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リアルワールドインターネット:RWI-その4

2010年7月17日 土曜日

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「リアルワールドインターネット:RWI-その3」で、スマートグリッドというのは、電力業界の次世代インフラですが、IoT/RWIという「インフラ」から見ると、IoEという応用(=アプリケーション)の1つという見方ができるということをお話しました。
ただし、IoT/RWIという「インフラ」自体が確立/完成している訳ではないので、IoT/RWIの「インフラ」の上に展開される交通、医療その他のアプリケーションを横にらみしながら、最適な「社会インフラ」としてのIoT/RWIと、IoE/スマートグリッドを同時並行的に構築していく必要がある。
-ということで、ブログ:RWIのシリーズは終わりにしようと思っていたのですが、前回、「4-更に昔、IoTを唱えた人がいた」の中で、『RWIが言及しているNEDというのは、坂村先生の「どこでもコンピュータ」に類似している気がしました』と書いてしまって、ではどのくらい類似しているのか、どこが違うのかが気になり、坂村先生の著書『ユビキタスとは何か―情報・技術・人間 (岩波新書)』(以降、著書と略)を紐解いてみました。
今回は、この著書で述べられている内容と、RWIのどこが同じでどこが違うのか、坂村先生の「どこでもコンピュータ」側から検討してみたいと思います。

では、はじめます。

1.「どこでもコンピュータ」のエッセンス

①著書3-4ページ:ネットワーク外部化、ユビキタス・ネットワーキング

「どこにでもコンピュータがある」ためには、コンピュータが「どこにでも置ける、または付けられる」くらい小さくなくてはならない。・・・さまざまな実現方法があるが、今注目されている技術の1つは非接触ICチップ・・・コンピュータというよりは小さな形をしたメモリ・・・情報の記憶と読み出ししかできないものがほとんど。容量もそれほど大きくない・・・そのため、私の考えるユビキタス・コンピューティングの実現方法は、チップをきっかけとしてネットワークにつなげることでトータルなシステムとして働くように構想・・・チップにすべての情報を入れるのではなく、コンピュータ・ネットにつながったもっと大きなコンピュータ(サーバ)が、必要な情報を保持するとともに「処理」も行う。・・・すべてのモノ、すべての場所に関する情報をネットがつなぐユビキタス・ネットワーキング

②著書5-6ページ:インフラとしてのユビキタス

あらゆるモノ、あらゆる場所、もっと広くいえば社会全体にチップを組み込んで、世界を情報のネットワークとして構造化する・・・そうすることにより、そのモノや場所自体の情報に加えて、他のモノとの関係や、この場所から他の場所へ行くにはどうすればいいかといった場所同士の関係等が、「いつでも」「どこでも」分かるようになる・・・重要なのはユビキタス・コンピューティングが社会インフラとして構想されるべき・・・「どこでもコンピュータ」がインフラとして実現することによって、世の中で実際に起こっている現実の問題を数多く解決できる可能性がある・・・例えば鉄道網や道路交通網、ガスや電力網、電話網-最近ではこれらに加えてインターネット

③著書17-18ページ:現実空間の認識/コンテキスト・アウェアネス

つきつめていうならば、ユビキタス・コンピューティングの研究の究極の目的は、現実の世界のコンピュータによる完全認識・・・現実空間というのは、人間が見ているあらゆるもの(モノであり、自分がいる場所であり、そこにいる人であり、その空間の状況)・・・「空間の状況」というのは、光、音、湿度、風、匂いといったもので、「センサー」と呼ばれる装置が、コンピュータで理解できる情報に変換・・・コンピュータが現実の状況を認識して適切な判断をしようというのは重要なテーマ

④著書23-24ページ:認識、区別、番号

ユビキタス・コンピューティングの目的は「認識」。その基礎は「区別」「識別」。そのために区別したいもの全部に1つ1つ違う番号:ユビキタス・コード(uコード)をふる・・・大切なことは、uコードに対応する情報が、その物とは別のところに保存されているということ

⑤著書51ページ:ユビキタス・コンピューティングの定義

ユビキタス・コンピューティングとは、「世界の情報構造化」、仮想の世界と現実の世界をつなぐインフラ・・・インターネット上に生まれている仮想世界は、現実のリアルワールドと切れてしまっている。そこをつなぐのがユビキタス技術。状況を自動認識し、人・モノ・場所・概念などをコンピュータが総合的に意識して、最適制御

⑥著書132ページ:概念、コンテンツにuコードをつける

仮想空間にある概念やコンテンツにもuコードをつけることで、デジタル・ミュージアムのような新しいコンテンツの使い方が生まれる・・・現実の世界では劣化するモノを情報として半永久的に残すことができる

2.RWIと「どこでもコンピュータ」の共通性について

  • 1-②で「どこでもコンピュータ」を鉄道網や道路交通網、ガスや電力網、電話網のための社会インフラと捉えているところは、RWIと共通しています。
  • 1-⑤「インターネット上に生まれている仮想世界は、現実のリアルワールドと切れてしまっている。そこをつなぐ」という部分も、RWIと共通の認識だと思います。「状況を自動認識し、人・モノ・場所・概念などをコンピュータが総合的に意識して、最適制御」という部分もRWIの目指すM2Mの世界に通じていると感じました。

3.RWIのNEDと「どこでもコンピュータ」の違いについて

  • RWIでは、NED(Networked Embedded Devices)を、「計算能力/通信能力を備えた様々なデバイス」としており、1-①で想定されている「どこでもコンピュータ」のチップより高性能なものが想定されている気がします。
  • さらに将来的には「計算能力、記憶容量、通信機能すべての点で、現在よりずっとパワフルで、他のデバイスやサービス向けにサービスを提供するようになります。やがて、パラダイムシフトが起き、それぞれのデバイスが更に多機能化して、ビジネスインテリジェンスを実行するホスト役を勤められるようになり、サービス指向アーキテクチャの構成要素として、有効に機能するようになるでしょう。(すべての情報をホストに集めて処理する中央集権型のビジネスインテリジェンスではなく)デバイス上で、ネットワークの中だけで、状況を感知し、対応できるようになるのです。この能力は、その場の状況をうまく利用して、よりダイナミックに、高度で洗練された判断を行う全く新しいアプローチの土台を提供します」とあり、「ユビキタス・ネットワーク内に高性能なサーバがあって、そこが情報の元締めで、かつ、情報の加工処理を行う」のではなく、個々のNEDが十分パワフルで、自律/自立している感じを受けます。
  • 1-④でも、重要な情報は、ユビキタス・ネットワーク内の「マスター・コンピュータ」が一元管理する「中央集権型」の情報モデルの雰囲気がありますが、RWIでは、もっとフラットな世界が目指されている気がします。

