Stockleigh Court

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いつも弊社ブログをご覧いただきありがとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。

振り返ってみると、昨年、本ブログでは以下の3つの話題をご提供してきました。

■ デマンドレスポンス(DR)について

• DRはどこへ向かうのか - その11~その16
• プライスレスポンシブデマンド(PRD)-その1~その5

■ トランザクティブエネルギーについて

• トランザクティブエネルギー-その1~その10

■ KNXについて

• KNXの相互運用性確保に向けた仕組み
• 日本KNX協会発足
• 2014年上期KNX活動報告
• DRとKNX-その1~その4
• 日本の中のKNX

本ブログでDRを取り上げたのは2009年7月が最初です。また、スマートグリッドが、電力ビジネス業務ばかりでなく、通信、ITに密接に関連するため、それらのスマートグリッドに関連する標準はどうなっているかを調べ、トレンドを追いかけているうちに、OpenADRというDRの標準に巡り合い、その内容も紹介してきました。また、日本では、まだ「DR=ピーク負荷削減」と捉えられがちでしたが、海外では、DRと呼ばれる対象がどんどん広くなっていることを下図でご紹介したのは、2013年4月でした。

出典:FERCのDR評価レポート-その1

2014年に入ってからもDRのトレンドを追跡し、日本でもDRがアンシラリーサービスに適用されるようになる場合を想定して、アンシラリーサービスへのDR資源の参入障壁に関して調査していましたが、1つは米国東部の系統運用者PJMのキャパシティ市場におけるDR資源調達量の減少傾向、米国エネルギー規制委員会がDR普及推進策として制定したオーダー745を高等裁判所が無効と判断した情報等を紹介しました。
この他に、昨年はDRを利用した新しいスマートグリッドの仕組みとしてPJMが取り組んでいるプライスレスポンシブデマンド(PRD)をご紹介しました。
PRDについては、その名前だけは2011年10月「デマンドレスポンス・プログラムの現状と展望 - その1」の中で言及していましたが、電気料金を「時価」にすることによって需要家が能動的に需給調整に参加する仕組みと、系統運用者からは、価格反応型DRに見られる需給調整の「不確実性」を回避しうる仕組みを取り込んだ理想的なメカニズムだと思っています。


出典:「プライスレスポンシブデマンド(PRD)-その1

ただし、このような仕組みがうまく機能するには、PRD契約した需要家の属する区域のリアルタイムLMPを5分ごとに配信できる能力とともに、最低でも5分間隔で計量できるスマートメーターを設置し、そのようなスマートメーターからの計測値を遅滞なくセンターに返すことができる通信能力を持ったデータ集約器と通信ネットワークが必要です。
その導入・運用コストが例えば現在の1/10程度にならないと、実運用に移すにはビジネス的に難しそうで、まだしばらく時間を要することでしょうが、本ブログでは今年もそのようなスマートグリッド/DRにまつわる最新情報をご紹介していきたいと思っています。

次にトランザクティブエネルギーについて。

出典:トランザクティブエネルギー - その2

日本ではまだあまり耳にしませんが、ここ2年くらい米国でのカンファレンスやインターネット資料で見かけるようになっています。

•  川上(大規模発電所)から川下(需要地)へ、遠路はるばる送電ロスを伴いながら送り届けてきた従来の電力流通方式。

• 需要に合わせて供給量を調整するという電力需給バランス方式。

• 長期の需要予測に基づいた発電所建設計画策定から、短期では1日前/1時間前の需要予測に基づいた発電計画策定/変更まで、需要予測に基づいた運用が基本で、「計画からの変動が少なければ少ないほど良い」とする考え方。

これらは、従来の電力ビジネスの常識だったと思います。

これに対して、まず、

• 「熱電併給」することで従来の大規模発電所よりもエネルギー変換効率の高いCHP等の小型発電所や、一般家庭に設置した太陽光パネルに代表されるように、需要地に近いところに電力を含むエネルギー供給を行う分散電源方式の台頭

