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NIST Tech Beat: February 28, 2012によると、いわゆるNISTスマートグリッド標準フレームワークRelease2.0の正規版『NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards, Release 2.0』(以降2.0正規版)が2月末に公開されました。
2.0ドラフト版と比較すると、PDFファイルサイズが2MBも大きく、ページ数にして18ページ増えていますので、パブリックコメントで何か大きな変更が入ったのかもしれないと思い、調べてみました。
まず章立てで比較すると、
• 4.3「Current List of Standards Identified by NIST」節のページ数が大幅に増加
• 5.5「Additional SGIP Working Groups」節が追加され、2.0ドラフト版の5.5~5.7節は5.6~5.8節にシフト
• ただし、ドラフト版の5.7.2「New Distributed Renewables, Generators, and Storage Domain Expert Working Group」がなくなり、5.7.1 ⇒ 5.8.1、5.7.3 ⇒ 5.8.2となっており、
• 8.1.2「Reliability, Implementability, and Safety of Framework Standards」項にも比較的大きな変更が入っています。
※他にも何か所かに小さな修正がありましたが、すべてはカバーしていませんのでご注意ください。
では、もう少し詳しく2.0ドラフト版と2.0正規版の内容を比べてみましょう。
※詳細は、弊社ホームページの調査実績No.23「NIST Framework and Roadmap for Smart Grid Interoperability Standards  Release1.0 / Release2.0 version比較 基礎資料」としてアップしていますので、そちらも合わせてご覧ください。
 1.3 「Definitions」節
 1.3 「Definitions」節
理由は不明ですが、「Legacy Systems」の定義が削除されていました。
 2.5 「Key Attributes- Standards and Conformance」節
 2.5 「Key Attributes- Standards and Conformance」節
「Different Layers of Interoperability」という小見出しのパラグラフが増えています。
スマートグリッドのような、大規模で統合化された複雑間システムでは、プラグ形状や無線接続の相互運用性から、分散ビジネストランザクションに参加するに当たってのプロセスや手続きの互換性まで、種々のレベルでの相互運用性を考える必要がある - として、GWAC stack(下図)が参照されています。
この部分、実は、Release1.0の2.3「Key Attributes」節にあったのですが、それが2.0ドラフト版で2.5「Key Attributes – Standards and Conformance」節として書き直された際に削除された記述で、2.0正規版で復活を遂げたものです。

 4.3 「Current List of Standards Identified by NIST」節
 4.3 「Current List of Standards Identified by NIST」節
この節は、2.0ドラフト版(25ページ)から2.0正規版(39ページ)と、大幅にページ数が増えています。ところが、内容をチェックしてみたところ、Table4-1「Identified Standards」の表に、「Included in SGIP Catalog of Standards as of this report’s publication (February 2012)?」という欄が増えたため、「Comments」欄の幅が狭まり、結果的に「Comments」欄に記載されていたコメントが縦に伸びでTable4-1の表が長くなったことが最大の理由でした。
ただ、よく見ると、NISTが特定したスマートグリッド関連の標準(Identified Standards)が、2.0ドラフト版より3つ増えていました。以下の3つです。
• No.17:Organization for the Advancement of Structured Information Standard (OASIS) EMIX (Energy Market Information eXchange)
• No.18:OASIS WS-Calendar
• No.27:SAE “Communication between Plug-in Vehicles and the Utility Grid”.
ここで、Table 4-1に新たに設けられた欄のタイトルに含まれている「SGIP Catalog of Standards」について、解説しておきます。
本来、米国のスマートグリッド標準規格の動向 ― その4でご紹介しておくべきでしたが、実は、2.0ドラフト版の4.2「Overview of the Standards Identification Process」節内に、SGIPの創設に伴って、NISTにおけるスマートグリッド関連の標準選定プロセスが下図のように定められたことが、加筆されていました。