4.RWIと「どこでもコンピュータ」の範囲

  • 1-②の「あらゆるモノ、あらゆる場所、もっと広くいえば社会全体にチップを組み込んで、世界を情報のネットワークとして構造化する」というのは、「チップ」という表現を除けば、RWIの目指すところと同じように思われます。
  • ただし、1-⑥にあるように「仮想空間にある概念やコンテンツ」にもIDを割り当てようとしている分、「どこでもコンピュータ」の方が、範囲が広いといえるでしょうか。
  • また、1-③「現実空間というのは、人間が見ているあらゆるもの」としているところが、表現上だけのことかもしれませんが、ユビキタス・コンピューティングが人間中心であるのに対して、RWIではM2Mに重心が置かれている気がします。

以上、坂村健先生のユビキタス・ネットワークとRWIを比較し、どこが同じで、どこが違うのか検討してみました。
ユビキタス・ネットワークが今利用可能なチップ(モノ)と技術で何ができるかを含め、現実ベースで語られているのに対して、RWIでは、将来、ナノテク技術、センサー技術、無線技術、コンピュータ技術、ビジネスインテリジェンスなどの応用技術がさらに進歩した上で何ができるかを語っているだけの違いかもしれません。

なお、坂村先生の著書『ユビキタスとは何か』の『第5章 イノベーションとしてのユビキタス』、『第6章 日本が見るべき「夢」』は、ユビキタスの解説にとどまらず、イノベーションとは何かという話から、日本はどうすべきかという話まで、内容がヒートアップしています。そして、その内容は、平成21年12月7日に開催された、第4回国土交通省成長戦略会議で、坂村先生が『日本の成長戦略』に反映されているのを見つけました。いくつか興味深い表現がありましたので、以下に再掲します。

• 米国のやり方は大学の研究はすぐベンチャーでビジネス化。論文よりも商品が先に出てくる。コンソーシアムも民間が主体。インフラ的でビジネス主導が難しい分野のみDoDがサポート
• 欧州のやり方は、手を動かす前にまず哲学。関係者でまず哲学を議論しコンセプトを共有化してから要件定義。具体目標に細分化し個々のプロジェクトを起こし、さまざまな政府機関や民間からプール予算を分配してつぎ込む⇒そのパターンがCASAGRASからIoT
• 日本のやり方は? 米国と欧州の中間。いいとこ取り? それとも…
• イノベーションを「技術革新」と訳したのは日本にとって不幸な誤訳。 イノベーションとは利益を生むための「差」を新たに生む行為。差を生むのは技術だけではない。工場の移転や商売相手の変更制度の変更でも、…
• 社会インフラは技術+制度。技術設計と同程度かそれ以上に制度設計が重要
• (ユビキタス・コンピューティングは)インターネットの次のイノベーションインフラ。 インターネットは「ネットの向こう側」で多くのイノベーションを産んだ。次に必要なのは「ネットの向こう側」と現実世界を結ぶオープンでユニバーサルなインフラ
• 「ネットの向こう側」と現実世界を結ぶためGPSやRFIDや各種センサーを統合して現実世界の状況を認識し、それを標準的で汎用的なデータとしてネット側に送り広く利用できるようにする
• 「ユビキタス・コンピューティング」=状況を自動認識するために…環境中に「遍在的」にコンピュータ要素を配置すること
• 「ユビキタス・インフラとは、現実の物品・場所・状況などと情報空間をつなぎ、「その時・その場・その人」に合った情報サービスを「いつでもどこでも」呼び出せるようにする、いわば実世界をも取り込むクラウド・コンピューティング
• 「その場」から、「その時・その人」にあわせた情報サービスを提供できるようになる

最後に、RWI/IoTをさらに深く知るために参考になりそうな、今年に入ってから発刊されている文献をいくつか掲載しておきます。

文献タイトル

発行元

発刊日

ページ数

ISBN

Internet of Things in 2020 A ROADMAP FOR THE FUTURE

EPoSS

20089

32

Global Trends 2025: A Transformed World

National Intelligence Council

200811

120

Real World Internet - Position Paper

European Future Internet
Portal

200812

8

Internet of Things: - an early reality of the Future Internet

FIA WORKSHOP REPORT

20095

30

R&D on the Internet of Things:the EPoSS point of view

EPoSS

200912

21

CERP-IoT Vision and Challenges for Realising the Internet of Things

CERP-IoT

20103

236

978-9279150883

The Internet of Things: 20th Tyrrhenian Workshop on Digital Communications

Springer

2010年3月

442

978-1441916730


The Internet of Things: Connecting Objects

Wiley-ISTE

2010年5月

288

978-1848211407

Interconnecting Smart Objects with IP: The Next Internet

Morgan Kaufmann

2010年
6月

432

978-0123751652

終わり

リアルワールドインターネット:RWI-その3

2010年7月8日 木曜日

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GTMリサーチ社の調査レポート『2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー』で言及されていた「モノのインターネット:Internet of Things(以降 IoT)」が気になり、しばらく前に、将来IoTおよびスマートグリッドの両方に関連しそうなキーワードとしてRWI(Real World Internet)をご紹介しました。 その時点では、自分自身、まだIoTを良く知らなかったので、RWIとの違い、スマートグリッドとの関係など伝え切れなかったのではないかと思います。 そこで、今回は、まず、誰がいつごろIoTという概念を考え出したのか、その定義はどうなっているのかを調査し、IoTがスマートグリッドにどのように関係してくるのかを考えたいと思います。

1.誰が「モノのインターネット」と言い始めたのか

RFIDジャーナルにKevin Ashton氏が2009年6月22日付けで次のような文を寄稿しています。

あの「モノのインターネット」について:That ‘Internet of Things’ Thing

私が間違っていなければ、1999年にプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社での提案のタイトルとして「モノのインターネット」という言葉を使ったのが最初だと思います。当時猛烈に話題となっていたインターネットというトピックと、サプライチェーンにRFIDを適用するという新しいアイデアを関連付けたのは、P&G社のお偉方の気を引くためのまたとない方法でした。10年後、「モノのインターネット」という言葉は科学雑誌「サイエンティフィックアメリカン」の記事から欧州連合の協議会の名前まで、あらゆるところで使われるようになりましたが、しばしば誤解されているように思います。 私が「モノのインターネット」と言った最初の人間だとしても、他の人がどのようにこの言葉を使用すべきか指図することなどできません。しかし、「モノのインターネット」という表現で私が何を言いたかったか(今もそう思っていること)を、お話します。

今日、コンピュータ(したがってインターネット)の取り扱うほとんどの情報源は人間です。インターネットで利用可能なおよそ50ペタバイトのデータ(1ペタバイトは1,024テラバイト)のほぼすべては、手入力/レコードボタンを押す/デジタル写真を撮る/あるいはバーコードを走査することによって作成されてきました。インターネットの説明図には、サーバーやルーターなどが含まれていますが、最も多く、一番肝心な「ルーター」である人間が省略されています。

