© Copyright Richard Dear and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

欧州の国際電気標準会議(IEC)戦略グループSG3が、先月公開した「IEC版スマートグリッド標準化ロードマップ:IEC Smart Grid Standardization Roadmap Edition 1.0」をご紹介しています。
今回は、その第2章「はじめに」および第3章「スマートグリッドのビジョン」ご紹介したいと思います。


出典:同ドキュメント表紙およびhttp://www.iec.ch/smartgrid より

では、はじめます。

2 はじめに

2.1 一般

「スマートグリッド」は、発電所から消費者までのエネルギー変換連鎖全体にまたがる主要なトレンド/市場となっている。その中で、電力潮流は、(送電系統から配電系統を経て需要家に至る)一方向の流れから双方向の流れに変わると考えられている。更に、電力系統の運用方法が、階層的トップダウン方式から分散制御に変わると目されている。
スマートグリッドに関する要点の1つは、「見える化」の促進と、複雑な電力系統の制御性の向上である。それには、電力系統の個々のコンポーネントとサブシステムの間の情報共有促進が不可欠で、標準化は、将来、電力系統の新たなアプリケーション進展を可能にするための情報共有を促進する重要な役割を果たす。

2.2 本ドキュメントの目的とスコープ

本ドキュメントは、IECの標準規格群の中でスマートグリッドの実装に関連すると思われるものを洗い出し、スマートグリッドに適用するに当たっての潜在的なギャップを識別しようとするものである。
スマートグリッド・アプリケーションによって、関係する標準規格は異なる。しかし、いくつかの標準規格は、ほぼすべてのスマートグリッド・アプリケーションに必要、あるいは必須のコア・スタンダードとなるだろう。また、それ以外でも、スマートグリッドの基礎をなすようなIEC標準規格がある。それらは、スマートグリッド構築の中核をなす標準規格群に比して優先度は低いものの、スマートグリッド構築に関連する標準規格すべてについて、あまねくその概略をおさえておくことが重要だと考える。

更に、(IECの考える)スマートグリッドのビジョンを実現するため、IEC標準規格の全体フレームワークと、今後のアクションについてのロードマップを定義した。これは、スマートグリッドが市場に受け入れられるために必要な前提条件を規定したものである。スマートグリッドへの投資は、長期的な投資とならざるを得ない。そこで、ステークホルダが長期にわたり継続投資を実施すべきかどうか判断を行うベースとなる、一定の標準規格のセットを提供することが絶対に必要だと考えている。

本ドキュメントでは、スマートグリッド実現に付加価値を与えるに当たって、標準化の作業を限定した。「見える化」促進と電力系統の制御性向上の目的達成を支援するための相互運用性基準策定するに当たって、特に注意した。
IECはスマートグリッドをより一層促進するための絶対前提条件を提示するが、ソリューションやアプリケーションの標準化には立ち入らない。それは、スマートグリッドのイノベーションや進展を妨げる可能性があるからである。

本ロードマップでは、基本的にIECの標準規格を対象としているが、別の標準開発機関(SDO)との共同作業で最適解が得られそうな領域では、IECの標準規格以外のものも含んでいる。
スマートグリッドに関する話題はすでに巷間にあふれているが、スマートグリッドの標準化に関するものは少ない。1つの注目すべき例外が、NIST相互運用性ロードマップである。これは、米国の2007年エネルギー独立・安全保障法に基づいて作成されたもので、現在、スマートグリッド関連標準規格を包括的にまとめたものとして最先端の労作である。IECは、このNIST相互運用性ロードマップのほとんどの結果を支持する。また、今後、国際標準としてさらなる標準開発が必要となった場合、NISTと連係する用意ができている。