すなわち、今後、スマートグリッド関連標準候補としてSGIPの作業部会(WG)から提出された標準規格や、優先活動計画(PAP:Priority Action Plan)で検討された結果提出された標準規格は、SGIP理事会の推薦を受け、SGIP総会で75%以上の賛同を得られると、標準カタログ(CoS:Catalog of Standards)として登録されることになります。
Table 4-1にリストアップされた標準規格は、「スマートグリッド関連標準として無条件で使ってよい」とNISTがお墨付きを与えているものです。したがって、それらは、本来標準カタログにも登録されているべきものです。
しかし、NISTスマートグリッド標準フレームワークRelease1.0の作成時点でTable 4-1にリストアップされた標準規格は上図のプロセスを経ずに選定されたものなので、基本的に標準カタログには登録されていないはずです。
調べてみると、以下の3件のみが標準カタログに登録されていました。
• No.4:IEEE 1815 (DNP3)
• No.10:IEEE 1588
• No.11:Internet Protocols for the Smart Grid.
※基礎資料「Table 4-1 Identified Standardsの比較」で背景色=黄緑の行が、これに相当します。
2.0ドラフト版で新たにTable 4-1にリストアップされた標準規格については、5件が標準カタログに登録されていました。
•  No.14:NEMA Smart Grid Standards Publication SG-AMI 1-2009 – Requirements for Smart Meter Upgradeability
•  No.15:NAESB WEQ19, REQ18, Energy Usage Information
•  No.16:NISTIR 7761, NIST Guidelines for Assessing Wireless Standards for Smart Grid Applications
•  No.25:SAE J1772: SAE Electric Vehicle and Plug in Hybrid Electric Vehicle Conductive Charge Coupler
•  No.26:SAE J2836/1: Use Cases for Communication Between Plug-in Vehicles and the Utility Grid
※基礎資料「Table 4-1 Identified Standardsの比較」で背景色=黄色の行が、これに相当します。
また、先述の、2.0正規版で初めてTable4-1に登録された3件(No.17、No.18、およびNo.27)も標準カタログに登録されています。
※基礎資料「Table 4-1 Identified Standardsの比較」で背景色=オレンジ色の行が、これに相当します。
 4.4 「Table 4-2. Additional Standards, Specifications, Profiles, Requirements, Guidelines, and Reports for Further Review」節
 4.4 「Table 4-2. Additional Standards, Specifications, Profiles, Requirements, Guidelines, and Reports for Further Review」節
Table 4-2にリストアップされた標準規格は、スマートグリッド関連標準とするには検討が必要と判断されているものですが、2.0ドラフト版と2.0正規版のTable4-2を比較したところ、次の1件追加されていました。
• No.16:ASHRAE 201P Facility Smart Grid Information Model
※基礎資料「Table -2 Additional Standards等の比較」で背景色=紫色の行が、これに相当します。また、背景色=青の行は、2.0ドラフト版作成時点でTable4-2に追加されていたものです。
逆に、スマートグリッド関連標準と認定され、Table4-2からTable4-1に「昇格」したものが7件ありました。
•  Release1.0でのNo.4:HomePlug AV
•  Release1.0でのNo.5:HomePlug C&C
•  Release1.0でのNo.33:NEMA Smart Grid Standards Publication SG-AMI 1-2009 – Requirements for Smart Meter Upgradeability
•  Release1.0でのNo.34:OASIS EMIX (Energy Market Information eXchange)
•  Release1.0でのNo.37:OASIS WS-Calendar
•  Release1.0でのNo.38:SAE J1772 Electrical Connector between PEV and EVSE
•  Release1.0でのNo.39:SAE J2836/1-3 Use Cases for PEV Interactions
※基礎資料「Table -2 Additional Standards等の比較」で背景色=緑のものは2.0ドラフト版作成時点で、黄緑色のものは、2.0正規版作成時点で、Table4-2から削除されたものです。
 5.5 「Additional SGIP Working Groups」節の追加
 5.5 「Additional SGIP Working Groups」節の追加
調べてみると、ドラフト版では、5.4「Domain Expert Working Groups (DEWGs)」の節の最後に「Additional SGIP Working Groups」として併記されていたものが、正規版で別の節となっただけのようです。
 5.6 「Priority Action Plans (PAPs)」節の変更点
 5.6 「Priority Action Plans (PAPs)」節の変更点
2.0ドラフト版と、2.0正規版の間では、PAPの個数の変化はありませんが、完了時期の延期されたものが目立ちます。
以下は、完了時期に注目してPAPを分類してみた結果です。
• 2.0ドラフト版作成時点までに完了していたもの : 3
• 2.0ドラフト版作成以降、2.0正規版作成時点までに完了したもの : 3
• 作業完了予定時期が、延期されたもの : 12
• 作業完了予定が最初から変わっていないもの : 1
PAP18は例外的に早く検討が進められて2011年中に作業が完了していますが、全19件のPAP中、作業が完了したものは、全体の1/3程度しかありません。
残り2/3のPAPのほとんどが、当初の作業完了時期が2010年だったにもかかわらず、2.0ドラフト版公開時点(2010年10月)までに完了時期が2011年に延期されており、更に2.0正規版公開時点(2012年2月)では、2012年に変更されていて、全般的に、PAP検討作業の進捗の芳しくないことがわかります。
※基礎資料「PAP完了時期の比較」で背景色=黄色の行が、ずるずる完了期限が延期されているものです。
また、完了したとされるPAP18の内容を見ると、ZigBeeアライアンスに、SEP1.xからSEP2.0への移行の問題点と、移行に当たっての推奨/要望をサマライズした白書をPAP18チームが作成・提出し、それが標準カタログに登録されたことをもって「完了」としており、本来PAP18で問題視しているSEP1.xとSEP2.0の共存や移行の見通しが立った訳ではありませんでした。
 5.8節から、2.0ドラフト版での5.7.2 「New Distributed Renewables, Generators, and Storage Domain Expert Working Group」項の削除
 5.8節から、2.0ドラフト版での5.7.2 「New Distributed Renewables, Generators, and Storage Domain Expert Working Group」項の削除
これは、2.0ドラフト版作成時には作る予定だった当該WGが作成されなかったということでしょう。
 8.1.2「Reliability, Implementability, and Safety of Framework Standards」節への追記
 8.1.2「Reliability, Implementability, and Safety of Framework Standards」節への追記
安全に関して、米国電気規定(National Electrical Code)と、米国防火協会(NFPA)の米国電気工事基準(NFPA70)、電気安全規定(NFPA70E)への言及が追加されていました。
まとめると、NISTスマートグリッド関連標準フレームワーク2.0ドラフト版と2.0正規版では、ファイルサイズの差ほど記述量の差はありませんでした。
ただし、NISTの考えている優先順位通りにスマートグリッド関連標準間のギャップなどを埋める作業を、標準策定機関が行っていず、PAPの進捗状況が芳しくないことがわかりました。
2/3のPAPの完了予定が、2010年から2011年、2012年と、ずるずる延期されているのが気になるところです。
もう一度、基礎資料「PAP完了時期の比較」でご確認下さい。
今回は、2月末公開されたNISTのスマートグリッド標準フレームワークRelease2.0のPDFサイズが、2.0ドラフト版より結構大きくなっていたため、何がどう変わったかの差分を調査した結果をご紹介しました。
おわり

 
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