© Copyright Andy and Hilary and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

IEAから公開された、地熱および地熱発電の技術ロードマップ「Technology Roadmap - Geothermal Heat and Power」をご紹介しています。

前回は、世界中の地熱発電および地熱エネルギーの熱利用について、現状と動向の部分をご紹介しました。今回は、地熱エネルギー利用の将来像と、それを実現するためになすべき行動についてご紹介していきます。

いつも通り、全文翻訳ではないことと、例によって、超訳になっている部分があることを予めご了承ください。また、勝手に補足した部分は文字色=緑にしています。

それでははじめます。

IEAの技術ロードマップ - 地熱と地熱発電

 目次

• Key Findings:重要所見
• Introduction:はじめに
• Geothermal Energy Today:地熱エネルギーの現状
• Vision for Deployment and CO2 Abatement:開発とCO2削減ビジョン
• Technology Development-Actions and Milestones:技術開発-アクションとマイルストーン
• Policy Framework-Actions and Milestones:政策-アクションとマイルストーン
• Conclusions and Role of Stakeholders:結論およびステークホルダーの役割
• Appendix I. Assumptions for Production Cost Calculations
• Appendix II. Projected Contribution of Ground Source Heat Pumps
• Appendix III. Abbreviations, acronyms and units of measure

 開発とCO2削減ビジョン

2050年に向けての地熱の展望

 地熱発電

このロードマップ作成にあたっては、IEAのエネルギー技術展望2010の「Blue High-REN」シナリオをベースとしている。このシナリオは、再生可能エネルギーが、2050年には全世界発電電力量の75%となることを仮定しており、地熱発電に関しては、2050年までに1400TWh/年(世界の年間発電電力量のおよそ3.5%相当)に達すると想定している。また、従来型の高温地熱資源だけでなく、深部滞水層の低・中温地熱開発も重要な役割を果たすと想定している。また、高度な高温岩体技術に関しては、2030年早々に商業ベースにのるとの仮定を置いている。
アジアの開発途上国では、まだ手つかずの高温地熱資源が豊富に存在しており、更に、北米では、米国西部の高温地熱資源だけでなくEGSの開発に期待がかけられている。欧州でも、高温地熱資源に加えて、深部滞水層の低・中温地熱資源、EGSを組み合わせた地熱開発が行われると想定している。

図の拡大

Figure 9に示された地熱発電の展開を満たすためには、現在開発中の10のEGSプラントに加えて、今後10年で少なくとも50の10MW級EGSプラントが必要となる。

図の拡大

地熱発電が2050年までに1400TWh/年に達することにより、Figure 10に示すように、発電に伴う世界中の年間CO2排出量が760Mt軽減されると想定されている。

図の拡大

 地熱エネルギーの熱利用

地熱エネルギーの熱利用は、寒冷な気候の国々に適しているが、温暖な気候の国々でも、地熱は農業や産業に役立っている。また、60℃以上の温度があれば、吸着冷却器用の駆動エネルギーとして地域冷房に使うこともできる。
北欧では、地熱を利用した熱供給やCHPバイナリー発電が近年急増しており、地熱の直接利用への関心が高まっている。東欧諸国は、老朽化した地域暖房システムの刷新が必要になっているが、深部滞水層の低・中温地熱の利用が検討されている。また、フィリピンやインドネシアのような熱帯諸国でさえ、地熱エネルギーの農業への適用に関心を持ち始めている。

Figure 11は、2050年までの地熱エネルギーの熱利用に関する、地域ごとの想定で、2050年には、世界全体での地熱の直接利用は5.8EJ(約1600TWhの熱エネルギー)になると仮定している。この地熱の直接利用の数値は、IPCCの SSREN(Special Report on Renewable Energy Sources and Climate Change Mitigation)の予測値をベースとしているが、地中熱源ヒートポンプ(ground source heat pumps :GSHP)分は除外している。

逆に、高温岩体技術が2030年早々に商業ベースにのると仮定しているので、EGS技術を用いたCHP(熱電併給)の予測値を加味している。

図の拡大

経済性の展望とコスト削減

地熱エネルギーの生産コストは、条件によって相当ばらつきがある。
高温地熱資源を用いたフラッシュ発電はすでに平均学習率が5%の実証済みの技術で、発電コストは、多くの場合、すでに他の発電方式と競合力をもち、2050年に向けて、今後もコストダウンできると推測されている(Figure12)。卸電力価格が上昇している中で、地熱フラッシュ発電は、2020~2030年の間に、完全な価格競争力を持つと想定している。
バイナリー発電も比較的成熟した技術である。まだ、発電容量が小さいが、容量が大きくなるにつれ、発電コストが下がり、2030年以降は、他の発電方式と比べても価格競争力を持つようになると思われる。
EGSに関しては、まだ発電コストを予想できる段階に至っていない。石油・ガス井の廃熱水利用や、オフショアの海底地熱利用、マグマや地圧地熱資源の利用に関しても同様である。