3 スマートグリッドのビジョン

3.1 スマートグリッド推進要因

効率的かつ信頼できる送配電は、社会経済の基本要求事項である。
ところが、そのような基本要求事項を満たすべき工業先進国の公益企業は今日、激動の最中にいる。送電インフラの大部分が1960年代に構築され、その設計寿命の時期に達している一方で、政府や規制機関から、競争の強化、エネルギー価格低減、エネルギー効率向上、太陽光・風力・バイオマスおよび水力発電の増加圧力を受けているのだ。
(開発途上国では負荷需要が急増しているが)、工業先進国では、負荷需要は減少しているか、もしくは、この十年間ほぼ一定で推移している。老朽化した設備は、分散発電やこれまでの負荷増加の影響で、ピーク負荷の条件下では過負荷状態になっている(が、一斉に取り替えるには膨大な資金が必要となる)。その代替案として電力系統の改良を最低限に抑えるために、電力システムの新しい運用方法を確立する必要が出てきた。
多くの国々で、規制機関と電力自由化が、公益企業に送配電コスト引き下げを強要している中で、サステナブル、かつセキュアで、他のエネルギーと競合力のある価格で電力供給を行うため、(主として最新のICTに基づいて)電力系統を操作する新たな方式が必要とされている。

スマートグリッド・ソリューションの主要な市場推進要因は次のとおりである:

  • エネルギー需要増大
  • 再生可能エネルギー資源の使用増加
  • サステナビリティ
  • 競合し得る電力供給価格
  • 供給安全性
  • インフラおよび労働力の高経年化

公益企業が克服しなければならない課題は次のとおりである:

  • 高電力システム負荷
  • 発電端と需要端間の距離の増加
  • 再生可能エネルギーの出力変動
  • 新たな負荷(ハイブリッド/電気自動車)
  • 分散型エネルギー資源の使用増加
  • コスト(低減)圧力
  • 公益企業のアンバンドリング
  • エネルギー取引の増加
  • 消費者のエネルギー使用量/価格の透明性確保
  • 強大な規制圧力

なお、上記の市場推進要因および課題の優先順位は地域によって異なる可能性がある。
例えば、中国は、需要の急増と再生可能エネルギー資源を統合するニーズがスマートグリッドの推進要因となっている。
インドでは、(技術的な電力ロスと同様、盗電のような技術以外の要因による)高い電力系統の非効率性がスマートグリッドの推進要因となっている。これらは、スマートメーターの導入と柔軟な系統運用で改善が期待できる。
また、架空線での配電系統の割合が多いすべての国々で、停電の頻度は高いが、スマートグリッド技術を使うことで、停電回数、停電時間および需要量にエネルギー供給が間に合わないような状況を少なくすることができる。

3.2 スマートグリッドの定義

「スマートグリッド」という言葉は、今日、技術的な定義としてではなくマーケティング用語として使用されている。そのため、はっきりした定義はなく、何がスマートで、何がスマートでないかのスコープについても、一般的に広く受容されたものはない。
IEC-SG3ではスマートグリッドを、電力系統を近代化する概念と位置づけ、スマートテクノロジーが、「見える化」を促進し、電力系統の制御性向上をもたらすものと考えている。また、スマートグリッド技術は、電力系統を、従来の設計どおりに運用される静的なインフラから、柔軟で状況に応じて積極的に反応するような「活きた」インフラに変身することを手助けするものと考えている。
別の見方をすると、スマートグリッドは、発電から消費までの任意のポイントでの電気・電子技術と情報技術を統合するものである。
以下に例を挙げる:

  • スマートメータリングは、現状ではどちらかというと盲目的に操作されている配電系統の中で何が起きているかの知識を飛躍的に改善する
  • 送電系統では、広域監視およびシステム保全・保護計画によって、システム全体のダイナミックな現象の可観測性の改善が達成される
  • HVDCとFACTSは、送電系統の制御性を改善する(これらは両方ともアクチュエーターで、例えば、電力潮流を制御できる)
  • 配電系統では、負荷制御および自動配電開閉器によって制御性が改善される
    ほとんどのスマートグリッド技術に共通なことは、通信とIT技術を利用して、以前は分離されたシステム間の対話やインデグレーションを増加させていることである

