© Copyright Mary and Angus Hogg and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

10月になって、立て続けに経済産業省資源エネルギー庁のスマートグリッド関連の制度検討会を傍聴する機会に恵まれました。この手の制度検討会を傍聴したのは初めてなのですが、何回か傍聴させていただいて、日本版スマートグリッドがどのような形に落ち着きそうか、おおよその方向性が見えてきた気がします。
そこで、今回は、これまでの制度検討会の動きを振り返るとともに、今後どのように制度として落とし込まれていくのかをまとめてみたいと思います。

まず、傍聴した制度検討会は以下の3つです。

  • 平成22年10月4日開催:第5回スマートメーター制度検討会
  • 平成22年10月7日開催:次世代送配電システム制度検討会第3回WG2検討会
  • 平成22年10月15日開催:第5回次世代送配電システム制度検討会WG1、第6回スマートメーター制度検討会 合同会合

これまでの検討会の流れを、検討会で配付された資料で確認すると、以下のとおりです。

次世代送配電システム制度検討会


出典:10月15日の合同検討会配付資料5-1ページ

なお、この検討会の委員および検討スケジュールは以下のとおりです。

出典:10月15日の合同検討会配付資料5-2ページ

スマートメーター制度検討会


出典:10月15日の合同検討会配付資料5-3ページ

こちらの検討会の委員および検討スケジュールは以下のとおりです。

出典:10月15日の合同検討会配付資料5-4ページ

これまで、スマートグリッドに関連しそうな経産省関連の研究会として
1)蓄電池システム産業戦略研究会
2)次世代自動車戦略研究会
3)都市熱エネルギー部会
4)ゼロ・エミッションビルの実現と展開に関する研究会
5)次世代送配電ネットワーク研究会
6)次世代エネルギーシステムに係る国際標準化に関する研究会
7)スマートコミュニティ関連システムフォーラム
などがありました。
これらの成果をとりまとめるために設立された次世代エネルギー・社会システム協議会(参考)の下、

  • 再生可能エネルギー拡大に対応した系統運用ルール、系統安定化に必要な送配電システムの具体的内容、買取費用の回収スキームなど、電気事業法に基づく諸制度とも密接に関連する技術的事項について、詳細な検討が不可欠、
  • また、スマートメーターの導入に当たっても制度的な議論が不可欠である

ということで発足したのが、次世代送配電システム制度検討会およびスマートメーター制度検討会です。
検討会として最終的な合意はまだ得られていないものの、日本でのスマートメーターの役割、機能範囲と、スマートメーターから(第三者にも)提供される情報、電力使用量の粒度、双方向通信に関する考え方、スマートメーター機能のロードマップに関して、経産省事務局作成資料の中では以下の方向性が示されています。

スマートメーターの役割と機能範囲


出典:10月15日の合同検討会配付資料5-6ページ

事務局とりまとめ案からすると、日本版スマートメーターの機能範囲は、一般にAMIと呼ばれる機能範囲ではなく、上図「海外における定義の例:OFGEM」のAMM(水色の部分)と考えるのが妥当だと思われます。

また、スマートメーターで計測し・提供される情報は、かなり制限されそうです。

スマートメーターで計測・提供される情報


出典:10月15日の合同検討会配付資料5-7ページ


出典:10月4日のスマートメーター制度検討会配付資料3-12ページ

上記のとおり、スマートメーターの計測値としては、電力使用量と逆潮流値のみが、公開対象のようです。そして、公開される電力使用量の粒度としては、30分を一つの目安とすることが提案されています。

電力使用量の粒度


出典:10月15日の合同検討会配付資料5-8ページ

計測頻度とは別に、計測した電力使用量のデータを、その都度スマートメーターから収集するのか、まとまった単位(例えば1日分、1か月分)で収集するのかが、ネットワーク設計上問題となりますが、ここでは説明されていません。

この制度検討会において、日本版スマートグリッドにおけるスマートメーターの機能範囲および実現時期に影響を与えているものとして、平成22年6月18日閣議決定されたエネルギー基本計画で定められたタイムリミットがあるようです。以下の「双方向通信に関する考え方」でそれを確認しておきましょう。

