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プライスレスポンシブデマンド(Price responsive Demand:PRD)の続きです。

PRDとは、リアルタイム市場価格に連動する価格反応型DRを導入することによって、リアルタイム市場での取引価格が高騰すれば需要が減る-という需要家の反応、あるいは、そのような反応によって削減される需要量を指します。
DRアグリゲーターが需要家から集めたDR資源を束ねて系統運用者に提供するように、需要家のPRDを束ねて、系統運用者にPRD資源として提供する組織をPRDプロバイダーと呼び、実際には、電力小売事業者(Load Serving Entity:LSE)や負荷削減プロバイダー(Curtailment Service Provider:CSP)が、この役割を果たします。

前回は、PJMの容量市場のマニュアルから「PRD参加資格(Eligibility Requirements of Price Responsive Demand)」の部分をご紹介しましたが、そこに書かれていたのは、参加資格というよりも、プライスレスポンシブデマンド実運用のための仕組みではないかと思います。

すなわち、

① 1日前ではなく、当日リアルタイムに変動するダイナミック価格反応型Fast-DR(具体的には、CPP、PTRおよびRTP)プログラムに需要家を参加させる。
※従来、典型的なSlow-DRとして運用されていたダイナミック価格反応型DRプログラムをFast-DRとして機能させようとしています

② PJMが一般需要家に対してそのようなDRプログラムへの参加を要請するのではなく、このFast-DRプログラムの主催者は、PRDプロバイダーである。
※ここまでは、PRDプロバイダーが一般需要家に提供するDRプログラムであり、需要家とPJMには何のつながりもありません。PJMは一般需要家に対して直接負荷制御(DLC)契約も、価格反応型Fast-DR契約も結んでいません

③ PRDプロバイダーは、PJMのリアルタイム卸売電力取引価格(より詳しく言うと、PJM管内の地点ごと、かつ、5分ごとのLMP価格)に連動してダイナミックに小売電気料金を設定し、需要家に通知する。
※このことにより、従来のCPP、PTRやRTPがあくまでも小売電気料金価格ベースのDRであったのに対して、このFast-DRプログラムが、(間接的に)卸売電気料金価格ベースのDRになり、需要家とPJMが間接的に繫がりました

④ PRDプロバイダーは、需要家に1時間ごともしくはそれより短い時間間隔で電力使用量を計測できるスマートメーターを設置し、変動する小売電気料金での電力使用量計測・課金を行う

⑤ PRDプロバイダーは、信頼性補償協定(Reliability Assurance Agreement)に規定された監視制御(Supervisory Control)条項により、PJMが緊急事態宣言を出した場合、系統信頼性維持のためPRDの提供を約束した分だけ需要削減しなければならない。

⑥ (当日)LMP価格が高騰すると、PJMは最大緊急イベント(Maximum Emergency event)警報を発令する(だけ

PJMに代わって、PRDプロバイダーは、各地点別にリアルタイムLMP価格に応じて登録されている需要削減を実施します

価格反応型DRの実施のみでは、PJMの望み通り確実に負荷削減を行うことは不可能ですが、信頼性補償協定(Reliability Assurance Agreement)に規定された監視制御(Supervisory Control)条項により、PRDプロバイダーは、PJMが緊急事態宣言を出した場合、系統信頼性維持のため需要削減に応じなければなりません。そうすることによって、PJMから見ると、従来、制御不能(Non-dispatchable)と思っていた価格反応型DR資源を、確実に予定した分(すなわちPRDとしてあらかじめPRDプロバイダーがPJMに登録していた分)の制御が可能(Dispatchable)となります。

これがPJMの目指すプライスレスポンシブデマンドの実運用の仕組みです

一旦、これで全てわかった気分になったのですが、ここまで(①~⑥)の流れでは、PJMのリアルタイム市場は登場しますが、容量市場は登場してきません。
それが、なぜPJMの容量市場のマニュアルのセクション3Aとして記載されているのか?

その理由を、今回も2014年4月24日に発行された最新のPJM マニュアルNo.18 「PJMの容量市場」Revision22から「PRDプランの要件」をご紹介することで細かく見ていきます。

PJM マニュアルNo.18 「PJMの容量市場」

Revision:22
発行日:2014年4月24日
セクション3A:プライスレスポンスデマンド(PRD)のPJM市場への統合(続き)
3A.4 PRDプランの要件

 PRDプランの提出と承認プロセス

初期調達容量市場(BRA)の実運用年(Delivery Year)にPRD提供を希望するPRDプロバイダーは、当該実運用年のBRAオークションが実施される1月15日より以前にPRDプランを提出しなければならない。

PRDプロバイダーがPRDプランを作成するに当たって、以下の情報が提供される。

1)Weather Normalized Zonal Peak Load

10/31までに、PJMは、電力供給エリア内のゾーンごとのピーク負荷を、前年のデータから夏季の天候の影響を除いた形で公表する。
このデータ作成に当たって、PJMではマニュアルNo.19「需要の予測と分析」を用い、DRおよびPRDによる需要予測量の調整をゾーンごと1時間ごとに行う。

2) Customer PLC

12/31までに、配電事業者(Electric Distribution Company :EDC)は、前年のデータから夏季の天候の影響を除いた形で計算された最終需要家ごとのピーク負荷貢献度(Peak Load Contribution :PLC)を公表する。

3)Zonal Scaling Factor

1月第1週中に、PJMは、前年のデータから夏季の天候の影響を除いた形で計算されたゾーンごとのピーク負荷に対して今年度のゾーンごとのピーク負荷予想値の倍率を公表する

