Ballakilleyclieu – Isle of Man

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今から約4年半前の2013年9月から2014年11月まで、16回にわたって本ブログで「DRはどこへ向かうのか」を特集しました。
そこでは、『ピーク負荷削減のみがDRに非ず』ということで、米国では2011年頃から、DRがピーク削減以外に何ができるのかを真剣に考え始め、FastDR資源が周波数調整力に利用されだした他にも、非常時運用から通常運用にまでDRの用途が広がってきていることをご紹介しました。
今回は、2017年6月末に公開されたPJMのペーパー「Demand Response Strategy」のエグゼクティブサマリ部分を中心に、PJMが今後DRをどのように使っていこうとしているのか、ご紹介したいと思います。

では、始めます。

出典:PJM Demand Response Strategy よりインターテックリサーチで作成

デマンドレスポンス(DR)とは、消費者が、電気料金や電力系統の状況変化に応じて、通常の電力消費パターンを変更することである。

DRという言葉が使われたかどうかは別にして、DRは電力供給の歴史とともに発展してきた。
大規模発電所が事故で発電できなくなった場合等に備え、工場等の大口需要家への電力供給の付帯契約として系統異常時に電力会社からの依頼で工場の機械を停止してもらったり、時間帯別電力料金契約の大口需要家が、電気代を低減するため、積極的に、料金が高い時間帯には電気の使用を控え、従量料金が安い時間帯に電力消費をシフトさせたりするのは、正に「消費者が、電気料金や電力系統の状況変化に応じて、通常の電力消費パターンを変更」しているので、今ではDRの1つと考えられている。
なお、負荷を減らす方向に電力消費パターンを変更するだけでなく、周波数調整力のように負荷を上げ下げする場合や、系統の限界を超える再エネ出力を吸収するために需要を増やす場合、更に、負荷を下げる代わりに、従量料金の高い時間帯や系統ひっ迫時に、系統から供給される電気の使用を控え、自前のオンサイト発電機等を利用することで、系統から見て電力消費パターンが変更された場合もDRと考えられている。
かくして、垂直統合(発送配電から小売りまで一体となっている)型の電力会社は、電源調達の補助手段/非常手段としてDR資源を利用してきた。

また、DR資源の調達先について考えると、大口需要家だけでなく、負荷削減サービスプロバイダ(Curtailment Service Provider:CSP)の介在によって、DR資源提供者の対象は一般家庭や中小企業まで広がり、そうして集約・制御されたDR資源は、垂直統合型の電力会社ばかりでなく、PJMのような系統運用者が運営する卸売市場に提供されるようになって、系統運用にも貢献できるようになった。
現在、DRは、消費者からすると電力コストを管理するツールであり、垂直統合型の電力会社や系統運用者からすると、電源と対等な、電力系統の需給バランスをとるためのツールとなっている。

DR資源は今やPJM卸売電力市場に不可欠な資源となっているが、昨今、系統運用のニーズが変化して、回復力(レジリエンシ)に重点が置かれ、市場技術とグリッド運用のダイナミクスが変わる可能性が出てきた。これに伴って、PJMではDRの将来の方向性を再検討することになり、短期(1〜2年)、中期(3〜5年)、および長期(5年以上)のDR戦略を立てた。

まず、DRに関するPJMの戦略目標は次のとおりである:

DR資源は、系統管理に不可欠な、予測可能で信頼性の高い資源であることを保証する
価格反応型DR(price-sensitive demand)で、より効率的な市場成果を実現する
PJM管内の州規制当局と連携し、卸売市場と小売市場のインセンティブを高める

この戦略目標を短中長期プランに落とし込むに当たって、PJMでは、そもそもDR資源は需要サイドの資源であるべきなのか、供給サイドの資源であるべきなのかを検討した。

DRは、基本的にエンドユーザが電力コストを削減しようという目的意識によって推進されるものである。
この目的は、エンドユーザが小売電気事業者と契約や特定料金プログラムに参加し、需要サイドで達成するほかに、「ネガワット」という形でCSPを介して供給サイドの資源として卸売市場に提供され、CSPが卸売市場で得た収益の一部が還付される形でも達成できる。
需要サイドで考えると、小売価格が高い場合には電力消費を減らし、小売価格が低い場合には消費電力を増加させて全体の電気代を節約することができるし、
供給サイドで考えると、卸売価格が高いときにCSPからの指示に従い負荷を低減することで、その見返りとして、CSPが集めた「ネガワット」を卸売市場で売って得た収益の分配を受けることができ、

結果的に、電力コストは、どちらのアプローチをとっても削減することができるが、DR資源を提供するエンドユーザは、CSPが介在する場合を含めて、小売市場を通じてインセンティブを受け取るので、PJMは、最終的には需要サイドの資源として取り扱うことができないかと考えている?

