© Copyright Mark Percy and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

前回の「OpenADR 2.0標準、自動デマンドレスポンスの普及を加速」で、カリフォルニア州以外でもOpenADRを採用する動きが出てきていることをご紹介しました。 その1つにネバダ州のNVエナジーが挙げられていましたが、Smartgridnews.comにちょうどNVエナジーの記事「NV Energy rolls out first-ever HAN-based demand response program」がありましたので、一般家庭向けデマンドレスポンス・プログラムの事例紹介ということで、取り上げました。

例によって、全訳ではないことと、一部超訳になっていることをご承知おきください。

では、はじめます。

NVエナジー、史上初のHEMS連動型デマンドレスポンス・プログラムを本格展開

 2011年12月19日 Jesse Berst

今、全米の電力会社はNVエナジーのスマートグリッド・プロジェクトに目をくぎ付けにされている。
そのプロジェクト全体からすると、ほんの一部にすぎないが、一般家庭を対象とし、ダイナミック電力料金を利用したデマンドレスポンス(DR)の本格導入を始めたからである。それも、DR対応HEMSと連動した形で、である。

NVエナジーはネバダ州域45,592平方マイルに住む住民240万人に電気を供給しており、14.5万人にガスを供給している。ラスベガスはじめ、ネバダ州域は猛暑に見舞われるので、NVエナジーは厳しい夏場のピーク対応に迫られており、先進的なデマンドレスポンスとダイナミック料金制を導入した。

 ネバダ州のスマートグリッドプログラム

ネバダ州のスマートグリッドプログラムは、期間:2010年から2012年までの3年間、プロジェクト予算:3億300万ドル。内、1億3900万ドルは米国政府の補助(stimulus grant)である。 このプロジェクトでは、以下に示す技術を暫時拡張・統合していく計画となっている。

• 通信網:FAN(フィールドエリアネットワーク)およびHAN(ホームエリア・ネットワーク)
• スマートメーター
• メーター・データ管理(MDM)
• デマンドレスポンス管理(DRM)
• 顧客ポータル
• NVエナジー社のシステムとの統合

システム構築に当たって、Sensusの通信システム及びメーター、ItronのMDMシステム、UISOLのDRMシステム、Control4のHAN技術が採用され、IBMのWebSphereが、それらの技術と、従来のNVエナジー社のシステムを統合していく。

 進捗状況

NVエナジーは、2011年末までに75万顧客へのメーター設置を終了し、主要システムはすべて稼働中。顧客ポータルも稼働しており、最小15分間隔で、電力使用量や課金情報を表示できる。
最新のDRプログラムについては、NVエナジーの社員宅を利用したテストを行っている段階だが、2013年1月1日には、規模を大幅に拡大してダイナミック価格を利用したDRプログラムを始める準備をしている。
しかし、これらのシステムとインフラは、スマートグリッド・プロジェクトのほんの一部に過ぎない。ハードウェア、ソフトウェア面ばかりでなく、事業としての体制の整備:顧客サービス・オペレーション、変更管理、社内部門間のコミュニケーション、セキュリティ、規制当局への報告なども非常に大切であり、積極的に取り組んでいる。
サンディエゴ・ガス・アンド・エレクトリック(SDG&E)やポートランド・ゼネラル・エレクトリックのようなスマートグリッドのパイオニアをモデルアドバイザーとし、それらスマートグリッド開拓者を研究した後、NVエナジーは、6段階からなる計画を発表した:
1. セキュリティ対応
2. データ・プライバシーと健康への懸念の対応
3. 正確さの検証
4. スマートメーターの設置
5. システム検証
6. 所有権

以下に、それぞれの内容を概説する。

1. セキュリティ対応

すべてのメーター、サーバーから、通信タワーにわたるまで、完全に暗号化されたネットワークを構築する。その後、第三者によるセキュリティ脅威の評価を行うため、ハッカーによるシステム侵入を試みさせ、見つかったセキュリティホールを塞ぐ。

2. データ・プライバシーと健康被害の懸念への対応

次は、消費者が懸念するデータのプライバシーと健康被害の懸念への対応である。 従来のプライバシー保護の観点だけでなく、スマートメーターが発する電波による健康被害を心配する消費者にどう対応すべきか、現在検討中である。

