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プロローグ

時は2025年。世界は変わった。そして、その変革は、私たちが、何をどのように運転するかによってもたらされた。
化石燃料は、経済的な支配力をなくし、運輸部門、電力部門の二酸化炭素排出量は激減。省エネマインドがいきわたり、私たちが毎日使用する装置、建物、機械に劇的な設計変更が加えられた。車も例外ではない。今やほとんどの車は、クリーン電力を使った静かな電気動力システムで走行している。

典型的な、とある日:
アフターワーク。あなたはプラグインハイブリッド車を運転して帰宅。駐車場に車を入れ、電源コードで家庭用コンセントと接続すると、車は家にバッテリーの状態を告げ、家のエネルギー管理システムは、最適な車の充電方法を決定する。その夜は、新たな大型風力発電所からの安価な電力で充電することに。充電時間は、風任せ(どれだけ速く風が発電機のタービンを回すか)だが、とにかく充電に使用するのは「グリーン」電力のみ。翌朝、あなたはホーム・エネルギー・ダッシュボード(家庭用エネルギー管理画面)で車の充電状況を確認し、その車で職場へ。その間、車はほとんど電気で走行。電気が足りなくなったら、バイオ燃料、ガソリンや灯油(ディーゼルエンジン)で運転が続行される。
さて、職場に到着。駐車場に車を入れ、会社のEV充電システムにプラグを接続。その充電システムは自動的にあなたの車を認識し、あなたのクレジットカードと電力会社の口座にリンクする。車と電力会社のシステムは、どれほどバッテリーに電気がたまっているか/どれほど充電が必要かと、今日の(現時点、あるいは少し後の時点)充電料金はいくらか等、双方向で情報交換。あなたが事前に設定しておいた好み(安価で、もっともグリーンな方法で充電する。フル充電できなくてもOK。また、kWh当たり40円以上なら充電しないで、バッテリー内の電気を売っても良い)に従って、車と電力会社のシステムの間で、車に必要なだけの電力を充電する最適な方法が決定される。
例えば、暑い日なら、電力需要が多く、電気代は高くつく。そこで、あなたの好みに従い、車は電力会社に対して日中の充電量を減らす。場合によっては、電力会社は電力不足を避けるため、充電するのではなく、あなたの車から電気をもらいたいと言ってくるかもしれない。提示価格が納得できるものなら、あなた車は、そのうまい儲け話にのって、車に蓄えた電気を電力会社に提供。あなたのクレジットカードの口座には、電力会社から、それに見合った金額が振り込まれる。
5時の退社時間。外はまだ暑いが、あなたが車に乗り込むと、すでに車内は冷やされていた。ただし、(フル充電されなかったので)帰路は最先端の環境にやさしいバイオ燃料も使って帰宅。

一方、あなたのいとこは市内に住んでおり、航続距離が160マイルの電気自動車を使っている。彼女の通常の生活圏内の移動では、それで困ることはない。あなたと同じく、車は夜間に充電するが、住んでいるアパートの車庫に充電ステーションがあるので、充電代は無料。このアパートは電力会社と契約しており、夜間駐車場に停められた電気自動車は、風力発電用の分散バッテリーとして利用されている。 充電代が無料である引き換えに、風力発電を系統電力として有効活用するための装置として、電気自動車を夜間貸しているのだ。
週末郊外にショッピングに出かける時は、ショッピングセンター駐車場の急速充電ステーションに駐車。ショッピングが終わったころには充電完了だ。充電に使われた電気は、ショッピングセンター屋上の太陽光パネルで発電されたものである。実は、この太陽光パネルと省エネ設計のおかげで、このショッピングセンターの発電電力量と消費電力量はほぼ同じであり、“ネットゼロ”エネルギービルと呼ばれている。急速充電無料の時間帯を設けることで、彼女のような顧客を呼び込むことができ、ショッピングセンター側にもメリットがあるし、彼女もショッピングに行くために一銭も払わなくて済む。10年前の2015年には、オイル価格が1バレルUS$200まで値上がりし、ショッピングのためのドライブも控えざるを得なかったことを考えると、まるで夢のようだ。

以上、Smart Garage Charrette Reportのプロローグ部分をご紹介しました。
スマートガレージのビジョンが実現した、とある一日の様子が、鮮やかに描かれていますね。
電気自動車、最新のネットゼロ・エネルギービル、再生可能エネルギーを有効活用したスマートグリッドが一体となることで、革新的な、クリーンで安価な電気の使用とモビリティが可能となります。これが、スマートガレージのビジョンにほかなりません。

ただし、どうすれば、このようなビジョンを達成できるのか?

2008年10月8日~10日オレゴン州ポートランド市で開催されたロッキーマウンテン研究所主催のワークショップでは、関連する様々な分野から有識者、実務経験者を集め、その実現方法と課題、解決策について話し合われたのです。

スマートガレージのように業種の異なる多数の業界にまたがった物事を推進するためには、単に概念・理念を共有するのではなく、このプロローグに示されたような将来の絵姿を共有することは、非常に大切だと思いました。

次回は、本レポートのエグゼクティブサマリ部分について紹介したいと思います。