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タイトルの「IEC61968 CIMの紹介-3」は、「IEC61970 CIMの紹介-3」の誤りではありません。
前回までは、系統制御所のEMSのAPIに関連する標準規格をつかさどるIEC TC57 WG13によるCIM関連の国際標準規格IEC61970をご紹介して来ましたが、今回は、配電管理システム(DMS)および外部システムとのインタフェースに関連した標準規格策定を担当するTC57 WG14によるCIM関連の国際標準規格についてご紹介したいと思います。

IEC TC57 WG14について

WG14は、下図に示すとおり、IEC61968国際標準規格を用いた電力業界の企業AP統合を行うための共通言語の確立を目指しています。


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そして、CIMを、そのAP統合のための“共通言語”と位置づけています。


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CIMのパッケージのうち、WG14が規定している部分は、下図の緑の部分になります。


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• Assets:配電系統の流通設備レベルのオブジェクトのパッケージ
• Documentation:作業指示書や障害報告書など、実世界のオブジェクトに対応するパッケージ
• Consumer:消費者オブジェクトのパッケージ
• Core2:IEC61970-301のコアオブジェクト策定時のもれた重要オブジェクトのパッケージ
• ERP Support:電力会社のERPパッケージに対応するためのパッケージ
• OAG Messages:Open Application Groupで作成された注文書や、部品表のような実世界のオブジェクトに対応するパッケージ

IEC61968の概要

WG14がかかわっているIEC61968も61850、61970同様、いくつかのパートに分かれています。
• Part 1: Interface Architecture and General Requirements
• Part 2: Glossary
• Part 3: Network Operations
• Part 4: Records & Asset Management
• Part 5: Operational Planning and Optimization
• Part 6: Maintenance & Construction
• Part 7: Network Extension Planning
• Part 8: Customer Support
• Part 9: Meter Reading and Control
• Part 10: External to DMS
• Part 11: Common Information Model for DMS
• Part 12: Use Case Technical Report
• Part 13: Common Distribution Power System Model
• Part 14: XML Naming and Design Rules

IEC61968-11が、DMSに関連するオブジェクトのCIMです。
IEC61850-7-2や61970-4xxに相当する、通信プロトコルから独立したインタフェースの規定がIEC61968-1で定められています。
IEC61970-452(CPSM)に相当する、配電系レベルのCIMのサブセットの規定(CDPSM:Common Distribution Power System Model)がIEC61968-13で、IEC61968-3~10は、それぞれ、配電系統運用、資産管理、運用計画と最適化、保守および建設管理、流通設備計画、顧客管理、メータ計測と制御、その他DMSと外部接続するAPとのインタフェースについて、個別にメッセージ交換用のXMLスキーマが制定されています。

IEC61968-1:インタフェース参照モデルIRM(Interface Reference Model)


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上図は、IEC61968-1で規定されたインタフェース参照モデルで、配電管理に関する規定がパート3~6、配電系統の給電計画や建設・保守・運用管理に関する規定がパート7~9、その他、発送電管理や電力会社のバンクエンド処理など配電管理システムと外部接続するインタフェースの規定がパート10で規定されていることが、この図からもわかります。
また、上図のコンポーネント間で、黄色のインタフェースを通じて情報交換するメッセージの基本構造、メッセージヘッダー、ヘッダー中の動詞は、以下のように定められています。

【IEC61968の基本的なメッセージ構造】


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※ IEC61968のメッセージは、必ずヘッダーがあり、メッセージのタイプによって、オプションとして、リクエスト、リプライ、およびペイロード(本体)がついています。

【IEC61968のヘッダーの構造】


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※ ヘッダーには、必ず動詞と名詞があり、その他タイムスタンプなどがオプションで付随します。

【IEC61968のメッセージヘッダー内の動詞】


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【IEC61968のメッセージヘッダー内の名詞の例】

ヘッダーの名詞部分には、以下のようなCIMに基づいた名詞が使われます。
• NetworkDataSet
• NetworkChangeSet
• LoadDataSet
• SwitchingSchedule
• OutageReport
• PlannedOutage
• OutageNotice
など

IEC61968のミドルウェアとMultiSpeak

IEC61968のAP統合では、CIMを共通言語としてミドルウェアを介してAP間で交換するメッセージの標準を規定していますが、トランスポート層に関しては、規定がありません。多分、当時想定されていたミドルウェアはCORBAのようなメッセージブローカー機能を提供するEAIインフラではないかと思われますが、メッセージ本体にXMLを採用したこともあり、現在ではWebサービスを使うのが自然だと思われます。

ところで、ここまで見てきたように、CIMは、発電端から需要端までの電力自体の流通に関連するオブジェクトだけでなく、電力取引とその精算にかかわるような実世界のオブジェクトまでカバーする広範なモデルとなっています。
これに対して、米国農業電力協同組合NRECA(National Rural Electric Cooperative Association)がスポンサーとなり、全米47州約1000の電気協同組合メンバ間で配電情報を交換するための情報交換モデル:MultiSpeakが作られました。IEC61968のミドルウェアと違って、こちらはトランスポート層も固定で、バッチ型ではファイルベース、Request/Reply型ではHTTPを使ったSOAPメッセージ、Publish/subscribe型ではTCP/IPソケット通信を使ったストリーミング方式が採用されているようです。
CIMは、規模の大きな電力会社向け、MultiSpeakは小規模電力会社向けという棲み分けで始まったようですが、電力系統全体の停電管理(OMS)などの情報交換を考えると、2つの異なる情報交換モデルが、互いを無視したまま並立するのはおかしいということで、現在、下記のとおりIECとのコラボレーションが進んでいるようです。
• IEC 61968-14-1:MultiSpeak4.0とIEC61968-3~10のマッピング
• IEC61968-14-2:MultiSpeak4.0用のCIM Profileと、IEC61968-3~10のProfile

以上、今回は、IEC61968国際標準規格と、WG14が関与したCIMパッケージについてご紹介しました。

なお、IEC61968-9:Meter Reading and Controlに関しては、スマートメータリングに関連しますので、別の機会を見つけて、掘り下げてみようと思います。

最後に、今回使用した資料は以下のとおりです。

• UISOL IEC TC57 WG14
• IEC TC57 Working Group14:System Interfaces For Distribution Management
• EPRI:Equipment Performance Database with CIM Data Models and Performance Data for
Transformers