欧州テクノロジー・プラットフォーム(European Technology Platform:ETP)のSmartGrids部門では、スマートグリッドを以下のように定義している:
スマートグリッドは、接続されたすべてのユーザ(発電者、消費者およびその両方を行うもの)の行動を知的に統合し、効率的、経済的に、サステナブルかつセキュアな電力供給を行うことのできる電力ネットワークである。
スマートグリッドは、革新的な製品・サービスを使用し、インテリジェントな監視・制御・通信およびセルフヒーリング技術を通じて以下を可能とする:
- あらゆる規模の発電機を接続し、その発電機およびその発電技術を有効に利用する
- 消費者がシステム運用の最適化に一役買えるようにする
- 消費者により多くの情報を提供し、(電力を消費するだけでなく)消費者から電力を供給することを可能とする
- 電力供給システム全体の環境への影響を大幅に縮小する
- 電力供給の信頼性と安全性を大幅に向上させる

なお、スマートグリッドの展開においては、単に技術、市場や商業的な観点、環境への影響、規制に関するフレームワーク、標準の使用法、ICT及びマイグレーションの戦略だけでなく、社会的要件や政府の法令も考慮しなければならない。

3.3 スマートグリッドの展望

スマートグリッドとは、以下に示す7つの要素のサブセットを組み合せ、そこに登場する主要プレーヤのビジネス目的に合致するように一つに統合したソリューションである。つまり、スマートグリッド・ソリューションは、各国、各地域で、そこに含まれるユーザのニーズに適合する必要がある(図2を参照)。

図.2 NIST スマートグリッド概念モデル

スマートグリッドは以下の要素から構成される:

顧客/プロシューマ

- 「賢い消費:Smart Consumption」は、デマンドレスポンスを可能にし、配電管理とビル/家屋のオートメーションのインターフェースする部分に位置する
-「顧客サイトでの発電:Local Production」は今のところ大きな要素ではないが、将来のスマートグリッド推進要因の1つと目されている
- 「スマートホーム:Smart Home」は、ホームオートメーション・システムを装備した家である。ホームオートメーション・システムは、エネルギーを効率的、経済的で安全に使え、かつ快適な生活ができるように、照明、シャッター、ブラインド、エアコン、家電機器その他を、共通のネットワークインフラに相互接続し制御する。
- 「ビルディング・オートメーションと制御システム:Building Automation and Control System(BACS)」はビルの頭脳に相当する。BACSは、建築物構造体、プラント、屋外設備、および自動化装置の計装、制御および管理技術すべてを含み、ビルディングに対して、効率良く、経済的で、信頼できる操作を行うためにロジック、制御、監視、最適化、操作、手動介入と管理など、自動制御に必要なすべての製品とサービスから構成される。

大規模発電

- 「賢い発電:Smart Generation」には、再生可能エネルギーがもたらす高調波歪、Fault-Ride-Through(瞬時電圧低下などの系統擾乱により一斉解列を起こさないようにすること)や発電量の変動をコントロールするためのパワー・エレクトロニクスと、再生可能エネルギーの出力変動を補うための化石燃料を用いる発電所が含まれる

電力系統(送電系統と配電系統)