3. 正確さの検証

 自動検針の正確性を担保するため、最初の月は、自動検針値と検針員による検針値を突き合せ、不一致がないか検証する。 さらに自動検針値の正確性を検証するべく、ネバダ大学と契約を結んでいる。

4. スマートメーターの設置

これに関しては、スマートメーターの導入に成功したSDG&Eのアプローチ(以下のステップ)を採用した:
・ 設置の60日前:設置対象家庭にスマートメーター設置に関するキャンペーン情報を提供する
・ 設置まで30日以内:ダイレクト・メールでメーター設置を通知
・ 設置まで5日以内:電話によりメーター設置を通知
・ 設置一日前:個別にビラを配布
・ 設置後:アンケートで満足度を調査。

5. システム検証

次のステップは、通信システムのテストと暗号化に関するテストも含め、システムを完全にテストし、データを使用し始める前にデバッグすることである。 このシステム検証テスト完了後、顧客はオンライン・ポータルへのアクセスが可能となる。

6. 所有権の移譲

NVエナジーの最終目標は、「エネルギー消費のデータの所有権を顧客に移譲する」ことである。
※ここで、「所有権」というのは、制御およびカスタマイゼーションを言い換えたものである。
NVエナジーの全ての顧客は、(15分間隔での)電力消費をポータルで把握できることに加えて、下図で示したように、

①今日までの今週の電気代、
②使用電力量が指定したkWh値を超えるとメール通知するかどうか、
③使用電気代が指定した値を超えるとメール通知するかどうか

に関して警告メールのカスタマイズが可能となる。

更に進んだDRプログラムに参加する顧客には自動DR用のツールが提供される。

 顧客参加の勧誘

DRプログラムに参加する顧客には、自動エネルギー管理処理に対して顧客の好みを反映できるHEMS(ホーム・エネルギー管理システム)が提供される。例えば、顧客は、DRイベント発生時間帯に、電力会社側がどの程度エアコン度温度設定を上昇させても良いかを設定しておくことができことができる。

提供される最初のシステムには、スマートメーター、温度設定の事前プログラムが可能なサーモスタットに無線で通信するControl4社の EC-100(4.7インチのカラー・タッチ・スクリーン付き。下図参照)が含まれている。

DR対応のHEMS実展開は、米国でもこれが初めての試みである。
現在、65,000人の家庭に双方向通信ができるサーモスタットが設置されており、そのサーモスタット経由でエアコンなど、合計するとおよそ150MWの発電所相当の設備容量が、ピーク需要削減可能な「ネガワット」電源として登録されている。NVエナジーでは、更に新たなHEMSを使用して、今後数年にわたって、参加者を2倍にしようと目論んでいる。

 既に見え始めた効果

このプロジェクトの効果はすでに出始めている。
例えば、NVエナジーは、新築や引っ越しなどで生じるメーターの開閉作業のため、年間100万回現地に作業員を派遣してきたが、スマートメーターを遠隔開閉できるようになり、その作業がなくなった。その上、メーターの開閉に際しては、多くの厳格な規則が存在するが、それらの規則をメーター遠隔開閉処理に組み込むことにより、作業員によるメーター開閉作業で発生していた、規則を順守しない事態を排除することができるようになった。
スマートメーターの全面展開が終わったら、次のステップとしてNVエナジーは配電自動化、停電管理その他、系統信頼度を改善し、かつ顧客満足を増加させる新たなインフラへの投資を計画している。

これまで弊ブログでは、EPRIの調査データや、EnerNOCとComvergeのデマンドレスポンスに関する業績比較等を通じて、米国でのデマンドレスポンスのトレンドとして
• 一般家庭向けではなく、大口需要家向けデマンドレスポンスが成果を上げている
• 電力会社主導ではなく、DRアグリゲーターや、今後はビルの省エネサービスプロバイダーがDRビジネスを牽引していくことになるかもしれない
ということを報じてきましたが、電力会社主導の一般家庭向けデマンドレスポンス、しかもHEMS連動ということで、NVエナジーのDRプログラムをご紹介しました。
Tendrilのサービスメニューにも「HAN-based device control for thermostats」というような記述がありますので、Smartgridnews.comの記事タイトルにある『史上初(first-ever)』というのは言い過ぎのような気もしますが、NV エナジーの今後の動向には注目したいと思います。

終わり