問題は、人間には時間、注意および正確さに限界があることで、本来実世界にあるモノをデータとして補足する能力に長けているとは言えません。

アイデアと情報は重要です。しかし、モノは、はるかに重要です。私たちの経済、社会および実生活はアイデアまたは情報に基づいているでしょうか? いえ、それらはモノに基づいています。情報を構成するビットは、食べることも、燃やして暖を取ることもできないのです。

ところが、今日の情報技術は人を情報源とするデータに多くを依存しているため、私たちのコンピュータはモノよりアイデアに関して良く知っています。もし、人間の支援なしに集めたデータを使用してすべてのモノに関して知っているコンピュータができたら、私たちは大幅に浪費、損失およびコストを縮小することができるでしょう。モノの交換時期や、修理/リコール時期、食品が新鮮か、食べごろを過ぎたかといったことがたちどころに分かるからです。

私たちは、自分で見、自分で聞き、自分でにおいを嗅ぐなどの情報収集機能を備えたコンピュータを作る必要があります。RFIDおよびセンサー技術を使えば、コンピュータは人間にデータ入力してもらうという限界を取り払い、実世界を観察し、識別し、理解することができるようになります。

RFID技術は、この10年で飛躍的な進歩を遂げましたが、RFID技術がもたらしたことで何が重要かを正しく理解する必要があります。RFIDは、単に「ステロイド上のバーコード」でも、有料道路をスピードアップさせるための方法でもありません。RFIDに関するビジョンをそこまで縮小させてはならないのです。

インターネット同様、「モノのインターネット」には世界を変える可能性があります。 恐らくインターネット以上に。

※Kevin Ashton氏はオートIDセンターの共同創立者および常勤取締役でした。

ここから、読み取れるKevin Ashton氏のIoTの世界は、人間にデータ入力してもらうという限界を取り払い、RFIDとセンサー技術を使ってコンピュータが実世界を観察・識別・理解するM2Mネットワークのようです。

ガートナーがSOAの概念を提唱し始めた時には、Soap、XML等がまだ世に出ていなくて、CORBAによる分散オブジェクトが想定されていた(とどこかで聞いたのですが)のと同様、1999年当時、IoTのアイデアを実現する技術を見渡し、当時の最先端技術としてRFID(とインターネット)を念頭に置いたということは理解できますが、今(上記の記事が投稿された2009年6月22日)でもRFIDとセンサー技術の範囲で考えられているとしたら、IoTの定義としては、少し狭い感じがします。

2.もっと古い「モノのインターネット」

普通に考えるとIoTの定義が、インターネットの出現より前になることはないはずですが、インターネットという言葉が出現する前にIoTがすでに実現していたと主張するレポートを見つけましたので、ご紹介しましょう。

それはすべてコーヒーポットから始まった。

インターネットという言葉が出現するより以前(もちろん、ツイッターなど存在しなかったころ)、インターネット(の前身のネットワーク)につながり、自分の状態に関する情報を提供するコーヒーポットが出現したのだ。

1991年、ケンブリッジ大学の複数階の研究室の研究者数人が、一つのコーヒーポットを共有していた。研究者たちは、コーヒーを飲もうと階段を上ってコーヒーポットの所まで行ったところ、しばしばポットが空になっていてがっかりさせられた。そこで、コーヒーポットの前にビデオカメラを設置し、1分間に3度、コーヒーポットの状況の静止画をデスクトップから確認できるようにした。これが、世界中にセンセーションを巻き起こしたインターネットwebカメラのさきがけである。

出典:SLIGHTLY CURVEDCUBE:The world’s first webcam

このコーヒーポットこそ、今日のネットワークにつながれたモノと「モノのインターネット」のコンセプトの有用性の証明に他ならない。その時以来、多くのプロジェクトで、いろいろなモノにプロセッサ、センサーおよびトランスミッターを装着することの便利さが実証されている。 ThingM社パートナーのMike Kuniavsky氏が受ける質問は、「こんなことができるか」から「(上記のような)ハードウェアの追加コストに見合う新規顧客が狙えるか」に変わったとのことである。

モノのインターネットは、現実の世界に関する情報の「デジタル・オーバーレイ」を構成する。その中で、オブジェクトと位置は、2とおりの方法でモノのインターネットの一部になっている。 情報は、GPSの座標か、所在地住所を使用して、特定の位置に関連付けられる。あるいは、オブジェクトに埋め込まれたセンサーやトランスミッターをインターネットプロトコルでアドレスして、ユーザや他のオブジェクトと会話する以外に、当該オブジェクトのおかれている環境を探知したり、環境に反応したりできる。 またオブジェクトに処理能力を埋め込む(組み込みプロセッサを付加する)ことで、以下のような様々な潜在的なコミュニケーションも可能となる: 人からデバイス(例えばスケジュール、遠隔制御やステータス更新)、デバイスからデバイスあるいはデバイスからグリッド(例えば電気料金の変動に連動して、オフピークの電気料金代が安い時間帯に電気製品を使うようスケジュールする)。

ただし、無闇にオブジェクトに処理能力を埋め込めばよいというわけではない。 ニューヨーク大学の対話型テレコミュニケーション・プログラム教授で、Botanicalls(プラントが人々と通信することを可能にするセンサー・トランスミッター・コンビネーション)の共同制作者であるRob Faludi氏は次のように語っている:『1980年代の終わりころ、運転手に対して「ドアが開いている」とか「明かりが点きっぱなし」だとかしゃべる自動車が作られましたが、それは続きませんでした。そのような情報は、ダッシュボードのパネルランプやチャイムで十分だったからです。自動化がそれほど成功しない理由の1つは、それが実際の問題あるいはニーズと合致していないからなのです。』 Douglas Adams著のSFコメディ「Hitchhikers’ Guide to the Galaxy」に出てくる架空の会社:シリウス・サイバネティクス株式会社が製造した「インテリジェントドア」は、そのような、(実際のニーズではなく)技術のための技術の典型例である。そのドアは組み込みプロセッサとセンサーを持ち、ユーザと通信する能力を持っていた。そして、ドアが開かれたり、閉じられたりするごとに、ドアはユーザに感謝の意を表するのだった。

技術は目標を達成するための手段でとするべきで、それ自体を目標としてはならない。ペニンシュラホテルグループの元総支配人だったFraser Hickox氏は、次のように言っている。『技術で片のつく問題もあれば、そうでないものもあります。重要なのは、これ見よがしに技術をひけらかすのではなく、顧客の実際の問題やニーズ、あるいは非能率に取り組み、単純かつ効果的でコスト節減にもつながる対応をとることです。要するに設計と技術においても「オッカムの剃刀」の指針に基づくのが良いのです。』 先のFaludi教授の指摘に戻ると:『すべてのデバイスはその他のデバイスと話す必要があるでしょうか? 恐らく、ないでしょう。』