  PRDプランへの記載事項

PRDプランは、PRDプロバイダーが、PRDを提供するゾーンあるいはサブゾーン内のローカル配電地域(Locational Delivery Area :LDA)ごとに、提供できる最大の「公称PRD値(Nominal PRD Value)」を記載したものである。公称PRD値は以下のデータから計算される:

1) price responsive characteristic

最終需要家が提供するPRDを集約した結果、PRDプロバイダーとしてどのような「価格反応:Price Responsive」を行うか、すなわち電力価格に応じて最終需要家たちの需要がどのように変化するか

2) 予想ピーク負荷価値:Expected Peak Load Value(EPLV)

もしPRDが実施されず、卸売り電力価格が高騰しても、価格に応じた需要削減が行われなかった場合を想定し、PRDプロバイダーの提供するPRDが、PJMが算出するゾーンごとの需要予測に対してどれほど貢献できると期待できるか

3) 最大緊急サービスレベル(Maximum Emergency Service Level :MESL)

最大緊急イベント(Maximum Emergency Event)の実施をPJMが宣言した場合、PRDとしてどれほど需要削減を行えるか
あるゾーン/LDAの公称PRD値というのは、当該エリアのEPLVとMESLの差分として計算できる。

以下では、PRDプランに記述するその他の項目を示す:

• (最終需用家の)会社名
• PRDプラン提出日
• (最終需用家の)住所及び連絡先情報
• 当該PRDがPJMの容量(RPM)市場にもノミネートされているかどうか
• PRDを提供可能な地域
• ゾーン/LDAでのEPLV値
• ゾーン/LDAでのMESL値
• ゾーン/LDAでの公称PRD値(最小値は100kW)

  PRD election(PRD提供候補)の要件

公称PRD値は、PRDプロバイダーがあるゾーン/LDAで需要を削減できる最大値(MW)であるが、これとは別に、PRDプロバイダーはPJMに「PRD election」を提出する。これは、PJMから支払われる額によって、PRDプロバイダーがどれほどPRDを提供するか、価格と提供できる公称PRD値の組を指定したもので、PJMの容量オークションシステムePRMに、オークション開始以前に登録しておかなければならない。

以下に、「PRD election」に指定するデータ項目を具体的に示す:
•  ゾーン/LDAごとの、需要削減量(MW)と、価格($/MW・日)の組み合わせ(最大10組み)
•  提供エリアごとの最小・最大公称PRD値
•  指定する需要削減量の単位は0.1MW

  容量市場(RPM市場)でのオークションメカニズムの変更

容量オークション実行時、当該ゾーン/LDAでの必要調達量(上図のCapacity-No PRD)とRPM Supplyの交点として求められるRPM取引価格(上図のRPM Price No PRD)が、あらかじめPRDプロバイダーの提出している「PRD election」に示されたMWあたりの価格を超える場合、そのMW当たりの価格の組で指定された需要削減量だけ、必要な設備容量が減ったものとして(Capacity-w/PRDを求めて)、RPM Supply曲線との交点を求めることで、PRDを採用した場合の容量調達価格(RPM Price w/PRD)が定まる。

従来、PRDを採用しない場合の価格-需要曲線(RPM Demand VRR Curve-No PRD)と供給曲線(RPM Supply)の交点として決定されていた容量取引価格が、PRDを考慮した需要曲線(RPM Demand VRR Curve-With PRD)と供給曲線(RPM Supply)の交点まで引き下げられることになる。

ここまで、PRDプロバイダーは、PRD提供可能量と価格を提示しただけだったが、容量市場での市場価格に関与した「PRD election」を容量市場取引システム(eRPM)に入力していたPRDプロバイダーには、PJMからeRPMシステム経由でPRDの「採用通知」が届く。「採用通知」を受けたPRDプロバイダーは、容量保証を行う年(Delivery Year)、必要に応じてPJMから指令を受けると、容量市場取引価格($/MW・日)で需要削減に応じる義務が発生する。

  PRDの登録

容量保証を行う年(Delivery Year)、PRDプロバイダーは、ゾーン/LDAに提供するPRDをPJMのリアルタイム取引システム(eLRS)に登録する。以下に、登録の場合の注意事項を示す:
・ PRDを提供することになった最終需用家は、Emergency DRや、他のPRDプロバイダーのPRDとして二重登録されていてはならない。
・ 10KW以上需要削減に貢献できる最終需要家に関しては個別に、10kW以下のPRDしか提供できない最終需要家に関しては、それらを一括してPRDプロバイダーが代表となって登録する。

以上、PJMマニュアルNo.18 3A.4の内容を掻い摘んでご紹介しました。今回も大筋を見通すために細かなルールは端折っていることを再度お断りしておきます。

前回(その3)の冒頭部分で指摘させていただいたように、PJMに限らず米国の系統運用者がPRDに関心を示している理由は、「双方向通信可能なスマートメーターの導入と同期して、時間帯別電気料金制度が発展・実展開されるにつれて、電力卸売市場価格に反応するPJM管内の電力需要量が無視できなくなってきた」結果、従来系統運用者が実施してきた需要予測ベースの必要設備容量計算ロジックへの変更を余儀なくされた。PRDというのが、正に需要予測を狂わせる元凶であり、それをどのようにPJMの容量市場運営に組み込むか、過去数年にわたって検討してきた結果、今の姿となったと考えられます。

終わり