する

  • 予備力不足時の価格ルール(Shortage Pricing)

今回PJMでは、予備力不足時の追加調達にあたってORDC(運用予備力需要曲線)の変更を目論んでいましたが、これまでのブログシリーズ「PJMの予備力市場の制度変更2022」でご紹介したように、ステークホルダの反対にあい、当初PJM案を了承していたFERCも折れて、この部分に関しては、白紙撤回となりました。

さて、この予備力不足時の価格ルール自体はいつできたのか?きっかけは、需給ひっ迫が生じて予備力が不足するような状況となった際に、卸電力の価格と予備力の価格を人為的に引き上げるための仕組みとして、FERCオーダー825「Settlement Intervals and Shortage Pricing in Markets Operated by Regional Transmission Organizations and Independent System Operators」でISO/RTOに実装を要請しています。

M11の更新履歴を見ると、Revision 55 (10/25/2012)でルールが制定され、2012年10月1日から、そのルールが適用されています。

M11の更新履歴では、その後Revision 61 (06/27/2013)で1,2,4,6章内に変更があった(Clarifying updates throughout sections 1, 2, 4 and 6 for shortage pricing)ようですが、手元に当時のマニュアルがないので、詳細は不明です。

ただ、PJMのサイトに、2024年7月7日付けの資料「Reserves & Operating Reserve Demand Curve Education」を見つけましたので、その当時のルールがどんなだったか、以下に紹介しましょう。

まず、ORDCは1段の階段状(A Simple Step、下図の青線)で、必要な予備力量(Req、下図中緑の破線)まで足りない分には、Penalty Factorの価格が適用されるというものだったようです。

例えば、同期予備力市場の発電オファーを価格の安い順に並べたところ、上図の赤線の通りで、予備力としての必要量(Req=1000MW)より5MW少ない(=Reserve shortage)だったとすると、その5MWにPenalty Factorとして定義された価格($/MW)が適用されるということです。

Penalty Factorの数値は、下表のように年を追って段階的に定められていたようです。

ところで、予備力のオファーが十分ある場合の価格はどのように決まるのでしょうか?先のORDCのグラフで考えると、赤い線がReq=1000MWの位置で垂直に立っている青い線との交点で決まる?と考えたのですが、そうでもないようです。

 

同じくPJMのサイトで見つけた2015年9月9日の資料「Shortage Pricing Penalty Factors and the Offer Cap」は、実に興味深い資料でした。

下表には、予備力価格を考える例として、3台の発電ユニット合計1100MWの発電オファーが示されています。

  • 発電ユニットA:$100/MWhで最大300MWエネルギー市場に供給できますが、予備力市場に提供できるのは80MWまで、
  • 発電ユニットB:$500/MWhで最大400MWエネルギー市場に供給できますが、予備力市場に提供できるのは100MWまで、
  • 発電ユニットC:「$700+$1/MW Output」で最大400MWエネルギー市場に供給できますが、予備力市場に提供できるのは80MWまで

※ここで、「$700+$1/MW Output」というのは、100MW提供する場合は$700+$1×100=$800/MWhを意味します。

以下では、必要な予備力量は200MWと一定ですが、必要なエネルギー供給量が異なる場合のエネルギー価格と予備力価格を考えています。


■ 必要な供給量が200MWの場合

■ 必要な供給量が400MWの場合

■ 必要な供給量が700MWの場合

■ 必要な供給量が829MWの場合

■ 必要な供給量が840MWの場合

ここまで、必要なエネルギー供給量の変化(200→400→700→829→840MW)に対して、必要な予備力調達量は200MWと変化しないにも関わらず、予備力価格は$0/MWh→$400/MWh→$720/MWh→$849/MWh→$850/MWhと、一見、摩訶不思議な変化をしています。

本日は、ここで、終わりとしますので、この予備力価格決定ロジックについて、少し考えてみてください。

終わり