これは、2010年2月発刊のハマースミスグループのリサーチレポート「モノのインターネット:ネットワーク接続されたモノとスマートデバイス(The Internet of things: Networked objects and smart devices)」の冒頭部分です。

※このレポートは、その後も「市場サイズと前提条件:Market size and assumptions」、「ネットワーク化されたオブジェクトが生成する重要な情報の痕跡:Networked objects generate significant information trails」、「デマンドレスポンス戦略を通じてスマートアプリケーションがサポートする省エネ:Smart appliances support energy conservation through demand response strategies」、「ネットワーク化されたオブジェクトがもたらす生活スタイル上の恩恵:Networked objects can create lifestyle benefits」と続きますが、今回は、IoTの定義部分をご紹介するだけにとどめます。

ご覧いただいたように、このコーヒーポットはRFIDとも、通常の意味で使われるセンサー技術とも無縁ですが、見事にIoTを体現していると思います。

「モノのインターネット」とは、現実の世界に関する情報を「デジタル・オーバーレイ」したものである

文中で使われていたIoTの定義に相当する部分だけを抜き出すと、チョット消化不良になりそうですが、このコーヒーポットの例は、IoTのコンセプトとして非常に分かりやすいと思います。この定義を自分なりに噛み砕いて表現しなおすと、こんな感じでしょうか?

「モノのインターネット」とは、現実の世界にあるモノを何らかの形でインターネットに接続し、接続されたモノに関する情報を流通できるようにすることである

3.Cisco社の「モノのインターネット」の定義と、インターネットに接続する形

現実の世界にあるモノとインターネットを接続する形として、現時点では、RFIDの他にどのようなものがあるのでしょうか? 米国電力研究所(EPRI)の「Smart Grid Information Sharing Calls」のページに掲載されていたCisco社の資料「The Internet of Things / Sensor Networks - May - 2009 EPRI」を参考にしてまとめてみました。

「モノのインターネット」とは、基本的に、無数の新たな応用を可能とする「スマートオブジェクト」同士を接続するためのアイデアである。その接続には、IP(インターネットプロトコル)を使用するが、それは、いわゆるインターネットでなくてもVPNあるいは全くのプライベートIPネットワークでも良い。

なお、「スマートオブジェクト」には、4つの種類がある:

① インテリジェントタグ(RFID)

② センサー:電力消費量、エンジン振動、排気ガス濃度、気温、CO濃度などの物理的な量を測定し、それをアナログまたはディジタル信号に変換するデバイス

③ アクチュエータ:ガスや液体の流量調整、給電制御、機械的な動作など、設備装置を制御するデバイス

④ より複雑なモノを形成する、上記の特徴の任意の組み合わせ

このスマートオブジェクトの定義に従えば、2.で、コーヒーポットに向けられたビデオカメラは、ポット内のコーヒーの量を測定するタイプ②のセンサーに属し、スマートグリッドに登場するスマートメーターは、電力消費量を測定するとともに、開閉器の機能などを併せ持つので、タイプ④のスマートオブジェクトと考えることができます。

4.CASAGRASの「モノのインターネット」の定義と、RWIのベースとなったもの

CASAGRAS(Coordination And Support Action for Global RFID-related Activities and Standardisation)というRFID関連の国際的活動と標準化の為の調整と支援行動をしたプロジェクト(活動期間:2008年1月-2009年6月)の最終報告書「Final Report RFID and the inclusive Model for the Internet of Things」に、RWIを含め、複数のIoTに関する定義が載っています。

CASAGRASでの定義

「モノのインターネット」とは、データ収集と通信能力の開発を通じて現実のオブジェクトと仮想オブジェクトを関連付けるグローバネットワーク・インフラである。このインフラは、現在および今後発展するインターネットとネットワークの進化を包含しており、今後のサービスおよびアプリケーション開発のベースとして、特定のオブジェクトID、センサーおよび接続能力を提供する。
これらは、高度の自主的なデータ収集、イベントの移送、ネットワーク接続および相互運用性が特徴である。

EPoSS(European Technology Platform on Smart Systems Integration)での定義

「モノのインターネット」は、スマート空間で作動し、アイデンティティとバーチャルパーソナリティを持つモノ/オブジェクトによって形成されたネットワークであり、インテリジェントなインターフェイスを用いてユーザや、社会・環境コンテキストと接続・通信する。
意味論的に、「モノのインターネット」は、「標準的な通信に基づいて、ユニークにアドレス可能な、相互連結したオブジェクトのグローバルネットワーク」として定義できる。
スマートな無線で識別可能なデバイスは、このネットワークを使用してシームレスに環境と通信・対話し、それによって、私たちの社会をより効率的、安全、包括的にするのを支援している。

RWIでの定義

「モノのインターネット」のコンセプトは、当初、RFID、無線センサー、アクチュエータのネットワーク(WSAN)のような技術に基づいていたが、最近は、異種のコンピューティングおよび通信能力を備えた種々様々な大量のネットワーク組み込み型デバイス(Networked Embedded devices:NED)を含んでいる。
また、サプライチェーン・マネジメントおよびロジスティクスへの応用から始まったIoTは、今日では、自動化、エネルギー、e-ヘルスなどを含む多数のドメインをターゲットとしている。
更に最近では、インターネットにリアルワールドを統合するため、万物を包含するビジョン:リアルワールドインターネット(RWI)へとIoTを駆り立てている。
RWIおよびIoTは、「サービスのインターネット(IoS)」のような、他の新興コンセプトとのコラボレーションが期待されており、IoSおよびIoT/RWIを集めることにより、「エネルギーのインターネット(IoE)」のようなエネルギー・インフラを革新するものとなることがと期待される。
RWIは、私たちが仮想および現実の世界の中で対話する方法に非常に大きな影響を与えることは明白で、将来のインターネット全体にも寄与することだろう。

更に昔、IoTを唱えた人がいた

CASAGRASプロジェクトの最終報告書中、IoTの定義の前段で、コーヒーポットよりも更に古く1980年代に日本でIoT類似のコンセプトが発案されていたことが記されています。その発案者が誰とは明かされていませんが、以下の英文を見れば明らかですね。
A similar vision without the explicit use of RFID was proposed even earlier by Japan’s TRON Project in the 1980’s