- 変電所の自動化と保護がセキュアな送電系統運用のバックボーンである。近年、シリアルバス・コミュニケーション(IEC 61850)が導入されている。セキュリティは保護計画に基づいている。
- 電力品質・電力監視システムは、企業の品質管理システムと良く似た振舞いをする。運用、制御および管理システムから独立して、対応するグリッド中のアクティビティおよび電力設備/機器をすべて監督している。したがって、このシステムは「早期警報システム」として使用することができ、故障を分析し、故障の理由を見つけ出すのに不可欠のものとなっている。
- エネルギー管理システム(EMS)は送電系統の制御センターである。今日、顧客は、容易にITと統合でき、停電回避を支援しやすいオープン・アーキテクチャを求めている(例えばフェーザー計測、系統の状況の可視化、動的ネットワーク安定性解析)。
- 従来の保護装置は、致命的な障害電流から変圧器のような主要な系統側の装置を保護するものだったが、新しい意思決定支援システムとシステム保全・保護機構は電力系統を擾乱・停電から保護するものになっている。新しいシステム保全・保護機構では、負荷抑制行動を限定することで、保護動作が引き起こす制御不能な連鎖反応の発生を食い止めることができる。
- パワー・エレクトロニクスは送電系統の「アクチュエーター」内にある。HVDCとFACTSのようなシステムでは、短絡パワーを高めずに、電力潮流の制御が可能なので、送電能力の増強を支援することができる。
- 設備管理システムおよび状況監視装置は、公益企業のOpEx(運用コスト)およびCapEx(資本支出)を最適化する有望な道具である。例えば、状態監視保全(Condition-Based Maintenance:CBM)は、信頼性を犠牲にせずに、保守費の削減を可能とする。設備管理システムおよび状況監視装置を用いることで、主要設備の過熱による送電ロスが抑えられ、送電能力の増強にも貢献する。
- 配電自動化と保護:送電系統には自動運転と遠隔制御に最先端技術が使われているが、配電自動化の大規模展開は、まだ始まったばかりである。(架空線を頻繁に使用する)米国のような国々は、配電自動化の恩恵を最も受けている。高度な配電自動化の概念では、停電時間を最低限にする(グリッドをセルフヒーリングする)、自動構成機能を奨励している。さらに一歩進んで、電気を自給自足するための電池を含む分散型エネルギー資源の使用(マイクログリッド)も話題に上っている。マイクログリッドは、送電系統が停電しても、配電系統内でのエネルギー供給保証を支援するものである。
- 配電管理システム(DMS)は、送電系統のEMSに対応するもので、配電系統の中央制御センターである。頻繁に停電が発生する国々では、停電管理システム(OMS)は、DMSの重要なコンポーネントとなっている。他の重要なコンポーネントとしては、故障箇所を発見し、地理情報システムとインターフェースするシステムがある。
- スマートメーターは通信リンクを備えた電子メーターの総称である。「先進メータリング・インフラ:Advanced Metering Infrastructure(AMI)」は、遠隔でのメーターの構成、ダイナミックな料金、電力品質監視および負荷制御を可能とするものである。先進的なシステムでは、配電自動化とメータリング・インフラを統合している。

通信

- 通信は、全体としてスマートグリッドのバックボーンをなすものである。構文レベルおよび意味レベルでの情報交換によってのみ、スマートグリッドの恩恵に浴することができる。
- セキュリティは、重要なシステム基盤にとって、常に課題である。スマートグリッド・ソリューションでは、可観測性、可制御性を実現するために膨大なデータ交換が必要となる。したがって、そのデータ交換と、それを可能とする物理的なコンポーネントにとってセキュリティのインパクトは非常に大きいものである。

第2章および第3章で、IEC-SG3の考えるスマートグリッドのイメージと、IECとして、本スマートグリッド標準化ロードマップが何を目論んでいるかがはっきりしたと思います。

• まず、「スマートグリッド」が一義的に定義できないのは、それが技術用語ではなく、マーケティング用語だから。
• また、スマートグリッド・ソリューションというのは、国・地域ごとに、そこに参加する主要プレーヤのニーズに適合するものでなければならない。
• したがって、それまでの各国・各地域の電力系統システムやエネルギー環境が違えば、「スマートグリッド」として目指すものが異なるのは当然である
という認識は、国際標準策定機関として、直接の利害関係者ではなく、第三者の立場で冷静に昨今の“スマートグリッド狂想曲?”を“鑑賞”してこそ得られた達観だと思います。

また、IECとして、自分たちの責任範疇の標準規格をスマートグリッド・ソリューション構築に利用してもらうために何をすべきか、何はすべきでないかが明確に示されました。そこにあらためて、標準化の意義(毎回スクラッチからソリューション構築を行うムダを省き、システム間の相互運用性を確保する)と、標準化しないことの意義(競争原理を働かせることで、関連企業が切磋琢磨し、各々の企業価値を高めるとともに、社会全体としてみた場合も最高の結果が得られる)を感じとることができました。みなさんはどのような感想をもたれたでしょうか?

次回では、いよいよ第4章「IECスマートグリッド標準化ロードマップ」の内容紹介に入りたいと思います。
なお、最後に、以前ブログで見ていただいていますが、スマートグリッド関連のIEC標準規格適用例の図を再掲しておきます。

終わり