• 近い将来、出力変動の激しい風力、太陽光等大量の再生可能エネルギーを利用せざるを得ない状況を踏まえ、「需要家は使いたいだけ電気を使い、電力供給側はそれに合わせて電力供給する」という従来の考え方とは逆に、変動する電力供給量に合わせて需要量を調節できないかという考えの台頭

• 従来の計画経済的な電力流通方式から脱却し、極端なことを言えば、需要と供給の関係で決定する「電力取引価格」にすべてを委ねる市場経済的な電力流通方式の試行

これらがトランザクティブエネルギーのベースとなっています。

これを実現するためには、まず、供給者(Producer)、消費者(Consumer)という明確な役割分担(および一方的な電気の流れ)からProsumer間での電気のやり取りという双方向に電気が流れる仕組みが必要となります。
また、従来のデマンドサイドマネジメント(DSM)のように需要家側が負荷削減という形で系統運用に協力する形ではなく、供給側の変動に合わせて負荷増減を行う新たな仕組みが必要になります。
#これは、正に最近欧米ともに見受けられるフレキシブルな資源としてのDRの用途です

それに、電力流通を市場経済に任せると言っても、電気の売り手と買い手を電力取引市場でマッチングさせるだけでなく、売り手と買い手の間の電力流通経路が確保されなければ、電気を送り届けることができません。そこで、IT(データベース更新)における「トランザクション処理」の考え方を取り入れ、電力自体の売買と、売買が成立した期日・時間帯の売り手-買い手間の送電経路確保の2つが成立した暁に初めて「取引」が成立し、例え売り手と買い手の間で価格が折り合っても、両者間で電気を送り届ける経路が確保されなければ「取引」をなかったことにする
#ここから、トランザクティブエネルギーという用語が創られたのだと思います。

以上で見たように、DRはトランザクティブエネルギーを実現する上でも重要な要素であると言えます。

最後にKNXについて。

出典:Schneider Electric

昨年、自分にとっての一番大きな変化はKNXに関係するものでした。

• 1月、KNX協会本部からの要請でブリュッセルに飛びKNXのトレーニングを受けて、KNX技術者およびKNXトレーナーの資格を得、
• 2月、日本KNX協会発足に関わり、理事の1人となり、
• 2月の東京でのKNXフォーラム、7月の大阪でのKNXフォーラムの司会を務め、
• 9月には日本KNX協会の代表としてドバイで開催された全世界のKNX協会の集いに参加し、
• 12月に有料のKNXトレーニングの講師を務める

これだけでなく、東京大学江崎先生の率いる東大グリーンICTプロジェクト(GUTP)及び早稲田大学林先生の率いる先進グリッド研究所にKNX協会の学術会員になっていただくべく活動を行い、10月に会員となっていただくことができました。

KNXは、今年で生誕15年、その前身であるEIBという欧州規格の時代を含めると25年にわたって実際に使われてきた伝統的な規格・技術ですが、枯れ果て、余命いくばくもない衰退の一途をたどっている規格・技術ではなく、今も世界中に広がりつつある規格・技術です。

また、ここ数年モノのインターネット(Internet of Things : IoT)という言葉が注目されています。KNXでは、ツイストペアケーブル等で構成された通信ネットワーク内をインターネット・プロトコルとは異なるKNX独自のプロトコルで制御信号をやり取りするものの、それぞれのKNXデバイスが自律的に通信するM2Mの仕組みであり、ある意味では25年前からIoTを実現していたと言えなくもありません。
昨年は、このKNXがスマートグリッド/スマートシティの時代にどのように対応しようとしているのかについてもご紹介しました(DRとKNX)が、今年も、この古くて新しい技術をご紹介できればと思っています。

では、今年も不定期更新になりそうですが、弊社ブログご愛読のほど、よろしくお願いいたします。

以上