TRONプロジェクトといえば、東京大学/YRPユビキタス・ネットワーキング研究所長の坂村健先生。ここで言及されているのは、先生の提唱されていた「ユビキタスコンピューティング-どこでもコンピュータ」のことですね。
CASAGRASプロジェクトは、RFIDベースでモノを考えているので、『RFIDを明確には利用しない類似のビジョンが1980年代の日本にあった』という表現ですが、ここまででRFIDはIoTの必須要素ではないことを確認してきたので、『IoTのコンセプトは、1980年代の日本でできあがっていた』と言ってよいのではないでしょうか?
更に言うと、RWIが言及しているNEDというのは、坂村先生の「どこでもコンピュータ」に類似している気がしました。

今回は、誰がいつごろIoTという概念を考え出したのか、その定義はどうなっているのかを調査したわけですが、最初に言い出したのは、なんと日本の坂村健先生だったことが分かりました。
また、IoTの定義は、その時の最先端技術動向の影響を受け、当初はパッシブ型RFIDベースで考えられていましたが、だんだんセンサーが小型化/高性能化し、将来は、坂村先生が20年以上前から提唱されていた、メモリと処理能力を持ったチップが埋め込まれたモノ同士、あるいはモノと人間の間で情報のやり取りが行われる世界が実現するだろうということが分かりました。

そして、そのようなIoTの応用の1つ(RWIで言うところのIoE)がスマートグリッドであるということですね。
GTMリサーチのレポートが、「当面必要となる自動検針に目を奪われて、その後の展開を考えないで実装に入るなかれ」という指摘を行っていますが、同じように、「当面必要となる例えば、配電自動化やデマンドレスポンスだけに目を奪われて、その後の展開を考えないで実装に入るなかれ」ということが言えそうです。すなわち、スマートグリッド(IoE)のためだけに必要jなインフラを考えるのではなく、更に広範囲をカバーする、例えばスマートコミュニティのインフラを念頭に、スマートグリッドはいかにあるべきかを議論することが重要だと思います。

今回、絵が少なかったので、最後に、総務省IPv6によるインターネットの利用高度化に関する研究会および前述のCisco社の資料から、「モノのインターネット社会」を実現するサービスの事例をいくつか再掲させていただきます。


資料WGモ1-2(パナソニック説明資料)より

資料5-5(ウィルコム説明資料)より

資料WGモ3-1 (ウィルコム説明資料)より

資料WGモ3-3 (日立説明資料)より

CISCO-The Internet of Things Sensor Networksより

終わり

リアルワールドインターネット:RWI - その2

2010年6月15日 火曜日


出典:European Future Internet Portal

前回ご紹介したRWIの資料が掲載されていた「European Future Internet Portal」というポータル(以降、EFIポータル)は、そもそもどういう組織が運営しているのか調べてみました。

EFIポータルの「About」によると、以下のとおりです。

  • このEFIポータルは、インターネットの将来に関するヨーロッパの活動と議論の場を提供するフォーラムである
  • 将来のインターネットに関するヨーロッパのリサーチプロジェクトの最新状況を伝えるものである
  • さらに、ディスカッションの場も提供しており、将来のインターネットに興味を持っている者は誰でも参加することができる
  • 本ポータルの目的は、将来のインターネットを形作るに当たって、ヨーロッパの種々の領域で行われている努力の統合を支援することである
  • 欧州の第7次枠組計画(EC FP7)のEIFFELプロジェクトから資金提供を受けている
  • また、ヨーロッパでのスマートグリッド推進母体でもある欧州テクノロジー・プラットフォーム(European Technology Platform:ETP)のネットワーク化及び電子化されたメディア(Networked and Electronic Media:NEM)および、欧州の通信機器メーカーとオペレータ大手を結集した共同研究開発プロジェクト(Cooperation for a sustained European Leadership in Telecommunications’ Cluster:Celtic)のEUREKAクラスタからも支援を得ている

ポータルとしての運営母体とスポンサーは、これで分かったのですが、具体的に、どういったメンバーがいるのか良くわかりません。

次に、EFIポータルの「Home」を見ると、「欧州将来インターネット構想(The European Future Internet Initiative:EFII)」とあり、どうやら、そこでまとめられた/まとめようとしている、「欧州の?将来のインターネットのあるべき姿」と、その過程を公開する「場」が、EFIポータルということのようです。
では、EFIIとは一体どういう組織なのか、今度はEFIIの、「Home」の内容を見てみました。

欧州将来インターネット構想

◆ 今こそヨーロッパは行動を起こそう

今日、インターネットは次のような広い領域のアプリケーションやサービスにとって不可欠になっている:①健康、②高齢化とインクルージョン、③エネルギー効率、④環境への影響、⑤輸送、⑥製造、⑦セキュリティおよび⑧コンテンツ。
ネットワーク化された企業間連携は既に現実のものとなっており、急激にeビジネス、ディジタル生産、社会ネットワークが発展してきている。我々の社会や文化のディジタル化は不可避である。すべての情報がデジタル化した世界に近づくに当たって、人々がそれらにアクセスしたいやり方でアクセスできるようにする必要がある。(そのようなアクセスを可能とする)インフラ(=将来のインターネット)は、今後も増え続ける需要に適合する必要がある。すなわち、利用者レベル、サービスおよびアプリケーションのレベルからネットワークレベルまで、すべての構成要素を考慮に入れ、全体的な観点から将来のインターネットに取り組む必要がある。

将来のネットワーク社会および経済をサポートするのに必要なデバイス、インターフェース、ネットワークおよびサービスを開発するためには、学会やイノベーティブな専門家の支援も得て、ヨーロッパ産業界の優秀なステイクホルダーが一堂に会して、マルチ・ディシプリナリー(多専門的)アプローチでリードしていかねばならない。

現在、EUのプログラム(FP7のような)は、中長期の社会・技術課題に対応すべく新技術の開発に努力している。その重要な研究活動を補足するため、我々は、インターネットを将来に向けてどのように変身させるかという課題に取り組むことが必要であると考える。我々が提案する官民パートナーシップ (Public Private Partnership: PPP)では、既知の新興技術(=インターネット)を使用する必要条件(スケールや利用者受容性のような問題)の検討や、ノンテクニカルな問題に起因する障害の特定を行う。

◆ 欧州将来インターネット構想

欧州将来インターネット構想(European Future Internet Initiative:EFII)は、ヨーロッパの主要ICT会社16社によって設立されたイニシアチブであり、ヨーロッパの将来のインターネットの課題に取り組むに当たって、新たなアプローチの採用を目論んでいる。

すなわち、様々なドメインに共通する特徴を押さえつつ、個々の異なるドメインのビジネスプロセスをフルサポートできるインターネットを開発するため、いろいろなアプリケーションドメインとICTの専門知識を寄せ集めた全体論的アプローチを採用している。

◆創立メンバ:

http://initiative.future-internet.eu/efii-organisation/founder-members.html 参照
※「Home」での説明では主要ICT企業16社となっていますが、15社しかありません