双方向通信に関する考え方


出典:10月15日の合同検討会配付資料5-5ページ


出典:10月15日の合同検討会配付資料5-9ページ

ここまでで、日本では、メーター導入費用を電力会社が負担する代わりに、“狭義のスマートメーター”(遠隔検針、遠隔開閉、双方向通信)を採用し、計測データは電力会社が保持。第三者に提供する検針情報も限定的で、デマンドレスポンスやV2Gなど、海外ではスマートグリッドの一環として取りざたされている新しいビジネスモデルは実現しそうにない-という『日本版スマートグリッド』の方向性が見えてきた気がします。

ただし、『日本版スマートグリッド』は、それで終わりではありません。この狭義のスマートメーターをベースとした機能範囲を『2020年型日本版スマートグリッド』と呼ぶとすると、それに引き続いて、「より高度な双方向通信により実現する可能性のある機能」も、以下のロードマップに示されています。

スマートメーター機能のロードマップ


出典:10月15日の合同検討会配付資料5-10ページ


出典:10月15日の合同検討会配付資料5-11ページ

これによると、太陽光発電(PV)導入量が1000万kWまでは、PV出力抑制は不要ですが、それ以上増えると、5月の連休など昼間でも電力需要が少ない特異日にはPV出力抑制を行う必要が出てきます。その場合も、当面は、PCS(太陽光発電の制御装置)内にカレンダーを持たせて、その固定されたカレンダー情報によりPV出力抑制を行いますが、PV導入規模が2800万kWになるころには、更にPV出力抑制を増やすため、PCS内のカレンダー情報の書換え、最終的にはPV出力のリアルタイム制御が必要との判断になっています。

このロードマップで、太陽光発電導入量2800万kWまでは、経産省と電力会社のスマートメーター導入シナリオは軌を一にしているように見えますが、それ以降では、まだ両者でのコンセンサスは得られていないようです。
10月15日の合同検討会での東京電力山口氏のプレゼン資料2-3ページを見ると、『将来的に太陽光の出力抑制を極力減らすため通信技術の活用も検討していく』という表現にとどまっています。

これに関連して、次世代送配電システム制度検討会WG1で3種類のPV出力抑制方法に関する検討がなされ、以下の結論が出ているようです。

PV出力抑制方法


出典:10月15日の合同検討会配付資料2-12ページ


出典:10月15日の合同検討会配付資料2-14ページ (拡大表示

すなわち、技術論だけではPV出力抑制の方式が決められないというのが結論で、だからこそ、制度検討会が、今後制度としてどうあるべきかということで議論されていくものだと思われます。

次に、スマートメーターとHEMSの関連を含めた需給制御と双方向通信に関する電力会社のスタンスを、合同会合での東京電力山口氏のプレゼン資料で確認したいと思います。

需給制御と双方向通信


出典:10月15日の合同検討会配付資料2-15ページ


出典:10月15日の合同検討会配付資料2-20ページ

説明によると、もし仮に需要家機器の制御を行う場合でも、リアルタイム価格を導入し、市場原理に基づいた需給バランスを取るのではなく、(少なくとも、当面は?)前日、再生可能エネルギーの発電予測と需要予測に基づいて立てた需給計画情報をHEMS側に渡して、当日は各HEMSが、家庭内機器のエネルギー管理を行うのが良いのではないか-ということでした。
「家電機器までは直接制御しない」というのが、『2020年型日本版スマートグリッド』のモットーのようで、繰り返しになりますが、V2GのEV/PHEVも、この範疇に入るものと思われます。

以上、まだ最終決定がなされたわけではありませんが、スマートグリッド関連制度検討会を傍聴して得た、『日本版スマートグリッド』の方向性について、個人的に受けた感想を交えてお伝えしました。
ただし、これは、あくまで『2020年型日本版スマートグリッド』であって、何年後になるか分かりませんが、その次の『日本版スマートグリッド』では、巷間を賑わしている「夢のスマートグリッド」に近い、更にエネルギーとITと通信が融合した世界が出来上がることを期待してやみません。
しかし、その頃には、「IoT:モノのインターネット」の情報基盤が出来上がり、スマートグリッドは、IoTの一つのアプリケーション(IoE)という位置付けになっているかもしれませんが。。。

終わり