HMNB Portsmouth and HMS Victory

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前回は、去る3月24日に開催したKNX Forum 2017のご案内ついでに、IEEEが昨年10月パリで開催した「Smart Grid for Smart Cities:SG4SC」のイベントからCENELEC会長の講演内容をご紹介しました。

KNX Forum 2017に関しては、おかげさまで、開催までのショートノティスにもかかわらず50名の業界(と、いっても、エネルギー業界ではなく、建築設備業界)関係の方にご参加いただき、無事終了することができ、日本KNX協会事務局として肩の荷を下ろすことができました。また、今回のフォーラムでは、日本でのKNX事例報告もあり、やっとKNXも日本で地に足をつけた活動が始まったことを実感できました。

SG4SCでの欧州電気標準化委員会(Comite European de Normalisation ELECtrotechnique:CENELEC)Dr Bernhard THIES会長の資料からは、米国発祥のOpenADRが欧州標準化団体の中でも認知されてきており、電力会社と消費者宅のDRイベントや分散電源制御の経路に適用される標準としてIECPAS 62746-10-1 (OpenADR)が記載されていることと、日本でいうスマートメーターからHEMSにわたるBルートの標準の1つとしてEN50090(すなわちKNX)が候補に挙がっていることがわかりました。

本日は、タイトルにあるように、RATESというカリフォルニア州のトランザクティブエネルギーの実証プロジェクトに関してご紹介したいと思います。

RATESは、カリフォルニア州エネルギー委員会(California Energy Commission:CEC)の 電力プログラム投資計画(Electric Program Investment Charge:EPIC)で「Grant GFO-15-311」として320万ドルの予算が付いた電力小売向け自動トランザクティブエネルギーシステム(Retail Automated Transactive Energy System:RATES)の構築実証プロジェクトです。

トランザクティブエネルギー提唱者であるEd Cazalet博士が創設したTeMIX社のニュース記事「Retail Automated Transactive Energy System (RATES)」によると、この補助金は、2016年6月~2019年3月までの期間、

  • 主に一般家庭や小規模商業顧客を対象として、
  • 小売電力価格の仕組みを含めた様々な運用戦略を試し、消費者が電力取引に参加するコストと複雑さを最小限にするような負荷管理システムの構築実証を行なう

ことを目的としたもので、電力会社の「Southern California Edison:SCE」, 独立系統運用者の「California Independent System Operator :CASIO」およびOpenADRアライアンスの協力のもと原文では、“Non-financial support letters were provided by ~” となっていたのですが、詳しくは調べていません。経済的な援助はしないというニュアンスだろうと推測しましたTeMIX社Universal Devices Inc.(UDI)が、以下の構築実証を行なうとされています。

(1) RATESプラットフォームの開発
(2) エンドデバイスの制御
(3) 革新的な双方向サブスクリプション電気料金(innovative two-way subscription tariff、後述)の試験運用

この構築実証には、SCEの一般家庭と小規模商業顧客合わせて200軒が参加する予定で、構築する実証プラットフォームはSCEの配電系統やDRアグリゲータ等を含むエネルギーサービスプロバイダ、更にCAISOの卸電力取引市場とインタフェースするようです。

「双方向サブスクリプション電気料金」とは、消費者の典型的な日負荷曲線に基づいた固定電気料金の他に、日負荷曲線より実際の電力消費が多い時間帯は、その時間帯のスポット価格に連動して追加利用分の電気代を支払い、日負荷曲線より実際の電力消費が少ない時間帯は、その時間帯のスポット価格に連動して差分の電力量に対してその時間帯のスポット価格での支払いを受けるというもので、UDI社は、実証参加者宅に無償で設置するデバイスで、スポット価格の高い時間帯は使用電力量を減らし、スポット価格の安い時間帯は使用電力量を増やすよう空調機器、電気給湯器、ポンプその他の設備を自動制御します。

本実証では:

  • 消費者生活の快適性・利便性を犠牲にせず、電気料金の低減を図り、
  • SCEとしては、「サブスクリプション電気料金」が、固定電気料金がベースとなっているので一応収益の安定化が期待できるとともに、スポット価格が高い時間帯に発電単価の高い電源を調達せずに済むのでコスト低減が図れ、
  • SCEの配電部門でも、「サブスクリプション電気料金」は配電網の混雑緩和につながるので、混雑緩和のための系統用蓄電池への過剰投資を抑えられることが期待できます(下図参照)。

以上、RATESに関して、TEMIX社のニュース記事「Retail Automated Transactive Energy System (RATES)」からご紹介しました。

RATESの詳細について今のところ、この実証プロジェクトからの中間報告はないようです。 UDI社がCECに提出した補助金申請書「タイトル:Complete and Low Cost Retail Automated Transactive Energy System(RATES)」の「Scope of Work」を見ると、まずOpenADRアライアンスの協力を得て、OpenADRのトランザクティブ・インタフェースとシグナルをベースとしたRATESの要件仕様書を作成し、TEMIX社のTEプラットフォーム「TeMIX Platform」をベースとしてRATESのシステムの設計・開発を行なうので、実際の実証に入るのは、まだ先のようです。

今回はカリフォルニア州のトランザクティブエネルギー関連の事象プロジェクトに関してご紹介しました。

終わり