◆ 参加組織:

http://initiative.future-internet.eu/efii-organisation/participants-list.html
下表は、参加組織を産官学で分類したものです。欧州連合外の参加組織を背景色=黄色としています。余談になりますが、トルコは、経済圏としてはまだEUに加盟していないものの、将来のインターネットを検討する上では、すでに欧州の組織の一員となっていることが分かります。

ということで、欧州に拠点を置く15のICT企業が中核となり、産学官協働で、欧州が考える将来のインターネットのあるべき姿をまとめましょうというのが、「欧州将来インターネット構想(The European Future Internet Initiative:EFII)」で、そのインターネット上での議論と、その進行状況の公開の場が、「European Future Internet Portal:EFIポータル」ということがわかりました。

なお、通常は、EFIポータル上で情報公開/議論を行うのですが、同じくEFIポータルの「Home」を見ると、将来のインターネットを考える会(Future Internet Assembly:FIA)というのがあり、毎年2回メンバーが集まって今後のアクションを決めたりするようです。

また、EFIポータルで取り扱う内容は、大きく次の4つに分かれており、それぞれ、WIKIを利用して、日々の議論や、FIAのアジェンダ検討、前回紹介したようなPosition Paperの作成などを行っているようです。

以上、今回は、RWIに関連して、ヨーロッパでの将来のインターネットを検討している組織について、ご紹介しました。

終わり

リアルワールドインターネット:RWI

2010年6月11日 金曜日

出典:4th EU Conference on the FP7 15-16 April 2010, Valencia, Spain

2010年のスマートグリッド:市場セグメント、アプリケーションおよび業界のプレーヤー - その14」の紹介で、最後に唐突に「モノのインターネット:Internet of Things」という表現が出てきて、原文にはそれに関する説明がなかったので、とりあえずIBM社のビデオを貼り付けておきましたが、その後もこの言葉が気になっていました。
いろいろインターネット上で関連資料を探したところ、面白いものを見つけましたので、今回ご紹介したいと思います。
資料があったのは、「European Future Internet Portal」で、原文『Real World Internet』は、ここからダウンロードできます。

なお、いつもどおりですが、文字色=緑の部分は、筆者の追記部分です。また、全文翻訳ではなく、一部筆者の思いがはいった超訳(跳躍?)になっているかもしれないので、予めお断りしておきます。

リアルワールドインターネットの概要

インターネットは、その使い方や技術に関して今も発展しています。
インターネットは、世界中のネットワーク・コンピューターのオープン・インフラを作ろうとするビジョンから生まれましたが、今や、各国政府や、無数の個人ユーザ、ビジネスユーザが毎日使う、社会・経済的なバックボーンになりました。この目覚しい展開は、年々新たに利用可能となる先進技術と、いろいろなことに興味を向ける、ユーザ、オペレータ、メーカー、サービス・プロバイダやコンテンツ・プロバイダー等の新興プレーヤーのミックスによってもたらされてきました。

インターネットは、異機種のネットワークインフラをまたがって2人以上で情報交換ができる、単純で分かりやすい情報転送サービスを提供する目的で設計されました。ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)が今日のインターネットの隆盛をもたらす以前には、初期のアプリケーションとしてリモートログインとファイル転送がありました。今日では、電子メールや、ハイパーテキスト文書、オーディオ/ビデオ・ファイル、リアルタイムのマルチメディア通信のように、主として、人間中心の情報交換に関係する様々なアプリケーションが利用可能です。それに加えて、インターネットのインフラは、次世代モバイル・ネットワークを含む、モバイル・ユーザや、モバイル端末にその範囲を広げています。しかし、この無秩序な進展は、インターネットをつぎはぎだらけのものとしてしまいました。そして、これは、明らかに、インターネット・アーキテクチャの基本構造を考え直す時期が来ていることを物語っています。

従来の用途および現在までのインターネットのトレンドの変遷に加え、「モノのインターネット:the Internet of Things:IoT」と名付けられたイノベーションによって、インターネットは、実世界にまでその範囲を延長しようとしています。IoTの概念は、当初、電波による個体識別(RFID)や無線センサ・アクチュエータ・ネットワーク(WSAN)の技術周りで使用されていましたが、最近では一般にネットワーク化された埋込みデバイス(Networked Embedded Devices:NED)と名付けられた、計算能力/通信能力を備えた様々なデバイスが大量に出てきています。サプライチェーン・マネジメントやロジスティクスへの適用から始まったIoTは、今や、オートメーション、エネルギー、e-ヘルスなどを含む多数の分野をターゲットとしているのです。更に最近では、実世界のモノすべてをインターネットに統合するビジョン「リアルワールドインターネット(Real World Internet:RWI)」へと、IoTを駆り立てています。
また、「サービスのインターネット(Internet of Services:IoS)」のような新たなコンセプトも出現し、RWIおよびIoTとのコラボレーションが期待されています。IoSIoT/RWIを組み合わせることにより、「エネルギーのインターネット(Internet of Energy:IoE)」のような革新的なエネルギー・インフラが出来上がると予想されているのです。RWIは、私たちが、(従来のインターネットの)バーチャルな世界と(実世界のモノと対応する)フィジカルな世界の間で対話する方法に根源的な影響を与え、未来のインターネット構築にも大きく貢献するでしょう。

リアルワールドインターネットのビジョン

モバイルデバイスの遍在性とワイヤレス・ネットワークの急増により、今後は、すべての人がいつでもどこでも、インターネットにアクセスできるようになるでしょう。また、無線での接続は人間相手のユーザ端末に限らず、衣類から建物まで、ほとんどどんなものでも無線接続が可能となり、NEDとしてコラボレーションするようになります。更に、新しいセンサー技術および無線センサー・ネットワークが、環境情報を感知、推論し、かつ行動する能力を提供するようになるでしょう。そこから、私たちのまわりの実環境に埋め込まれた「モノたち」が相互接続し、「インテリジェントなモノ」と「スマートな空間」が社会を形成する、エキサイティングな世界が見えてきます。

そこでは、広場や、既存のモノ、RFID対応の製品、ロボット、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)その他一般の様々なデバイスにセンサーやアクチュエーター等のNEDが組み込まれ、インターネットの機構と連動しています。その1つ1つが、通信能力と計算能力を持ち、実世界の状況を正確に投影するとともに、きめ細かい情報を伝えるので、バーチャルな世界と実世界の間で、ほぼリアルタイムの相互作用が可能となるでしょう。
そこでは、モノや人の位置・状態・状況に関する情報、場所の情報、その場所に影響を及ぼし変化を起こさせる情報や、情報収集した結果や策定された規則/ポリシーに基づいた、モノや人の情報がエンタープライズシステムになだれ込み(Figure 1)、リアルタイムで意思決定が行われます。