図の拡大

 技術開発-アクションとマイルストーン

地熱エネルギー実用化にむけて

 地熱資源評価


表の拡大

Figure 13にドイツの地熱情報システムの例を示す。

図の拡大

 資源の実用化


表の拡大

 地熱エネルギーの熱利用


表の拡大

 先端地熱技術:EGS


表の拡大

表中の最後のアクションに挙げられている、EGSの発電容量をスケールアップする概念をFigure 14に示す。

図の拡大

 その他の先端地熱技術


表の拡大

 政策-アクションとマイルストーン

規制の枠組みとインセンティブ


表の拡大

 市場拡大


表の拡大

 研究開発実証の支援


表の拡大

IEAの所属する国の間でも、他の再生可能エネルギー技術と比較すると地熱エネルギーのRD&D支援はそれほど多くなく、全RD&D投資の10%以上を地熱エネルギーに向けているのは、ニュージーランドのみである。
Figure 15は、国民一人あたりに換算した地熱エネルギーRD&D予算であるが、RD&D予算の絶対額が多いのは米国とドイツである。

図の拡大

 国際協調と開発途上国への地熱エネルギー展開支援


表の拡大

 結論およびステークホルダーの役割

本書を締めくくるにあたって、地熱技術にかかわるステークホルダーに必要とされるアクションをTable 1にまとめた。
IEAは、政府、産業およびNGOのステークホルダーとともに、今後も、このロードマップのビジョンが達成されていく過程を定期的に報告する。


表の拡大

以上、IEAから公開された、「地熱および地熱発電の技術ロードマップ」の後半、地熱エネルギー利用の将来像と、その将来像実現に向けてステークホルダーは何をなすべきか提言している部分をご紹介しました。

まず、この将来像作成のベースとなったIEAの「エネルギー技術展望2010(略称ETP2010)」-「BLUE High REN」シナリオについて、少し調べてみました。
このブログの冒頭に、原文へのハイパーリンクを張り付けておきましたが、エグゼクティブ・サマリ部分についての日本語訳『エネルギー技術展望2010 - 2050年までのシナリオと戦略』も見つけました。それによると、「ブルーマップ・ シナリオ(いくつかの種類がある)は目標指向的なもので、2050年までに世界のエネルギー関連CO2排出量を(2005年比で)半減させるという目標を設定し、既存の低炭素技術と新たな低炭素技術の展開によってこの目標を達成する最も費用のかからない方法を検証したものである(図1)」と記されています。


図の拡大

この説明にもあるように、ブルーマップ・シナリオにいくつか種類があり、「BLUE High Ren」というのは、下図のグラフの右端にある、2050年時点で全世界の発電量の75%を再生可能エネルギーが占めるシナリオ(High Renewable variant of the BLUE Map Scenario)のことでした。


図の拡大

出典:再生可能エネルギー2010国際会議資料「総合的なエネルギー・セキュリティの確保」

グラフ中央の「BLUE Map」では、2050年時点の全世界での原子力による電力供給を約24%、10000TWh/年と想定しており、「BLUE High Nuclear」では2050年時点での原子力による電力供給を約38%と想定しています。

この「BLUE High Ren」シナリオの中で、地熱資源は「Other」に含まれていると思われます。その意味で、ETP2010(すなわちIEA)でも、それほど地熱資源には期待がかけられていないように感じられます。現在の高温地熱資源については、利用できる国が限られているという理由もあるのでしょうが、出力変動の少ない貴重な再生可能エネルギーとして、もっと地熱資源に脚光が当てられても良いのではないでしょうか?
また、送電技術のブレークスルーが起きれば、海底油田ならぬ海底地熱発電所も現実味を帯びてきます。更に、先端地熱技術が進めば、今までは地熱(=高温地熱資源)の利用など考えられなかった国でもEGS発電や、低・中温地熱の利用が可能となり、地熱資源が見直されるようになるのではないかと思います。

Figure 15「2006~2009年平均の国民一人あたりの地熱エネルギーRD&D予算」に“地熱資源大国”の日本の名前がないのは、さびしい限りです。それでも、日本の民間企業は高温地熱利用技術で世界に先んじているようですが、2050年を見据えて、このロードマップで提言されているように、日本は、もっと先端地熱技術開発に力を入れるべきではないでしょうか?

なお、ブログ上での「IEA-地熱および地熱発電の技術ロードマップ」のご紹介は、これで終わりにしますが、前篇と後編を合わせ、Appendixも加えたものを、追ってホームページ上からダウンロードできるようにする予定です。

終わり