ところで、電気を供給するためのコストは、kWh単位で測ることのできるエネルギー(電力量)、kW単位で測ることのできる容量(電気設備容量)と、電力品質確保などの付随的なサービス(アンシラリーサービス:ΔkWで表すことにする)のコストから構成される。
PJMでは、これらのコスト構成要素それぞれを調達する卸売市場として、エネルギー市場、容量市場および周波数調整市場や予備力市場などのアンシラリーサービス市場を運営しているが、以下に、DRを供給サイドでの卸売市場収益から需要サイドでの小売市場における電気代削減に移行が可能かどうか、その場合の課題は何かを検討した結果を示す。

エネルギー市場で調達するkWh価値

kW価値の観点からは、DRが供給サイドの経済的資源としてエネルギー市場に参加することはあまりなかった。エネルギー市場に参加できるような需要家は、例えば時間帯別料金制のような、よりダイナミックな小売電気料金プログラムを通じて需要サイドで直接エネルギーコストを節約することができたからである。

アンシラリーサービス市場で調達するΔkW価値

ΔkW価値の観点からも、DRは供給サイドの資源としてアンシラリーサービス市場に参加した方が効率的である。さらに、アンシラリーサービスを提供できるよう自動化に適切な投資を行えば、基本的には応答時間が短いため、DR資源を提供する需要家の運用や、快適性・利便性をほとんど損なわずに応答することができる。

容量市場で調達するkW価値

他方、kW価値の観点で考えると、需要サイドではなく供給サイドの資源として容量市場に参加すれば、年間数回~十数回のDRイベントへの対応と引き換えに(CSPからの支払いを通じて)電力コストを削減する良い機会が得られる。

DRは、これまで供給サイドの資源として、容量市場で非常に健闘してきた。CSPが需要家から提供されたDR資源を集約してPJMの卸売市場から収益を得て需要家にその利益を還元する「CSPモデル」はビジネスモデルとして成功しており、PJMでは、この供給サイドの資源としてのアプローチは、当面維持されるべきだと考えている。
中期的にも、DRは、容量市場およびアンシラリーサービス市場において、供給サイドの資源として残るべきである。このアプローチは、需要家が自らコストを管理し、負荷軽減活動をDR資源として卸売市場に組み込むための効果的な方法だからである。
しかし、長期的な視点に立った場合、DR資源は需要サイドの資源としてエネルギー市場に参加すべきではないかと考え、PJMは、小売電気事業者(LSE)および州規制当局との協力を通じて、この方向に進展する機会を模索している。
消費者は、あくまで小売市場の顧客であり、直接卸売市場から報酬を受け取る訳ではないけれども、CSPが卸売市場から得た利益の一部を報酬として受け取るべきではないと考えるからである。

以上の検討を経て、PJMはDRの取り扱いに関して以下の短・中・長期目標を定めた:

短期目標:PJMの容量市場への参画条件として、通年で1日に数時間DR資源を提供できるものに限定する

CP要件(Capacity Performance Requirements)への移行

ISO-NEの容量市場のルール:「Pay-for-Performance」をベースとしたもので、従来PJMが採用してきたRPM(Reliability Pricing Model)からのルール変更を行なう。
詳細は、例えば、「Capacity Performance:Changing the Game in PJM ISO」参照

DRイベントの開始・終了を最適化するためのDRディスパッチモデルの開発

現行のDRのルールとPJMが提案しているPRDのルールをレビューし、1つのアプローチに統合することを検討する

PJMの運用において、DRの可視性を引き続き向上させる(「High 4 of 5」のベースライン算定ルールの不確実性に起因?

エネルギー市場のルール改定(例えば、1時間ごとのkWh入札、5分毎の決済、プライスキャップ等)

DRとして分散型エネルギー資源が用いられる場合に何が必要かの洗い出し

DRイベント発動時に期待通り対応できるよう、CSPのための必須訓練の開発・実施

中期目標:既存のルールと手順を見直し、CP要件に基づいた従来行われていたDR機能をコミットメントと整合させる

PJMは顧客固有の機能からポートフォリオ機能(新しい年次CP要件に基づく)に移行する際に、PJMがDR機能を完全に理解できるよう必要な箇所を変更する必要がある。 中期的には、PJMは:

以下の開発・実施によって、容量市場でのコミットメントが実際に守られることを確認する

- 容量市場で調達された資源で確実にkW価値が得られるよう、より堅牢で包括的な容量テストの要件を定める

- CBL(Customer Base Line)を使って同期予備力(Synchronized Reserve)のテストを実施し、パフォーマンスを計測する

従来の季節限定DR資源の価値を認識するために、CP要件以外の選択肢について州規制機関その他の利害関係者と協議する

PJMがDRイベントを実施する規模/場所に関する能力を改善する

長期目標:エネルギー市場のDRを需要サイドに移動する機会を探る

PJMは小売電気事業者(原文はLoad-Serving Entity:LSE)と協力して、小売契約を改善、PJMの卸売市場価格と小売市場価格またはインセンティブとの整合を図り、供給サイドのエネルギー市場収益から需要サイドの小売電力コスト削減への移行を支援するため、PJMは、長期的に次のことを計画している:

LSEと協力して需要の価格弾力性を高める契約/価格をサポートする

PJMの緊急時応答(Emergency Demand Response:EmDR)のDRを変更または廃止することにより、エネルギー市場におけるDRを需要サイドに移行する機会を検討し、そのようなDRプログラムを開発する

電源相当の動作が可能なDR資源に関しては、アンシラリーサービス市場への参入を拡大する

DR自動化の投資と実施を促進・支援する

DRの容量市場への参加を廃止することで?、DRを需要サイドに移行させられるかどうか検討・評価する

以上、PJMが2017年6月末公開したペーパー「Demand Response Strategy」について、Executive Summaryを含む最初の5ページくらいをベースとしてPJMが今後DRをどのようにしようとしているのかご紹介しました。

全部を読み切っていない段階で、頭から読み進んだ部分に筆者の想像と思いを入れ込んで書いています。いつも通り全訳ではないことに加えて、今回は特にDRに関して本人の思い入れが入った超訳になっていますので、その点をお含みおきください。

また、是非、原文をお読みいただければと思います。

次回は、同ペーパーの6ページ以降を読み進めながら、ご紹介したいと思います。

終わり