NEDは、計算能力、記憶容量、通信機能すべての点で、現在よりずっとパワフルで、他のデバイスやサービス向けにサービスを提供するようになります。やがて、パラダイムシフトが起き、それぞれのデバイスが更に多機能化して、ビジネスインテイジェンスを実行するホスト役を勤められるようになり、サービス指向アーキテクチャの構成要素として、有効に機能するようになるでしょう。(すべての情報をホストに集めて処理する中央集権型のビジネスインテリジェンスではなく)デバイス上で、ネットワークの中だけで、状況を感知し、対応できるようになるのです。この能力は、その場の状況をうまく利用して、よりダイナミックに、高度で洗練された判断を行う全く新しいアプローチの土台を提供します。

そこでは、RWIのようなダイナミックで多種多様なインフラの中で、レイヤやドメインをまたがったコラボレーションを如何にうまく行うかが主要な課題となるでしょう(Figure 2)。

そのようなコラボレーションがうまく行えると、かつて無いレベルの詳細情報が得られるようになり、例えば次にあげるような様々なアプリケーションが実現するでしょう:

  • 「アンビエント」支援による生活およびヘルスケア: 高齢者や障害者をサポートし、他者への依存度を減らす新しいライフスタイルを可能とする。また、より多くの患者が自宅で療養することを可能とする
    参考:次世代ITのキーワード「アンビエント」
  • サプライ・チェーンの監視とロジスティクス: 効率的なリサイクルを含め、製品のライフ・サイクル全体にわたって監視・追跡を行い、偽造の防止、(定期点検ではなく)インテリジェントなメンテナンス、顧客サービス向上と効率向上を図る
  • 輸送、エネルギー、および設備管理の効率改善
    輸送:時間表どおりの運行ではなく、必要に応じて運行するインテリジェントな公共交通機関を提供して、混雑を緩和する
    エネルギー:部屋の使われ方や人数など、状況レベルに応じてオフィスや住宅の照明や冷暖房の運用管理を行う
  • 拡張現実(Augmented Reality:AR)シミュレーションの改善: バーチャル環境と実環境を同時に見える化する
    参考:ウィキペディア-拡張現実
  • 社会生活やレジャー向けアプリケーション: (Facebook、HI5、Google-MySpaceなどのような)ソーシャル・ネットワーキングベースのプロファイルを自動的に更新する。活動中のユーザのフィットネスレベルをモニタし、練習プログラムを適時補正するよう、タイムリーにフィードバックする 等
  • メーカーは、識別のためにRFIDを用い、センサーやアクチュエーターを使ったサービスが行えるようにして、従来の単なるモノとしての商品を付加価値の高い製品にする

RWIの主な成功要因を以下に列挙し、Figure 3に図示します:

  • 様々なNEDを、効率的にインターネットにつなぐ
  • 統一されたインターフェースで、RWIが安全かつ信頼のおけるやり方で生成した情報にアクセスできるようにする
  • 新しい革新的なサービスを作り出せるよう、組み立て易い情報の形式を考える
  • 実世界の情報を記述する、標準化された方法を確立する
  • NED、インフラおよびサービスのレベルでのセキュリティ確保とプライバシー保護を統合する
  • データ収集デバイスやセンサーを利用するオーディオビジュアル無線ネットワークのような、他の隣接した分野との組み合わせを考える(例えばセキュリティ・アプリケーションの強化)
  • 位置、時間、センサー情報のような動的な情報と、モノそのものの詳細情報を組み合わせることができる全体的なディスカバリーサービスを実現する
    例えば、インターネット技術タスクフォース(Internet Engineering Task Force:IETF)で検討されている拡張可能なサプライチェーンディスカバリーサービス(Extensible Supply-chain Discovery Service:ESDS)
  • 安全で信頼できるリアル・タイム・ネットワークインフラを構築する
  • ID管理: 今後、人、機械、その他あらゆるモノに複数のIDが割り当てられるので、どのようにIDを割り当てるかを明示する必要がある
  • 障害や中断に対応する能力という意味でのレジリエンス(回復力)を実現する

今後の方向性

RWIのアーキテクチャはスタンド・アローンではありえません。基礎をなす通信インフラ、すなわち(モバイル・ネットワークを含む)インターネットと密結合し、IoEのような他のイニシアチブの基礎となるとともに、逆にそれらのイニシアチブを利用する形をとり、共通した将来のインターネット・アーキテクチャに向けて発展していくと思われます。RWIは、将来のインターネットとなる通信/サービス・インフラの設計に影響を及ぼし、また、設計を支援するでしょう。
以下に、RWIの今後の方向性について記述します。

マネジメント、スケーラビリティと、多様性

RWIは、無数のセンサーと、RFIDに対応したモノおよびアクチュエーターで構成されます。また、これらが合わさったものが、インターネットに接続されたデバイスの大勢を占めるようになるでしょう。単に接続されているデバイスの数が増えるだけでなく、接続されているデバイスのタイプは、パワフルなコンピューターから非常に単純なデバイスまで、いろいろです。
同時に、インターネット上で提供されるサービスの利用者は形を変え、人間の利用者から機械へ、つまり、M2Mが重要な役割を果たすようになります。
そこで、マネジメント、スケーラビリティ、デバイスおよびユーザの多様性が、RWIの主要な課題となります。

  • 莫大な数のデバイスをどのように効率的に管理しネットワーク化すれば良いのか?
  • 現在の名前空間、アドレス空間は、効率的かつ十分か?
  • 非常に多くの単純なデバイスに対してどのようにIPアドレスを割り当てればよいのか?(例えば6LoWPANを使用?)
  • (アドレスセントリックなこれまでのメカニズムに対して)インターネット上で、これまで以上にデータセントリックなサービスをどのように統合すればよいのか?
  • 特に、無線センサー・アクチュエーター・ネットワークは信頼性が低く、頻繁にインターネットへの接続と切断を繰り返すので、果たして効率的なプラグ・アンド・プレイ(PnP)の機構を設計し、組み込むことができるのか?

ネットワーク化された知識とコンテキスト

RWIが産み出す詳細情報のレベルはこれまでの想像を絶するものとなるでしょう。無数のセンサーが生成する生データは、その手始めに過ぎません。この情報が組み合わされ、更に膨大なデータとなっていきます。すなわち、ネットワーク内の情報処理装置とサービス機能は、より高いレベルのコンテキスト情報を提供するために、複雑な制御ループを形成したり、後処理や統計情報作成のため正確な実世界の情報をリアルタイムでストリーミング配信したりします。
そこで、ネットワーク化された知識とコンテキストに関する課題が出てきます。

  • この情報をフィルタリングし、ネットワーク化された知識を検索するためには、どのような手段が必要か?
  • インターネット上、(電子メール、ウェブ・ブラウジング、IPTV)で普段見られるデータトラフィックに加えて、どのようなトラフィックパターンに私たちは対処しなければならないのか? また、RWIがもたらす新しいトラフィックパターンは、従来のインターネット・サービスに影響を与えないか?
  • RWIが生み出すデータは、どのようにモデル化して表現できるか?
  • RWIで迅速に新しいコンテキスト情報を構成するには、どうすればよいか?

プライバシー、セキュリティおよび信頼性の確保

RWIの世界では、単純なデバイスと、RWIの実現をとおして利用可能になる非常にセンシティブな情報の両方で、プライバシー、セキュリティおよび信頼性の確保が必要となります。特に、様々な資源制約を受けるデバイスにおいても実施可能で、機密性、完全性および真正性といった基礎的なセキュリティ・プロパティを提供する、高効率の暗号のアルゴリズムおよびプロトコルの開発が必要となるでしょう。更に、(基本的人権の尊重、法の遵守は言うに及ばず)個人の安全性、プライバシーおよび自由を保障するため、RWIの開発においては、インフラとアプリケーション層の両方で適切なセキュリティおよびプライバシー保護の考慮が必要とされます。すべてのデバイスは論理的なレイヤでセキュリティを確保できるとともに、起こり得るセキュリティ攻撃にうまく対処し、ネットワーク・システム全体の通常運用に支障をきたさないことが重要です。センサー無線ネットワークおよびRFIDネットワークのセキュリティは、特に重点的に対応が必要です。
そこで、以下が今後の研究課題となるでしょう。

  • 資源制約の多いデバイス上で、どうすれば処理速度が速く、安全な暗号化アルゴリズムやプロトコルが実現できるか?
  • どうすれば、ユーザが自分のデータを把握するための、使い勝手が良くプライバシーを保てるID管理ツールを設計できるか?
  • どのように、匿名性、観察不能性、リンク不能性および仮名のプロパティを提供すれば良いか?
  • 個人が生成したデータを、どのようにして匿名情報にすればよいか?
  • 利用者にセキュリティとプライバシーに関する注意を喚起するには、どのような仕組みを用いればよいか?
  • 通信システムに対してデータ解析攻撃を仕掛ける外敵から、どのようにしてインフラを保護すれば良いか?

RWIで生成されたネットワーク・トラフィック

最後になりますが、重要なこととして、RWIで生成されたネットワーク・トラフィックは、既存のトラフィック資源の通信量モデルとは異なり、多くの場合、基礎をなす転送ネットワークに対して特定のサービス品質(QoS)を要求するでしょう。RWIのエンティティ数がスケールアップするにつれて、これは特に重要になります。現代のネットワークは、既存のトラフィックモデル用に調整・最適化されています。特にモバイル・ネットワーク(ネットサーフィン、SMS、音声、VoIPなど)がそうです。
RWIのトラフィックをできるだけ効率的に捌くには、基礎をなす転送メカニズムを改良し、新しいタイプのトラフィックやアプリケーションに適合させる必要があり、そこから以下のような研究課題が見えてきます:

  • RWIのトラフィックモデルとは、いかなるものか?
  • RWIアプリケーションの、基礎をなす転送ネットワークに対するQoS要件とは、いかなるものか?
  • 大量のRWIトラフィック資源を如何に捌けばよいか?
  • どうすれば、サービス品質を維持しながらネットワーク資源利用度を縮小できるか?

以上4つの他にも、RWI実現に向けて検討が必要ないくつかの課題があるので、以下に列挙します:

  • 標準化:基礎的なNEDサービスの標準化が必要
  • 社会的・法的な意味
  • サービスの理解/自動的な構成とモデリング(例えばオントロジー)
  • モビリティのサポート、 opportunistic networking、 dynamic discovery & usage
  • 大量のNEDの管理/大規模な分散型インフラ
  • ハード対ソフトなリアルタイム制御
  • インテリジェントな処理(in-network、on-edge、など)
  • レイヤをまたがったコラボレーション(ビジネスシステム/ネットワークサービス/デバイス)
  • セルフ・サステナビリティ(セルフ・マネジメント、セルフ・ヒーリングなど)
  • 複数のビジネスモデル-コンテキストベースのソリューション
  • 使い勝手の良さ/アプリケーション・モデリング/ツールキット
  • インフラ管理(HWとSWのセットアップ/保守など)
  • デバイスの識別
  • システムとオブジェクトの相互運用性
  • プラグ・アンド・プレイデバイス
  • RFIDのサイズ:センサーとアクチュエーター
  • デバイスのエネルギー自治力(energy autonomy)

結論と今後の進め方

リアルワールドインターネット:RWIは、IoTの特徴を、実世界の現象をインターネットに組み込もうとするビジョンに関与させようとする学際的な研究領域です。この目標を実現するには、例えば、以下のような個別の目的を成就させる必要があります:

  • 適切なRWIアーキテクチャのスケッチを描く
  • NEDを将来のインターネットに統合するよう先導する
  • コンテキストの動的生成、より基本的なセンシングに基づいたアクチュエーション・サービス、アクチュエーションおよび処理を遂行する資源、および、多数のアプリケーション向けてその資源の再利用を促進する
  • RWIの実験施設の使い方を明らかにし、付加的な実験施設あるいは機能について提案する
  • 将来のインターネットの課題に対応するプライバシーとセキュリティの技術を開発する

RWIが、私たちのビジョンを反映した形で成長していくかどうかは、時間が経てば分かることです。しかし、それを成功させるためには、私たちは、RWIに関与する異なるステイクホルダー間でコンフリクトが起きていないか注視し、RWIが将来のインターネット空間で有機的に成長できるよう基本設計を行っていく必要があります。

今回は、ヨーロッパでのインターネットの将来を考えるサイト:European Future Internet Portalより、「モノのインターネット:IoT」のコンセプトを更に敷衍した、リアルワールドインターネット:RWIの方針説明書:Position Paperをご紹介しました。
GTMリサーチのレポートでは、ごく簡単にスマートグリッドの最終形としてIoTの世界を紹介していましたが、ここでは、「サービスのインターネット:IoS」とIoT/RWIの融合したものを「エネルギーのインタネット:IoE」と表現し、これこそがスマートグリッドのあるべき姿(革新的なエネルギー・インフラ)であると(言外で)言っています。

なお、芋づる式に新しい用語/概念が出てきています(特に箇条書き部分)が、日本語に翻訳するに当たってすべてを調査する時間がありませんでしたので、一部英語のままとさせていただきました。 IoT同様、スマートグリッドを考える上で重要と思われるものは、別途フォローしていきたいと思います。

最後に、「Real World Internet」のパワーポイント資料に載っていたIoEの絵を再掲しておきます。

終わり